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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 ANON アノン 』 -近未来SFの凡作-

Posted on 2019年8月8日 by cool-jupiter

ANON アノン 50点
2019年8月5日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:クライブ・オーウェン アマンダ・セイフライド
監督:アンドリュー・ニコル

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190808215950j:plain

TSUTAYAでふと目にとまり、あらすじに興味をひかれた。野崎まどの小説『 know 』のや林譲治の小説『 記憶汚染 』の前駆的な世界、映画『 ザ・サークル 』のテクノロジーと思想が行き過ぎた世界であるように感じられた。暑過ぎて劇場に出向くのが億劫になるので、この時期は自宅での映画鑑賞率が高くなる。

 

あらすじ

あらゆる人間の記憶が記録される世界。第一級刑事サル・フリーランド(クライブ・オーウェン)は他者の記憶にアクセスし、単純作業のように事件を捜査・解決していた。しかし、ある日、街中で何の情報も読み取れない謎の女アノン(アマンダ・セイフライド)に遭遇する。ただの検知エラーだと思うサルだったが、その後、視覚をハッキングされて殺害される人間が次々に現れ・・・

 

ポジティブ・サイド

本作に描かれる社会はSFチックではあるが、充分に我々の予想の範囲内にあるものである。例えばビッグデータの管理と有効活用が叫ばれるようになって久しい。たいていの犯罪は、防犯カメラの映像が決め手になる。人がその目で見るものすべてを記録し、権限のある者だけがそれにアクセスできる社会は、犯罪抑止の観点からはむしろ望ましい。問題はプライバシーが守られるか否かである。Jovianは以前に大手信販会社で働いていたが、そこでは当然のように個人情報保護に腐心していた。だが、会社がもっと注力していたのはプライバシーの保護である。よく言われることであるが、個人情報、すなわち個人を識別できる情報(それは氏名であったり、電話番号であったり、住所であったりする)はある程度の数を集めなくては有用とはならない。プライバシーはそれ自体が貴重な、または危険な情報となる。例えば、貴方がたまたま上司のクレジットカードの明細書を見ることができたとしよう。そこに「○月×日 アデランス ¥43,200」という記載があったら?

 

本作は単なる情報とプライバシーの境目が曖昧になった世界の危うさを描いている。それはプライベートな情報をDFE(Delete Fuckin’ Everything)できるからで、さらに言えば、人間の記憶と記録の境目すらも曖昧になってしまうからだ。『 華氏451 』でも、物理的な実体あるものとしての書物は忌避された。なぜなら、アナログなもの全てを書き換えるのは実質的に不可能だからである。

 

本作でアマンダ・セイフライドが見せる記録操作の鮮やかさやサルの見る世界に、Augmented Reality(AR)やユビキタス社会に思いを馳せずにはいられなくなる。それがユートピアになるかディストピアになるかは誰にもわからない。しかし、セックスが重要なモチーフになっているところに本作の功績を認めたい。何もかもを情報空間で済ませる世界であっても、肉体と肉体をぶつけあう性行為に意味があるとアンドリュー・ニコルは言っているわけだ。エキサイティングなSF作品ではないが、ありうべき未来予想図の一つとして鑑賞する価値は認められる。

 

ネガティブ・サイド

視覚をハッキングすることだけでなく、プロット全体が『 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 』の焼き直しに近い。というか、パクリと呼ばれても仕方がないのではないか。士郎正宗はサイバーパンク分野の先駆者である。手塚治虫の『 ジャングル大帝 』がディズニーの『 ライオン・キング 』の元ネタであることは世界中の人間が長年にわたって疑っていることである。本作も士郎正宗のパクリなのではないかという疑惑に今後長く晒されるだろう。

 

サルの上司の無能っぷりが目立つ。なぜ視覚をハッキングする犯罪者がいると分かっていながら、視覚記録を信じようとするのか。殺人事件が起きておらず、サルだけが不可解な経験をしているというのなら話は分かるが、すでに人が何人も死んでいるのだ。もちろん、エンタメ作品やフィクションの警察というのは大体が権力と通じていたり、腐敗していたりするものだ。しかし、そこまでクリシェである必要はない。本作は既に東洋西洋の優れた先行作品にあまりに多くを負っている。

 

犯人の目星があっという間についてしまうのも弱点だ。普通は後から思い起こして、「ああ、あの時のクローズアップはこういうことだったのか」、「あのカット・アウェイはそういうことだったのか」と思わせるカメラワークではなく、「こいつが怪しいですよ」とこれ見よがしに見せつけるようなカメラワークというのは斬新ではあるが、陳腐でもある。極めて少ないキャラクターの中でこれをやられると、否が応でも犯人はこいつであると見当がついてしまう。ミステリ作品ではないとはいえ、これは興醒めである。

 

総評

起伏に乏しい作品である。派手なドンパチも、脳髄をひりつかせるようなミステリもサスペンスもない。だが、文明を見つめる視線がそこにはある。インターネットにどっぷりと漬かっている人ならば、そそられるシーンもいくつかある。梅雨時や猛暑日に室内で時間つぶしに鑑賞するのに適した作品である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SF, アマンダ・セイフライド, クライブ・オーウェン, ドイツ, 監督:アンドリュー・ニコル, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズ

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