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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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月: 2020年9月

『 幸せへのまわり道 』 -壊れた人間の再生物語-

Posted on 2020年9月9日2021年1月22日 by cool-jupiter

幸せへのまわり道 70点
2020年9月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:トム・ハンクス マシュー・リス
監督:マリエル・ヘラー

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タイトルだけ目にしてチケットを買った。あらすじは英語で少し読んだだけ。予備知識を一切持たずに鑑賞したが、存外に楽しむことができた。

 

あらすじ

ロイド・ボーゲル(マシュー・リス)は辛辣で知られる記者。ある時、子ども向け番組のホスト、フレッド・ロジャース(トム・ハンクス)を取材することになったロイドは、フレッドに逆にインタビューをされてしまう。そして、向き合ってこなかった父への負の感情を露わにされてしまう。だが、そこからロイドとフレッドの奇妙な縁が始まり・・・

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ポジティブ・サイド

冒頭の番組開始のシーンから圧巻のパフォーマンスである。スタジオのセットで踊って歌うトム・ハンクスがゆっくりと腰掛け、視聴者=映画の鑑賞者にゆっくりと語りかける。そして、厚紙細工の家の扉を開けてロイドを紹介する一連のシークエンスはインパクト絶大。あらすじをほとんど知らない状態で観たこともあって、一気に映画世界に引きずり込まれた。

 

ロイドとその妻アンドレア、そして最近になって生まれた赤ん坊と、ロイドは家庭もキャリアも順調だったが、気鋭のジャーナリストがどういうわけか子ども番組のホストを取材するようになるまでの流れもスピーディーだが、荒っぽくはない。順調に見えるロイドも、辛辣な人物評が芳しくない評価を生んでいる。人にきつくあたる人間は往々にして何らかの心の闇を抱えている。そのことを観る側に予感させつつ、フレッドとロイドの邂逅をある意味でとてもまわりくどく、なおかつ直截的に描くヘラー監督。これはなかなかの手練れである。

 

トム・ハンクスの卓越した演技力というか、ソフトな物腰にソフトな語り口で、しかし透徹した視力と言おうか、一気に目の前の人間の本質を鋭く見抜く眼光炯々たる様には圧倒される。インタビューするロイドを遮り、一気に核心を突く質問を発するところには、ヒューマンドラマとは思えないサスペンスがあった。ここから思いがけない友情めいた関係がスタートするのだが、この最悪の出会いから何がどう芽生えるのか。袖振り合うも多生の縁というが、その絶妙な仕掛け、人との出会いを特別に大事にするフレッドの秘密を知りたい人はぜひ観よう。

 

本作のテーマの一つは、怒りの感情のコントロール、それとの付き合い方である。息子が父を憎むというのはよくある話で、男は誰でも程度の差こそあれ、エディプス・コンプレックスの罹患者であり、(文学的な意味での)父殺しを企図しているものだ(父親と腕相撲して勝ったり、父親のクルマを「代わりに運転してくれ」と頼まれたりetc)。父親を許すとができないロイドに、フレッドがレストランで提案するルーティンのシーンは圧倒的な臨場感である。スクリーンのこちら側の我々にも参加しろと言っているのだ。そしてこれこそがヘラー監督の発したいメッセージでもあったのだろう。

 

聖人のごときフレッド・ロジャースが最後に見せる人間味(いや、音と言うべきか)も味わい深い。一人に備わらんことを求むるなかれ。怒りを遷さず、過ちを弐びせず。アメリカ人の物語であるが、東洋人の我々の心にも十分に響く名作である。

 

ネガティブ・サイド 

ロイドと父の和解がやや唐突過ぎるように感じた。姉の結婚式(毎夏の恒例行事らしいが)で息子が父をぶん殴るという事件を起こす割には、父を許すのが早すぎる。もちろん、ミスター・ロジャースのカリスマ性もあるのだろうが、ロイドは小市民の代表選手なのだ。『 母が亡くなった時、僕は遺骨を食べたいと思った。 』で松下奈緒が安田顕を一喝したようなシーンがもう一つ二つ欲しかった。

 

ミスター・ロジャースはアメリカでは知名度抜群とのことだが、ロイド自身の幼少~青年期を振り返るシーン、あるいはレストラン以外でロイドが自身の過去を回想し、そこでのロジャースの言葉に思いを致すようなシーンは撮らなかったのだろうか。撮ったものの編集でカットされたのだろうか。フレッドとロイドの私的な交流に重きを置いている割には深みがなかったのは、上述のようなシーンが欠けていたからだろう。

 

