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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 北村匠海

『 HELLO WORLD 』 -安心の野崎まどクオリティ-

Posted on 2019年9月25日2020年4月11日 by cool-jupiter

HELLO WORLD 70点
2019年9月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:北村匠海 松坂桃李 浜辺美波
監督:伊藤智彦

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Jovianは野崎まどのファンである。メディアワークスが出している作品はすべて読んだ。『 2 』を除けば、一番のお気に入りは『 小説家の作り方 』である。氏のテーマは一貫している。人間の姿をした人間以上の存在である。そのことを念頭に置いておこう。

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あらすじ

2027年の京都。堅書直美(北村匠海)の前に、10年後の未来からやってきた自分、ナオミ(松坂桃李)と共に一行瑠璃(浜辺美波)に迫っている落雷事故を回避することを目指すが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 二ノ国 』という超絶駄作の超絶クソ voice acting の後なので、ある程度は評価が上方修正されているかもしれないが、北村も松坂も浜辺も及第以上の声の演技をしていた。特に浜辺美波はJovianの贔屓目も入っているが、渡辺徹のようにナレーション業も頑張れば行けそうだ。頑張って欲しい。

 

トレイラーの段階から「この世界は全部、データだった」という直美の独白があるので、その設定そのものに驚く必要はない。我々が本当に観たいのは、【 この物語(セカイ)は、ラスト1秒でひっくり返る 】ところなのである。そして、これから本作を観ようとする諸賢におかれてはご安心されたい。ちゃんとひっくり返ってくれる。厳密にはラスト1秒というわけではないが、怒涛のコンビネーション・ブローを観る側の脳に叩き込んでくれる。

 

これは言葉の正しい意味でのSFである。アニメ作品としては『 イブの時間 劇場版 』に並ぶクオリティである。SFとは何か。人類と文明の関係性を描くフィクションである。アニメとは何か。手塚治虫に言わせれば、「物語が先に存在して、それを伝えるために絵が動くもの」である。その意味では本作は実に正統派のSFアニメである。我々が生きているこの世界が実はデータだったというのは、『 マトリックス 』以来、手垢のついたテーマではあるが、だからこそドンデン返し = big twist に挑戦してみたくなる分野でもある。繰り返すが、本作にはしっかりとしたドンデン返しが存在する。期待して欲しい。

 

本作に採用されている様々なガジェットやキャラクター造形、ショットの構図などは、優れた先行作品の影響を色濃く受け継ぐものである。まずは敵の量産型キャラクター。これは『 BLAME! 』のセーフガードを思い起こさせてくれた。つまり、非常に不気味で、恐怖を感じさせてくれた。それらが最終的にはミラクル卵の最終形態になり、シシ神のデイダラボッチバージョンになり、エヴァンゲリヲンにもなった。これは大迫力だった。エージェント・スミスがこれをやっていたら、彼の名作は更に名作の誉れ高くなったのか、一気に駄作に堕ちてしまったのか、どちらだろうか。

 

物語世界とキャラクターの真実については、アニメではないが映画化されそうでされなかった(できなかった)小説『 ループ 』が思い浮かんだし、ちょっと古い映画で言えば『 13F 』も下敷きにあったのかな。またこうした一種の入れ子構造の作品としては『 イグジステンズ 』や『 トロン 』、『 主人公は僕だった 』や『 ルビー・スパークス 』なども思い起こされた。それでいて、オリジナリティある作品に仕上がっているという、そのこと自体が最も素晴らしい点であると言えるかもしれない。伊藤智彦監督に拍手!

