Skip to content

英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

  • Contact
  • Privacy Policy
  • 自己紹介 / About me

タグ: アイスランド

『 LAMB/ラム 』 -神話を大胆に読み替える-

Posted on 2022年10月10日2022年10月10日 by cool-jupiter

LAMB/ラム 70点
2022年10月9日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:ノオミ・ラパス ヒナミル・スナイル・グブズナソン
監督:バルディミール・ヨハンソン

今年の頭ぐらいから気になっていた作品。劇場に赴くと、9割ほどの入りという大盛況でビックリした。

 

あらすじ

人里離れた山中で暮らす羊飼い夫婦のマリア(ノオミ・ラパス)とイングヴァル(ヒナミル・スナイル・グブズナソン)。ある日、二人は羊の出産の手助けをしていた。順調なお産だったが、一頭の羊が奇妙な子どもを生んだ。二人はその羊の子を密かに育て始めるが・・・

以下、ネタバレと個人的な物語解釈あり

 

ポジティブ・サイド

2017年にカナダのアルバータ州に旅行で赴いたが、そこで目にした山の景色と本作で目にする山の景色が非常によく似ている。緯度が近いからだろうか。荒々しい自然はまさに wilderness と呼ぶにふさわしい。そこで生きる羊飼いの夫婦に起きる怪異。雰囲気としては『 ウィッチ 』に近い。 

 

Jovianは国際基督教大学で宗教学専攻(キリスト教専攻ではなかったが)だったので、どうしても本作は聖書的な世界観で構築されたものとして観てしまう。すなわち、イングヴァル=アダム、マリア=イヴである。失楽園後の二人が荒涼たる辺境の大地で羊飼いをしているというイメージである。

 

あるいはマリア=聖母マリア、イングヴァル=アベル、イングヴァルの弟ペートゥル=カインのように考えてしまう。もちろんマリアが処女懐胎するわけでもないし、ペートゥルがイングヴァルを殺害するわけでもない。しかし、第2章以降の人間関係からはどうしてもカインによる兄アベル殺しの物語を想起せずにはおれない。

 

何故だか生まれてしまった半羊半人の子どもにアダと名づけ、育てるイングヴァルとマリアの姿に寒々しさを感じるのは、背景のアイスランドの山々のせいばかりではない。マリアが見せる羊飼いにあるまじきとある行動や、あるいはアダが身に着ける衣服の原料が〇〇であったりと、本作が象徴するのは聖書的な世界だけではないことが徐々にあらわになってくる。

 

最終盤でマリアから”観客に対して”向けられる射貫くような目線に、我々は凍り付く。飼われる側、毛を利用される側、命を奪われる側だった羊と人の立場が一気に逆転する。「ああ、これは壮大なイサク献供物語の逆バージョンなのか」と、Jovianはひとり茫然自失した。人間が羊を食い物にしていいのなら、羊が人間を食い物にしてはいけない理由など見当たらない。何とも秀逸な寓話である。

 

ネガティブ・サイド

R15指定なので、何か強烈なシーンでもあるのかと思ったが、映し出されたのは夫婦の営み。この場面は不要、カットしてよかった。

 

アダと羊たちとの交流のようなシーンが欲しかった。特に birth mother との出会いや触れ合い、その光景に心ざわめくマリアやイングヴァルのような画があれば、このダーク・ファンタジーにもっとサスペンスが生まれたものと思う。

 

シェパード犬はそれなりに出番を与えられたが、猫は意味ありげに窓辺にたたずむだけ。もっと、猫特有の本能が発揮される場面を構想できたはず。あるいは飼い猫とアダの交流も描いてほしかった。

 

総評

北欧ダーク・ファンタジーの秀作。『 ボーダー 二つの世界 』には及ばないが、『 ハッチング -孵化- 』よりも上であると感じた。様々に解釈できるという意味で、repeat viewing も可能だ。劇場は大賑わいで、照明がついた瞬間からあちこちで「あれは✖✖✖か?」、「これって△△やんな?」などと口々に意見や考察を交換し合っていた。しかも若い観客たち。始めは軽めのホラーで彼女に「キャッ!」と言わせたい軽佻浮薄な輩たちかと思っていたが、シリアスな映画ファンが集っていたようだ。さあ、秋の夜長に本作でも鑑賞して、現代文明を批判するか、あるいは自らのライフスタイルを省みるか。非常にチャレンジングな作品がアイスランドから届いた。

