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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 監督:前田哲

『 水は海に向かって流れる 』 -ストーリーに焦点を-

Posted on 2023年6月26日 by cool-jupiter

水は海に向かって流れる 40点
2023年6月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:広瀬すず 大西利空
監督:前田哲

 

簡易レビュー。

あらすじ

高校生の直達(大西利空)は、通学のため叔父・茂道の家に引っ越すことに。しかし最寄り駅に迎えに来たのは、見知らぬ女性・榊さん(広瀬すず)だった。案内された先はシェアハウスで、漫画家の叔父や女装の占い師たちとの奇妙な同居生活が始まった。そんな中で、直達はいつも不機嫌な榊さんと自分の間に思わぬ因縁が存在したことを知り・・・

ポジティブ・サイド

広瀬すずがムーディーな20代女子を演じきった。天真爛漫女子校生役からは確実に脱却しつつあるようだ。中身が未成熟なままに大人になってしまったという難しい役だったが、代表作とは言えないまでも、近年の出演作の中では上位に来る好演だったと思う。

 

北村有起哉のキャラが良い意味で悪い印象を残してくれる。情けない男なのだが、それでも同じ中年のオッサンとしてはこの男を応援せずにはおれない。そんなキャラ。『 終末の探偵 』に続いて応援したくなった。

 

ネガティブ・サイド

主役の脇を固めるキャストも豪華だが、それらが全く活かしきれていない。高良健吾が脱サラして漫画家になっているのは良いとしても、今どきあんな格好で漫画描くか?生瀬勝久の大学教授役というのも単に都合のいい狂言回し。色々なキャラが登場しまくるが、役割が一つしかないか、あるいは全くない。

 

直達が榊さんに惹かれていく必然性を感じさせるシーンや描写が不足している。たとえば女ものの下着を同居の占い師のものだと思って見ていたら榊さんのものだったとか、トイレにある見慣れない置物の正体を知って一人赤面してしまうだとか、15歳のガキンチョらしさが全くなかった。その逆に、何故にその年齢でそこまで老成、達観しているのかという背景の描写もなかった。原作の小説にはおそらく丹念な描写があるのだろうが、本作は映像でそれを物語ることを一切放棄してしまっている。

 

と同時にキャラクターの心情を時に台詞ですべて説明してしまっている。小説なら文字に頼るしかないが、映画でこれはアカンでしょ。最も典型的だったのは直達のクラスメイト、當真あみの演じた楓だろう。そこでそれを台詞にするか?他にも表情や映像で物語るべきシーンがいくつも説明台詞に取って代わられていた。小説を映画にすることは否定しないが、小説を映像化することには反対である。

 

総評

ほとんどのキャラクターの深堀りが上手く行っておらず、主役の二人の複雑な関係が徐々にほぐれていく過程に特に寄与しない。なので、シェアハウスという舞台そのものに魅力も必然性も感じない。直達も鈍さと鋭さの両方が際立つ変な少年で感情移入が難しかった。広瀬すずのファンなら彼女の新境地を楽しめるのだろうが、普通の映画ファンには少々勧め辛い。貯まったポイントの消化を本作でする、というのは一つの手かもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

shared house

日本語で言うところのシェアハウスの意。分詞の前置修飾というやつである。a used car =中古車、a broken pencil =折れた鉛筆、の仲間である。share house という言い方もあるらしいが、shared house の方が遥かに一般的なので、こちらを使おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・フラッシュ 』
『 告白、あるいは完璧な弁護 』
『 インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ヒューマンドラマ, 大西利空, 広瀬すず, 日本, 監督:前田哲, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 水は海に向かって流れる 』 -ストーリーに焦点を-

『 ロストケア 』 -題材は良かった-

Posted on 2023年4月2日 by cool-jupiter

ロストケア 60点
2023年4月1日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:松山ケンイチ 長澤まさみ
監督:前田哲

 

繁忙期のため簡易レビュー。

 