本作はシーンとシーンのつなぎ目にジオラマの街並みが挿入される。ユニークな試みだと思うが、なにか前後のシーンまでが作り物のように感じられた。これは映画媒体のformを評価ではなく個人的な好き嫌いか。

 

総評

予備知識なしで観るのが正解だろう。というか、日本で事前のリサーチなしにミスター・ロジャースを知っているというのは相当のアメリカ通か、帰国子女あるいは現地赴任帰りだろう。けれど心配無用。事前の知識は一切不要。あまりにも典型的な父と息子の確執と和解の物語であるが、そこには思いのほか豊かな奥行きがある。そして彼らの物語がいつしか我が事のように感じられてくる。家族や友人と鑑賞してもよいが、おそらくこれは一人で観るべき映画である。その方がきっとより真価を味わえるから。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン 

a four-letter word

 

劇中では“Fame is a four-letter word.”というように使われていた。「有名(ゆうめい)というのは4文字言葉に過ぎない」という意味だが、この表現はしばしばsh*tやda*nやcr*pやh*llなどの卑罵語を指すことが多い。このあたりのスラングとされる表現を社会的に正しい文脈で使えることができれば、英会話スクールは卒業である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, トム・ハンクス, ヒューマンドラマ, マシュー・リス, 伝記, 監督:マリエル・ヘラー, 配給会社:イオンエンターテイメントLeave a Comment on 『 幸せへのまわり道 』 -壊れた人間の再生物語-

『 ジェイン・オースティン 秘められた恋 』 -社会的属性から偏見を取り除くべし-

Posted on 2020年9月7日 by cool-jupiter

ジェイン・オースティン 秘められた恋 70点
2020年9月5日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:アン・ハサウェイ ジェームズ・マカヴォイ
監督:ジュリアン・ジャロルド

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商業柄、TOEFL iBTという英語の資格検定を教えることがある。そこで、出てくることがあるのがJane Austen。Official Guidebookにも出てくる。オースティンは一般には『 高慢と偏見 』の作者として知られているのだろう。彼女は『 メアリーの総て 』のメアリー・シェリーよりもさらに一世代前の人物で、まさに女性小説家の始祖の一人と言える。

 

あらすじ 

イギリスはハンプシャーの貧農家に生まれ育ったジェイン(アン・ハサウェイ)。両親は彼女を裕福な名士と結婚させたがっていた。だが、ジェインは財産ではなく愛を結婚に求めていた。良家との縁談も断ってしまうジェインだったが、法律家の卵であるトーマス・ルフロイ(ジェームズ・マカヴォイ)と出会い・・・

 

ポジティブ・サイド

何よりも目立ったのアメリカ人であるアン・ハサウェイがBritish Englishを流暢に操ること。一般的には『 ブレス しあわせの呼吸 』のアンドリュー・ガーフィールドのように、アメリカ人が英国風の英語を話すのは結構骨が折れる。その逆はそうでもない。アメリカ英語を使いこなす英国人やオーストラリア人の俳優は多い。その意味でアン・ハサウェイの演技は際立つ。また、目の大きさが特徴でもあるハサウェイは、その目の演技でも光っていた。初対面のルフロイから得た最悪の第一印象。朗読会の後に、ルフロイに生まれた静かな怒りの炎がその目の奥で燃え盛り始める瞬間の演技はベテラン女優の風格。当時のハサウェイは20代のはずだが、これは凄いと素直に感じられた。

 

対するはジェームズ・マカヴォイ。Jovianが世界で最も実力を評価している俳優である。常に自信満々で、弁が立つ。まさに法律家の卵という感じだが、その根底には男らしさがある。登場早々にボクシングをしているが、その拳闘の腕を力自慢のためではなく自らが信じる正義のために振るう、つまり自らの信念に準じて行動する様は見ていて気持ちがよい。一方で、どれほど頭脳明晰であろうと男はこと色事に本気になるとアホになるという、男の真理も体現している。

 

この主役二人に共通するのは、時代という抗いようのない外形的な圧力を受けながらも、心の中にはしっかりと個人を持っているところである。過剰とも思えるほどに会釈を繰り返すのは、それがマナーであり社会のコードであるからだが、一方でそうしたしきたりめいたものに抗おうとするのは、まさに地域や時代は違えど、ロミオとジュリエット的である。つまり、観る者の胸を打つ。

 