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ネガティブ・サイド

ストーリーテリングや世界観の構築の面では素晴らしいが、一方ではグラフィック面に大きな課題を残した。特に物語が舞台を文字通り大きく様変わりさせるシーンのグラフィックは、そのまんま『 2001年宇宙の旅 』の劣化バージョンである。というよりも、あからさまに『 LUCY/ルーシー 』(監督:リュック・ベッソン)をパクっているとしか思えないものもあった。オマージュとパクリは似て非なるものである。これらのシーンに関しては、製作者側のリスペクトが感じられなかった。そこが残念である。邦画に似せるとオマージュ、外国産の映画に似せるとパクリという判断をJovianはどうやらしているようである。

 

トレーラーにもあった街が崩壊していくビジョンは、まんま『 インセプション 』と『 ドクター・ストレンジ 』だった。もっと独創性ある映像を作って欲しかった。

 

あとは、男女が恋に落ちるプロセス、あるいは恋愛感情を自覚するプロセスに、もう少しオリジナリティが欲しい。多くのアニメ作品では身体、特に特定部位の接触が契機になることが多いように思われるが、そのようなclichéからはそろそろ卒業すべきではないだろうか。近年でも『 夜は短し歩けよ乙女 』や『 打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか? 』などが、まさにこうした手法を使っていた。もっと『 耳をすませば 』のような、ピュアで、それでいてロマンティックな関係性を、宮崎駿以外のクリエイターも描けるはずだ。もっと受け手を信頼すべきだし、あるいは作り手が受け手を啓蒙してやるぐらいの気概を持ってもいい。

 

総評

アニメ作品としては、個人的には年間ベスト級であると感じる。ただし、かなり人を選ぶ作品だろう。関西人、特に京都にゆかりのある人は、「これはあそこだ」、「ここは、あれだな」という見方を楽しめる。ただし、関西弁原理主義者(若い世代にはいないと思うが)の方にはお勧めできない。京都弁などは微塵も出てこない。また、ある程度のSFの素養も必要だろう。野崎まどファンなら、見逃すべきではない。 

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Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I did it.

 

「やってやりました」= I did it. である。何かを行って、そのことを誇らしく思うのなら、こう言おう。相手が何か素晴らしいことをやってくれたなら、“You did it.”と言おう。ただ、この do it という表現には落とし穴もある。しばしば、does itという形で、「~~が悪い」、「~が元凶だ」のような意味になる。Wedding is fine. It’s living together that does it. 結婚は問題ない。悪いのは一緒に住むことだ、のようになる。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, SF, アニメ, 北村匠海, 日本, 松坂桃李, 浜辺美波, 監督:伊藤智彦, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 HELLO WORLD 』 -安心の野崎まどクオリティ-

『 君は月夜に光り輝く 』 -ファンタジー映画に徹すべきだった-

Posted on 2019年4月7日2020年2月2日 by cool-jupiter

君は月夜に光り輝く 45点
2019年4月1日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:永野芽郁 北村匠海
監督:月川翔

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『 君の膵臓をたべたい 』の月川翔監督と北村匠海が、ヒロインに永野芽郁を迎えて、小説を映画化したのが本作である。「きみすい」の二番煎じの匂いがプンプンと漂ってくるが、その予感は間違いではなかった。

あらすじ

渡良瀬まみず(永野芽郁)は発光病という不治の病で入院中。そこにクラスの代表として嫌々ながらお見舞いに訪れた岡田卓也(北村匠海)は、まみずの願望を一つ一つ代行して叶えていくことを引き受けて・・・

ポジティブ・サイド

北村匠海の静かで、一見すると感情の乏しい演技は、こうした役どころによく当てはまる。月川監督はそれを上手く使っている。エナジェティックな女子に振り回される、受け身な男子という役が合うが、もうそろそろ違う路線を模索し始めてみてもいいのではないだろうか。それでも、北村のしなやかな強さを内に秘めた存在感や優しさ、時に一徹なまでの頑固さ、表情には決して現れることのない直情径行さ、そうしたものを全て内包したような立ち居振る舞いを魅せられるところが、単なる期待の若手俳優たちと彼を分かつ一線であろう。

永野芽郁も発光の美少女・・・、ではなく薄倖の美少女が似合う。単に病魔に冒されたか弱い女の子というだけではなく、そのうちにある願望、悲しみ、怒り、邪(よこしま)とも言えそうな欲望などの感情をないまぜにしつつも、笑顔でそれを吹き飛ばしてしまうような天真爛漫さは、『 君の膵臓をたべたい 』の浜辺美波とはまた一味違った良さがある。浜辺がミステリアス女子だとすれば、永野はパワフル女子だろう。

