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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: イ・ヨンエ

『 ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 』 -韓国社会の闇と、そこに差し込む一条の光-

Posted on 2020年9月21日2021年2月23日 by cool-jupiter

ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 75点
2020年9月20日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:イ・ヨンエ ユ・ジェミョン
監督:キム・スンウ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200921200519j:plain
 

『 人数の町 』の序盤、日本社会の闇を表す統計が次々に表示されて、我々は日本社会の闇の部分をファンタジー形式で見せつけられた。一方で本作は韓国社会の闇の部分をリアリズムを以って描き出してきた。はっきり言って滅茶苦茶もいいところなのだが、その荒唐無稽なストーリーを最後まで緊迫感あふれる展開でまとめたのは見事としか言いようがない。

 

あらすじ

看護師のジョンヨン(イ・ヨンエ)は6年前に7歳の息子が行方不明になってしまった。以来、夫と共に息子を探し回っていたが、ある時、夫が交通事故で死亡してしまう。憔悴するジョンヨンの元に息子ユンスに似た子どもを釣り場で見たとの情報が寄せられる。その子は息子ユンスなのか、そしてジョンヨンはユンスを救い出せるのか・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200921200544j:plain
 

ポジティブ・サイド

恐ろしいまでに救いがないストーリーである。韓国は善人1、悪人9か、それ以上に悪人だらけの社会なのかと思わされてしまう。日本の出生率も超低水準でほぼ横ばいだが、お隣の韓国では何と1.0を割っている。日本も子どもに優しくない社会だとしばしば指摘されるが、あちらは輪をかけて酷いらしい。子どもを救い出す話でありながら、子どものいたずらで序盤早々にジョンヨンの夫は死亡してしまう。最初は『 アジョシ 』のマンソン兄弟率いる犯罪集団からの誘導メールかと思ったが、これが子どものいたずらということで、観る側は一気にやり場のない感情に襲われる。そして、その感情の矛先を向ける相手を求めてしまう。何と残酷で、しかし効果的な導入部であることか。脚本も書いたキム・スンウ監督はこれが長編商業映画のデビュー作というから驚きである。全編に不吉で不穏な空気が充満し、どのような事件が起きてもおかしくないという、ただならぬ雰囲気がどこまでも持続する。早くもナ・ホンジン2世が現れたのか。

 

そのような中で孤軍奮闘するイ・ヨンエの気高さと必死さ、慈しみと憎しみを同居させた圧倒的な存在感と演技力は、『 親切なクムジャさん 』から14年ものブランクがあったとは到底思えない。親が我が子に対して持つ執念とも言うべき愛情を全身で体現してくれた。『 母なる証明 』のキム・ヘジャ、『 悪の偶像 』のソル・ギョングに次ぐ、狂気にも近い親の情念を感じ取ることができる。オープニングで泥だらけの浜辺を呆然自失して力なく歩く姿に、いったい彼女の身に何が起きたのかと思わされ、後は一気の展開に引き込まれるのみ。

 

ラストで彼女が見せる表情の複雑さは筆舌に尽くしがたいものがある。同じ感想を抱いてしまうが、『 MOTHER マザー 』の長澤まさみ、『 人魚の眠る家 』の篠原涼子、『 ハナレイ・ベイ 』の吉田羊に、このような表情を見せてほしかったのだ。感情を表情に表すのは容易い。そして、感情を観る側に伝えるのは役者の仕事の第一である。だが、役者が観る側に感情を想起させるような表情を見せるというのは、似て非なることだろう。『 殺人の追憶 』のラストのソン・ガンホの表情にも通じるが、イ・ヨンエのその表情の中に宿る感情が歓喜なのか落胆なのか。そのどちらとも受け取れるし、どちらとも決めかねる。要は、あなたは希望を見出せますか?と我々が問われているのである。

 

このイ・ヨンエを取り巻くのが、ほとんど全員悪人である。なんと親族までが味方ではないのだ。現場となるマンソン釣り場のファミリーも曲者ぞろい。常識人に見えた男も、一皮むけば身勝手な前科者に過ぎない。そして児童を身体的にも精神的にも性的にも虐待しているとしか思えない不気味な肥満男に、母親面して子どもに苛烈に接する女性たち。このような絶対的なアウェーでジョンヨンが対峙するホン警長は、なんと『 エンドレス 繰り返される悪夢 』のタクシー運転手カンシクではないか。韓国の警察というのは汚職警官か、さもなくば無能警官しかいないのかと映画を観るたびに思うが、ユ・ジェミョンは汚職警察官にして性根まで腐った人間を怪演した。ギャグになる一歩手前のテンションの高さでジョンヨンを追跡するホン警長は、まさにホラー映画的である。そして、このモンスターの死に様も凄絶の一語。海とは母であり、母とは海なのだ。