あらすじ

ある訪問介護詞節のセンター長がサービス利用者の自宅で死体で発見され、住人も死亡が確認された。容疑者として浮上したのは、同僚からも介護家族からも慕われる介護士の斯波(松山ケンイチ)だった。検事の大友(長澤まさみ)は取り調べの中で、斯波の務めるセンターの要介護者の死亡者数が多いことに疑問を抱き・・・

 

ポジティブ・サイド

松山ケンイチが素晴らしい。どこか『 DEATH NOTE デスノート 』のLっぽさを醸し出しつつも、人間性と残虐性を両立させている。感情を抑えた演技をすることで、うちに渦巻く多種多様な感情を逆説的に観る側に想起させる。役者、かくあるべし。

 

介護はきれいごとではない。Jovianも甥っ子たちのお締めを換えたりしたが、それは数年すれば終わること。介護のお締め好感はいつ終わるのか分からない。Jovian祖母が死んだ2年後ぐらいか、親父と二人でNHKの介護番組を観ていたら、親父がいきなり「まあ、おふくろは寝たきりになる前に死んでくれたからなあ」と呟いた。正直、なんちゅう親父やと感じたが、今なら首肯するしかない。

 

ネガティブ・サイド

もっと『 PLAN 75 』のように振り切った社会批判をしてもよいのに。国家を挙げて老人を始末せんとする『 PLAN 75 』とは対照的に、本作は介護は自己責任と切って捨てる日本社会を撃ってはいるものの、結局それが斯波と大友の個人的なやりとりに集約されてしまっている。『 人魚の眠る家 』でもそうだったが、政治批判や社会批判が難しい土壌が邦画の世界にはあるのだろうか。まあ、あるんだろうな・・・

 

長澤まさみは頑張ってはいるものの、acting という感じがする。松山ケンイチが acting と being 中間ぐらいに見えるため、どうしても見劣りしてしまう。

 

あとは八賀センター管轄の要介護者の死亡率か。事故・自殺以外は全員他殺はありえない。あの地区では自然死する老人はゼロだった?確率的、統計学的にそんなことがありうるのか?

 

総評

ある意味で『 グッド・ナース 』を日本流に再解釈したような作品で、これはこれで面白かった。しかし、力のある役者に骨太なストーリーを与えても、日本的な演出を盲目的に盛り込んでしまっては意味がない。映画というよりも役者の演技を観賞するつもりでチケットを購入されたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

carer

ケアラーと読む。意味は介護者。近年、ヤングケアラーが急増している。というよりも、高齢者が増えすぎて、介護士が不足し、結果として家族の中で子どもまでもが介護に駆り出されているようになっている、というのが実相だろう。看護師や保健師はエッセンシャル・ワーカーと認知されたが、介護士がそのように認知される日は果たして来るのか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 マッシブ・タレント 』
『 search #サーチ2 』
『 シンデレラ 3つの願い 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 日本, 松山ケンイチ, 監督:前田哲, 配給会社:日活, 配給会社:東京テアトル, 長澤まさみLeave a Comment on 『 ロストケア 』 -題材は良かった-

『 そして、バトンは渡された 』 -トレイラーを観るべからず-

Posted on 2021年11月7日2021年11月7日 by cool-jupiter

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211107103717j:plain

そして、バトンは渡された 20点
2021年10月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:永野芽郁 石原さとみ 田中圭
監督:前田哲

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トレイラーを観て「なるほど、大体こういうストーリーのはずだが、どこかでひねりを入れてくるに違いない」と期待して、チケット購入。ひねりは全くなかった。感動の押し売りは結構である。

 

あらすじ

いつでも笑顔の優子(永野芽郁)は、血のつながらない父、森宮さん(田中圭)と二人暮らし。これまでに苗字が4回も変わったことから、学校に友達もいない。ある時、優子は卒業式の合唱のピアノを担当することになる。そこで出会った同級生の早瀬のピアノ演奏に、優子は心を奪われて・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211107102301j:plain