二人のキャラクター造形はとても魅力的で、卓也がまみずとの距離を縮めていく願望代行過程には、余命ゼロというシリアスさとは裏腹のユーモアがある。そのユーモラスな展開が、冒頭ではっきりと描かれるまみずとの永遠の別離をいっそう切ないものにしている。脇を固める長谷川京子や及川光博も、これらの若い才能のサポート役に徹しつつも、見せ場を作った。凡百のラブストーリーではあるが、多くの見せ場があり、これらキャストのファンであれば鑑賞をためらう理由はないだろう。

ネガティブ・サイド

ちょいと映画ファンさんよ。聞いてくれよ。

ブログとあんま関係ないけどさ。

このあいだ、近所の映画館行ったんです。映画館。

そしたらなんか『 君は月夜に光り輝く 』で

ヒロインが発光病に冒されてるんです。

で、よく見たらなんか窓とか超大きくて、

病室が光に溢れてるんです。

もうね、アホかと。馬鹿かと。

(略)

病院ってのはな、もっと患者の容態に対して注意深くあるべきなんだよ。

さっきまで元気そうだった患者さんが、

次の瞬間に急変して緊急手術になってもおかしくない、

そんな殺伐とした雰囲気がいいんじゃねーか。健康な奴は、すっこんでろ。

などと古すぎるコピペを使いたくなるほど、本作の欠点は大きすぎる。死期が近付くほどに強く光を放つということは、ほんの少しの弱い光を放ち始めた瞬間を捉えることこそが、治療や看護、本人や家族への告知や説明の面から、決定的に重要なことなのだ。この陽光が溢れる病室は、監督、撮影監督、照明のこだわりが結実したものなのだろうが、リアリズムの観点からは完全に誤った選択である。まみずの母親も、怒りの矛先を卓也ではなく病院に向けてはどうか。

『 タイヨウのうた 』や『 青夏 君に恋した30日 』のように、本作もいくつかの場面で、季節と時刻にマッチしない光の使い方をしている。“光”が重要なモチーフになっている作品にしてこのあり様とは・・・ 月川監督は個人的には高く評価しているのだ。事実、Jovianは2018年の国内最優秀監督の次点に推している。氏の奮励と捲土重来を期したい。

主演二人の演技は及第点もしくはそれ以上を与えられるものの、甲斐翔真と今田美桜の二人の棒読みは何とかならなかったのか。さんざん練習してあのレベルなのか、それともあまり練習をせずに撮影に臨んだのかは知らないが、根本的な発声練習にもっと励むべきだ。『 ブレードランナー 2049 』のライアン・ゴズリングが見せた、彼が普段からやっていたような発声練習をもっとやるべきだ。彼ほどのトップスターでもこうした地道なトレーニングを積んでいるのだ。もっと真剣に役者業をやれと言いたい。

これは原作者にその責があるのだろうが、なぜに日本の漫画、小説、映画は劇中劇を行うとなると「 ロミオとジュリエット 」なのだ。馬鹿の一つ覚えとはこのことであろう。『 あのコの、トリコ 』という駄作だけで、これはもうお腹いっぱいである。北村匠海に女装をさせたい、あるいは芸域を広げるために女形をやってほしいということであれば、別にジュリエットである必要はない。『 ピース オブ ケイク 』の松坂桃李や『 彼らが本気で編むときは、 』の生田斗真のような役を演じる別の機会がきっと訪れるはずだ。

総評

実写の『 君の膵臓をたべたい 』の水準を期待すると、がっかりさせられる。しかし、最初からファンタジー映画であると割り切って、バイオフォトンなどという怪しげな言葉に惑わされないようにして鑑賞すれば、つまりリアリズムなど一切考えることなく観れば、純粋で芳醇で、やや苦いロマンスを味わうことができる。チケットを買う前に、よくよくそのことを心に留めておくべし。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, ラブロマンス, 北村匠海, 日本, 永野芽郁, 監督:月川翔, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 君は月夜に光り輝く 』 -ファンタジー映画に徹すべきだった-

