決戦は日曜日 70点
2022年1月15日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:窪田正孝 宮沢りえ 内田慈
監督:坂下雄一郎
『 ピンカートンに会いにいく 』の坂下雄一郎監督の作品。日本では珍しい政治風刺のブラック・コメディで、オリジナルものとしては『 記憶にございません! 』以来ではなかろうか。
あらすじ
国会議員・川島の秘書である谷村(窪田正孝)は、選挙間近というタイミングで当の川村が病気で倒れてしまう。陣営は川島の娘の有美(宮沢りえ)を後継に担ぎだすが、有美はとんでもなく浮世離れしていた。谷村は有美になんとか選挙活動をしてもらうべく奮闘するが・・・
ポジティブ・サイド
民自党というのは自民党のパロディであることは明らか。まあ、出るわ出るわの痛快風刺。冒頭のおんぶ政務官ネタに始まり、小学生レベルの漢字を読み間違える、求職者に対する「今まで何やってた?」発言、「子どもを産まない方が悪い」発言、そして「お年寄りが用水路に落ちて危ないというのは、お年寄りが落ちた用水路は危ない」といった進次郎構文などなど、笑ってはいけないのに笑ってしまうネタが満載である。特に漢字の各々を「かくかく」と読み続ける会見シーンのラストには思わず吹き出してしまった。
宮沢りえが天然ボケ的なキャラを見事に演じていて、確かにこんな政治家および政治家候補はいそうだなと感じた。その要因として、講演会のじいさん連中が挙げられる。Jovianは2004年頃に当時金融担当大臣だった伊藤達也を擁するチームと三鷹市民リーグで対戦したことがある(ちなみに三本間で転んだ大臣をショートJovianがホームで刺した)。大会後のバックネット裏で大会運営委員かつ三鷹や調布の顔であるM氏にしこたま説教され、平身低頭するばかりだった大臣を見たことも鮮明に覚えている。いつまでたっても政治家というのは後援会とは inseparable なのだ。
ところが世間知らずの有美は自分から後援会の爺さんたちを切り捨ててしまう。事務所の秘書連中も密かに「老害」と呼ぶお歴々なので、その瞬間は非常に爽快だ。が、好事魔多しと言おうか、以降の有美の講演会は閑古鳥が鳴くばかり。聴衆よりもスタッフの数の方が多いというありさま。このままではダメだということで秘書たる谷村が有美を諭していく。その様はまさに直言居士・・・なのだが、だんだんと進言ではなく誹謗中傷まがいの内容になっていく。このあたりも笑わせる。
かといって笑いばかりにフォーカスしているわけではない。非常にシリアスでダークな領域にも踏み込んでいく。倒れた川島に代わって、市議会議員や県会議員、地元の有力企業とのパイプ役を務める濱口(小市慢太郎)の存在感が抜群である。この人は『 下町ロケット 』の経理や『 るろうに剣心 京都大火編 』の川路役などの印象が強い。つまりは縁の下の力持ちがはまり役で、今作ではそれに加えて悪の秘書をも見事に体現。政治家のスキャンダルへの言い訳として「秘書が勝手にやった」は常套句だが、中には勝手に色々差配してしまう秘書もいるのかもしれないと思わされた。いわゆる「清須会議みたいこと」は、政治や選挙の世界では割と普通なのかもしれないと思わされた。ある意味で対極だったのが秘書の向井(音尾琢真)。川島議員のスキャンダルの泥をかぶる役を自ら買って出る。一昔前の政治家は、確かに秘書に汚れ役をさせて、代償として家族や親類縁者の面倒を看ることもあったらしい。そうした古き良き(?)政治をも垣間見せてくれた。
谷村も良識ある秘書と見せかけて、「やめてやる」という有美に懇切丁寧に脅迫的な言辞を弄して、選挙から撤退させないという鬼畜。しかし、その語り口や立ち居振る舞いにどこかコミカルさがあり、言っていることはメチャクチャだが、見ている分には面白いという不思議なシーンを生み出した。ある出来事をきっかけに、当選運動から落選運動に有美と共に転じていくが、切れ者・敏腕というオーラを出しつつも、なぜか逆に支持率が上がってしまうのは、予想通りとはいえ笑ってしまう。ここでも近年の現実の国際情勢ネタをぶっこんできており、ある意味でとても不謹慎な笑いを提供してくれる。
テレビがひっそりとあるニュースを報じる中で終幕となるが、これは選挙制度や政治家を嗤う作品ではなく、有権者そのものに向けた一種のブラック・ジョークであることが分かる。それが何を意味するかは劇場鑑賞されたし。
ネガティブ・サイド
谷村と有美の関わりには笑わせられること、そして考えさせられることが多かったが、他の秘書たちと有美がどう関わるのかも見てみたかった。
意図的に支持率を低下させたいというのは前代未聞で、それゆえにどんなアイデアが投入されているのかを楽しみにしていたが、ここは期待外れというか拍子抜けした。有美登場直前の事務所内で、「韓国と揉めて支持率が上がった時に解散していればなあ」と秘書同士で話すシーンがあり、嫌韓ネタ=支持率アップという認識があったはず。にもかかわらず、落選運動で「中韓が日本人の職を奪っている。排除せよ」と叫ぶのは矛盾している。本当に支持率を下げたいのなら、谷村が掴んでいた有美の脅迫ネタを使うか、暴力団とつながりがある、もしくはシルバー民主主義を徹底機に揶揄するような発言をさせるべきだった。そのうえで予想の斜め上の出来事のせいでなぜか支持率アップ、という流れにすべきだったと思う。
谷村が回心(≠改心)するきっかけとなるエピソードにリアリティがなかった。選挙の時だけに使うアイテムだと言うが、それこそ客人に振る舞ったりする機会がこれまでに幾度もあったはず。誰も何も感じなかったというのか。それとも選挙に関わる人間はすべて感覚がマヒしているというのか。うーむ・・・
総評
クスっと笑えて、ウームと考えさせられる映画である。苦みを残して終わるわけだが、もっと毒を盛り込んでも良かったのではないかと思う。それこそ麻生や安倍といった面々は、
世が世ならしょっ引かれていなければおかしいと思うJovianだからの感想だからかもしれないが。「神輿は軽くてパーがいい」と言われるが、その言葉の意味がよくよく分かる。今夏には参院選が行われる予定だが、本作はその舞台裏に思いを巡らすための良い材料になることだろう。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
run / stand
どちらも立候補する、の意味で使われる基本動詞。run = アメリカ英語、stand = イギリス英語である。使い方は以下の通り。
run in 選挙 / stand in 選挙
run for 役職 / stand for 役職
He’s decided to run in the next election.
彼は次の選挙に出ることを決めた。
I never thought Trump would run for presidency.
私はトランプが大統領選に出るとは全く思わなかった。
のように使う。今でも受験英語や大学のリメディアル英語のテキストでは run for 選挙 のような記述が見受けられるが、これは間違いである。