ナイトフラワー 70点
2025年12月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:北川景子 森田望智
監督:内田英治
アングラな雰囲気に惹かれ、チケット購入。

あらすじ
シングルマザーの夏希(北川景子)はバイトを掛け持ちするも生活に困窮。ある夜、違法薬物の売人から偶然に薬物を手に入れた夏希はそれを一万円で売ってしまう。そして、ふとしたことから知り合った格闘家の多摩恵(森田望智)と共に薬物の売人になることを決意して・・・

ポジティブ・サイド
シングルマザーの貧困率が5割だと報じられて久しい。そして(主に)元夫側の養育費未払い率も統計によっては9割に達するという。2024年に法改正され、今年2025年から養育費の未払い・不払いには強制執行がなされるようになったのは、蓋し良い変化だろう。しかし、本作の夏希の夫は逃げた。つまり書類上は夫婦のまま。これでは養育費は取れない。本作はそんな夏希の窮状と子育てのストレスを序盤から存分に見せつける。同じシングルマザーでも『 レッドシューズ 』とはそこが違った。
本作の一つのテーマに、貧困家庭と恵まれた家庭、そしてそうした家庭の親と子の関係性の対比がある。貧しい家の子がなんらかの才能に秀でていても、それを伸ばせる環境を与えるには結局財力がものを言う。芸術でも格闘技でもおなじこと。この世は結局カネなのか。本作はそれに対して明確にYesと答えつつも、カネでは決して得られないものがあることも鮮烈に描き出す。『 ヤクザと家族 THE FAMILY 』では現代に昭和的なヤクザの家族観をある意味で復活させたのが新鮮だったが、そうした価値観が普通の人々にまで及んできている、新しい形の連帯が望まれている、あるいは生まれていることを活写したのは本作の貢献の一つ。
メインのキャラクターの背景を掘り下げず、観る側の想像に委ねるのは吉と出れば凶と出ることもある。本作は吉。たとえば夏希が高校中退なのは何故か。明確な答えはない。ただし妊娠・出産のために中退したわけではない(年齢的に合わない)ことは分かるし、おそらく『 愛されなくても別に 』の宮田の母的な母親に育てられたであろうことは、実家に頼れないことからも想像がつく。そしてスーパーで働けば日用品や食品が従業員割引で買えることも知らない、つまりそんなバイト経験を持つ同級生や知り合い(地域の気の良いおばちゃんなど)とのつながりも持てなかったことが分かる。
そうした想像力を働かせることで、田中麗奈演じるもう一人の母親の心理が逆に手に取るようにわかる。非常に抑制された演技が、逆に過剰に見えるほどだった。このあたりの演出はさすがだと感じた。
自分および家族の幸せのためなら他者を不幸にすることを厭わないのは罪なのか。他者を不幸にする者は、別の他者によって不幸にされても文句は言えないのだろうか。そうしてまで追い求める幸福は現実なのか、それとも薬物が生み出す多幸感同様に虚構なのか。答えは月下美人のみぞ知る・・・
ネガティブ・サイド
母性をテーマにするのは結構だが、内田監督自身が一種のバイアスを今でもかなり引きずっているのだろうか。母性を婉曲的にではあるが、神話的に扱っているのはどうかと思う。ドラッグ製造と密売のボス的存在が「母親がまともなら自分はこうはならなかった」的に述懐するのは興ざめ。裏を返せば母親のせいで犯罪者になったと言っているのに等しく、それはもう母原病と同じで根拠がない、ただの難癖だ。
そんなボス的存在が素人の夏希にアジトの場所や顔を晒す?迂闊すぎるやろ・・・
田中麗奈演じる母親も、普通は探偵に調査プラス救出、または自分をそこに連れていってほしいと依頼するのが筋。渋川清彦演じる探偵も、なんでその写真をチョイスするのか。ホンマに元警察かいな・・・
総評
公開からしばらく経つのに劇場の入りはなかなか。ほとんどが女性で、10代はゼロ、20代はまばら、30~60代が大勢を占めていた。男性客は非常に少ない。それだけ本作および本作のレビューが訴えかける層がはっきりしているのだろう。社会の不条理と様々な母性を映し出す佳作であることは間違いない。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
protect
多摩恵が夏希に言う「守ってやるよ」を英訳すると、I’ll protect you. となる。守るには、defendやguardなどの似た動詞があるが、protectは危険から守る、defendは攻撃から守る、guardは安全のために守るということ。野球の捕手や主審がプロテクターをつけるのは投球や打球が危ないから、サッカーやバスケのディフェンスは敵の攻撃に対する守備、ガードレールは交通安全ためにある、という感じで覚えよう。
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