印象に残るのは舞踏会。反目しながらも惹かれ合いつつあるジェインとトムが踊りながら言葉を交わすシーンは大勢の人間に囲まれているにもかかわらず、とてもロマンチックだ。『 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 』のレイ・とベン・ソロのような関係を作る、つまり自分たちだけの時空に没入してコミュニケーションを取っているからだ。ロミオとジュリエットよろしく、駆け落ちをしようとするも上手くいかない二人の姿に、言いようのないもどかしさを抱くが、それが時代や社会の違いなのか、それとも自分自身の感性によるものなのかは観る人によって異なるだろう。また男女でもこのあたりの感想は異なって来ると思われる。時間があればRotten Tomatoesあたりのレビューを渉猟してみたい。

 

ラストも泣かせる。『 僕の好きな女の子 』の加藤ではないが、男は自身の恋愛を「名前を付けて保存」する生き物である。そのことを何よりも雄弁に物語るエンディングに、心揺さぶられずにいられようか。このシーンは他の意味でも特に印象的だ。邦画の世界も、メイクアップにこれだけの労力を是非割いてもらいたいと思う。アメリカに逃げられてもいいではないか。第二・第三のカズ・ヒロを生み出そうではないか。

 

ネガティブ・サイド

冒頭の牧師の言葉はあまりにも直接的すぎる。もっと当時の普通の暮らしぶりの中で、女性が個性を発揮することができず、ステレオタイプな役割のみに従事する、あるいはステレオタイプな人格のみを有することが求められる時代と社会だということを、もっと映画的に語る方法はあるはずだ。そうしたシーンを冒頭で一気に見せるか、あるいは牧師の言葉(「女性に機知は無用」云々)は中盤に持ってくるべきだった。

 

『 プライドと偏見 』とのつながりがよく見える、というよりも『 プライドと偏見 』から逆に計算して作られたかのようで、捻りがない。すべてがある意味で予定調和的である。もっと自由に話を盛ってしまっても良かったのではないか。たとえばトムがジェインの作品を評して「(恋愛)経験が不足している」と言い放つが、であるならばトムがリードする形での恋愛の手ほどきや、あるいは同衾するシーンがあってもよかったのではないか。直接そうしたシーンを見せずともよい。『 博士と彼女のセオリー 』でジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)がジョナサンのテントを訪ねたようなシーン、あのような間接的な描写でもってジェインとトムが一夜を共にしたのだな、と観る側に思わせる大胆な演出があってもよかった。

 

最後にジェイン・オースティンという人物の歴史的な役割を総括するシーン、あるいは簡潔な説明が欲しかった。『 ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語 』にも共通するが、作家の残した物語は有名でも、作家自身はそれほど知られていないことはよくあるからである。

 

総評 

2000年代の映画であるが、まったく古くない。LGBTQについて世の中の理解は進みつつあるが、やはり男と女が一番のマジョリティであり、それだけ背負わされる社会的属性も多い。そうした社会的属性の中からいかに“偏見”をなくしていくかが21世紀に生きる我々のミッションの一つだろう。そうした原点を思い起こす意味でも本作は幅広い層にお勧めができると思う。ジェイン・オースティンという人物へのある程度の知識や興味がないと難しいかもしれないが、その場合は『 プライドと偏見 』を鑑賞してみるとよい。そんな時間はないという向きには、カーペンターズの “All You Get From Love Is A Love Song” をお勧めしておきたい。

www.youtube.com

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

S have seen better days

直訳すれば「Sはすでに(今よりも)良い日々を見てきた」=Sは今はすでに盛りを過ぎている、ということ。

 

This part of Osaka has seen better days.

大阪のこのあたりも以前に比べて寂れてしまった。

 

That boxing champion has seen better days.

あのボクシング王者も全盛期は終わったな。

 

という具合に使う。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, B Rank, アン・ハサウェイ, イギリス, ジェームズ・マカヴォイ, ラブロマンス, 伝記, 歴史, 監督:ジュリアン・ジャロルド, 配給会社:ヘキサゴン・ピクチャーズ:Leave a Comment on 『 ジェイン・オースティン 秘められた恋 』 -社会的属性から偏見を取り除くべし-

『 ただ君だけ 』 -ハイレベルな典型的韓流ラブロマンス-

Posted on 2020年9月5日 by cool-jupiter

ただ君だけ 75点
2020年9月3日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ソ・ジソブ ハン・ヒョジュ
監督:ソン・イルゴン

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『 君の瞳が問いかけている 』のネタ元。本作も元をたどればチャップリンの『 街の灯 』らしい。初めて観た時は珍妙なボクシングシーンばかりが目立っていたが、最後には『 あしながおじさん 』以上の感動があった。そして、本作『 ただ君だけ 』にも大きな感動が待っていた。

 

