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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: イ・ソンミン

『 対外秘 』 -毒を食らわば皿まで-

Posted on 2024年12月15日 by cool-jupiter

対外秘 65点
2024年12月13日 kino cinéma 心斎橋にて鑑賞
出演:チョ・ジヌン イ・ソンミン キム・ムヨル
監督:イ・ウォンテ

 

シネマート心斎橋が閉館、その後釜にやって来たkino cinéma 心斎橋の初日ということでチケット購入。座席の座り心地が向上し、なおかつ勾配がついて後ろの座席からの視認性がアップしていた。

あらすじ

釜山出身の政治家ヘウン(チョ・ジヌン)は党の公認を得て国政選挙に出馬しようとするものの、地元のフィクサーであるスンテ(イ・ソンミン)により公認を取り消されてしまう。怒りに燃えるヘウンは無所属で立候補する。そして対外秘である国家事業のプサン再開発プロジェクトの資料の中身を入手。それを使って地元で貸金業を営むヤクザのピルド(キム・ムヨル)を陣営に引き込み・・・

 

ポジティブ・サイド

軍事政権崩壊後、民主化の途上にある韓国、釜山から国会議員を志すヘウン。地元で生まれ、地元で育ち、地元を愛する青年政治家の希望に満ちた表情が、公認を外されたことで恨(はん)の表情に変わっていき、その顔もやがて修羅になっていく。主演のチョ・ジヌンの顔面の演技力には驚かされるばかり

 

『 犯罪都市 PUNISHMENT 』で寡黙ながら常に相手の隙とさらに上の地位を狙う悪訳を演じたキム・ムヨルが、本作でも同レベルの好演を見せる。ベンチャーキャピタルという名目で貸金業を営みながら、同時にモーテルで違法賭博を隠れ蓑にした贈賄も行うという知能犯。もちろん腕っぷしの強さも見せてくれる。ヘウンとスンテの間で揺れ動く心情を言葉ではなく表情だけで描き切ったのも見事。

 

釜山の実力者のスンテは土地開発だけではなく方法にまで介入。殺人すらもいとわぬフィクサーで、投票の操作もなんのその。私利私欲で動く政治と経済への寄生虫。一方でヘウンや自らの子飼いの候補者たちに「国に忠誠を誓え」、「国民に奉仕しろ」と伝える。うそぶいているのか、本気でそう言っているのかを測りかねるところが、このキャラに単なる巨悪に留まらない深みを与えている。

 

虚々実々の裏工作合戦で最後に生き延びるのは誰なのか。鑑賞後の妻の第一声が「ヤクザ、ええ人やん」だった。実際はいい人でもなんでもなく完全なる悪人なのだが、ヘウンやスンテがあまりにもどす黒くなっていくため、そのように錯覚してしまったのだろう。「選挙は広報の総合格闘技」とは某社長の言だが、これを韓国風に言えば「選挙は裏工作の総合格闘技」となるだろうか。韓国の政治系ノワールの新たな佳作である。

 

ネガティブ・サイド

暗黒面に支配されていくヘウンとは対照的に、ヘウンの妻や報道の使命遂行に燃える若き記者など、変わらない面々もいる。彼女たちのその後がどうなったのかを少しで良いので知りたかった。

 

ピルドのVCの事務所はおんぼろビルの3Fあたりではなかったか。そこに車で突っ込んでいくシーンがあるが、空飛ぶ車でも使っていたのだろうか。

 

ドンデン返しの一つがあまりにも荒唐無稽で、驚きはあったものの納得はできなかった。その人物のその後の結末が悲惨極まりなく、そのシーンを映すために復活させたのかと邪推してしまった。

 

総評

我が兵庫県の知事選挙が全国的なスキャンダルとなり、真相の究明も今なお遠い。本作の製作国の韓国でも、大統領による戒厳令は不正選挙の証拠応酬のためというニュースもあった。民主主義の主役は本来は一般大衆。しかし、その一般大衆は実は「収穫」されるだけの存在なのか。本邦が『 決戦は日曜日 』を作る一方で、韓国は本作を作る。自国の暗部をどのような形でさらけ出すのかで民度というものが見えてくるのではないだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ソンベ