『 十二人の死にたい子どもたち 』 -真新しさに欠ける子供騙し映画-

Posted on 2019年2月3日2019年12月21日 by cool-jupiter

十二人の死にたい子どもたち 35点
2019年1月27日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:新田真剣佑 北村匠海 高杉真宙 萩原利久
監督:堤幸彦

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出演に男4人だけをリストしたのは、単純にスペースの問題であって、それ以上の意味もそれ以下の意味もない。本当は自分の好み的には萩原利久だけでもよかったのだが、それだけではアンバランスだなと感じただけのことに過ぎない。それにしても、堤幸彦監督というのは、良作と駄作を一定周期で生み出してくるお人である。本作はどちらか。残念ながら駄作であった。まさに文字通りの意味で子供騙しであった。

 

あらすじ

廃病院。集められた十二人の少年少女。皆、闇サイトの呼び掛けに応じ、集団自殺する為に集って来た。しかし、そこには十三人目が既に先着していた。物言わぬ死体として・・・

 

ポジティブ・サイド

期待の若手俳優をずらりと並べたのはインパクトがあった。Jovianは萩原利久を推しているので、彼の登場は素直に嬉しい。他にも杉作や北村など、確かな演技力、表現力を有するキャスティングは、タイトルの持つインパクトとの相乗効果で、多くの映画ファンを惹きつける。

 

劇中に何度もフォーカスされる謎めいた絵画やオブジェも興味深い。妊婦を想起させるだけではなく、♂と♀のマークの複合体、つまりは性行為を意識させるようなデザインでもあり、デストルドーに衝き動かされる子どもたちの奥底に眠るリビドーを模しているかのようでもある。これからご覧になる方々は、これらの絵や像のショットがどういう場面で挿入されてくるかに是非注意を払って見て欲しい。

 

ネガティブ・サイド

端的に言ってしまえば、どこかで観た、もしくは読んだ作品のパッチワークである。タイトルから『十二人の怒れる男 』を思い起こした方は相当数いることは間違いないし、あらすじを読んで、または予告編を見て『 11人いる! 』や『 ソウ 』の影響を受けた作品なのだなという印象を持った人も多いだろう。あるいはmislead目的としか思えない「死にたい」連発のトレイラーを見て、『 インシテミル 7日間のデス・ゲーム 』や『 JUDGE ジャッジ 』の類のデスゲームなのかと勘違いさせられた人も一定数いただろうことは想像に難くない。原作者が冲方丁だと知って、意外に感じた向きも多かったのではないだろうか。Jovianはてっきり、米澤 穂信か土橋真二郎の小説が原作なのだと思い込んでいた。何が言いたいかと言うと、オリジナリティに欠けるわけである。

 

本作をジャンル分けするならば、シチュエーション・スリラー風味のミステリ兼ジュブナイル映画ということになるだろうか。だが、ミステリとして鑑賞させてもらうと、粗ばかりが目立って仕方がない。あまりにもご都合主義に満ちているのだ。堤監督は明らかに『 イニシエーション・ラブ 』を意識した画作りおよび演出を施したシークエンスを用意してくれているが、説得力が全く違う。まさに月とすっぽんだ。それはもちろん、『 イニシエーション・ラブ 』が月で、本作がすっぽんという意味である。あれを見せられて、「ははあ、なるほど、そうなっていたのか」と膝を打つ人がいるのだろうか。

 

とにかく論理的に破綻している、または都合が良すぎる点を指摘してしまうときりがない。なので、ひとつだけ余りにも間抜けすぎる台詞を紹介しておきたい。廃病院前に軽トラが止まったのを見て「なんで?!改修工事はまだ先のはずよ?」とは・・・ どこからどう見ても積み荷ゼロの軽トラック一台にそこまで焦る必要があるのは何故だ。某人物が廃病院に来るまでに使った車いす対応タクシーの運転手が警察に通報するという可能性は考慮しなかったのだろうか。

 