 

Jovian先生のワンポイントアイスランド語レッスン

ヤー

劇中で何度か聞こえてくる。意味は「はい」、英語なら Yes の意。アイスランド語の「はい」はドイツ語と同じでヤーらしい。ちなみに No はネイと聞こえた。これは古い英語の Nay と同じなのだろうか。 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ドライビング・バニー 』
『 ソングバード 』
『 千夜、一夜 』

 

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アイスランド, ノオミ・ラパス, ヒナミル・スナイル・グブズナソン, ファンタジー, ポーランド, 監督:バルディミール・ヨハンソン, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 LAMB/ラム 』 -神話を大胆に読み替える-

『死の谷間』 ―孤独と交流の狭間に人間の本質を垣間見る―

Posted on 2018年7月3日2021年1月17日 by cool-jupiter

死の谷間 55点

2018年7月1日 シネ・リーブル梅田にて観賞
出演:マーゴット・ロビー キウェテル・イジョホー クリス・パイン
監督:クレイグ・ゾベル

原題は“Z for Zachariah”、ZはゼカリヤのZ、という意味である。映画ファン、特にヒューゴ・ウィービングもしくはナタリー・ポートマンのファンという方であれば、即座に『Vフォー・ヴェンデッタ』を思い浮かべることだろう。これもVは復讐(ヴェンデッタ)のV、という意味である。また古いSF小説ファンであれば、レイ・ブラッドベリの『ウは宇宙船のウ』(R is for Rocket)や『スは宇宙(スペース)のス』(S is for SPACE)を思い起こすだろう。本作の原題の意味は、ZはゼカリヤのZ、である。ゼカリヤと聞いてゼカリヤ・シッチンの名前を挙げる人はかなりのオカルトマニアであろう。またゼカリヤと聞いて「ああ、聖書のゼカリヤ書ね」と分かる人はかなりの博識であろう。作中で一瞬だけではあるが、核戦争を生き延びた人類最後の女性と思われるアン(マーゴット・ロビー)が、”A for Adam”という本を手に取るシーンがある。AはアダムのA、ということだ。このアダムは言わずと知れたエデンの園のアダムである。ゼカリヤという名がここで暗示するのは、それが人類最後の男であるということだ。

そのようなPost-Apocalypticな世界において、人類最後の女として生き延びているのがアン・バーデン(マーゴット・ロビー)である。相棒にして愛犬のファロと共に、狩猟採集生活を送っている。非常に興味深いのは、アンは物語冒頭で対放射線の防護服を身にまとって、街の図書館らしきところから本を頂戴してくるところ。もちろん、食糧や日用品をあらかた失敬した後のことであろうと思われるが、これはサバイバルにおいて実に重要なことだ。貴志祐介の小説の『クリムゾンの迷宮』という佳作がある。シチュエーション・スリラーに分類されるであろう物語で、広大無辺の大地に突如取り残される男女複数名のサバイバル・ゲームを描く。その中で、主人公ペアはゲーム主催者から支給されるものの中から、食糧や武器ではなく、「情報」を選択する。これが決定的に重要な決断で、情報≒知識こそが、長い目で見たときに最も生存に資するリソースなのだということを示している。本作も同じく、アンの住む家には数多くの書籍があり、アン自身も農家で生まれ育ったことから、大自然の中で生き抜く知恵、そして孤独に耐えうる強い信仰を備えていた。一人と一匹の生活は、それなりに上手く回っていた。

