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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 本心 』 -サブプロットを減らすべし-

Posted on 2024年11月16日 by cool-jupiter

本心 50点
2024年11月10日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:池松壮亮 田中裕子 三吉彩花 妻夫木聡
監督:石井裕也

 

AIとVRの組み合わせという、まさに今の仕事に近い領域のストーリーだと思い、チケット購入。

あらすじ

石川朔也(池松壮亮)は入水自殺しようとする母・秋子(田中裕子)を追って川に入ったことから昏睡状態に。一年後に目を覚ますも、母は自由死を選択していたことを知る。世界は様変わりしており、朔也はリアル・アバターとして働き始める。ある時、母のVirtual Figureを作れると知った朔也だが・・・



ポジティブ・サイド

人工知能やVR技術が徐々に一般に浸透してきている。企業がRAGを使って、顧客対応botを作ったり、あるいは自社マニュアル参照インターフェースをAIボットにすることも珍しくなくなった。すでに中国やアメリカでは、本作で描かれているようなサービスもあるという記事も目にした。原作小説は2021年に初版、ということは平野啓一郎は2018~2019年代にはかなり具体的な本作の構想を練っていたものと思われる。2018年はGPT元年と歴史家に認定されるだろうと予測されているが、平野の作家として炯眼を持っていると言わざるを得ない。

 

特にVF制作会社CEOの妻夫木の演技が際立って上手い。目線、ちょっとした表情、佇まいに底知れなさを感じさせ、まったく「本心」が見えない。『 ある男 』では抑制されていた内面が、本作では非常にうまく押し殺されているがゆえに、かえってそれに気づく。しかし、その中身までは見透かせないという絶妙なバランスの演技だったように感じた。

 

『 PLAN75 』と似たような世界観が構築されている点でも原作者の眼力が目立つ。先の衆議院選挙で国民民主党が大躍進したが、その当主の玉木雄一郎は増大する一方の医療費削減のために尊厳死を提唱していた。スキャンダルでどうなるのか分からないが、一定数の国民が自由死を望む未来はあってもおかしくない。

 

リアル・アバターという職業も、技術の過渡期には存在してもおかしくない。実際にUber Eats的なサービス供給網と、YouTubeやFacebookなどのリアル配信技術とVRさえあれば可能そう(セキュリティはひとまず考えないものとする)だし、Jovianもコロナ中に妻とZoomでタージ・マハルのツアーに参加したことがある。同時通訳の技術も上がってきた今、国内よりも海外に需要がありそうなサービスで、十分にリアリティを感じた。

ネガティブ・サイド

ストーリー周辺はリアルだったが、肝心のストーリーがリアルではなかった。というよりもリアルである必要はなかったのに、リアルにしようと詰め込んで失敗したという感じか。サブ・プロットが多すぎると感じた。

 

幼馴染みかつ工場でもリアルアバターでも同じ同僚の男はいらない。社会の格差が広がっていくにつれ、人間と人間の関係もギスギスしたものになることを訴えたいのだろうが、本物の人間以上に人間らしいVFを作る、そしてそのVFと交流することが話の本筋であるべきで、社会の変化、人間の変化はもっとさりげなく描写するだけでよかった。

 

イッフィーさんというキャラクターも不要というか蛇足だった。おそらくアバターを使って告白するという行為の不自然さを訴えたいのだろうが、それがいかに野暮であるかを朔也に直に語らせてどうするのか。そういうことは、それこそ観ている者の想像に訴えるべきだ。『 ゴジラ-1.0 』でも佐々木蔵之介が「これからの日本はお前らに任せたぜ」と言葉にしてしまっていたが、そういうことは表情で訴えるだけでいい。なんでもかんでも言葉で説明するのは文芸の手法。いくら原作が小説だからといって、映画にまで文芸の技法を持ち込む必要はない。

 

序盤の綾野剛役のVFや、それと交流する生身の人間をもう少し映し出してほしかった。特にVFが持つ死の意識は非常に示唆的で「受動意識仮説」を思わせるものだった。母が死を選んだ理由が知りたいのなら、VFが持つ死の観念を開陳してほしいと願うのは求めすぎではないだろう。

 

個人的に最も見たかったのは、VF同士が相手をVFだと認識しないままにコミュニケーションするシーンと、それを生身の人間が目撃した際に感じるだろうグロテスクさ、あるいはそれがVFだと気付けないことに対するグロテスクさを体験してみたかったが・・・

 

総評

結論、親の心子知らず。触れ合えない対象に答えを求めるのではなく、触れ合える相手を求めようという、ありきたりな教訓ドラマだった。ヒューマンドラマは畢竟、人間とは何か、人間とはどうあるべきかを追究する試みで、テーマ自体はどれも陳腐。すべては見せ方なのだ。本作はその意味で見せ方がとにかく稚拙だ。石井監督の「語りたい」欲求が強く出過ぎた作品と言える。まあ、それも結局は波長が合うかどうかだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

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今でこそアバターは普通の言葉になったが、映画『 アバター 』の頃は意味を知っている人はほとんどいなかったと記憶している。本来は「化身」という意味でヒンドゥー教や仏教の概念。劇中でVirtual Figure(架空人形)とされたものがAction Figure(可動人形)との対比になっていると思えば、リアル・アバターという用語にもリアリティが感じられる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ヴェノム:ザ・ラスト・ダンス 』
『 オアシス 』
『 シングル・イン・ソウル 』

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, D Rank, ヒューマンドラマ, 三吉彩花, 妻夫木聡, 日本, 池松壮亮, 田中裕子, 監督:石井裕也, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオ

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