先輩の意。学校でも職場でも先輩は大事。しかし「こいつは敵だ」と認識すれば、潰しに行くのが韓国らしい。上司に苦情を寄せたことで部署異動させられたJovianは、この姿勢を他山の石とすべきなのだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 他人は地獄だ 』
『 地獄でも大丈夫 』
『 レッド・ワン 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, イ・ソンミン, キム・ムヨル, クライムドラマ, チョ・ジヌン, 監督:イ・ウォンテ, 配給会社:キノフィルムズ, 韓国Leave a Comment on 『 対外秘 』 -毒を食らわば皿まで-

『 工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 』 -国家の対立と個人の友情-

Posted on 2024年10月22日 by cool-jupiter

工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 85点
2024年10月20日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:ファン・ジョンミン イ・ソンミン
監督:ユン・ジョンビン

シネマート心斎橋に別れを告げるための一本として本作をチョイス。当日券もガンガン売れていて、劇場は満員だった

あらすじ

軍の情報部に所属するパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)は北朝鮮の核開発の実態を探るべく、黒金星というコードネームの工作員として北朝鮮に潜入する。ビジネスマンとして北で活動するパクは、遂に北の外貨獲得の責任者であるリ所長(イ・ソンミン)からコンタクトされ・・・

ポジティブ・サイド

上映開始直前、『 ソウルの春 』の感想を述べあうオッサン二人が後ろの席にいたが、『 殺人女優 』と同じく韓国映画は合う人には合う。その中でも本作は一級品。上映終了直後の劇場内やロビーでも「圧倒された」、「すごい」、「韓国の現代史を勉強せな」という感想が漏れ聞こえてきた。自分の感想も「まるでブライアン・フリーマントルの『 消されかけた男 』の韓国版だな」というものだった。

まず、スパイ映画にありがちな変装や秘密裏の侵入などがほとんどない。『 ミッション:インポッシブル 』シリーズのような派手さは一切ない。しかし、本作が全編にわたって産み出す緊迫感はM:Iシリーズのどれよりも上だと感じた。

まず第一に北の核施設に近づくために、まずは外貨獲得に血眼になっている北朝鮮にビジネスマンとして近づくというアプローチが秀逸。その下準備として、中国産の野菜が北朝鮮産と偽って売られていることをパク自身が当局にリーク。中国にある北朝鮮拠点をまんまと一つ潰してしまう。そして在日の朝鮮総連系のあやしげな男(このキヨハラ・ヒサシにもモデルはいるのだろうか?)とのビジネスもシャットアウト。あくまでも狙いは北朝鮮の中枢。

そして遂に有力者のリ所長に接触することになるが、明らかにその筋の人、早い話がインテリヤクザの雰囲気を漂わせるイ・ソンミン演じるリ所長と、番犬的存在のチョン課長が、当時の(そしておそらく今も)北朝鮮がならず者国家 = rogue nation であることをひしひしと感じさせる。一歩間違えれば命が危うい。のみならず、国家間の緊張がそれ以上の状態に発展してしまう恐れなしとはしない。

そんな中でもパクはビジネスマン然として振る舞い続ける。しかし、テープレコーダーその他の小道具も駆使して諜報活動も行う。この陽気で少し短気なビジネスマンの顔と敏腕のスパイとしての顔を劇中でファン・ジョンミンは見事に使い分けた。北朝鮮側に見せる顔と韓国側(上司)に見せる顔が明らかに違う。つまり北朝鮮側に向けては演技している演技をしていた。ファン・ジョンミンの卓越した演技力なくして、この二重性・二面性は出せなかった。

徐々にリ所長の信頼を得て、奇妙な友情すら育んでいくパク。国は異なれど民族は同じだし、話す言語も同じ。しかし都市部を離れれば北朝鮮の人民はなすすべもなく餓死していくという惨状がある。このシーンは下手なホラー映画よりも遥かに怖かった。リ所長が北の惨状に挙げていた子どもが10ドルで売られるという現実は、奇しくもチェ・ミンシクが『 シュリ 』で涙ながらに訴えたもの。まさに1990年代にニュース23で見ていた北の農村が思い起こされた。

映し出されるのは北のどす黒い現実ばかりではない。南の腐敗した政治にも焦点が当てられる。国政選挙のたびに北が武力挑発し、南の人民の不安をあおることで与党の後押しになるのだという。まるでどこかの島国が北のミサイル発射を支持率アップの道具にしているようではないか。北は北で金王朝を維持したいし、南は南で現体制を維持したい。そのためには仮想敵国、いや現実の敵国が存在し続けることが望ましいという、もはや政治とは何なのか分からなくなってくる現実が、パクにもリ所長にも、そして当然我々にも突きつけられてしまう。

