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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: トニ・コレット

『 ミッキー17 』 -やや一貫性に欠ける-

Posted on 2025年4月1日 by cool-jupiter

ミッキー17 65点
2024年3月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ロバート・パティンソン ナオミ・アッキー マーク・ラファロ トニ・コレット
監督:ポン・ジュノ

 

ポン・ジュノ監督の作品ということでチケット購入。

あらすじ

借金取りから逃れるために、使い捨て人間として宇宙に出ることに決めたミッキー・バーンズ(ロバート・パティンソン)。しかし、それは過酷な環境での人体実験の被験者になることだった。死んでも死んでもリプリントされ、記憶もインストールされるミッキーだが、ある時、事故から生還すると、そこにもう一人のミッキーがいて・・・

ポジティブ・サイド

『 TENET テネット 』や『 THE BATMAN ザ・バットマン 』でクールな役を好演してきたロバート・パティンソンが、悲惨なお笑いキャラに大変身した。もうそれだけで笑える。『 エリジウム 』とはある意味で正反対の世界ながら、同作の治癒マシーンをはるかに超えた、人間プリンターには驚かされた。ただ、100年後ぐらいには中国が作りそうな装置ではある。ここから量産される人間を使って、普通の人間に対しては行えないアレやコレをやってやろうというのは『 火の鳥 生命篇 』。漫画好きのポン・ジュノらしい。

 

宇宙船の中でも格差社会が存在するのは、『 スノーピアサー 』の拡大版。子どもが搾取されるのではなく、大人のエクスペンダブルが搾取される。しかし、宇宙放射線対策やワクチン開発のための人体実験で死にまくっているミッキーは、英雄なのか奴隷なのか。

 

そのミッキーを虐げる悪役をマーク・ラファロとトニ・コレットが巧みに演じた。特にトニ・コレットは、時にユーモラス、時にホラーと、顔芸だけではなく確かな演技力を披露してくれた。

 

やっとたどりついた新天地のニフルヘイムの先住者は『 風の谷のナウシカ 』の王蟲そっくり。この時点である程度展開は読めるのだが、ちょっとしたひねりも加えられていて、それがしっかりエンターテインメントにもなっている。

 

死ぬとはどういうことか問うことを通じて、生きるとはどういうことなのかを逆に問い直そうとする作品。一人でじっくり鑑賞しても良し、家族や友人と連れだって鑑賞し、あれこれを感想をシェアするのもいいだろう。

ネガティブ・サイド

ティモやカイといったキャラクターはもう少し深掘りできたのではないか。もしくはバッサリと存在ごとカットしてもよかったかも。

 

重複存在となったミッキー17とミッキー18が、マイルドとハバネロぐらい異なる性格になったことに対して全く説明がなかったのが気になる。記憶を保存して、それをリプリントされた個体の頭脳にインストールする。ここまではSFでよくある設定。ただ、同じ肉体、同じ記憶であるにも関わらず、全く異なるパーソナリティになってしまう説明が欲しかった。たとえば、ミッキー5まではこうだったけど、ミッキー6はちょっと変な奴だった、のようなエピソードがあればもっと得心がいったのだが。

 

テーマは What’s it like to die? だったはずだが、そこに占める異星生命との遭遇の割合が大き過ぎたように思う。延々と人体実験に晒されつつも、ある時、死んでしまったミッキーに人工呼吸やら胸骨圧迫をして蘇生させる必要が生じた。しかし、蘇生はできずリプリントした。なぜ我々はリプリントされる彼を蘇生させようとしたのか・・・と問うような物語もありえたのかな、と思う。

 