ポジティブ・サイド

みぃたんを演じた子役の稲垣来泉が印象に残った。子どもと動物は時々予想のはるか上を行くことがある。稲垣が演じることでみぃたんというキャラの健気さ、気丈さ、明るさ、そして憂げな感じが巧みに描出されていた。

 

田中圭は『 哀愁しんでれら 』とは全く違うテイストが出せていた。今後は『 アウトレイジ 』の椎名桔平のような武闘派ヤクザ役に期待。

 

一応、色々な伏線的なものがフェアに張られているところは評価したい(ちょっとあからさますぎだとは思うが)。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211107102318j:plain

ネガティブ・サイド

 

以下、ネタバレあり

 

原作小説は未読だが、映像化に際してかなり改変されていることだろう。改悪と言うべきか。本というのは自分のペースでページをめくっていくことができるので、物語を自分なりに消化しながら進んでいくことができる。本作はペーシングの面でかなりの問題を抱えている。2時間17分の作品であるが、体感では2時間40分ほどに感じた。前半と後半でもっとメリハリをつければ2時間ちょうどにできたはず。『 いのちの停車場 』でも感じたことだが、削るべきは削らねば。

 

キャラの行動原理が色々と意味不明だ。大森南朋演じる最初かつ実の父親のあまりの無軌道ぶりに本気で怒りを覚えた。「家族なら俺の夢についてこい!」って、アホかいな。いや、夢を持つことは全然否定しないし、むしろ素晴らしいし応援したい。問題は、ブラジル行きを誰とも相談することなく決め、また勝手に会社も辞めてしまったこと。若気の至りで済ませられるものではない。また若気の至りと言えるような年齢のキャラでもない。普通に成熟したカップルでも、パートナーにそれをやられたらかなりの確率で破局だろう。それに梨花の病気のことを知っていながら、気候も食事も言語も文化も違うブラジルに移り住もうというのは、非人間的とすら感じる。手紙のやりとり云々を絡めて美談にしようとしているが、やってしまったことが社会人失格、家庭人失格なので、終盤の父親巡りで「はい、ここで感動してくださいよ」というシーンではひたすらに白けるばかりであった。

 

田中圭演じる森宮さんの価値観もおかしい。いや、森宮さんというか原作者や脚本家の思想かな。やたらと「俺は父親なんだから」と口にし、職場では損な役回りながらも真面目に働き、家では料理を始め家事もこなす。再婚することなく、女の影もなく、酒も断って、子育てに邁進する。それは美しい。けれど、それが全て「バトン」を渡すためって何やねん。優子はモノ扱いなのか。しかも、渡す先の男に優子も森宮もそろって「ピアノ弾け」って、音大なめてるやろ。芸術の分野で一回レール外れてから元に戻るのがどれだけ大変か。そこから音楽一つで食っていけるようになるのがどれだけ大変か。しかも預金たんまりの通帳を渡しておきながら「これから大変だぞ」って、思いやりなのか嫌味なのか。こんな風に感じるのはJovianがひねくれ者だからなのか。いやいや、優子自身も大手レストランをあっさり自分から辞めているわけで、料理人でも音楽家でも、一本立ちへの道のりは険しい。それを分かっていて、片方に甘く、片方に厳しいというのは、古い父親像と新しい父親像が悪い意味で混淆している。自分というものがない、単に物語を都合よく進めていくだけのデウス・エクス・マキナとしか思えなかった。

 

ストーリー以外の演出面でも不満が残る。ピアノにフォーカスするのなら、いっそのこと劇中BGMは全部ピアノにしてしまうぐらいの思い切りがあっても良かったのではないか。また優子がピアノを好きになるシーンの演出も弱く感じた。友達がピアノを習っているから、というくだりは不要であると感じた。母子家庭になってしまったことで、友達の親が「みぃたんとはあまり付き合っちゃいけません」的なことを言うシーンがあり、さらに傷心のみぃたんがピアノの音に癒され、ピアノを心底好きになる。そんなシーンが望ましかった。雨の中でピアノの音に合わせて踊るみぃたんはシネマティックだったが、ここをそれこそ『 雨に唄えば 』のジーン・ケリー並みにみぃたんを躍らせていれば、みぃたんにとってのピアノの意味がもっと大きくなり、そのピアノを弾く早瀬くんへの思慕も大きくなった。これならもっと説得力があった。