しかし、そんな現実に屈せず危険を冒して最後の冒険に出る二人が奇跡を起こす様は胸が張り裂けんばかりになる。国と国は分断されていても、個人と個人は分かり合える。それは南北朝鮮だけの問題ではなく、あらゆる国と個人が直面しているテーマではないだろうか。

ネガティブ・サイド

リ所長のガッツポーズは、そこら中に間諜がいる北京のホテルでは軽率ではなかっただろうか。辺境の死体置き場にまで監視役がおる国やで。

韓国側のもう一人の工作員のコード・ワンが迂闊というか間抜けすぎではないか。どうやって北に潜伏し続けられていたのか。このコード・ワンはさすがに架空の存在だと思うが、このシーンは滑稽に過ぎた。

総評

なぜ劇場公開当時にリアルタイムで観なかったのかが悔やまれる。同時に、なぜこれほど多くの人がシネマートを訪れていたのかも理解できた。本当は『 サニー 永遠の仲間たち 』が観たかったのだが、こちらも負けず劣らずの大傑作。韓国映画のサスペンスのレベルの高さをあらためて思い知らされた。ファン・ジョンミンはソン・ガンホやソル・ギョングに並んだ、いや超えたと評してもいいのかもしれない。

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

チャングン

将軍のこと。本作では将軍・金正日との対面が一つの山場となっている。また物語の冒頭のニュース映像では、日本でもお馴染みの女性アナウンサーが一瞬だけ映るが、彼女がしばしばチャングンニムと言っていたのを一定以上の世代なら覚えていることだろう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 ぼくのお日さま 』
『 破墓 パミョ 』
『 拳と祈り -袴田巖の生涯- 』

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, イ・ソンミン, サスペンス, ファン・ジョンミン, 歴史, 監督:ユン・ジョンビン, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 』 -国家の対立と個人の友情-

『 目撃者 』 -韓流サスペンスの常道-

Posted on 2021年11月1日 by cool-jupiter

目撃者 65点
2021年10月29日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:イ・ソンミン キム・サンホ クァク・シヤン
監督:チョ・ギュジャン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211101010128j:plain

『 ビースト 』のイ・ソンミンの迫力に気圧されてしまい、もう一度彼を見てみたいと思い、近所のTSUTAYAでレンタル。終盤のプロットに納得がいかないものの、韓国人俳優たちの演技力の高さ、映画人の問題意識の高さが垣間見える一本であった。

 

あらすじ

妻と娘と共に新居のマンションへと移り住んだサラリーマンのサンフン(イ・ソンミン)は、ある夜泥酔した帰宅した。深夜2時、女性の助けを求める声を聴いたサンフンはベランダから殺人現場を目撃してしまう。そして殺人鬼は上を見上げ、サンフンの部屋に明かりがついていることを確認して・・・

 

ポジティブ・サイド

まず大前提として、日本の警察と韓国の警察は違うのだ、ということを認識しておく必要がある。いや、市民の警察に対する信頼度の違いと言うべきか。普通の感覚なら「さっさと110番通報しろ」ということになるが、韓国映画における警察とは無能の象徴である。まったく頼りにならない。そのことが分かっているかどうかで、本作の感想は大きく異なる。本項は、韓国警察=無能という前提に立てる人向けのレビューとなる。

 

まず冒頭のサンフンの仕事っぷりからして小市民である。保険会社の調査員であるが、すべてが事なかれ主義である。こうした姿に「何だこいつは!」と義憤を募らせるか、「ああ、俺も実はこんな風に仕事してるわ」と思えるかで、またもや本作のイメージはがらりと変わる。もちろん、本項は後者向けのレビューである。

 

殺人の現場を目撃してしまう。そして、自分がそれを目撃したということを相手にも知られてしまう。それによって次なるターゲットが自分になってしまう。それは恐怖である。しかし、もっと恐ろしいのは、殺人鬼のターゲットが自分の家族にまで及ぶことだ。本当ならサンフンは妻に告げるべきなのだが、そのこと自体が妻に恐怖を与えるし、また妻がそれによって用心した行動を取っていることが殺人鬼にばれてしまえば、妻や娘に対する危険度が逆に上がってしまう。ここまでのサンフンの苦悩が言葉ではなく、表情と動き、ちょっとした仕草で伝えられる。素晴らしい演技力であり、演出である。そそっかしい人なら、「なにやってんだ、このオッサン」と感じるかもしれないが、本項は visual storytelling を解する人向けである。