 

徹頭徹尾、救いのない物語であるが、人生にはどこかで光明が差し込んでくるもの。だからこそ決してあきらめてはいけないのだというメッセージは確かに伝わって来る。親ならずとも大人であれば、本作のメッセージの重みは理解できるはずだ。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200921200608j:plain
 

ネガティブ・サイド

序盤に顔見せ程度にしか出てこないスンヒョン君とは何だったのか。もちろん、自分自身も親に捨てられ、養子として大きくなったバックグラウンドを持つという点は大きな意味を持っているし、物語の行く末を暗示もしている。だが、ジョンヨンの危機に駆けつけることもないし、エンディングで再登場するわけでもない。もっとこのキャラを有効活用する方法はあったはずである(ホン警長に立ち向かって激闘の末に殺される、または釣り場のファミリーに嬲り殺しにされるetc)。同じことは義理の弟夫婦にも言える。

 

ホン警長の部下であり警察官としての良心を持った警察官もいるが、この男もタレコミだけしてお役御免。そんな馬鹿な・・・ やはりマンソク釣り場に駆けつけて、警察官としての職務を果たして華々しく殉職すべきだった。

 

ユンスには様々な身体的特徴があり、その一つに副爪があるのだが、これが遺伝性なのか、それとも爪の手入れが悪いため、あるいは靴の問題など後天的にそうなったのかの説明や描写がなかった。遺伝性であれば遺伝する。後天的なものであれば、靴や爪切りの方法を変えれば治る可能性がある。父親か、または母親ジョンヨンの足の小指の爪に関する何らかのショット、または台詞が必要だったのではないだろうか。

 

総評

社会の闇の部分、そして人間の闇の部分をこれでもかと見せつけられる。観終わった頃には、観客の精神はズタボロである。それはサスペンスが持続したからではない。自分の心の中に、マンソン釣り場のファミリーのような考え方や感じ方が宿っていることを思い知らされるからである。だが、そんな人間社会であっても希望は捨ててはいけない。明けない夜はない。ほんのわずかではあるが、しかし確実にそう感じさせてくる。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ミアネ

「ごめんね」の意味。『 国家が破産する日 』でも紹介した表現。ていねいな言い方ではミアナンミダ=ごめんなさい、となる。英語でもThank you. と Sorry / Excuse me. を適宜に使えれば何とかなるように、韓国語でもコマウォ=「ありがとう」とミアネ=「ごめんね」で何とかコミュニケーションは取れるはずである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イ・ヨンエ, サスペンス, ユ・ジェミョン, 監督:キム・スンウ, 配給会社:ザジフィルムズ, 配給会社:マクザム, 韓国Leave a Comment on 『 ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 』 -韓国社会の闇と、そこに差し込む一条の光-

『 親切なクムジャさん 』 -イ・ヨンエの復讐劇に戦慄せよ-

Posted on 2020年9月19日 by cool-jupiter

親切なクムジャさん 70点
2020年9月17日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:イ・ヨンエ チェ・ミンシク オ・ダルス
監督:パク・チャヌク

 

Jovianの教えている大学の女子大生たちが『 愛の不時着 』に夢中になっている。だが彼女らは知らないだろう。自分たちが生まれた頃、あるいは直後ぐらいに放送された『 冬のソナタ 』や『 宮廷女官チャングムの誓い 』は、自分たちの親世代を熱狂させていたことを。特に前者のペ・ヨンジュンはマダムを、後者のイ・ヨンエはオッサンの心を鷲掴みにしていた。当時20代だったJovianもイ・ヨンエの虜になったものだ。そのイ・ヨンエの新作が間もなく公開される。復讐・・・ではなく復習のために本作をレンタル。

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あらすじ

誘拐と殺人の罪で服役するクムジャ(イ・ヨンエ)だったが、彼女は無実だった。13年の刑務所暮らしの中で囚人仲間に数々の親切を施すクムジャだったが、それはシャバに出た時に真犯人に復讐するための仲間作りのためだった。そして彼女の復讐劇が幕を開ける・・・

 