総評

決して傑作ではない。しかし駄作でも凡作でもない。ブラック・コメディとして普通に面白い作品。保守化に邁進する第2次トランプ政権のアメリカ社会とその歴史を下敷きに本作を鑑賞すれば、ポン・ジュノ監督が何を笑いに変えようとしたかったのかが見えてくる。格差、階級、移民、異邦人。なかなか解決できない問題だが、笑い飛ばすことはできる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

work one’s ass off

直訳すると、働いて誰かの尻が離れてしまうだが、実際は「めちゃくちゃ頑張る」ということ。We all have to work our asses off. To hell with my company… のように言える。こういうことがサラッと言えれば英検0級である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 Flow 』
『 ケナは韓国が嫌いで 』
『 悪い夏 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, トニ・コレット, ナオミ・アッキー, ブラック・コメディ, マーク・ラファロ, ロバート・パティンソン, 監督:ポン・ジュノ, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 ミッキー17 』 -やや一貫性に欠ける-

『 ナイトメア・アリー 』 -A Twist of Fate-

Posted on 2022年4月7日2022年4月7日 by cool-jupiter

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220407224714j:plain

ナイトメア・アリー 60点
2022年4月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ブラッドリー・クーパー ケイト・ブランシェット トニ・コレット ルーニー・マーラ
監督:ギレルモ・デル・トロ

 

簡易レビュー。

 

あらすじ

スタン(ブラッドリー・クーパー)は、偶然出会ったカーニバルで仕事を得る。スタンはそこで様々なショーを学び、また自身も読心術を身に着ける。そして、いつしかモリー(ルーニー・マーラ)と共に恋仲になるが・・・

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ポジティブ・サイド

ブラッドリー・クーパーの好演が光る。貴族的な顔立ちをしているが、この役者は堕ちていく役を演じさせると本領を発揮する。

 

出演陣は非常に豪華。ルーニー・マーラは楚々とした美女役が似合うし。ケイト・ブランシェットも妖しげな美魔女として存在感を発揮した。

 

見世物小屋の一団というのも時代を感じさせるが、こうした江戸川乱歩的な世界観のビジュアルは個人的には嫌いではない。むしろ好物である。なのでカーニバルの中でスタンが徐々に居場所を確立していく序盤は楽しませてもらった。

 

詐術で都市の権力者や金持ちに取り入っていく様もなかなか見応えがあった。カネの力で死者と交信あるいは再会しようなど、あさましいことこの上ない。しかし、そうした富裕層から搾り取れるだけ搾り取ろうとするスタンには共感できるし、やりすぎたスタンが破滅していく様も理解できる。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220407225131j:plain



ネガティブ・サイド

あまりにも予想通り過ぎる展開。冒頭で正体不明の死体を家ごと焼失させるシーンから、ハッピーエンドには決してならないことが分かる(原作小説の作者はカトリーヌ・アルレーではないので)。では、どんなバッドエンドを迎えるのかと想像するわけだが、これもすぐにピンとくる。ある意味でトレイラーですべてネタバレしている作品だろう。

 

スタンが金に執着する背景が不透明だ。もちろん人間だれしもカネへの欲求はあってしかるべきだが、そのあたりの描写が不足している。もう少し父親との関係(の悪さ)を匂わす描写があれば、ウィレム・デフォーやロン・パールマンらのキャラクターとの絡みに深みが出ただろう。

 

トニ・コレットにもう少し見せ場が欲しかったと思う。

 

総評

『 シェイプ・オブ・ウォーター 』のモンスターと同じく、恐ろしく思える存在も実はそうではない、というところがギレルモ・デル・トロらしいと言えばらしい。CG全盛の今という時代でも、大道具や小道具、衣装その他も、デル・トロらしい力の入れようである。サスペンスとしては、まあまあ面白い。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

mentalist

読心術の使い手、の意。DaiGoのようなアホではなく、サイモン・ベーカー主演のテレビドラマ『 メンタリスト 』を観る方が、この言葉の意味がより正確に把握できるだろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, クライムドラマ, ケイト・ブランシェット, トニ・コレット, ノワール, ブラッドリー・クーパー, ルーニー・マーラ, 監督:ギレルモ・デル・トロ, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 ナイトメア・アリー 』 -A Twist of Fate-

『 500ページの夢の束 』 -自閉症少女の旅立ち-

Posted on 2019年9月2日 by cool-jupiter

500ページの夢の束 65点
2019年8月27日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ダコタ・ファニング トニ・コレット
監督:ベン・リューイン