そこに闖入者のジョン・ルーミス(キウェテル・イジョホー)がやって来る。科学者にして、黒人で、無神論者であり、酒に飲まれてしまうこともある。アンとは非常に対照的な属性の持ち主である。この二人が協力して、ガソリンを調達するシーンは、知恵が自然を克服する好個の一例である。人間の無力さは、力の欠如ではなく知識の不足から来ることを端的に証明している、非常に印象的な場面である。さらに一歩進んで、ジョンは核汚染されたエリアから来た水で構成される滝を使っての水力発電を思いつく。そのためには木材、それも数年から数十年単位で乾いた木が必要となる。それを調達するために、アンの心の拠り所であり父の遺産でもある教会を解体するか否かで、意見が分かれてしまう。将来ここにやってくる人間のためにも、食糧が保存できるように冷蔵庫などを稼働させなければならないというジョンと、別の人間など来ないと思うアン。信者と無神論者の穏やかな対立を描いた場面であると同時に、子を作るに際して能動の男と受動の女という対極的な姿をも描いた名シーンである。結論を急がずに暮らしを続ける二人の前に、しかし、ケイレブ(クリス・パイン)という若い炭鉱夫だという白人男性が現れる。物語はここから大きく動き始める。

とはいっても、アンを巡る男2人の仁義なき戦いというわけではなく、信仰の有無、肌の色の違いなど、この「死の谷間」を除いて荒廃してしまった世界で果たしてどれほどの意味を持つのか疑わしいことにも、人間は拘泥してしまうのだという、究極的な人間ドラマが描かれる。ケイレブ=Caleb=カレブである。聖書に描かれるカレブは神への信仰を生涯揺るがせにせず、荒涼としたエジプトの大地を脱出し、約束の地へたどり着いた男である。このことを知っていて映画を観る(あるいは原作小説を読む)のと、予備知識なしで観ることで、おそらく違う感想を抱くだろう。それは自分ならばどうするだろうかという主観的な見方と、この名前のキャラクターに込められた運命はこうであるという、運命論的な見方に二分されるのではなかろうか。もちろん、女性目線で分析することも大いに奨励されるべきであろうし、実際に理性と欲望の狭間でアン自身が翻弄されてしまうようなシーンもある。あらゆる場面で自分なりの解釈が可能であるし、創世記の如く、すでに誰もが知っている物語の再解釈と見ることもできる。スペクタクルには欠けるものの、思考実験として大いに知的好奇心をくすぐってくれる作品である。

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村 

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アイスランド, アメリカ, キウェテル・イジョホー, クリス・パイン, スイス, スリラー, マーゴット・ロビー, 監督:クレイグ・ゾベル, 配給会社:ハークLeave a Comment on 『死の谷間』 ―孤独と交流の狭間に人間の本質を垣間見る―

最近の投稿

  • 『 28日後… 』 -復習再鑑賞-
  • 『 異端者の家 』 -異色の宗教問答スリラー-
  • 『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-
  • 『 RRR 』 -劇場再鑑賞-
  • 『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』 -すべてはビジョンを持てるかどうか-

最近のコメント

  • 『 i 』 -この世界にアイは存在するのか- に 岡潔数学体験館見守りタイ(ヒフミヨ巡礼道) より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に cool-jupiter より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に 匿名 より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に cool-jupiter より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に イワイリツコ より

アーカイブ

  • 2025年5月
  • 2025年4月
  • 2025年3月
  • 2025年2月
  • 2025年1月
  • 2024年12月
  • 2024年11月
  • 2024年10月
  • 2024年9月
  • 2024年8月
  • 2024年7月
  • 2024年6月
  • 2024年5月
  • 2024年4月
  • 2024年3月
  • 2024年2月
  • 2024年1月
  • 2023年12月
  • 2023年11月
  • 2023年10月
  • 2023年9月
  • 2023年8月
  • 2023年7月
  • 2023年6月
  • 2023年5月
  • 2023年4月
  • 2023年3月
  • 2023年2月
  • 2023年1月
  • 2022年12月
  • 2022年11月
  • 2022年10月
  • 2022年9月
  • 2022年8月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
  • 2022年3月
  • 2022年2月
  • 2022年1月
  • 2021年12月
  • 2021年11月
  • 2021年10月
  • 2021年9月
  • 2021年8月
  • 2021年7月
  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月
  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月
  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月

カテゴリー

  • テレビ
  • 国内
  • 国内
  • 映画
  • 書籍
  • 未分類
  • 海外
  • 英語

メタ情報

  • ログイン
  • 投稿フィード
  • コメントフィード
  • WordPress.org
Powered by Headline WordPress Theme