ポジティブ・サイド

どうしてもチャングムのイメージが強いが、あのドラマでも少女の天真爛漫さ、放逐されて途方に暮れる表情、医女となる決意を固めた顔、王や長年相思相愛だった文官とのロマンスで見せる艶のある顔など、イ・ヨンエの演技力の幅はすでに証明されていた。しかし、『 オールド・ボーイ 』のパク・チャヌク監督は、そんなイ・ヨンエの内からダークサイドを引きずり出した。復讐を果たさんとするクムジャの怒りと悲しみに満ちた苦悶の表情は、アカデミー賞級ではないか。『 MOTHER マザー 』のラストでは長澤まさみにこのような表情を見せてほしかったのだ。鬼子母神がいるとすれば、それはイ・ヨンエのような表情を見せる狂乱の母であろう。また、ホラー映画かと見紛うほどの顔面崩壊劇を見せており、美貌も何もかも吹っ飛ばしている。『 ディストラクション・ベイビーズ 』の柳楽優弥のボコボコの顔をイ・ヨンエが再現したと言ったら、その衝撃と恐怖が伝わるだろうか。とにかく本作はイ・ヨンエの表情だけでご飯が3杯はいけるのである。

 

脇を固める復讐仲間も味わい深い。刑務所と言えば『 ショーシャンクの空に 』や『 ブラッド・スローン 』のように、良くも悪くも濃密な人間関係が生まれるところである。中には殺人者だったいるわけで、そうした者たちとの交流と友情は、単なる友人関係を超えて戦友の域にあるのだろう。パク・チャヌク演じる教師に復讐するために、そこまでやるかと思う仕込みがある。普通に考えれば成立しないプロットだが、刑務所あがりならありえるかもしれないと思わせるパワーがあった。『 ショーシャンクの空に 』のアンディとレッドの抱擁がどんな男女のロマンスよりもセクシーかつ崇高に見えたように、特別な人間関係は刑務所で生まれるのかもしれない。

 

復讐のために生きる。その姿は時に神々しいまでに美しいが、復讐を果たした時にその輝きがどうなるのかは誰にも分からないだろう。『 アジョシ 』でも、ソミが殺されたと思い込んでいたテシクは、組織に復讐を果たした後、自らの頭を銃で撃とうとした。復讐は生きる理由になるが、逆に言えば死ぬ理由にもなる。親切なクムジャさんが最後に見せる表情とは何か。そして我々はその表情を見られるのか。その答えは是非、自分の目でお確かめを。

 

ネガティブ・サイド

凄惨な暴力シーンもあるが、『 オールド・ボーイ 』が凄すぎたこともあり、今一つ衝撃的には感じなかった。SBホークスの柳田みたいだ。超弾丸軌道の特大ホームランをコンスタントにかっ飛ばすせいで、普通にスタンドに入るだけのホームランでは客は満足しない。

 

クムジャの有罪を確信しきれない刑事が少々無能すぎやしないか。『 暗数殺人 』のように、大人絡みの事件なら、事件が表面化せず、結果的に暗数犯罪になってしまうこともあるだろうが、子どもばかりを狙う誘拐犯という線で捜査をしていけば、チェ・ミンシクには割とすぐにたどり着けたのではないか。

 

また復讐の女神としてのイ・ヨンエが終盤で少々ぶれる。刑務所仲間は良いとしても、その他のキャラクターにも登場してもらうのは、物語的にはノイズになっていた。いっそのことキム・ヘジャとは一味違った『 母なる証明 』を追求してほしかったと思う。協力者はいても、ミッションの最も肝の部分は自分が達成するのだという気概が弱かったように感じた。

 

総評

韓国映画お得意の復讐物語としては標準以上の面白さ。イ・ヨンエの演技力の幅を存分に堪能することができる。日本でもバイオレンス物はそれなりに作られているが、血の臭いが漂ってくるもの、見ているこちらまで痛みを感じてしまうもの、キャラクターの放つ瘴気に精神を摩耗させられるものとなると、韓国映画には残念ながら敵わない。『 ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 』が待ち遠しくなるし、イ・ヨンエの銀幕への復帰が、ウォンビンに良い刺激を与えてくれるのでは、との期待も生まれる。

 

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

クロニカ

だから、の意。『 新感染 ファイナル・エクスプレス 』でも紹介した表現。慣れてくれば、「クロニカ、オーケー(OK)」とか「クロニカ、カジャ」のように、すでに知っている表現を組み合わせて使ってみるのもよいだろう。

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