君の声を聴かせて 70点
2025年10月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ホン・ギョン ノ・ユンソ キム・ミンジュ
監督:チョ・ソンホ
『 あの夏、僕たちが好きだったソナへ 』と同じく、台湾映画の韓国リメイク。そうとは知らずにチケット購入したが、かなり面白かった。
あらすじ
ヨンジュン(ホン・ギョン)は定職に就かず、実家の弁当屋を嫌々手伝っていた。ある日、配達先のプールでろうあ者の水泳選手ガウル(キム・ミンジュ)を世話する姉のヨルム(ノ・ユンソ)に一目惚れして・・・
ポジティブ・サイド
哲学専攻ゆえに就職に難儀するというのは、宗教学専攻ゆえ同様の経験をしたことがあるJovianにはいたく共感できた。自分がある程度、社会不適合者であるという自覚は当然あったが、いかなる分野であれ学問をそれなりに収めてきた人間を冷遇する社会は息苦しいではないか。
本作はしかし、ヨンジュンに手話を授けていた。手話を学んだ理由も終盤に明かされるが、純朴青年そのものという感じでほっとする。プールサイドで見かけた美女の妹に速攻で姉の名前を聞きに行くという行動がキモいと感じられないのは、彼のピュアさが垣間見えるからか。
互いにソウル在住の26歳だとは思えないほどのスローな関係の進展に全くやきもきしない。それは本作が恋愛映画ではなく家族の物語だから。ヨンジュンの両親は、本当なら息子を家からたたき出してもおかしくないのに、優しく見守る。ヨルムとガウルの両親も、木の上に立って見るの例えではないが、遠くから娘を信じて見守っている。
本作にはとある仕掛けがあり、気付く人は最初の10分で気付くだろう。普通の人でも中盤で、どんなに鈍い人でも終盤には分かるはず。たとえば『 マローボーン家の掟 』のように、登場人物同士の・・・おっと、これ以上は興ざめになる。しかし、本作が優れているのは、その仕掛けが分かっていても楽しめる構成にある。両片思いの変則バージョンとでも言おうか。
全編ほとんど手話で、しかもその手話のほとんどが韓国ローカルの手話。したがって、日本の手話を解する人なら、たとえば『 ケイコ 目を澄ませて 』のカフェでの会話シーンが理解できただろう。しかし、本作は無理。だが、どういうわけか通じるように感じられるのだ。それは、手話を使うヨンジュン、ヨルム、ガウルがとても表情豊かだから。しかも、それが演技ではなく、本当に恋する男女が互いの心を図らずもさらけ出しているかの如く。いや、それも監督の演出、役者の演技なのだが、観ている側が「いい演技だなあ」ではなく、「いいやつだなあ」、「かわいい子だな」と素直に思えるキャラクター像を作り上げている。本質は家族の物語なのだが、ラブロマンスとしても非常に味わい深い作品に仕上がっている。
ネガティブ・サイド
クレームおばさんが実際にペナルティを食らうシーンが5秒でいいから欲しかった。
クラブのシーンはとある伏線なのだが、その伏線は別のシーンでも張られていて足りていた。個人的にはもっと『 ベイビー・ドライバー 』でジョーが骨伝導スピーカーで音楽を楽しんだような、もっと少人数で屋内で音楽を楽しむようなシーンが欲しかった。
とある事件をきっかけに姉妹がギクシャクする展開になるが、この前のシーンから姉妹の間の思いのズレに関する描写を小出しにしていってくれていれば、ガウルの涙の訴えがもっとドラマチックになったのではないだろうか。
総評
エンタメとして普通に面白く、ロマンスとしてもさわやかで、ヒューマンドラマとしても申し分ない出来栄え。デートムービーに最適だが、中高年カップルが息子や娘が交際相手を連れてくる現代的シミュレーション物語として鑑賞するのもいい。スルーしていた『 ぼくが生きてる、ふたつの世界 』や、小説が面白かった『 レインツリーの国 』あたりを鑑賞してみたくなった。
Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン
チャンカンマン
ちょっと待って、の意。これもパリパリ=早く早く、と並んで非常によく聞こえてくる表現、かつパリパリ同様に2回連続で発話されることが多い。ドラマや映画で必ずと言っていいほど聞こえてくるので、ぜひ耳を澄ませてみよう。
次に劇場鑑賞したい映画
『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』

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