リトル・シングス 50点
2022年2月8日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:デンゼル・ワシントン ラミ・マレック ジャレッド・レト
監督:ジョン・リー・ハンコック
『 ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ 』のジョン・リー・ハンコックの監督作にして、『 ボヘミアン・ラプソディ 』でスターの仲間入りを果たしたラミ・マレック、大御所デンゼル・ワシントン、超実力派ジャレッド・レトのそろい踏み。しかし、サスペンスもミステリも中途半端だった。
あらすじ
保安官代理のディーコン(デンゼル・ワシントン)は、古巣のLAに出張するが、そこで連続殺人事件の捜査に加わることになる。捜査の陣頭に立つバクスター(ラミ・マレック)は、厄介者扱いされるディーコンの力量を認め、良きパートナーになっていく。そして、容疑者としてスパルマ(ジャレッド・レト)が浮上してくるが・・・
ポジティブ・サイド
デンゼル・ワシントンの好演が光る。2010年代以降では絶滅危惧種、あるいは絶滅種になってしまったであろう古いタイプの警察。ハイテクや高度な犯罪心理学の知識ではなく、自らの観察眼と直感に忠実な、ある意味で極めて日本的な警察とも言える。そういう意味では、非常に感情移入しやすいキャラクターだった。落ち着いた物腰の中に垣間見えるハンターの目が印象的で、今後は中年以降のクリント・イーストウッドのように、アクションではなく、オーラで役者をやっていくのだろう。
相棒となるラミ・マレックも正義の執行に執念を燃やすタイプの刑事で、敏腕ではあるが、いわゆる鼻持ちならないインテリの刑事ではない。なので、こちらのキャラクターの思考や心情も、観ている側に伝わりやすいし、マレック自身の目線の演技がさらにそれを助けている。ラストで見せる非常に虚ろな目が特に味わい深い。
ジャレッド・レトはいつ見ても普通ではない役を演じていて、きっと本人もノリノリなのだろう。サイコパス的な不気味さと犯罪・警察マニアという皮相さが絶妙にブレンドされて、限りなく怪しいけれど、しかしマニアが調子こいているだけかもしれないという、gray area を極めて強く印象付ける。こういう虚々実々の役作りにおいては、存命俳優の中ではトップクラスだろう。クライマックスでラミ・マレックと対峙した時、徐々に力関係が逆転していく様子は見応えがあった。
捜査の過程で事件の謎だけではなく、ディーコン自身がLAで厄介者になってしまった経緯も徐々に明らかになっていく。そして今回の事件の真相(と言っていいのかどうか・・・)を知ることで、原題の The Little Things が巧妙なダブルミーニングになっていることに気付く。ステイホームの週末の時間つぶしにちょうどいい作品かもしれない。
ネガティブ・サイド
何というか、脚本に力がない。『 セブン 』や『 羊たちの沈黙 』、『 チェイサー 』や『 殺人の追憶 』のようなサスペンスを生み出すポテンシャルがありながら、その可能性を追求せず、スターをキャスティングすることで満足してしまったように思える。
冒頭、不穏さが充満するクルマの追走シーンで、殺人の過程を描かないのは別に構わない。匂わせるだけの方が効果的な場合もあるからだ。ただ、本作はあまりにも匂わせるだけのシーンが多すぎる。『 セブン 』にあったような陰惨極まりない事件現場や、『 羊たちの沈黙 』で描かれたような残虐シーンがない。ディークとバクスターが犯人を追いかけていく様には『 チェイサー 』のキム・ユンソクのような執念が感じられなかった。特にバクスターの方は、何が彼をそこまで駆り立てるのかについての描写が明らかに不足していた。単なる正義感では説明がつかないし、信仰心でも答えにならない。バクスターの背景が見えてこないことが、ディークと彼のバディ同士としてのバランスが上手く取れていないように映る主要因だったと感じる。
この何ともモヤモヤする感じのクライマックスの展開は、悪いとは言わないが、少々物足りない。この容疑者が本当に犯人なのか、それとも犯人ではないのかというモヤモヤ感を楽しむ分野の作品には『 殺人の追憶 』といった傑作があるので、どうしても比較対象になってしまう。
本作の脚本上の弱点は、テーマがぼやけてしまっている点にあると思う。The Little things = 小さなこと(それは時に文字通りの小物であったり、あるいはちょっとした言動だったりする)へのフォーカスが弱い。どちらかというと、警察が職務外でもどれだけ警察官たりえるのか、あるいは警察がその私人性を突かれた時にどれだけ警察でいられるのか、といったテーマの方が色濃くにじみ出ていた。そういった意味でも『 セブン 』や『 殺人の追憶 』といった先行作品に大きく水をあけられていると感じた。
それにしてもラミ・マレックの相棒がジョー・ディーコンというのは笑ってしまう。脚本家またはプロデューサーがQueenのファンなのだろうか。
総評
事件そのものに謎やサスペンスを生み出す力は弱いが、逆に言えばあまりにも陰鬱かつ残虐な映画は勘弁・・・という向きに合っているのかもしれない。主演の3人の演技合戦を素直に楽しむべきなのだろう。デンゼル・ワシントンのファンならば、ディークの存在感と人間臭さを堪能するために、観ておいて損はない。
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「出世街道に乗る」の意。Jovianも初めて聞いた表現だが、これは色々な場面で使えそうに思える。ひとまず自分の職場のネイティブ連中相手に使ってみようと思う。