総評

はっきり言って面白くない。ミステリとしてもスリラーとしてもサスペンスとしても、中途半端すぎる。キャスティングに魅力を感じるのであれば鑑賞も可だろう。しかし、ちょっと面白そうだから観てみるかという気持ちで劇場に行くと、ガッカリさせられる可能性が高いだろう。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, E Rank, ミステリ, 北村匠海, 新田真剣佑, 日本, 監督:堤幸彦, 萩原利久, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画, 高杉真宙Leave a Comment on 『 十二人の死にたい子どもたち 』 -真新しさに欠ける子供騙し映画-

『 春待つ僕ら 』 -あまりにも薄っぺらいバスケと恋愛のコラボ-

Posted on 2018年12月26日2019年12月6日 by cool-jupiter

春待つ僕ら 40点
2018年12月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:土屋太鳳 北村匠海 小関裕太
監督:平川雄一朗

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巷間言われて久しいが、土屋太鳳は本当にもうそろそろ女子高生役は卒業すべきだ。せっかく『 累 かさね 』で一皮むけたところを見せながら、これでは元の木阿弥ではないか。彼女のハンドラー達は何をやっているのだろうか。また、今作も漫画を映画化するにあたって、漫画的な文法を取り入れている。映画と漫画は異なる媒体なのだから、世の映画監督たちはもっと原作者と突っ込んだ議論を行い、おおいに芸術論を戦わせればよい。原作者や原作ファンをリスペクトすることと、彼ら彼女らに阿ることは全くの別物なのだ。

 

あらすじ

春野美月(土屋太鳳)は引っ込み思案な女子。しかし、高校入学を機に自分を変えようと思い、周囲に溶け込もうと努力するも空回り。そんな時、バイト先のカフェで同じ高校のバスケ部の面々と知り合うことに。バスケ部と過ごすうちに確かな変化を実感する美月の前にしかし、幼馴染が現れて・・・

 

ポジティブ・サイド

どうしても題材として同じ競技を扱う『 走れ!T校バスケット部 』と比較せずにはいられない。バスケをプレーしているシーンに限っては、本作の圧勝である。T高の方は、あまりにも珍妙なプレーシーンが多かったし、何よりもストーリーとバスケの試合内容が噛み合っていなかったのが致命的だった。本作は、役者連中にかなりバスケを練習させたと見え、一連のプレーやシュートシーンに合成の類はほとんど無かったように見えた。これは大きな加点材料だ。特に北村匠海と磯村勇斗は意外にバスケの動きが様になっている。経験者なのだろうか。

 

また小関裕太も良い味を出すようになった。演技力には改善の余地があるが、何を観ても金太郎飴的な演技しかできないアイドルやなんちゃって役者が跳梁跋扈する日本映画界で、それなりに幅のある役を任せられる(それらを見事に演じ切っているかどうかは別にして)というのは、ポテンシャルが認められてのことだろう。本作でもかなりユニセックスな演技を披露してくれる。来年か再来年には、『 クローズ 』に出ていそうなヤンキー役をやってくれないだろうか。

 

ネガティブ・サイド

これでもかというぐらい欠点や弱点がある作品だが、それらを全て指摘することに意味は無い。なので、どうしてもこれだけは見逃せない、許せないという類のものに焦点を当てたい。

 

まず第一に、北村匠海のキャラ、永久に「寝たらなかなか目覚めない」などという属性付けは必要だったか。そんな『 SLAM DUNK 』の流川の二番煎じキャラに何の意味があるのだ?原作がそうなっているからといって安易にそれを踏襲し、そして肝心の映画ではその属性に何らかの意味があったのだと感じさせるシーンがゼロと来れば、監督に文句の一つや二つも言いたくなる。10巻以上の漫画の物語を2時間という尺に過不足なく収めるのは至難の業だ。それこそが脚本や監督の腕の見せ所のはずなのだが・・・ また同じシーンで美月が「起きて!!」と大声を出すシーンがあるが、これも必要だったか?引っ込み思案で内気な少女が、友情に触れることで変わり、成長し、仲間の応援のために心の底から大声を張り上げられるようになる、という余りにも分かりやすい展開のために、美月の大声はもっと後までとっておくべきではなかったか。といっても、トレイラーで件のシーンはしこたま強調されているので、今更そんな指摘をしても詮無いことではあるのだが。