 

殺人鬼が神出鬼没で、犯行の動機も何もかもが不明。サンフン以外の目撃者を始末していく。またサンフンとその家族に対してもその毒牙を向けようと動いていく。そこで『 焼肉ドラゴン 』のキム・サンホが人情味あふれる刑事として事件を捜査していく。警察=無能という図式は維持しつつ、そうした組織で奮闘する個人は別。こうしたキャラに感情移入できる中年男性は多いのではないか。この刑事の機転の利いた捜査方法から事態が思わぬ方向へ発展し、無理なくアクションシーンを挿入することにも成功している。この脚本家はなかなかの手練れである。

 

『 殺人鬼から逃げる夜 』ほどではないが、本作も走る走る。また、『 ほえる犬は噛まない 』や『 はちどり 』と同じく、巨大集合住宅における人間関係の希薄化を浮き彫りにした作品である。本作と相性が良いと感じた人はぜひ鑑賞されたし。

 

ネガティブ・サイド

 

以下、ネタバレあり

 

やはり最後の最後に、サンフンが直接殺人鬼と「ケリをつける」という展開は無理がある。殺人鬼を追撃するというのは『 チェイサー 』的だが、あちらは元刑事、こちらは保険会社員。バックグラウンドが違いすぎる。散々追いかけてきた相手を積極的に追うのではなく、もっと不自然さを感じさせない方法でサンフンと殺人鬼を対峙させるプロットはなかったか。

 

マンションの自治会会長的な女性の最後の言葉もおかしい。サンフン一家が売り払って引っ越ししていくマンションを「4億ウォン以下で売らないで」と言ってくる。マンション相場の維持に躍起なのだろうが、目と鼻の先で大規模土砂災害が起きてしまうマンションが、価格を維持できるわけがない。長期的には分からないが、少なくとも短期的な値崩れはどうしようもないし、それをサンフンに転嫁しようとするこのオバちゃんの言動は不可解の一語に尽きる。

 

総評

実に韓国らしい映画。謎の殺人鬼。小市民の主人公。役立たずの警察。それでいてサスペンスは抜群で、社会的なメッセージもズバリと発してくる。Jovianもマンション住まいだが、本作の最後のシーンにはゾクリとさせられた。韓国のみならず、世界の多くの都市部に共通する人間関係の希薄化の怖さの一面を感じさせられた。イ・ソンミンのカメレオン俳優っぷりを堪能されたい向きはぜひ鑑賞を。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

witness

「目撃者」という名詞、「目撃する」という動詞、どちらにも使える。英検1級を目指す人なら、bear withness to ~ という成句を覚えておきたい。「~を証言する」「~証明する」という意味である。Many trophies bear witness to his achievements. = 多くのトロフィーが彼の実績を証明している、のように使う。 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, イ・ソンミン, キム・サンホ, クァク・シヤン, サスペンス, 監督:チョ・ギュジャン, 配給会社:ギャガ, 韓国Leave a Comment on 『 目撃者 』 -韓流サスペンスの常道-

『 ビースト 』 -韓国ノワール健在-

Posted on 2021年10月23日 by cool-jupiter

ビースト 75点
2021年10月23日 心斎橋シネマートにて鑑賞
出演:イ・ソンミン ユ・ジェミョン
監督:イ・ジョンホ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211023230156j:plain

なんとか妻を説得し、やっと心斎橋への出陣許可を得た。ならばと評価の高い韓国ノワールをチョイス。実に見ごたえのあるサスペンスであった。

 

あらすじ

殺人課の刑事ハンス(イ・ソンミン)とミンテ(ユ・ジェミョン)は、課長への昇任をめぐって競い合っていた。そんな中、インチョンで女子高生の猟奇殺人事件が発生。ハンスは容疑者の男を逮捕し、自白させる。しかし、ミンテはその容疑者が犯人ではないとの確証から男を釈放し、・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211023230213j:plain

