スペシャルアクターズ 65点
2019年10月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:大澤数人
監督:上田慎一郎
『 カメラを止めるな! 』で華々しくメジャーな舞台に登場し、『 イソップの思うツボ 』で評判をガクンと落とした上田慎一郎監督であるが、本作は標準以上に出来に仕上がったと言える。前作は、監督三人態勢が祟っていたのだろうか。
あらすじ
大野和人(大澤数人)は売れない役者。極度に緊張すると失神するという症状に悩まされていて、アルバイトで何とか食い扶持を稼いでいる。ある時、数年ぶりに弟の宏紀と再会した。弟は「スペシャルアクターズ」という、芝居でトラブルを解決するという会社に所属しているという。和人もなりゆきでスペシャルアクターズに所属するが、そこに「旅館をカルト宗教団体から守って欲しい」という依頼が入り・・・
ポジティブ・サイド
上田慎一郎の持ち味はドンデン返しである。それがこの監督がキャリアをかけて追い求めていくものなのだろう。例えば、是枝裕和監督は家族とは何かを問い続けているし、宮崎駿は「子どもはいかに生きるべきか」を描き続けている。そうした頑迷固陋と言えるほどのポリシーを持つ映画人がいてもよい。実際に本作は、まあまあ楽しめた。
どこらへんがどうドンデン返しなのか。よく似た作品にデヴィッド・フィンチャー監督の『 ゲーム 』が挙げられる。もしくは邦画の『 ピンクとグレー 』も少し似ている。つまり、ドンデン返しが来るぞ来るぞと期待しながら観て、その上でそれなりに驚かされたということである。詳しくは劇場で鑑賞して頂くのが一番である。
役者は皆、無名である。だからこそこちらも先入観を抱かずに、フレッシュな視線で鑑賞できる。主人公を演じた大澤数人は、大根役者を演じるという、ある意味では非常にチャレンジングな仕事を見事に務めた。芝居がかった喋りではなく、実際に職場などにいればイライラさせられるかもしれないトロい語り口とモッサリした動きは、まさに本作の主人公そのものであった。
本作の面白さの肝は、芝居で何でも解決する会社、すなわち「スペシャルアクターズ」が、カルト教団「ムスビル」を撃退する展開である。つまり、騙してくる奴をお芝居で騙し返すわけである。そこにサスペンスとドラマが生まれている。しかし、息詰まるようなサスペンスではない。どこかB級チックで、ユーモラスなサスペンスである。このあたりはイソップではなく、カメ止めのテイストである。上田監督も原点回帰を果たしつつあるようである。数人の弟、スペシャルアクターズの幹部の面々、旅館の若女将、ムスビルの幹部たちが織り成す面白おかしく、それでいてシリアスなプロットを是非劇場で堪能いただきたい。
ネガティブ・サイド
血しぶきが弱いなと感じた。もっとカメ止めのゾンビのように、ブフォーッ!!という感じで血反吐を吐かなければだめだ。ただし、NGが出た時にできるだけ素早く撮り直しができるように、あのような演出にしたのだろうなとは理解できる。だが、クライマックスの超展開はカメ止め並みのワンテイクが観てみたかった。または和人視点のPOVでも面白かったかもしれない。我々が上田慎一郎に求めるのは無難な映画ではなく、実験的な映画なのである。カメ止めも手法や演出が新しかったのではなく、それらを意表を突く形で繋ぎ合わせたところに面白さがあった。もっと上田監督はもっと自分のクリエイティビティに忠実になるべきだ。
また裏教典の中身が拍子抜けであった。てっきり、薬物による催眠誘導や各都道府県で賄賂の効く警察や政治家のリストなのかと思っていたが・・・ この程度で「ヤバいもん」というのは誇大広告であろう。
あとはもう少しのリアリティが必要だろうか。現代人は何をするにしても、まずはPCやスマホで対象を検索する。カルト教団のムスビルを検索するのであれば、その他も検索対象になってしかるべきだろう。もちろん、逆SEOの跡もうかがえたが、やはりそこは2ページ目以降にすべきだったのではないか。
総評
カメ止めの切れ味が蘇ったわけではない。それはおそらく無理な注文である。だが本作は平均以上の面白さを感じた。上田慎一郎はOne Hit Wonder = 一発屋ではないことを証明したと言えるだろう。『 イソップの思うツボ 』にがっかりした向きも、本作にならある程度は満足させてもらえるはずだ。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
This company pays you by the day.
金銭的に困窮している数人がスペシャルアクターズに入ることを決心した言葉「ここ、給料、とっぱらいだよ」の英訳例。「とっぱらい」=その日払いということで、pay by the dayとなる。韻を踏んでいるので覚えやすいだろう。