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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 フェアウェル 』 -生者必滅、会者定離-

Posted on 2020年10月4日2022年9月16日 by cool-jupiter

フェアウェル 75点
2020年10月2日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:オークワフィナ
監督:ルル・ワン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201004131326j:plain
 

『 オーシャンズ8 』や『 クレイジー・リッチ! 』などで存在感を発揮したオークワフィナの主演作。設定は陳腐だが、キャラクターの造形と文化背景の描写の巧みさで、良作に仕上がっている。

 

あらすじ

ニューヨークに暮らすビリー(オークワフィナ)は、中国の祖母ナイナイが末期がんで余命3か月と知らされる。親戚一同は最後に彼女と出会うためにビリーのいとこのフェイクの結婚披露宴を画策する。告知すべきと信じるビリーだが、中国には治らない病気については本人に告げないという伝統があるため、親族は反対する。そんな中、ビリー達とナイナイの最後に過ごす数日が始まり・・・

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ポジティブ・サイド

Based on an actual lie = 本当にあった嘘に基づく、というスーパーインポーズから始まるのはなかなか珍しい。普通は、Based on a true story = 実話に基づく、である。なかなか洒落が効いている。

 

いきなり小ネタを挟むが、中国の伝統医学は我々の常識、というよりも西洋医学的な常識とは異なっている。つまり、医者は人々に健康指導をすることで報酬をもらう。なので、人々がなんらかの病気に罹患してしまうと、それは医者としての職務に失敗したとみなされ、報酬を受け取れなくなる。人々がケガや病気になって、それを治療することで謝礼を受け取る西洋的・近代的な医療とは非常に対照的である。そうした予備知識を以って本作を鑑賞すれば、単なる告知問題を超えた、一種の東西文明論により深く入り込んでいけるはずである。

 

本作のテーマは、Is it wrong to tell a lie? =「嘘をつくことは間違っているのか?」である。これはJovianも大学の西洋哲学入門か何かで議論をしたことがあるし、看護学校でも「善行の原則」や「真実の原則」やらで、やはりディベートをしたことがある。個人的な結論は、「時と場合と相手による」である。本作で親族たちがナイナイにつく嘘はセーフなのか、アウトなのか。それは個々人が劇場で確かめるべきだろう。

 

アメリカで学芸員になることを目標にしながらもなかなか夢がかなわないビリーという人物の造形がリアルだ。オークワフィナの愁いを帯びた表情が真に迫っている。移民(実際の彼女はピーター・パーカー/スパイダーマンと同じく生粋のニューヨーカーだが)として、アメリカと中国、どちらにもルーツを持ち、どちらにもルーツを持っていないという背景が、祖母ナイナイとの別離を特別に難しいものにしている。そのことが痛いほどに伝わって来る。

 

その祖母ナイナイの貫禄とコミカルさは、亡くなった祖母を思い起こさせた。孫の結婚式のあれこれに口を出し、家の中での食事ではあれこれと指図し、祖父の墓参りでは「いやいや、なんぼ星になったいうても、平凡な一般人の祖父ちゃんにそこまでの願い事を叶える力はないやろ」と思わせるほどの願い=親族の幸福を祈る様は、まるでうちの母が他の祖母そっくり。東北アジア人というのはそれぞれに全然違う民族のはずだが、文化的・精神風土的な根っこは同じか、極めて近いのだろう。

 

親族の結婚式を前に、親戚が一堂に会して食卓を囲む。そんなシーンの連続であるにもかかわらず、本作にはドラマがある。それはナイナイに確実に忍び寄る病魔と、そのことをほとんど感じさせないナイナイの健啖家ぶりと矍鑠とした立ち居振る舞いのギャップによるものだ。ある意味でディアスポラ=離散家族であるビリーの親族は、皆それぞれに複雑な背景を持っている。だが、共通していることは、ナイナイがいなければ彼ら彼女は誰一人としてこの世に誕生しなかったということである。言葉にできない感情。しかし、それが言葉になる時、人はこのようになるのかというスピーチのシーンには感涙してしまった。また、ビリーが母との言い争いで、祖母に寄せる思いを溢れ出させるシーンには胸がつぶれた。陳腐なドラマであるはずなのに、心が震わされる。本作は観る者の肉親の情の濃さを測るリトマス試験紙のようだ。

 

ネガティブ・サイド

一部の肉親以外のキャラの作り方が粗雑である。ナイナイの同居人の高齢男性は、最後に何か活躍するだろうと思ったが、何もなし。何だったのだ、このキャラは。

 

フェイク結婚披露宴の新婦であるアイコの扱いも酷い。確かに日本人は感情の表出がヘタであるが、感情を出さないからといって感情が無いわけではない。もう少しアイコをhumanizeするためのシーンが必要だったと思う。

 

いくつかのシーンに医学的な矛盾が見られる。まず、序盤でナイナイが受けていたのはMRI検査(音がドンドンガンガンしていた)で、大叔母さんの言う「CT検査」ではない。肺がんであれば、圧倒的にCT適応で、MRI適応ではないはずだ。このことは肺以外への転移を強く示唆している。したがって、・・・おっと、これ以上は言ってはいけないんだった。

 

総評

文化の違いはあれど、人の死、それも身近な人、血のつながりのある人との別れを悼む気持ちは普遍的なものだろう。そうした部分を直視した本作は、洋の東西や時代を問わず、広く観られるべきである。これまではチョイ役でしかなかったオークワフィナの、とてもヒューマンなところが見られる。本作は彼女の代表作にして出世作になることは間違いない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

bid farewell to ~

「~に別れを告げる」の意。かなり格式ばった表現で、カジュアルな話し言葉ではめったに使わない。最近のニュースでは“Microsoft will officially bid farewell to its web browser Internet Explorer 11 in 2021”(マイクロソフト、2021年に自社のウェブブラウザ、インターネット・エクスプローラーに正式に別れを告げる)というものがあった。生まれたからには必ず死ぬし、出会ったものには必ず別れの時が来る。そんな御別れの表現である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, オークワフィナ, ヒューマンドラマ, 監督:ルル・ワン, 配給会社:ショウゲート

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