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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: グレン・クローズ

『 アガサ・クリスティー ねじれた家 』 -トリックを見破ろうとすべからず-

Posted on 2019年5月2日 by cool-jupiter

アガサ・クリスティー ねじれた家 50点
2019年5月1日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:グレン・クローズ マックス・アイアンズ
監督:ジル・パケ=ブレネール

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190502021507j:plain

グレン・クローズが『 天才作家の妻 40年目の真実 』と同じく、マックス・アイアンズと共演。アガサ・クリスティが自身の最高傑作と公言して憚らない作品が満を持して映画化された。ケネス・ブラナーとは全く異なるアプローチで作られた本作はどうか。条件付きで佳作である。

 

あらすじ

大富豪レオニデスが急死した。しかし、殺人の疑いありとして、レオニデスの孫娘にして、元恋人のソフィアから私立探偵チャールズのもとに調査の依頼が来る。調査を始めたチャールズは、一族の誰もがレオニデスの遺産を狙う動機があることを知る。そうした中、第二の殺人事件までもが勃発し・・・

 

ポジティブ・サイド

グレン・クローズ演じる大叔母イーディスを始め、俳優陣は誰も彼もが良い味を出している。つまり、疑わしいということである。特に姉ソフィアとチャールズに肉体関係があったかを執拗に尋ねるユースタスは良かった。また期するところありげに、チャールズを誘惑するかのような素振りを見せるそのソフィアも、チャールズを華麗に振り回す。彼女も良い仕事をした。

 

ギリシャからの移民が裸一貫から億万長者に成り上がり、そして死去する様をテレビ放送で伝える冒頭のシークエンスも素晴らしい。これのおかげで、一気に作品世界に入って行くことができた。まさに自分がそのニュースを視聴しているかのような気持ちになれたからだ。

 

一族の中で愛憎入り混じった人間模様が展開される作品は星の数ほど生産されてきているが、そうしたジャンルの嚆矢の一つは間違いなく本作であろう。アガサ・クリスティと言えば、『 オリエント急行殺人事件 』や『 アクロイド殺し 』、『 ゼロ時間へ 』などで、数々のミステリの常識を打ち破ってきた先駆者。本作も、ミステリに不慣れな読者や映画ファンを驚かせるには充分であろう。

 

ネガティブ・サイド

ミステリは時代と共にその性質を大きく変える。ここで言う性質とは、キャラクターの性質、トリックの性質、そして叙述の性質(叙述トリックという意味ではない)である。ミステリにおけるキャラクターとは、まず第一に死体である。死体=ミステリであると言い切ってもよい。ミステリは人間の命を実に粗末に扱うものなのである。トリックの性質は、技術や知識の進歩に常に影響される。このあたりが突き抜けたSFやファンタジーと、ミステリとの違いである。叙述の性質なのだが、これが難しい。基本的に現代のミステリにおいては、状況が重視され、キャラクターの証言は絶対視はされない。しかし、日本でも横溝正史や松本清張の時代までは、キャラクターの記憶に基づく証言は絶対の価値を有していたのである。アガサ・クリスティ時代も同様で、だからこそ本作は光っている(光っていた?)とも言えるし、逆に忠実に映画化する意味はなかったとも言える。あまり細かく不満を述べてしまうとネタばれになってしまうのだが、この時代のミステリのキャラクタが探偵に向かって喋ることはだいたい真実だと考えて良い。ということは・・・ 本作を換骨奪胎したものを現代風に作り変えてしまうという選択肢はなかったか。

 

本作に登場するスコットランドヤードはすこぶる無能である。なぜそこでそのような判断や行動を選んでしまうのか、理解に苦しむことがある。もちろん、現代の目で見て、あるいはミステリに慣れた目で見てそう感じることなのであるが。共産主義云々の要素はバッサリと削り落して、屋敷内の人間関係をもっと映し出すことを選ぶべきだった。

 

本作はハウダニットを敢えて追及しない。フーダニットにとことん焦点を当てる。個人的には原作のそのトーンを映画に持ってきたのは失敗であると考える。すれっからしの人からすれば、犯人(というかホワイダニット)はすぐに分かってしまう。やはり、原作をベースに現代劇に作り変えるべきだった。そう思うのである。

 

総評

英国ミステリのみならず、世界のミステリの新たな境地を切り開いた巨人アガサ・クリスティの作品を映像化するなら、もっと別の作品が良かったのではないか。個人的には『 そして誰もいなくなった 』を現代風にアレンジし直した作品が観てみたい。ちなみにこのトリックは、映画化もされた『 インシテミル 』やゲームの『 かまいたちの夜 』でも再利用がされている。日本のミステリで言えば、赤川次郎の『 マリオネットの罠 』もしくは谺健二の『 未明の悪夢 』の映像化も観てみたい。何が言いたいかというと、ミステリファンであれば敬遠すべき映画である、ということである。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190502021625j:plain

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, イギリス, グレン・クローズ, マックス・アイアンズ, ミステリ, 監督:ジル・パケ=ブレネール, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『 アガサ・クリスティー ねじれた家 』 -トリックを見破ろうとすべからず-

『 天才作家の妻 40年目の真実 』 -邦題がアウトだが、観る価値はあり-

Posted on 2019年3月4日2020年1月3日 by cool-jupiter

天才作家の妻 40年目の真実 70点
2019年2月24日 大阪ステーションシネマにて鑑賞
出演:グレン・クローズ ジョナサン・プライス クリスチャン・スレイター
監督:ビョルン・ルンゲ

邦題が良くない。原題が“The Wife”なのだから、そのまま『 妻 』または『 作家の妻 』で良かった。40年目の真実というのも微妙な副題だ。40年間の真実というのが、より正しいのかもしれないが、この部分もそもそも蛇足なのだ。こうした微妙な邦題問題というのは、マーケティングのためには避けて通れない。それでも、稀に『 判決、ふたつの希望 』のような大傑作もあるのだから、Don’t judge a film by its title.

