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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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タグ: 原田知世

『 星の子 』 -信仰深い少女のビルドゥングスロマン-

Posted on 2020年11月2日2022年9月19日 by cool-jupiter

星の子 65点
2020年10月30日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:芦田愛菜 蒔田彩珠 永瀬正敏 原田知世 岡田将生
監督:大森立嗣 

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新興宗教に傾倒する家族、特にその娘にフォーカスした物語。個人的に観ていて精神的に消耗させられた。Jovianの大昔のガールフレンドも、まさに本作のちひろのような感じだったからだ。

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あらすじ

ちひろ(芦田愛菜)は未熟児として生まれ、アレルギーにも苦しんでいた。しかし、「金星のめぐみ」という水の力でちひろが回復したと信じた両親は、その水への傾倒を深めていく。中学3年生とったちひろも水への信仰を持っていたが、学校の数学教師に恋心を抱くようになり、信仰心と恋心の間で揺れ動き始めていた・・・

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ポジティブ・サイド

宗教と聞くと『 スペシャルアクターズ 』のようなインチキ宗教を思い浮かべる向きが多いだろう。日本人は基本的に無宗教だと言われるが、それは「神」や「法」といった抽象概念への信仰が薄いだけで、何かを信じる気持ちは普通に持っている。そして、それは圧倒的多数が往々にしてそのことに無自覚である。テレビでちょっと「納豆がダイエットに良い」、「バナナがダイエットに効く」とやるだけでスーパーから商品が消える。最近でもどこぞのアホな府知事が「イソジンでコロナが消えていく」と大真面目に語ったことで、薬局やドラッグストアでイソジンが品薄になった。こうした日本人の傾向を自覚するか、それとも宗教は胡散臭いし、それを信じる人はキモチワルイと思うか、それによって本作の意味(≠評価)は大きく変わると思われる。

 

最初はかなり良い家に住んでいるちひろの一家が、ちひろが中学生になる頃にはあばら家・・・とは言わないまでも、かなりグレードダウンした家に住んでいることが目につく。寝所を変えなければならないほどに、「金星のめぐみ」にカネを使っているということだろう。ちひろの父親は職場関係の人から勧誘され、その父も妻の兄を勧誘する。我々はこうした勧誘行為にうさん臭さを感じるわけだが、本作に描かれるちひろの両親には悪意は認められない。アレルギーに苦しむ娘を救ってくれた奇跡の水に感謝しているという、善意からの行動なのだ。

 

そうした両親に育てられたちひろが「水」の力を信じる一方で、姉のまーちゃんは信仰や宗教に反発し、家を出て、自身の選ぶべき道を模索し、それを掴み取っていく。その過程が詳細に描写されるわけではないが、まーちゃんがどれほど普通を渇望し、それに魅せられているかを幼いちひろに訥々と語る長回しのシーンは、『 真っ赤な星 』での小松未来と桜井ユキの天文観測所での語らいを思い起こさせてくれた。

 

非常に閉じた世界に住むちひろが、岡田将生演じる数学教師に恋をする描写も好ましい。少女漫画原作とは趣が全く異なり、甘酸っぱさを前面に出したりはしない。イケメンだからと言って、内面が素晴らしい人間かと言えば、必ずしもそうではない。見た目に奇行が目立つからと言って、内面的に悪であったり薄汚れていたりするわけでもない。ある意味、常識的な人間社会や人間関係の在り方を見せているだけなのだが、そこにちひろというフィルターを通すだけで、世界の在りようが大きく異なって見える。自分が好きな相手が、自分に対して好意を抱いているわけではない。当たり前のことだ。けれども、そうした当たり前を受け止められないちひろの感情の発露は、見ていてとてもショッキングで痛ましい。逆にそれは、ちひろが両親に注ぎ込まれた愛情の大きさを逆説的に表してもいる。一つひとつの人間関係や事象に安易な善悪のラベリングをしない点で、本作のドラマは深みを増している。高良健吾や黒木華の演じる教団幹部の言動から

 

母を探すちひろ、ちひろを探す母。最終盤の二人のすれ違いは、そのまま彼女らの住む世界が徐々に異なってきていることの表れなのだろう。切れそうで切れない紐帯。それが信仰心によるものなのか、それとも家族愛によるものなのか。大森監督はそこを我々に見極めてもらいたがっている。そのように思えてならない。

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ネガティブ・サイド

岡田将生に両親を変人扱いされたちひろが、混乱のあまりに街を駆けるシーンは、邦画お馴染みのクリシェでもう見飽きた。全力で走る主人公を真横からのアングルで並走するクルマから撮らないと映画人はじんましんでも出るのだろうか。

 

アニメーションで空から落ちていくちひろの描写も、ストーリー全体の流れからするとノイズに感じられた。ちひろの千々に乱れる心象風景を描写するなら、それこそ浜辺で黄昏を見つめるような、映画的な演出がいくらでも考えられたはずだ。

 

『 MOTHER マザー 』で顕著だった、子が親を慕う無条件にも近い愛の描き方が弱かったように思う。自ら家族を捨てたまーちゃんが一報だけを寄こしてくるシーンを映して欲しかった。その報を受けた永瀬なり原田なりが破顔一笑する、または感涙する一瞬を映し出してくれれば、紐帯としての家族というテーマがよりくっきりと浮かび上がってきたことだろう。

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総評

かなり賛否両論が分かれる作品だろう。それは宗教というものに関する嫌悪感が背景にあるからだが、その嫌悪感の裏には無知や無理解、無関心が潜んでいる。本作が今というタイミングで映画化されたことの意義は決して小さくない。宗教=何かを強く信じることだ。停滞・低迷する日本の社会で興隆しつつあるオンラインサロンは一種の教団ではないのか。Jovianは時々そのように感じる。宗教的な背景や信仰心を受容できず、関係を途絶えさせてしまった経験を持つJovianには本作は色々な意味で突き刺さった。ぜひ諸賢も鑑賞されたし。

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Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

put ~ away

『 マリッジ・ストーリー 』でも紹介した「~を片付ける」という表現。「その目障りな水を片付けろ!」という一喝は

Put that goddamn water away!

という感じだろうか。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, ヒューマンドラマ, 原田知世, 岡田将生, 日本, 永瀬正敏, 監督:大森立嗣, 芦田愛菜, 蒔田彩珠, 配給会社:ヨアケ, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 星の子 』 -信仰深い少女のビルドゥングスロマン-

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