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原題は“Please Stand By”、「スタンバイ願います」の意である。テレビおよび映画のスター・トレックでしばしば使われる表現である。Jovianの父およびJovianの同僚のイングランド人はコテコテのトレッキーであるが、JovianはStar Warsおfanboyである。そしてエル・ファニングのファンでもある。ならば、その姉のファンになっても良いではないか。

 

あらすじ

ウェンディ(ダコタ・ファニング)は自閉症の女子。周囲の人間や家族とすらも、時にコミュニケーションが難しくなるが、スター・トレックのハードコアなファンで、その知識の量と正確さは他のナード連中を圧倒する。ある時、パラマウント・ピクチャーズがスター・トレックの脚本コンテストを開催していると知り、自分でも応募を試みるが・・・

 

ポジティブ・サイド

自閉症の方が知り合いや身内におられるだろうか。Jovianのいとこに一人いる。とにかく数学の才能に優れ、楽器をすぐにマスターし、一度のめり込んだら何時間でも絵を描き続ける。しかし、正月やお盆に親戚が一堂に会してご飯を食べたり、結婚式や葬式の食事などでも他人を待つ、皆と同じタイミングで食べ始めるということができない。また話しがかみ合わない。というよりも、言葉の裏の意味が読み取れない。そんな自閉症の症状をダコタ・ファニングは見事に描き切った。

 

トニ・コレットも毎度のことながら良い仕事をしている。『 シックス・センス 』から『 ヘレディタリー/継承 』に至るまで、苦悩する母親といえばトニ・コレットなのである。いや、実際は姉ソーシャルワーカーにしてカウンセラーなのだが、精神的な意味での母親だと呼んで差し支えないだろう。『 セッションズ 』でもそうだったが、ベン・リューイン監督は社会からcast outされがちな人々に光を当てることに長けている。人間がサルからヒトになったと判断できる基準は様々にあるだろうが、セックスが子作りではなく愛情表現、さらに濃密なコミュニケーションになっているかどうかであると思う。『 セッションズ 』からはそれを学んだ。愛情があるからセックスするのではなく、セックスから生まれる愛情もある。陳腐ではあるが、障がい者を通じてこそ見えてくるものもある。

 

Back on track. スター・トレックは『 スター・ウォーズ 』と並んでクレイジーなファンが多いことで知られている。そのクレイジネスを活かした脚本がここに出来上がった。人は愛するものと一体化したいという欲望を持つ。スター・トレックの製作者たちはそのことをよく知っている。実際には彼ら彼女らは脚本の一般公募をしているからだ。だからこそ、本作にはリアリティがある。『 ファンボーイズ 』は死ぬ前にスター・ウォーズの新作を観たいという欲望、いや本能を満たすためのストーリーで、言ってみれば自慰行為だ。しかし、本作は愛情表現。そこが違う。500ページの夢の束は、500ページのラブレターなのである。

 

ウェンディの旅路を是非とも見届けて欲しい。

 

ネガティブ・サイド

ウェンディが「渡ってはいけない」とされていた道路を、割とあっさりと渡ってしまうシーンには少し萎えた。ルーティンに従うことで心の安定を保てる自閉症者が、いくら大好きなスター・トレックのためとはいえ、そこまで簡単に自分のルールを変えられるだろうか。このあたりにもう少し逡巡する描写が欲しかった。

 

ウェンディにクイズで挑んでいた連中は、何だったのか。ただの引き立て役か。こういう奴らこそがウェンディの旅の役に立たなくてどうする?またはウェンディ捜索に人肌脱がなくてどうする?はたから見れば変人のウェンディにも、家族やチワワ以外の誰かがいるのだということを見せて欲しかった。自閉症者はコミュニケーション能力に欠けていても、その他の能力が一般人のそれを凌駕していることが多い。そのことが他人を遠ざける原因になることもあるし、逆に他人を引きつける要因になることもありうる。実際にバイト仲間のトニー・レヴォロリはウェンディにロマンティックな意味での好意を抱いている。そうでなくとも、趣味嗜好を同じくする者同士の連帯感を描いてくれても良かったのではなかろうか。ローン・ガンメンみたいな奴らとして、彼らが登場してくれるのを期待していたのだ。