あらすじ

かつてボクシングのミドル級国内王者だったチョルミン(ソ・ジソブ)は、ある事件のためジムを飛び出し、ボクシングから離れていた。そしてチョンミルは目が不自由なジョンファ(ハン・ヒョジュ)と出会い、やがて恋に落ちる。だが、ジョンファが視力を失った原因は自分の過去と関係があったとチョンミルは知ってしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

ヒロインのジョンファはどこかで見た顔だと思ったら、テレビドラマ『 トンイ 』の主人公トンイではないか。『 ブラインド 』のキム・ハヌルと同じく、自身の視力だけではなく大切な家族までも失っているというキャラクター。違いは、原因が自分かそうではないか。ただ、それでもこれだけ明るく、気丈に、笑顔で、前向きに振る舞える人間はなかなかいないのではないか。もちろん、視覚障がい者の演技にも抜かりはない。決して合わない目線。音や触れられることへの過剰とも言える反応。指先と手のひらで様々なものの感触を確かめる仕草。簡素な部屋に、床には(ある物を除いて)何も落ちていない。そして、冷蔵庫に詰め込まれた大量の食べ物。ハン・ヒョジュの演技だけではなく大道具や小道具、そして音楽の仕事も完璧である。だが、やはり何と言ってもハン・ヒョジュの魅力だろう。チョンミルとのデートで超ワイド滑り台を滑降した直後の泣き出しそうな声からの笑顔に、心を鷲掴みにされない者などいるだろうか。

 

チョンミルも元ミドル級という設定で、おそらくwalk-around weightは80kgほどだろう。その階級に見合う骨格と黒光りする筋肉にはほれぼれとさせられる。何よりも、必要以上にイケメンでないところが良い。顔を触るジョンファに対して「思っている以上にブサイクだから、目が見えるようになったら気をつけろ」というセリフは完全なるジョークにしても、キラキラと輝く美男子設定でないところに好感が持てる。なによりもジョンファの危機に颯爽と現れたかと思えば、相手を容赦なくぶちのめす野獣性を発揮。さらに相手の口をふさいで指をボキッと折るシーンには震えた。だからといって暴力一辺倒の男では決してない。ジョンファをおんぶして階段を上っている最中にカンチョーをしてくるガキンチョには優しく接してやれる男なのだ。そしてジョンファと心通じ合えたその日に、心躍らせ階段を駆け上がるシーンや借金の取り立てをしていたという裏設定は『 ロッキー 』へのオマージュだろう。

 

設定だけ見れば日陰者同士の連帯の物語なのに、この二人にはそうした悲壮さや暗さがない。いつまでも見守っていたくなる二人なのだが好事魔多し。ジョンファのためにと地下格闘技の世界へと身を投じるチョンミルに悲劇が・・・ この「幸せな二人を引き裂く悲劇」は、韓流の定番中の定番なのだが、なぜにそれがこれほど胸を打つのか。照明やカメラワーク、美術や衣装まで、細部にまでリアリティが行き届いているからだろう。はっきり言ってファンタジーなのだが、それを全く感じさせない監督の演出力は見事の一語に尽きる。そして、その作り物の世界の中でこれ以上ない迫真の演技を披露した主演の二人に幸あれ。

 

ネガティブ・サイド

後半の地下格闘技シーンがグロすぎる。というか、Jovianは割とグロ耐性がある方だと思っているが、目潰しだけはダメなのだ。小学生の頃にレーザーディスクで観た『ブレードランナー 』のルトガー・ハウアーが目潰し攻撃をするシーンで、I became traumatized.

 

前半は夜のシーンが多く、終盤は昼のシーンだけという構成は、観る者というよりもジョンファの視力をそのまま構成に反映させたのだろう。問題は、それによってつながりが失われたシーンがいくつかあるということである。最も目立ったのは格闘技にその身を投じたチョンミルが連戦連勝するシーン。家で待つチョンミルはガウンを羽織って軽くウィービングしたりしながらチョンミルの帰りを待つが、ここは本当なら夜または夕方のシーンだろうと思われる。格闘技の試合は夜と相場が決まっているし、洗濯物を取り込むのも夕方か夜だろう。窓から差し込む黄金色の陽光は美しかったが、全体を通してみると違和感を覚えてしまった。

 

総評

これは傑作である。リメイクしたくなるのも無理はない。邦画では『 見えない目撃者 』が韓国映画リメイクの成功例だった。高いハードルではあるが、『 きみの瞳が問いかけている 』にはぜひ本作を超えてほしいと思う。そう思わせてくれるだけの感動的な韓流ラブロマンスである。復習鑑賞するなら今である。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

