アップグレード 70点
2019年10月15日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:ローガン・マーシャル=グリーン
監督:リー・ワネル
Jovianは小説でも映画でもSFが好きである。本作も、当初はflying under my radar。しかし、大阪ステーションシティシネマのパンフレットで先月ぐらいに本作を知った。アイデア勝負の低予算C級SF映画は嫌いではない。むしろ好物である。しかし、本作はC級ではなかった。間違いなく良作である。
あらすじ
自動車修理工のグレイ(ローガン・マーシャル=グリーン)は、自動運転車の事故に遭ったところを、謎の男たちに襲撃され、妻は殺害され、自身も首から下が麻痺状態という深刻なダメージを負う。しかし、顧客である大企業オーナーにして科学者の男性から、STEMというAI搭載チップを頸椎に埋め込まれることで、グレイは身体能力を取り戻した。彼は妻の敵を討つべく、独自の捜査に乗り出すが・・・
ポジティブ・サイド
なんとまあ、多くのSF映画へのオマージュになっていることか。『 ブレードランナー 』、『 ブレードランナー2049 』的な社会の到来前夜といった趣の世界に、ボロボロの身体のはずが『 エリジウム 』的に復活し、『 ターミネーター 』や『 ロボコップ 』のような身体を動きを見せる。人間ではないものが人間らしそうで人間らしくない動きをする例として、『 エイリアン2 』のビショップも忘れるわけにはいかないだろう。ビショップの披露したナイフの早業へのオマージュに思わずニヤリ。さすがに『 ジョジョの奇妙な冒険 』のスタープラチナがモデルではないだろう。それだけではなく、『 マトリックス 』や『 アリータ バトル・エンジェル 』のような格闘を独特のカメラワークと音響効果で魅力的に演出してしまうのだから、リー・ワネルはどこまでSF好きでどこまでサービス精神旺盛な監督なのだろう。イヤホンからの指示で動くのは現実でも映画でもお馴染みの光景であるが、自分の体内にあるものとコミュニケーションを取るバディ・ムービーはそれほど量産されてきてはいない。メジャーなところでは邦画なら『 寄生獣 』、洋画なら『 ヴェノム 』ぐらいか。そして敵キャラは漫画『 コブラ 』のようなサイコガン・・・ではないが、銃を腕に仕込むという中二病的設定。『 エクス・マキナ 』的な結末が悲劇的とは映らず、むしろ
『 イヴの時間 』的な世界への過渡期が到来するのだ予感させてくれる、この味わいの複雑さよ。とにかく名作SFへのオマージュをちりばめた近未来サイバーパンク要素てんこもりのエンターテインメント作品に仕上がっている。これぞ正に掘り出し物である。インパクトだけならば、昨年の『 search サーチ 』に並ぶかもしれない。
ストーリーも一本道に見えて、適度にひねりが効いている。日本なら野﨑まど、神林長平、または小川一水あたりが思いつきそうなプロットである。タイトルの真の意味が明らかになるエンディングのシークエンスにはため息が出るであろう。これらの作家のファンは直ぐに劇場に向かうべし。これら作家のファンではなくてもライトなSFファンは、劇場に向かうべし。ディープでハードコアなSFファンも劇場へGoである。
ネガティブ・サイド
STEMのしゃべりであるが、何をどうやってグレイの鼓膜に音波を送っているというのか。神経に直接働きかけて、コミュニケーションをとっている設定では駄目なのか。耳の中の産毛を巧みに操って、あのような人工的な声を出しているのか?到底理解できないし、納得もできない。また、STEMはグレイの知覚したものしか知覚できないというが、だったらどうやって終盤の高速道路でのチェイスを、あのような方法で切り抜けたというのか。STEMという非常に凶暴で頼りになる相棒に、リアリティが足りないのが本作の最大の欠点である。
中盤のハッカーの存在も非常に中途半端である。『 ブレードランナー 』におけるセバスチャン的なポジションかと思わせて、fizzle out する。期待外れもいいところである。
同じくその中盤、ハッカー関連のシークエンスで、プロット的に破綻しているとまでは言わないが、小さな綻びが見られる。サスペンスを生み出したかったのだろうが、これのせいで最終盤の展開の驚きが減じる。もしくは鑑賞後に考察していると、???となってしまう。
総評
弱点や矛盾点も存在するが、とにかく製作者の映画愛が溢れんばかりに満ちた作品である。95分と非常にコンパクトにまとまっているのもポイントが高い。繰り返しになるが、SFファンならば、直ぐにチケット購入に走られたし。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
I don’t give a shit.
I don’t give a damn. や I don’t give a fuck. とも言う。「んなもん知るか、ボケ」のような意味およびニュアンスである。汚い言葉であるが、それゆえに多用されている。『 ア・フュー・グッドメン 』でジャック・ニコルソンが“I don’t give a damn what you think you are entitled to!”と絶叫するシーンは特に有名である。