 

総評

静かな、しかし確実に長く残る余韻をもたらす映画である。トレッキーではなくても楽しめるし、逆にスター・トレックの知識が無いほうが、純粋に物語を鑑賞できるかもしれない。自分ではよく分からないけれど、他人が夢中になっているものに、人は興味を抱くものだから。ウェンディという一人の少女の旅立ちの先に、「未知との遭遇」が待っているかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Do you know who I am?

「私が誰だか知っていますか?」の意である。つまり、端的に言って名前を知っているか?と尋ねているわけである。英語学習の中級者ぐらいでも、“Do you know me?”と言ってしまう人がたくさんいるが、これは「私がどんな人間か分かってくれてるよね?」、「俺ってやつのこと、ちゃんと理解してくれてるだろ?」のような意味である。“Listen to me.”が「私を聞け」ではなく「私の言うことを聞いて」という意味だということの類推で理解しよう。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アメリカ, ダコタ・ファニング, トニ・コレット, ヒューマンドラマ, 監督:ベン・リューイン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 500ページの夢の束 』 -自閉症少女の旅立ち-

『 ヘレディタリー/継承 』 -ホラーではなくスーパーナチュラル・スリラーに分類すべき-

Posted on 2018年12月14日2019年11月30日 by cool-jupiter

ヘレディタリー/継承 50点
2018年12月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:トニ・コレット アレックス・ウルフ ミリー・シャピロ アン・ダウド ガブリエル・バーン
監督:アリ・アスター

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181214032146j:plain

 

heredityという言葉がある。遺伝という意味で、よりなじみ深い英単語ならinheritが挙げられるだろう。ityがつくことで、性質や状態を意味する。身近な例としては、abilityやunity、facilityがある。これにさらに、aryをつけると、場所や範囲、領域を意味するようになる。好個の一例がdictionaryだろう。dictについては、predictやcontradictから類推は容易だ。原題も”Hereditary”であることから、誰かが何かを受け継いでいることを指すのは一目瞭然なのだが、誰かとは誰か、何かとは何であるのかを理解するのは一筋縄ではいかなかった。

 

あらすじ

その一家は祖母を亡くした。その娘のアニー(トニ・コレット)は母には複雑な感情を抱いていながらも、仕事のミニチュア・ハウス作りに没頭する。息子のピーター(アレックス・ウルフ)と娘のチャーリー(ミリー・シャピロ)も日常に回帰しようとするが、名状しがたい異様な空気を一家は振り払うことができず、ある夜、悲劇が発生してしまう・・・

 

ポジティブ・サイド

非常に珍しい Establishing Shot から始まる映画である。ミニチュアのドールハウスを映したかと思えば、その部屋の一つにどんどんズームインしていく。それがピーターの寝室とぴたりと重なるところで、父がピーターを実際に起こしに来る。のっけから唸らされた。今からあなたが観るのは、全て誰かが組み立てた話なのですよ、とあけっぴろげに語られたような気がしたからだ。そして、実際にその通りなのである。

 

何と言ってもチャーリーを演じたミリー・シャピロに拍手を送りたい。強面のジェイソン・クラークをそのまま性転換させ幼児化させたようで、メイクの力もあるだろうが、尋常ならざる雰囲気を見た目だけで醸し出している。天才肌のグレイス・マッケナとは一味違う、一種異様な空気を纏うことができる子役だ。『 エクソシスト 』のリンダ・ブレアのようなキャリアを歩まないことを切に願う。

 