 

あらすじ

ジョセフ・キャッスルマン(ジョナサン・プライス)はノーベル文学賞を受賞することとなった。糟糠の妻、ジョーン(グレン・クローズ)と息子にして作家志望のデビッドと共にスウェーデンのストックホルムに向かう。しかし、そこにはジョセフの作品は別人の手によるものと訝しむ記者兼作家のナサニエル・ボーン(クリスチャン・スレイター)もおり・・・

 

ポジティブ・サイド

グレン・クローズによる渾身の演技。これに尽きる。元々、『 危険な情事 』から『 セブン・シスターズ 』まで、怖い女性を演じさせれば右に出る者はいない人だったが、本作では二重性、二面性のあるキャラクターを見事に演じ切った。女性が能力を認められない時代に、学問を学び、文芸作品を執筆することの労苦が、彼女ではなく別のキャラクターの口から語られるシーンがあるが、これは秀逸であった。似たような表現として、『 マネーボール 』でブラッド・ピット演じるビリー・ビーンがバットを放り投げるシーンがあったが、それと共通している。映画とは絵で魅せるものでもあるが、音で魅せるものでもあるのだ。

世界の名言、格言では結婚に関するものが特に多いが、それはおそらく結婚という制度の普遍性に比べて、夫婦の在り様というものが余りにも多様性に富んでいるからだろう。Jovian自身、以前に信販会社のセキュリティ関連部門勤めの頃に、財布ごとカードを紛失した女性の応対時に「ご主人の・・・」と言ったところで『この家の主人は私です!この人は私の稼ぎでカードを持ってるんです!』と相手を激怒させてしまったことがある。ことほど左様に、夫婦というのはステレオタイプどおりではないし、それを外から見分けることは難しい。職場では威厳を保っている男性が、家の中では妻に頭が上がらないという構図もステレオタイプではあるが、そんな人は多いはずだ。ジョセフとジョーンのカップルは、ノーベル文学賞の受賞決定を機に、成功した夫とそれを支える妻という典型的な枠に押し込まれるが、そうすることで初めてジョーンは自分という存在の形を知る。この見せ方も秀逸である。ジョセフに自分への謝辞を述べないように迫るジョーンの心情はいかばかりか。そして、ジョセフのスピーチを聞いた時のジョーンの反応に、あなたは何を思うだろうか。

Jovianは本作を妻と共に観たが、妻は感心することしきりであった。曰く、「いやあ、女性の心情をしっかり捉えられてるよ」とのことだった。『 プラダを着た悪魔 』のアンドレアとは対照的に、女性が何かを掴み取れることそのものを否定する時代や職業が存在したということに、妻は本気で憤っていた。

あまりここに妻の意見を書くと後でJovianが説教を食らってしまうのだが、本作が気になるという男性諸氏は、ぜひ奥様やパートナーと共に観よう。熟年離婚がトレンドから一般的な事象にまで成り下がり、日本全体でも離婚率が30%というこの時代に、本作は健全な夫婦喧嘩および人間の情念の深さとそれを上回るかのような慈愛も見せてくれる。『 追想 』にはサスペンスが不足していたが、本作はそこにサスペンスだけではなくミステリ、ロマンス、さらには父親殺し的なテーマまで加えてくれた。小説の映画化としてはこちらの方が面白いと感じた。

 

ネガティブ・サイド

もしかすると『 シン・ゴジラ 』を上回るかもしれない超高速会話劇である。そのことが下手なアクション映画のカーチェイスや銃撃戦よりも、よほど手に汗握る展開なのであるが、こちらの理解が少々追いつかないところや、唐突に始まり、唐突に終わる言い争いも少なからずある。このあたりは観る者によって評価がかなり割れそうだ。もしかすると『 レディ・バード 』以上の唐突会話劇であると見ることすら可能かもしれない。大学生以上でないと、この緊迫感は掴めないのではないだろうか。

個人的には息子の存在とそのサブ・プロットがノイズになっているように思えた。もちろん、彼の存在によって新たなドラマが生み出され、今あるドラマがよりドラマチックになるという作用もあるが、ジョーンという女性のキャラクターから母という要素を剥ぎ取ってもよかったのではないだろうか。そうすることによって、浮気大好きで、なおかつ嫉妬深い夫の心を「記者と何をやっていたんだ」とより強くかき乱すことができたのではないだろうか。老いたりといえども、女性としの色香をジョーンが残していることは、冒頭のベッドシーンでも明らかだったのだ。『エル ELLE 』のイザベル・ユペールが頑張れたのなら、グレン・クローズもまだまだやれる、というのは望み過ぎだろうか。

 

総評

ノーベル賞の舞台裏を垣間見ることができるという点で非常にユニークである。しかし、そのせいでジョスリン・ベル・バーネルのような素晴らしい科学者も、家庭ではどんな陰物なのだろうかと勘繰ってしまうようになるという副作用がある。元々、結婚などというのは乱暴極まりない制度なのである。夫婦という関係以上にサスペンスフルなものはこの世にはないのかもしれない。夫役のジョナサン・プライスも息の長い俳優。彼の出演作で最もサスペンスフルでミステリ要素もあるものとして『 摩天楼を夢みて 』がある。ケビン・スペイシーやアル・パチーノらの名優揃い踏みの佳作なので、サスペンスに興味のある向きは是非どうぞ。

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, イギリス, グレン・クローズ, サスペンス, スウェーデン, 監督:ビョルン・ルンゲ, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 天才作家の妻 40年目の真実 』 -邦題がアウトだが、観る価値はあり-

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