ブラッド・スローン 65点
2018年10月8日 MOVIXあまがさき 2018年8月29日 レンタルDVD観賞
出演:ニコライ・コスター=ワルドウ オマリー・ハードウィック ジョン・バーンサル エモリー・コーエン ジェフリー・ドノバン レイク・ベル
監督:リック・ローマン・ウォー
エリート・ストック・ブローカーとして人も羨む生活を送っていたジェイコブ(ニコライ・コスター=ワルドウ)は、一瞬の不注意から交通事故を起こし、刑務所に入ることに。妻(レイク・ベル)とも離婚となり、同乗していた友人からも訴訟を起こされ、刑務所内の容赦ない弱肉強食の人間関係に否応なく巻き込まれていくジェイコブは、持ち前の頭脳を活かし、いつしかマネーの異名を得て、頭角を現していく。そして、刑期の85%を終えたマネーは娑婆に出る。刑務所内のボスのビーストの指示で動くために・・・
最初に劇場観賞した時は、途中でトイレに立つという痛恨のミスを犯してしまった。ようやくTSUTAYAでレンタルできたので、再観賞。人間が罪を犯すのは、往々にして一瞬の過ちからだが、人はしばしば再犯、さらには累犯にまで行きついてしまうのは何故なのか。刑務所を舞台にした映画の大傑作に『ショーシャンクの空に』があるが、そこでは釈放されたブルックスは現実の社会には馴染めず、刑務所に自分の居場所を見出すしかなく、結局自殺を選んでしまった。本作も、刑務所内の人間関係、力関係が現実の世界にも及ぶ様を生々しく映し出す。病院では、重病の者ほど偉く、刑務所では重罪の者ほど偉い、というのは冗談交じりによく言われることであるが、こうした映画を見せられると、やはり一抹の真実を含んだジョークなのかと思わざるを得ない。
本作は善良な市民であったジェイコブが、いかにして犯罪に加担する、というか主導する凶悪犯に変貌していったのかを、現在と過去の間をフラッシュバック形式で行き来することで、ジェイコブ/マネーのコントラストが、徐々に溶け合っていく様が鮮やかに活写されている。ヤクザ映画の文法とスパイ映画の文法に忠実に則り、誰が何を狙っているのかがもう一つ見えにくい構造が、サスペンスを生みだすことに成功している。
主演のニコライ・コスター=ワルドウ以外では、ジョン・バーンサルぐらいしか有名キャストは見当たらないが、本作の魅力は出演者のネーム・バリューではなく、彼ら彼女らの演技力の高さ。知名度と演技力は必ずしも一致しないということを映画ファンはよく知っているが、今作のような隠れた逸品はそのような確信をさらに強めてくれる。特に保安官のカッチャーは、顔がシェーン・モズリー似でJovian好みだ。自らの信じる正義のためならば銃弾を喰らっても怯まず、超法規的な取引さえも提案してしまうような、静かに燃える熱血漢。刑務官のロバーツは、刑務所の権力構造にいち早く気付き、囚人たちに秘密裏に協力する小市民。登場回数こそ少ないが、画面に現れるたびに映し出される瞳の奥の恐怖感が、我々がイメージする刑務所、囚人、刑務官というものがフィクションで、こちらの方がリアルなのではないかと思わせるに十分。その他、囚人役に本物のギャングや前科者や格闘技経験者を配したということで、映画という娯楽作品を作りながらも、ノンフィクション的な要素も込められている。実際に暴動シーンというのは1980年代の刑務所内の囚人暴動事件にインスパイアされたようだ。
日本語版のタイトルの『ブラッド・スローン』は明らかに『ゲーム・オブ・スローンズ』へのオマージュ。原題は”Shot caller”であるが、アメリカ人に尋ねたみたところ、あまり一般的な表現ではないらしい。元々の”call the shots”というイディオムは実際によく使われるようだが。主題はギャングの人間関係と権力構造だが、テーマは各々の信念の強さであろう。愛する女のため、金のため、家族のため。何でも良い。それこそが正義で、そのためならば相手の命を奪うことも厭わない。人間の最も凶悪で、最も素直とも言える暗部を照らし出す本作のような作品は、もっと作られ、もっと世に問われるべきであろう。
そういえば『デッドプール』のガンダルフらしき俳優もちらっと出ていたように見えたが、錯覚だったかな。