アメリカのメジャーな映画の母親役はトニ・コレットかアリソン・ジャネイとでも決まっているのだろうか。ほんの少し前まで、邦画のきれいなおばあちゃんは吉永小百合、ちょっとエキセントリックなおばあちゃんは樹木希林だったように。本作では主演だけではなく製作総指揮も務めたとのことだが、おそらく鏡の前で相当に顔の筋肉を動かしてから撮影に臨んだに違いない。恐怖の演出のための表情が、コメディ一歩手前にまで到達してしまっている。トニ・コレットでなければギャグになってしまうところを、その存在感と卓抜した演技力で見事に場面を締め付けている。

 

顔芸ではピーターも負けてはいない。特に運転席のシーンでは、観ているこちらも冷や汗をかくというか、脂汗をかくというか、バックミラーを見て後ろを確認すると、そこには!という演出は、おそらく『 ジュラシック・パーク 』で一気にスパークし、今やクリシェと化したが、今作はバックミラーを覗きこみたくても覗きこめないという演出で観る者の不安と恐怖を掻き立てた。残念なのは、恐怖の描写ではこのシーンがピークだったことか。

 

ネガティブ・サイド

ホラーとは何か、については実に興味深い議論がある。Cinemassacreの二人(James RolfeとMike Matei)による Is it horror? という動画がある。議論の冒頭で“Horror is something that’s always changing and adapting to the state of the world”=「ホラーは常に変化して、世界の状態に適応していくもの」という指摘がなされるが、これは正しい。そして、その議論を援用するならば、ホラーの定義は地域によって異なってもよいはずだ。極めて日本的なバックグラウンドを持つ人が、この映画から感じ取る恐怖とは、視覚的な恐怖や聴覚的な恐怖であったり、家族の崩壊の恐怖であったりで、宗教的・哲学的な意味での恐怖を感じ取る人がいたとすれば、相当に鋭い感受性か、もしくは類まれな知識と教養の持ち主と思われる。この映画から後者の意味での恐怖を受けるとすれば、それは西洋文明に相当明るい人のはずだ。Jovianは平均よりも上の知識をその方面に有していると自負しているが、正直なところ、家族の崩壊以上の意味を感じ取ることは難しかった。最後の最後の場面で諸々の伏線、前振りが回収されていく様は見事であったが、それはホラーといよりもサスペンスやスリラーであるように感じられた。

 

ホラー=恐怖とは、理不尽なもの、理屈が通じない状況から生まれるものだろう。しかし、本作の悲劇の始まりは、チャーリーがある行動を取ったから、という実に他愛のないものだった。隠す意味もないのだが、その行動とは「ケーキを食べる」である。もう、これだけでホラーの要素が薄まってしまうだろう。もちろん、その後の悲劇は本当に悲劇としか言いようがないのだが、その過程で観る者が感じるのはサスペンスであってホラーではない。これは西洋人であろうと東洋人であろうと同じだと考えられる。

 

本作は『 ローズマリーの赤ちゃん 』になろうとして、しかし『 タロス・ザ・マミー/呪いの封印 』になってしまった、と言えば通じるだろうか。誰がどう見ても怖い作品を作ろうとして、謎解き要素が強めの作品が出来上がったという感じである。同工異曲でもっと怖い作品を観たいという人は、『 ウィッチ 』を観よう。色々と腑に落ちた点をしっかりと頭に叩き込んでもう一度劇場に向かえば異なる感想を持つ可能性は高いが、残念ながらその予定はない。

 

総評

おそらく評価が真っ二つに分かれる作品である。恐ろしさを感じる人は感じるだろうし、スリルやサスペンス、またはミステリー要素を感じ取る人も相当数いると思われる。ホラーというものは常に現実に即しながら、必ず現実をはみ出た部分を持っている。どの方向にどの程度はみ出るかによって、どのような人にどの程度の恐怖感を催させるかが決定されるわけだ。そうした意味では、観る人を選ぶ作品である。もしもトニ・コレットのファンならば、即、劇場へGO!! である。イヤミス好きという人にもお勧めできる。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, トニ・コレット, ホラー, 監督:アリ・アスター, 配給会社:ファントム・フィルムLeave a Comment on 『 ヘレディタリー/継承 』 -ホラーではなくスーパーナチュラル・スリラーに分類すべき-

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