 

石原さとみの梨花という母親像の好き嫌いは言うまい。ただ『 母なる証明 』のキム・ヘジャや『 MOTHER マザー 』の長澤まさみのような強烈な母性があったかというと否である。母親であろうとする姿に絶対性がなかった。

 

総評

世間の評価がやたら高いが、これこそ典型的な感動ポルノでは?邦画の悪いところが全部詰まった作品にしか思えなかった。キャラの行動原理が、自分自身の思考や信念、哲学に基づいたものではなく、観る側を感動させるためには何が必要か、で決まっているように見えて仕方がなかった。まるで昔の徳光和夫の感動押し売り家族再会バラエティーを見ているかのよう。Jovianがひねくれているのか、それとも予定調和の感動物語の需要が高いのか。まあ、両方だろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

give someone away

someone =「誰か」だが、ほとんどの場合、ここには bride =「花嫁」が入る。『 マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー 』でソフィが、”Who’s gonna give me away?”というシーンがあったが、これは「結婚式の場で父が娘を新郎に手渡す」という意味である。ごく限定されたシチュエーションでしか使わない表現だが、知っておいて損はない。give ~ away は、「~をどんどん与える」というコアのイメージを押さえておけば、『 プラネタリウム 』でも触れた”Maybe your smile can lie, but your eyes would give you away in a second.”の意味もすぐに類推できるはずである。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 永野芽郁, 田中圭, 監督:前田哲, 石原さとみ, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 そして、バトンは渡された 』 -トレイラーを観るべからず-

『 こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 』 -He lives in you.-

Posted on 2019年1月4日2019年12月20日 by cool-jupiter

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 70点
2019年1月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:大泉洋 高畑充希 三浦春馬 萩原聖人
監督:前田哲

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190104023239j:plain

日本にも障がい者を正面から捉える映画が増えてきた。それが正しいか、もしくは多くの人々に受け入れられるかどうかは別にして、障がいもまた個性であるという考え方が提唱されて久しい。『 ブレス しあわせの呼吸 』の、ある意味では正統的な続編と言えるのかもしれない。

 

あらすじ

時は1994年、鹿野靖明(大泉洋)は34歳。筋ジストロフィーのため、動かせるのは首より上の筋肉と手首より先ぐらい。そんな鹿野は、我がままの言いたい放題でありながらも、ボランティア達とは不思議な縁で結ばれていた。医大生の田中(三浦春馬)とそのガールフレンドの美咲(高畑充希)もひょんなことからボランティアのメンバーになってしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

実在の人間をモデルにしているのだから、当たり前と言えば当たり前だが、鹿野という人物が非常に生き生きと活写されている。『 聖の青春 』の村山聖もそうだったが、自分に残された命がそう長くはないと悟っている人間というのは、後悔をしたくないのだ。だからこそ、食べ物や雑誌のあれやこれやに非常に細かい注文をつけてくる。なぜなら、それが人生最後の食事や娯楽になるかもしれないから。劇中でも言及されるが、彼ら彼女らのわがままはは単なる駄々っ子のそれではない。生きるということを誰よりも真剣に捉えた上でのことなのだ。鹿野の言い放つ「医者の言う命って何なんだ?」という台詞は、劇中の時代から20年以上を経た今でも、非常に重い問いとして我々に圧し掛かってくる。その問いに対する答えはエンドクレジット中に示されるので、結末部分だけを見てさっさと劇場を後にするなどということは努々することなかれ。ここでは某韓国映画が持っていて、日本版リメイクが削ぎ落としてしまった、命に関する重要なメッセージが語られるのである。

 

