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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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タグ: 監督:冨永恒雄

『 11人いる! 』 -80年代SFの傑作-

Posted on 2020年4月26日 by cool-jupiter
『 11人いる! 』 -80年代SFの傑作-

11人いる! 80点
2020年4月26日 YouTubeにて鑑賞
出演:神谷明 河合美智子
監督:出崎哲 冨永恒雄

映画館に行けなくなって久しい。まさに世界は、ゾンビが彷徨している。あるいは未知のウィルスが蔓延しているという設定のディストピアSFの様相を呈している。そこで、ふと思い出したのが本作。まさに“三密”な宇宙船内に多種多様な人種を詰め込んだ環境は、COVID-19が猖獗を極める今こそ、再鑑賞するのにふさわしい。Amazon Primeに見当たらなかったが、YouTubeで発見。ありがたや。

 

あらすじ 

タダ(神谷明)はコスモ・アカデミーへの第一次・第二次入学試験を順調にパスした。そして最終第三次試験で、漂流中の宇宙船内で他の9名の受験生、合計10名で53日間を過ごすという最終試験に臨む。宇宙船に到着した一行は、しかし、自分たちが11人いるということが判明し・・・

 

ポジティブ・サイド 

1950~1960年代の作家的想像力をメインに構築されていたSF作品ではなく、1970年代以降のジェイムズ・P・ホーガン的な、つまり当時の最先端の科学的知見を盛り込んだSFである。ここでいうSFとはScience Fictionではなく、Space Fantasyである。原作が1975年なので、『 エイリアン 』(1979年)や『 スター・ウォーズ 』(1977年)よりも前。つまり、『 2001年宇宙の旅 』の系譜を日本が引き継いだ作品とさえ言える。冒頭の鈍く銀色に輝く巨大宇宙船を見よ。巨大な宇宙船の船体表面をクロースレンジでじっくりと映し出すことで大きさを強調する手法は、『 2001年宇宙の旅 』に始まって『 スター・ウォーズ 』や『 エイリアン 』に直接継承された手法である。本作は1986年に劇場公開された。製作者たちが、これらの先行映像作品に影響を受けなかったはずはない。重力制御装置や超距離エレベーターなど、先行SF作品でお馴染みのガジェットが随所に詰め込まれている。

 

疾走感と虚無感を併せ持ったBGMも素晴らしい。どこかファミコンゲーム『 グラディウス 』に共通するテイストの音楽が、爆発とレーザーで彩られる終盤の展開を上手く観る側に予感させてくれるような気がする。

 

宇宙の様々な星系からの人種のトップ層が、コスモ・アカデミーに集まるというのも当時としては斬新な世界観だったのではないか。今では中国やインド、ナイジェリアやブラジルの超秀才がアメリカの大学や大学院で学ぶのはもはや既定路線になっている。世界的な視点では普通のことであるが、日本的な視点からは異質だ。日本発の同時代のSF作品の金字塔である『 機動戦士ガンダム 』は、地球人同士の争いであるし、『 宇宙戦艦ヤマト 』に登場する宇宙人は、第二次世界大戦時の日本の敵国人種の投影である。そうした意味で、萩尾望都は日本人離れした先見性と想像力を持っていたと、あらためて評価することができる。

 

キャラクター造形も素晴らしい。『 機動戦士ガンダム 』におけるニュータイプの概念を先取りしたのような直感力に秀でた主人公タダを始めとして、ほとんどのキャラが立っている。特に正真正銘の王様でありながら、民主主義的に多数決を自ら提案し、その多数決の結果に諾々と従うという“王様”はユニークだ。ヒロイン的なポジションにどっかと座るフロルも良い。男勝りなところがいかにもクリシェだが、本作は1980年代半ばに公開されていて、原作は1975年であることを思い出そう。女性である、女性になる、女性として生きるという概念が今とは全く異なる、まさに別の時代において、萩尾望都が産み出したこのキャラは、漫画家というよりも女流作家、いやクリエイターとして常に新境地を切り拓いてきた氏の投影そのものだったのだろう。

 

疑心暗鬼の船内、奇病の発生、ワクチンの争奪戦など、まさにCOVID-19が猛威を振るう世界そして日本の縮図的な環境が、ここには描き出されている。SFとしてだけでなく、ミステリとしてもサスペンスとしても、また青春ものとしても、非常にハイレベルに仕上がった逸品である。

 

ネガティブ・サイド

メニールが雌雄同体というのは、厳密には誤っている。実際は無性体または雌雄未分化と言うべきだろう。このあたりの科学的知識は、1970~1980年代においてもしっかり共有されていたはず。作家というよりも編集者や校正がカバーすべきだった。

 

船内の爆発物を除去しないという序盤の過ごし方についても、なんらかの説明が必要だったはず。特にコスモ・アカデミーのような合格率が数万分の一というような超難関の最終試験に残るような頭脳エリート集団が、何故このような選択をしたのか。またハンドガンの存在をコスモ・アカデミーは感知していたのか否か、そのあたりの説明も不十分だった。

 

ほとんどのキャラが存在感を放つ一方で、赤鼻やトトは明らかに出番も少ないし存在感もない。議論がヒートアップした時などに赤鼻が上手く仲裁する、あるいは妥協できる案を提出するなどすれば、彼のアカデミー卒業後の進路に説得力が生まれた。トトにしても同じで、『 オデッセイ 』のマット・デイモン並みに限られた資源で野菜や果物の栽培に成功したという描写がほんの少しでもあれば、尚よかった。

 

船内スクリーンに時々映し出される50 DAYS TO THE ENDや24 DAYS TO THE ENDというのは、非標準的な英語だ。50 DAYS REMAININGまたは50 DAYS LEFTの方がナチュラルな表現である。

 

総評

おそらく2050年になっても古さを感じさせない古典である。Jovian自身、鑑賞はおそらく4~5度目だが、ワンシーンごとに演出がしっかりしており、無駄が一切ない。1時間30分と非常にコンパクトにまとまっている点もポイントが高い。ある意味で性別を超越したロマンス展開もあり、Xジェンダーというアイデンティティを1970年代にして認知していた最初の作品群の一つであるとも評価できるかもしれない。家に引きこもってYouTubeを観るのなら、ぜひ本作もWatch Listに加えるべし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

This is fate.

ヌーの口癖、「これも定め」の私訳。fateについつい冠詞のaをつけてしまう人が多いが、これはほとんどの場合、無冠詞で使う語である。冠詞の使い方をマスターすれば、英検マイナス1級、TOEIC L&R換算1400点である。こういったものは丸暗記に限る。そして、丸暗記するのならば文法書や問題集ではなく、歌詞や映画の台詞にしよう。Jovianは『 インデペンデンス・デイ 』のウィットモア大統領の演説、“Perhaps it’s fate that today is the Fourth of July”を暗記している。

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Posted in 国内, 映画Tagged 1980年代, A Rank, SF, アニメ, 日本, 河合美智子, 監督:冨永恒雄, 監督:出崎哲, 神谷明, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 11人いる! 』 -80年代SFの傑作-

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