パピヨン 70点
2019年7月7日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:チャーリー・ハナム ラミ・マレック
監督:マイケル・ノアー
『 ボヘミアン・ラプソディ 』でオスカーを受賞したラミ・マレックが出演していることで、派手に宣伝されていた。元々は1970年代のスティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンの出演作のリメイクということだが、残念ながらオリジナルは未見である。が、名作との誉れ高いので、近いうちに鑑賞してみたい。
あらすじ
金庫破りのパピヨン(チャーリー・ハナム)は、属する組織にはめられて、殺人の濡れ義務を着せられる。結果、仏領ギアナの刑務所送りにされる。復讐のために脱獄を決意したパピヨンは、ギアナへの途上で詐欺師にして大金持ちのルイ・ドガ(ラミ・マレック)と出会う。彼を守ることで逃亡資金を確保しようと企むが・・・
ポジティブ・サイド
チャーリー・ハナムの肉体変化。デニーロ・アプローチといえばクリスチャン・ベールだが、ハナムも相当の努力をしたことが見て取れる。序盤の筋肉美が中盤以降にどんどんと萎れていくが、そうしたシーンほどスクリーン・タイムは短い。編集の結果なのか、予定通りなのか。『 アベンジャーズ / エンドゲーム 』の雷神ソーのような激太りは肉襦袢で何とでもなるが、痩せたように見せるのは難しい。ならば本当に痩せるしかない。ここにハナムのプロフェッショナリズムを見る。また、『 SANJU サンジュ 』でもランビール・カプールがサンジャイ・ダットの青年期から壮年期、そして老年期を見事に描き出したが、ハナムもかなり良い仕事をしたと評価できる。一瞬でその場の誰が権力者なのか、実力者なのかを見抜く眼力があり、一瞬も油断することなく、また交渉力にも長ける。犯罪者ではあるが、男としての魅力も兼ね備えている。
ドガを演じるラミ・マレックも悪くない。非常に弱々しい印象を与え、実際に弱い。だからこそ、庇護の対象となることに違和感が無い。しかし、肉体的に弱くとも、彼は知能犯である。中盤以降では刑務所内である程度自由に動くことができる立場と信用を得ている。具体的には描写されないが、『 ショーシャンクの空に 』のアンディと同じような働きをしたのだろうと推測ができる。
この二人が奇妙な紐帯を形成していくのがドラマの肝の部分である。お互いに相手を金づる、用心棒と看做していた関係が、ある時から質的に変化していく。特にパピヨンが独房に送り込まれたところで、ドガから意外な形で差し入れが届くが、その差し入れを受け取ったパピヨンの勇気百倍、元気百倍という演技は観る者すらエンパワーしてくれる。彼は食べ物によってエネルギーを得たわけではない。いや、それもあるが、他人から陥れられたことにショックを受け、また脱獄と復讐を生きる原動力にしていたところで、見返りを求めない友情を育むことができたからである。だからこそ、彼が落ちていく絶望の闇もますますのその濃さを増すのである。各シークエンスごとの明暗のコントラストが非常に鮮やかなのである。
オリジナルと比較すれば劣るらしいが、それでもいわれなき抑圧を受ける者が、したたかに雄々しく戦う様には胸を打つ何かがある。鬱屈の多いこの現代社会への一服の清涼剤にはなっているのではないか。
ネガティブ・サイド
色鮮やかなショットの数々だけではなく、傷や血、埃、汚泥などを見せつける一方で、ショットの構図そのものはどこかで見たようなものが多かった。格子を挟んでのキスや、ペラペラ喋るだけ喋った男がお役御免とばかりに死んでいくのは百万回観た。例えそうしたシークエンスが不可欠だったとしても、我々は古い革袋に新しい酒が入っていることを期待するのである。
また最後の最後にパピヨンとドガが送り込まれる Devil’s Islandから、「悪魔の島」感がなかったのが残念であった。確かに生気の無い人間が、ただただ食べ物に群がる様というのは漫画および映画の『 ドラゴンヘッド 』、ボルヘスの小説『 不死の人 』のイメージを想起させる。しかし、肝心のドガが最初から結構いきいきとしているのには違和感があった。自我を喪失させるほどに消耗しているところを、パピヨンと再会して、徐々に正気と気力、体力を取り戻していくという流れでないと、悪魔の島の環境の劣悪さや抑圧感、閉塞感が感じ取れない。おそらくこのあたりがオリジナルとの差なのであろう。
パピヨンが最後に言う「妻」とは誰なのか。このあたりもエンディングまたはポストクレジットのシーンで明らかにしてほしかった。
総評
『 モンテ・クリスト伯 』、『 キングコング 』、『 ブラッド・スローン 』、『 ショーシャンクの空に 』、『 白鯨との闘い 』、『 キャスト・アウェイ 』などの要素や構図がずいぶんと見え隠れする。それを好意的に受け取るか、否定的に受け取るかは個人の判断に委ねられるべきだろう。Jovianは映画的な演出の面に弱点を見出しつつも、本作が持つ現代的なメッセージは肯定的に捉えたい。