ウェディング・ハイ 60点
2022年3月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:篠原涼子 中村倫也 関水渚
監督:大九明子
『 町田くんの世界 』でJovianの心を射抜いた関水渚の出演作、さらに『 勝手にふるえてろ 』や『 私をくいとめて 』の大九明子の監督作ということでチケットを購入しない理由はなかった。
あらすじ
石川彰人(中村倫也)と新田遥(関水渚)の二人は、ウェディング・プランナーの中越真帆(篠原涼子)と共に結婚式と披露宴を計画する。しかし、式の当日、招待客たちの思いがけぬあいさつやスピーチなどで進行は大混乱。果たして中越は、新郎新婦の期待に応えて、全ての参列者たちに満足してもらえる式を実現できるのか・・・
ポジティブ・サイド
結婚式そのものがテーマという映画はパッと思いつかない。『 マンマ・ミーア! 』も、結婚式というよりは、結婚式に至るまでの過程のストーリーが主眼である。式の中身で魅せる映画は希少価値があるのではないだろうか。
本作は特に若い、未婚の男性にとって良い教材となるだろう。序盤で彰人が結婚式の中身や引き出物などを遥と一緒に決めていくわけであるが、そこで見せる「めんどくさいけど、めんどくささを見せないようにする」という演技には、男性の結婚式経験者の95%が共感できるはずだ。若き女性たちよ、男性がウェディング・プランを練る際にあれやこれやと発話しているのは、ほとんど全部演技である。「真面目に考えてよ!」などと思ったり口にしたりすることなかれ。若き男性たちよ、演技力を磨くべし。こうした場面で意中の女性の心が離れてしまうことほど人生の中で大きな損失はないのである。
結婚式にやってくる面々も非常に濃くてよい。Jovian自身は非常に簡素な結婚式および披露宴を行ったが、だからと言ってスピーチや余興で大いに盛り上がる結婚式も決して否定はしない。そうした場の盛り上がりを楽しんだこともあるし、先輩や友人の結婚式で、それこそ『 くれなずめ 』並み、あるいはそれ以上の余興に加担したこともあるのだ。そこにある想いは一つ、人生に(おそらく)一回しかない機会を memorable なものにしたい、というものだけである。本作の登場人物たちも、ほとんど全員が悪意など持っていない。ただ、ひたすらに自分の熱い思いを吐き出しているに過ぎない。
そうはいっても、式場は貸し切りというわけではない。次の結婚式や披露宴の予定も当然にあるわけで、善意の行動だからといって結果的に他人に迷惑をかけて良いわけではない。そこでプランナーである中越の奮闘が始まるわけであるが、ここはなかなか見応えがあった。日本企業の多くは社是やら何やらに「創意工夫」なる四文字熟語を使いたがるが、本当にそれができている企業は少数であろう。中越は、しかし、その創意工夫を次々に実践していく。あまり書いてしまうとネタバレになるが、料理の時間短縮のところでは「ほう」と唸らされた。Jovian自身も披露宴の際に「皿が空いた人から順に次の料理を出してください」とお願いし、快く引き受けてもらったことがあるが、こうしたオペレーションというのは実は結構大変なことなのだ。これをちょっとした知恵と工夫で乗り越えていく様は爽快感があった。
終盤近くの関水渚の両親への手紙の朗読が、まんまJovian妻の結婚式での手紙の朗読と内容がまるかぶりで、苦笑しながらも感じ入ってしまった。同じように感じる男性は多いのではないだろうか。
ネガティブ・サイド
主人公が分かりにくい。ウェディング・プランナーの篠原涼子が主人公で、中村倫也と関水渚の夫婦が準主役かと思ったが、ドタバタ群像劇だった。例えは悪いが、珍作『 ギャラクシー街道 』のようなちぐはぐさというか、アンバランスさを感じた。
ペースにも大いに難ありだった。多士済済の披露宴であるが、物語の前半に登場してくるキャラクターの背景は割と丁寧に描かれる一方で、物語の後半のキャラについてはおざなりな印象を受ける。序盤、中盤、終盤に隙がない・・・ではなく、序盤、中盤、終盤でテンポがガラリと異なる。もちろん変奏曲的な構成が効果的なこともあるが、本作の、特に終盤では失敗だった。
伏線回収が光るという評もあるようだが、これは別に伏線でも何でもなく、単なる前振りだである。この展開に度肝を抜かれるようなら、まずは普通のミステリを10冊ほど読んでみたらよい。綾辻行人、米澤穂信、湊かなえあたりが良いだろう。
その終盤の展開も長いし、くどい。さらに下ネタを使ってくる。下ネタは否定しない。だが、演技者の岩田がどうにも振り切れていない。『 町田くんの世界 』では良い感じにダメ男だったのに、本作ではいつものイケメン気取りが足を引っ張って、ダメ男になりきれていなかった。
総評
Jovianは民放テレビには疎いので、バカリズムが何なのか良く分からない。『 地獄の花園 』は珍品にしか見えないが、いつかチェックしてみるか。色々と課題を残す作品ではあるが、老若男女問わず勧められる点では良作だろう。『 喜劇 愛妻物語 』などはかなり観る人を選ぶ作品だったが、本作はそれこそ高校生ぐらいからシニアのカップルまで、非常に楽しく鑑賞できるはずだ。ぜひパートナーと共に劇場で鑑賞されたい。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
Speak now, or forever hold your peace.
「声を上げるならば今である、さもなければ永久に黙っていなさい」の意。牧師(プロテスタント)あるいは神父(カトリック)が結婚式の際に使う口上。要は、「この結婚に意義があるなら、申し出よ」ということ。一昔前、COCO塾のCMで Speak now を実践するCMがあった。興味がある人は観てみよう。