ポジティブ・サイド

韓国映画における警察 = 無能、というのは全世界の共通認識だが、本作ではその警察官同士の争いが見どころになっている。と言っても、単にどちらが先に事件を解決するかを競うだけではない。どちらがどれだけ汚い手、常道ではない手段で事件を解決するかの競い合いにもなっている。

 

女子高生の猟奇殺人事件を追う中で、だんだんと物事の意外な側面が見えてくる。誰もが心の中に獣を飼っていて、それが表に出てくるのかもしれない、という女警察官の一言が強烈である。情報屋を飼っていて、場合によってはその情報屋のためにチンピラをボコボコにしたりすることもあるハンスと、手続きを公正に踏んでいくことで、結果として大失態につながってしまうミンテ。この二人の演技合戦で物語は終始進んでいく。

 

『 ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 』の悪徳警察署長の印象が強いユ・ジェミョンが本作でも強烈な存在感を発揮。ルックスで言えば決して二枚目とは言えない俳優だが、ソン・ガンホを初めとして、韓国映画ではこうした土着性の非常に強い顔の俳優が活躍する。殺人課の刑事として腕利きではあるものの、訳アリな男を見事に演じている。

 

対するハンスを演じるイ・ソンミンは初めて見たが、演技力凄すぎ。チームのメンバーから信頼を集める班長の顔と、家庭破綻者の顔、そしてミンテ同様に腕利きでありながら、訳アリな男を怪演した。冒頭から刺青の男を殴って殴って殴りまくるように、腕っぷしもある。相手のわずかな心の隙を突く狡猾な話術もある。終盤に見せる鬼気迫る表情と咆哮は、まさにタイトル通りの獣。『 殺人鬼から逃げる夜 』のウィ・ハジュンにも感じたことだが、よくこれだけ表情を変えられるなと感心を通り越して、怖気をふるってしまう。凄い役者である。

 

全編にわたって血生臭さが漂っており、実際にかなりのグロ描写や暴力描写もある。また、直接的な視覚情報が与えられるわけではないが、音声だけでもかなり精神的にキツイ場面もある。『 悪魔を見た 』のチェ・ミンシクの逃亡先のコテージの男と同じ役者と思しきキャラが本作に登場しており、「そら、こんな奴見たら誰でも犯人と思うやろ」と感じさせられてしまう。クライマックスの凄絶さは、まさにビースト。人間が人間でいられるのは、相手のことも人間であると確信できるから。目の前にいる相手が悪魔なら、自分も悪魔になるしかない。または獣になるしかない。

 

かつてはパートナーだった二人が、いつしか互いに反目するようなってしまう・・・だけなら凡百のバディ・ムービーだが、これは韓国映画。人間の心のダークサイドを極限まで追究しようとする姿勢には、もはや敬意を表すしかない。サスペンスやスリラーというジャンルでは、日本は韓国にはもう勝てない。

 

ネガティブ・サイド

麻薬捜査班から移籍してきた女性警察官が、最初と最後しか出番がなかった。もっとこの新入りを効果的に使って、ハンスとミンテがなぜ反目しあうようになってしまったのかを語らせてほしかった。

 

広域捜査隊と途中で捜査がかぶってしまうが、こんなことは実際にはあるのだろうか。このような展開が実際に起きてしまえば、それすなわち警察上層部の大失敗であるように思う。ここはちょっとリアリティが足りないように感じた。

 

総評

『 暗数殺人 』や『 殺人鬼から逃げる夜 』同様に、観終わってからドッと疲れるタイプの映画である。決して心地よい疲れではない。観た後になにがしかの澱のようなものが胸の中に残り続ける。そんな感覚を与える作品である。主演のおっさん2人の演技のレベルが高すぎて、それだけで2時間超のストーリーをピーンと張りつめた糸のように持たせている。デートムービーにはならないし、夫婦で観るのもキツイ。案外、サラリーマンが一人で鑑賞するのに向いているかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

シバ

韓国英語を観ていると必ず一回は聞こえてくる気がするスラング。意味は「クソ」である。使い方は日本語のクソと同じ。悪態をつきたいときに口に出せばいい。また、そこまで酷いシチュエーションでなくとも「あー、暑いな、クソ。」のような軽い文脈でも使える。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, イ・ソンミン, サスペンス, ユ・ジェミョン, 監督:イ・ジョンホ, 配給会社:キノシネマ, 韓国Leave a Comment on 『 ビースト 』 -韓国ノワール健在-

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