 

バスケのプレーについては、それなりにリアリティのある絵を撮れていたものの、その他の描写が弱い。というよりも首を傾げざるを得ないものもある、というのが残念である。例えば、いくらアメリカ帰りのバスケの申し子とはいえ、シュート成功率90%はないだろう。NBAのトップ中のトップでもフリースロー成功率が90%を超えるのはイースタン、ウェスタン、両カンファレンス合わせても毎年10人にも満たないはずだ。それこそシャキール・オニールを日本の高校に連れて来てプレーさせでもしない限り、そんな数字は絶対に生まれない。漫画は漫画であるが、映画とは大きな嘘をつくために細部のリアリティに徹底的にこだわりぬかねばならないのである。

 

最後に、永久と亜哉の 1 on 1 のシーン。何度も倒され、顔に泥がついた永久のシャツがびっくりするぐらい真っ白なのはどういうことなのだろうか。また、「チャラくは無いな、皆マジでバスケやってるから」と豪語する部員たちのスポーツバッグが、夏を過ぎても新品同様にしか見えないのは何故なのか。運動部の連中がバッグを使いこめば、数カ月もすれば、あちらこちらに擦り傷や綻びが目立ってくるものだ。そうした、バスケに費やした時間を観る者に感じさせる小道具が一切出てこないのが最大の減点材料だ。平川監督はそれなりにキャリアがあるが、もう一度、映画監督の仕事とは作品世界を存立させるに足るリアリティを担保することであるということを勉強し直してほしい。

 

総評

40点なのか45点なのか悩んだが、総合的には『走れ!T校バスケット部』と同点か。バスケシーンでは本作の勝ち。バスケ以外のリアリティはT高の方が上。しかし、良作とも光るところはあるものの、欠点の方が大きく目立った。土屋や北村のよほどのファンでなければ、わざわざ劇場でチケット代を払ってまで観ることはない。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, スポーツ, 北村匠海, 古関裕太, 土屋太鳳, 日本, 監督:平川雄一朗, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 春待つ僕ら 』 -あまりにも薄っぺらいバスケと恋愛のコラボ-

『君の膵臓をたべたい』 -生きることの新たな意味を伝える傑作-

Posted on 2018年8月21日2019年4月30日 by cool-jupiter

君の膵臓をたべたい 70点

2018年8月16日 レンタルDVD観賞
出演:浜辺美波 北村匠海 小栗旬 北川景子 上地雄輔 矢本悠馬
監督:月川翔

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タイミングが合わなかったと言ってしまえばそれまでなのだが、本作を昨年のうちに劇場で観ることを選択しなかった我が目の不明を恥じる。いくつかの欠点に目をつぶれば、非常に優れた作品である。

“僕”(小栗旬)は高校の国語教師。ある仕事をきっかけに高校時代の友人の山内桜良(浜辺美波)を思い出す。彼女は膵臓の病を患っていた。そんな彼女と過ごしたかけがえの無い高校時代の自分(北村匠海)の回想を通じて、桜良が未来に宛てたメッセージを受け取ることになる。

浜辺は、南沙良と並んで、現在売り出し中の若手女優のトップランナーの地位を本作で築き上げ、『センセイ君主』で確たるものにしたと評してもよいだろう。病気と笑顔で向き合う。しかし、一瞬だけ垣間見せるその表情に我々は桜良が心の奥底にひた隠す死への恐怖と生への渇望を見逃すことは無い。さりげなく、それでいてハッと気づいてしまう。卓越した演技力の持ち主であることを随所で見せつけてくれる。 