それにしても『 パーフェクト・レボリューション 』や『 パーフェクト・ワールド 君といる奇跡 』など、日本もかつての無意識の差別意識がかなり薄まり、あらゆる人を社会的に包摂するにはどうすればよいのかを問うようになってきたようだ。作り出される映画の質は措くとしても、そのラインナップに可能性を感じる。『 博士と彼女のセオリー 』にあったような、ある意味での孤閨をかこつ女の寂しさと、ストレートに愛情をぶつけてくる男というのは、いとも容易くドラマを生む。高畑充希は『 アズミ・ハルコは行方不明 』で結構な尻軽を演じていた記憶があるが、今作でも体当たりの演技を披露してくれる。といっても脱いだりはしないからスケベ視聴者は期待すべからずだ。その代わりに、高畑の大ファンが聞いたら卒倒するような台詞も言ってくれるから、そこは期待していいだろう。しかし、赤ん坊の世話、高齢者介護においても、絶対に避けては通れないような問題をしっかりときっちりと描く本作の姿勢には非常に好感が持てる。

 

ブラックボランティアなる言葉がある。2020年の東京オリンピックでは、高度なスキルや経験を持つ人材数万人を手弁当で動員しようというプランがあるようだ。そのことの是非はここで判断すべきではないが、本作ではボランティア=無償の労働力とは捉えない。Volunteerという英語は、元はラテン語のvolo = I am wishingから来ている。鹿野は大げさでも何でもなく世界変革の夢を見ている。その夢に参画したいという者をボランティアとして募っているのだ。こうした個人が日本という国で確かに息をしていたということに驚かされるし、そうした人物を見事に銀幕に蘇らせた大泉洋に拍手。

 

ネガティブ・サイド

終盤のとあるシーンで、ドン引きさせられるシーンがある。人によってはぶん殴ってくるだろう。それも鹿野の人徳かもしれないし、もしかしたら映画化に際してのドラマチックな脚色かもしれない。しかし、個人的にはあの展開はないだろうと感じた。

 

田中の医学部生としての描写も弱い。体位交換のことを体交とボランティアが略して言うのに、気管切開のことを医大生の田中が気切(きせつ)ではなく、あくまで気管切開というのには違和感を覚えた。その他、様々な場面で田中に医者の卵らしさが見られてしかるべき場面があったのに、そのいずれでも田中は輝けなかった。それが事実だったと言ってしまえばそれまでだが、こういったところこそ脚色してナンボだろうと思う。映画とは一にかかってリアリティの追求なのだ。

 

最後に、音楽が重要なモチーフになる本作であるが、なぜジャズがフォーカスされなかったのか。鹿野が美咲につられて、あっさりとジャズからロックに宗旨替えしてしまうのは納得がいかなかった。ロックを魂の叫び、体制への反逆と定義するのならば、鹿野の生き方に合致しないこともない。しかし、ジャズは?『 ラ・ラ・ランド 』のセブが力説したように、ジャズはバンドのミュージシャンたちがその瞬間ごとに文脈を考慮しながら、新たに曲を書き、編曲し、そして演奏するのではなかったか。鹿野自身の来たし方はロックかもしれないが、ボランティアとの交流は間違いなくジャズだろう。ジャズの要素をもっともっと交えたシーン、ジャズ音楽そのものと協働するようなシーンが欲しかったと思うのは、決してない物ねだりではあるまい。

 

総評

これは素晴らしい作品である。高校生あたりの道徳の副教材に採用しても良さそうだ。障がい者を見る時、人はその相手に自分が障がいを負った時の姿を見ると言う。鹿野という人間が確かに生き、確かに死に、しかし今も人々の心に残っているのは何故か。それこそが生きるということであると本作は高らかに宣言する。ほんの少し性的な要素も描写されるが、聡明な中学生ぐらいなら逆にそれも勉強の糧にできるような良作である。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 三浦春馬, 伝記, 大泉洋, 日本, 監督:前田哲, 萩原聖人, 配給会社:松竹, 高畑充希Leave a Comment on 『 こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 』 -He lives in you.-

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