長安のライチ 75点
2026年1月22日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:ダー・ポン
監督:ダー・ポン
『 熱烈 』のダー・ポン監督が主演かつ監督だと知り、チケット購入。

あらすじ
算術を得意とする下級官吏の李善徳(ダー・ポン)は、愛妾・楊貴妃のために生のライチを5000里の彼方から届けよという勅令を受ける。失敗すれば命がないと覚悟しつつ、李善徳は妻子を長安に残し、嶺南の地に向かって旅立つが・・・

ポジティブ・サイド
中国の官僚のストーリーながら、そこには現代のサラリーマンの悲哀ものぞく。『 プーと大人になった僕 』さながらに、上からの命令に従わざるを得ない李善徳に己を重ね合わせてみる者は多いだろう。それがさらに陰謀の一環であったとしたら・・・まさに kiss ass を怠ったサラリーマン。すまじきものは宮仕えか。
嶺南の地で出会うライチ農家や商人たちとの友情が見逃せない。特に商人と役人の友情という点で、善徳と蘇諒の奇妙な関係は『 工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 』のパク・ソギョンとリ所長の関係を彷彿とさせた。
数学者として論理的に経路を構築し、距離と速度と時間を計算し、それらを表の形にしていく。ガントチャートみたいなもので、サラリーマンならこれもお馴染みだろう。それを見た蘇諒が「真似してもいいか?」と尋ねるのは学習と成長への意欲の表れで、この姿勢が後々に効いてくる。
しかし善徳を取り巻く人々の中で最も印象的なのは元奴隷の邑奴だろう。主体性を持たず、言われるがままを行う。そんな男に「長安に来るかどうかは自分で決めればよい」と伝える善徳。突き放しているようで違う。官僚として皇帝の命令には絶対服従な自分とのコントラストを見出したのだろう。邑奴の生き様は感動的ですらあった。
最後に長安にたどり着いた善徳はサラリーマンではなく、現代中国の庶民のシンボルだった。彼の叫びは古今東西を問わず、多くの人々の心に突き刺さる。これが中国政府当局の検閲を潜り抜けたのが驚き。中国政府当局もこうした形でなら、権力批判を許してくれるのか。帝国主義的な姿勢を隠さない中国だが、内部的には葛藤があるのかもしれない。

ネガティブ・サイド
字幕で何度か住宅ローンという言葉が出てくるが、ライチやバナナはまだしもローンなどという外来語を唐代中国を舞台にした映画で採用するか?
阿僮と善徳の友情、絆が醸成されていく様子をもう少し映し出してほしかった。
杜甫や安禄山を出す必要はあったのだろうか。杜甫といえば「国破れて山河在り」で、今はちょうど受験シーズン。安禄山という名前で色々と思い出す人もいるだろう。
総評
歴史ものとしてもヒューマンドラマとしても文句なしに面白い。李善徳およびライチ運搬が史実かどうかについて興味がある向きは、こちらの英語記事が非常に読みごたえがあるので、英検2級以上、英検準1級未満の英語力で読めるのでチャレンジしてみてほしい。デレク・ツァンに続いて、非常に楽しみなタレントが出てきた。ダー・ポンの名前はぜひ覚えておこう。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
red tape
繁文縟礼の意。といっても、これで意味が通じれば古文・漢文にかなり通じている人である。意味は「形式的かつ煩雑な手続き」のこと。役所に行ったりすると、場合によっては2枚の書類に4回住所や氏名を書かされたりするが、それこそ繁文縟礼の典型だ。英語ではこれをred tapeと言い、I hate having to deal with red tape every time I come to city hall. のように使う。
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