桜良が“僕”に好意を抱くきっかけの一つに、“僕”が桜良の病気のことを知っても動じなかった(ように見えた)ことが挙げられる。看護師さんらによると、病院という場所では患者はしばしば「病気」で呼ばれるということだ。医者はしばしば「あの305号室の肺がんの人だけど云々」などと言うらしい。これは実は医療従事者だけに特有の考え方だったというわけではない。一昔前は障がい者を、disabled peopleと英語で言っていたが、その後はpeople with disabilitiesに、今ではspecial needs peopleまたはpeople with special needsと言っている。病気や障害を、その人と最も特徴づける属性として捉えていた時代があったのだ。今では医療や介護の世界にもセルフケアという概念が浸透し、「何ができないのか」ではなく、「何ができるのか」で人間を評価するようになっている。“僕”は意識的にも無意識的にも、桜良が何ができないのかを考えることは無く、桜良ができることに寄り添う姿勢や態度を見せていた。これは惚れるしかない。北村匠海の過去の出演作品を今回チェックしてみて驚いた。ほとんど全部観ているし、確かに印象的な演技を見せてくれていたことは思い出せた。しかし、俳優としての北村匠海の印象が極めて希薄なのだ。例えばニコラス・ケイジやトム・クルーズは、どんな作品に出ても、どんな役を演じても、結局は本人にしか見えないことがほとんどである。日本で言えば福士蒼汰や東出昌大がこれに該当する。北村匠海は違う。窪田正孝の系列の役者であると評しても間違いではないだろう。この若い二つの才能のぶつかり合いが作品に深みと奥行きを与えている。

残念ながらいくつかのマイナス点も指摘しなければならない。ホテルに泊まるところで、「僕」が髪をタオルで拭きながら出てくるシーンがあるのだが、いかにも不自然だ。髪も本当に濡らして、それをドライヤーで生乾きぐらいまで乾かした感じで出てくるぐらいでいい。また、小栗旬と北村匠海は、表情や目の動き、歩き方などでかなりお互いがお互いを同一人物として意識した役作りおよび演技ができていたが、他のキャストがあまりにも似ていない。というか、似せる努力をしていない。世界的に『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』が批判されているのは、オールデン・エアエンライクの演技力の低さではない。ハリソン・フォード演じるハン・ソロを意識した演技ができていなかったからだ。これは監督の罪でもあるが、本人の罪でもある。まあ、ハリソン・フォード自体がトム様やニコケイのような、ほとんどの役で「これはハリソン・フォードである」と認識されてしまう役者であるのだが。矢本と上地が同一人物設定というのはどうなのだ?また、大友花恋が北川景子に変身するのも、説得力がなさすぎる。だからこそ、このタイミングでアニメーション作品の制作および公開に至ったのだろうが。

Back on track. 本作は「生きることの意味」を追求する作品でもある。「君がいなくなったら、みんな、僕のことなんか忘れるよ」という“僕”の台詞に「そんなの死ぬに死ねないよ」と返す桜良。二人は死を心停止などという生物学的な意味では捉えていない。死ぬ=誰にも思い出されなくなる、と捉えている。これは『ウインド・リバー』でランバートが語っていたことと全くの同義である。生とは、ある一面では、思い出の中に宿るものなのだ。桜良が死ぬまでにやりたいこと=誰かの中の思い出として生き続けたいという欲求なのだ。

桜良はもう一つ、本や文字にも自分の生を託す。学校の図書館に眠る本の数々が、ある意味での永続性を象徴している。文字は一種のタイムマシーンだ。その場所が取り壊されることが決まってしまった時、桜良からのメッセージが見つかる。図書館の窓の外に覗くは、散り行く桜。我々はここで否応なく桜良の「桜は散ったふりして咲き続けている。散ってなんかいない。みんなを驚かせるために隠れているだけ」という台詞に思いを馳せずにはいられなくなる。健気に生きる姿だけが美しいわけではない。生きることは時に残酷なまでの悲劇を生む。死んでも、それでも生きていたいという想いの強さに打ちのめされるラストシーンに、観る者は大いに涙するだろう。

 

Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2010年代, B Rank, ロマンス, 北村匠海, 日本, 浜辺美波, 監督:月川翔, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『君の膵臓をたべたい』 -生きることの新たな意味を伝える傑作-

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