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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

Posted on 2025年8月15日2025年8月15日 by cool-jupiter

桐島です 75点
2025年8月14日 シアターセブンにて鑑賞
出演:毎熊克哉
監督:高橋伴明

 

『 BOX 袴田事件 命とは 』の高橋伴明監督が逃亡犯・桐島聡を描いた作品ということで、やっとのことでチケット購入。

あらすじ

企業・政府による人民搾取に静かに業を煮やしていた桐島聡(毎熊克哉)は、やがて過激派に属し、爆弾闘争に身を投じていく。しかし、その過程で負傷者を出してしまったことを公開する。また、組織に官憲が迫ったことで逃亡していくが・・・

 

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

誰もが一度は目にしたことがあった桐島聡の指名手配写真。それが2024年1月、病院で見つかり、そのまま死んでいったというニュースはかなりセンセーショナルだった。そんな逃亡犯を毎熊克哉が好演した。

 

『 三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 』で描かれた1969年から数年後の1970年代。そこで桐島聡は労働者階級の待遇改善と諸外国民の搾取反対を表明するため、大資本への闘争を続けていた。同作でかつての三島親衛隊員が述べていた、全共闘は市井の中に拡散していったと、いわば負け惜しみ的に語っていたが、その数少ない拡散先に桐島がいたのかと思うと、なんとも複雑な気分になった。事実は小説よりも奇なりという意味でそう感じるということである。事実、『 正体 』は本作によってかなり陳腐化したと言える。

 

桐島は学生運動の延長線上に常に身を置くことで、いきなりガールフレンドから別れを告げられてしまう。デートに選んだ映画のチョイス(『 追憶 』)もまずかったようだ。とある時代の感性を保つことは、別の人間から見れば時代遅れとなる。時代という言葉が大仰かもしれないが、現代でも往々にしてこうした見方の対立は生じている。故・安倍晋三の桜の会疑惑その他は、しばしば支持者から「いつまで終わったニュースをやっているんだ」となるし、そうでない者からすれば「なんで勝手に先に進んでいるんだ」となる。

 

後者に属する桐島は労働者階級が資本家に搾取される構図を訴えようと過激派の爆弾闘争に身を投じていくが、そこで人を傷つけることには反対する。仲間は、企業にダメージを与えることを人を傷つけないことの矛盾をアウフヘーベンしていこうと言うが、自己主張の手段に言論ではなく武器を選んでいる時点で、その矛盾を止揚できるはずがない。しかし桐島はある時点から言葉に惹きつけられていく。これは事実なのか脚色なのかわからないが、桐島の人物像を深めつつも、桐島の思想については浅くもしていると感じた。

 

着の身着のままで逃亡した先で、運よく経験不問かつ寮付きの工務店で職を得た桐島は、内田洋を名乗って生活する。生真面目に生活のルーティンを守り、模範的に働き、たまにバーに顔を出しては酒や音楽という世俗の歓楽を享受する。要するに、大多数の小市民と何ら変わりのない生活を送っていく。その一方で、自身の関与した爆破事件について忘れることはできず、またいつでも逃亡できるように警戒を怠ることもないという、ある種の矛盾した生活も送っている。

 

行きつけのバーで知り合った若い歌手に恋心を寄せられても拒絶せざるを得なかったのは逃亡者だったからか。それとも時代遅れの自分がトラウマになっていたからか。奇妙な縁を深めることになった謎の隣人が、犯罪者・逃亡者としての桐島の人間関係にユーモアと緊張感の両方をもたらしていて、甲本雅裕は非常に強いインパクトを残した。

 

在日韓国人の同僚、不法滞在するクルド人就労者、集団的自衛権の容認を国会を経ず閣議で決定した安倍晋三など、国家の歪みを感じさせる事象に対して怒りと悲しみを感じる桐島聡だが、その一方で運転免許試験と教習所は結託していると語ったり、またメタボ検診を製薬会社と厚労省の癒着だと断じたりと、非常に危うい、あるいは偏った正義感の持ち主である点も描かれる。外側のアイデンティティを偽りつつも、内側のアイデンティティは偽れなかったのだろう。その思想が良いものなのか悪いものなのかは軽々に判断すべきでない。しかし、高橋監督は桐島に説教されたと思しき若い同僚に「内田さんが死ぬのはいやっすよ」と言わしめた。それが彼のメッセージなのだろう。

 

後年にかつての反日武装戦線の領袖が出版した詩集を読み耽る桐島は、

 

毎熊克哉が青年から高齢までの桐島を見事に演じきった。今年の主演男優賞は彼と『 国宝 』の吉沢亮の一騎打ちとなるだろう。

 

ネガティブ・サイド

かつての同志の宇賀神が語る「桐島は公安に勝利した」という宣言は、桐島の代弁とは言えないのではないか。桐島は一貫して日雇い労働者に代表される下級労働者の搾取の構造を変えたがっており、そこにいるのが日本人であれ外国人であれ、それは救済の対象だった。桐島の勝利とは労働者の勝利であり、最後まで逃げ切ったことを勝利というのは矛盾に感じた。それこそ遺書でも残しておき、死後に桐島聡という存在が内田洋に成り代わっていたことが明らかになったというのなら話は別だろうが。

 

最後の最後に登場する日本赤軍の生き残り女性の存在が滑稽に映った。というのも作中に登場する安倍晋三は2024年時点では既に暗殺されていたからだ。まさに事実は小説よりも奇なり。

 

総評

ハリソン・フォードの『 逃亡者 』的なアクションなど一切なし。非常に地味なドラマである。しかし、一人の人間の半生を通して、変わっていったものと変わらないものを同時に映し出すという試みは大いに成功している。爆弾テロは論外だが、反体制の闘士を生み出す土壌がかつての日本にはあったということは知るべきだろう。そしてその土壌から誤って芽吹いたのが参政党や日本保守党であることは憂慮していい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pseudonym

偽名の意。pseudoは疑似的な、を意味する接頭辞。nymは名前を意味する接尾辞。偽名と訳されるが、どちらかというとペンネームなどの仮の名前を指す語。一方で false name となると正に偽の名前で、これは犯罪や悪事の際に用いられる名前。これらをちゃんと区別できれば英検準1級以上だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 亀は意外と速く泳ぐ 』
『 渇愛 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 歴史, 毎熊克哉, 監督:高橋伴明, 配給会社:渋谷プロダクション

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