アジョシ

 

言わずと知れた『 アジョシ 』のアジョシ=おじさんの意。チョンミルは別に中年のおじさんではないが、本作が『 街の灯 』へのオマージュであるならば、この呼び方も納得か。とにかく、韓国語でおじさんはアジョシなのである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, ソ・ジソブ, ハン・ヒョジュ, ラブロマンス, 監督:ソン・イルゴン, 配給会社:コムストック・グループ, 配給会社:ポニーキャニオン, 韓国Leave a Comment on 『 ただ君だけ 』 -ハイレベルな典型的韓流ラブロマンス-

『 糸 』 -壮大なファンタジーだが、残念ながら二番煎じ-

Posted on 2020年9月1日2021年1月22日 by cool-jupiter

糸 60点
2020年8月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:菅田将暉 小松菜奈
監督:瀬々敬久

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傑作と凡作と駄作の全てをコンスタントに放ってくる瀬々敬久監督の最新作。本作は、可もあり不可もある中庸の作品か。

 

あらすじ

漣(菅田将暉)と葵(小松菜奈)は北海道の美瑛で出会ったが、様々な事情から引き離されてしまう。北海道で生きる漣と、東京、沖縄、シンガポールと流れていく葵。二人の運命の糸は果たして交わるのか・・・

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ポジティブ・サイド

小松菜奈が何とも良いオーラを醸し出している。『 ぼくは明日、昨日のきみとデートする 』とは違い、年月の移り変わりとともに確実に年齢を重ねているということを観る側に実感させてくれた。もちろんメイクアップアーティストや衣装の力も大きいことは言うまでもない。子役の子の顔との連続性も感じられた。ほくろが印象的な小松だが、それ以外にも髪型やあごの形など、非常にうまく少女時代と成人時代を結び付けたと思う。

 

『 ディストラクション・ベイビーズ 』でも感じたことだが、小松菜奈はケバイ衣装がよく似合う。同時に『 沈黙 -サイレンス- 』で必死に英語(なぜポルトガル語ではなかったのか?)でお上に訴える少女役で見せたような、また『 閉鎖病棟 それぞれの朝 』で演じたような苦難に耐える役もまたよく似合う。小松菜奈のファンであれば本作はmust watchだろう。

 

本作は平成13年から令和元年までの間の漣と葵の二人の人生を描くという壮大な絵巻である。中学生にして駆け落ちを試みるも失敗。その後、成田凌演じる幼馴染の結婚(相手が葵の友だち)式のために初めて訪れた東京で、葵と8年ぶりの再会を果たすというのは、ベタではあるがリアルだ。その後の二人の運命も数奇としか言いようがない。縦の糸として、つまり北海道の美瑛から動かずに生きることを決意する漣と、横の糸として、つまり各地を転々として葵が、それぞれに出会いと別れを経験し、自らの人生を切り拓いていく様は、その片方だけにフィーチャーしても一本の映画が作れそうなほど濃密である。『 8年越しの花嫁 奇跡の実話 』にインスパイアされたかのような展開には不覚にも涙したし、『 洗骨 』のようなまったりゆったりした沖縄の時間の流れ方には(一瞬だけ)和んだ。

 

シンガポールで成功を掴んだかに見えた葵が、ここでも打ちのめされることになる展開はさすがにこれは現代版『 おしん 』なのか?とも思えたが、ここで小松がとあるカネに手を付け、さらにとあるものを食べながら涙するシーンが極めて印象的だ。『 さよならくちびる 』でも、カレーを食べながら思わず涙してしまうというシーンがあったが、小松菜奈は単純な涙だけではない、シーン全体で心情を表現できる女優に成長しつつあるようだ。

 

様々な紆余曲折を経て、それぞれの人生を歩んでいく漣と葵。運命の糸というのは、果たして存在するのか。存在するとして、その糸と糸が結ばれることはあるのか。劇中で何度か流れる『 糸 』だけではなく、成田凌が熱唱する『 ファイト 』も実に味わい深い。時は令和二年。平成という時代を振り返るには好適の映画である。

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ネガティブ・サイド

スケールは確かに壮大であるが、肝心のストーリーが『 弥生、三月 君を愛した30年 』とかなり重複している、というかはっきり言って二番煎じ見える。特に、幼馴染同士が結ばれることなく、互い違いに絶妙にすれ違っていく様は『 弥生、三月 君を愛した30年 』が先取りしている。そして何よりも成田凌の起用。彼は悪い役者では全くないが、それでも何故にこのようなキャスティングになるのか、首をひねる人は多いだろう。製作者が『 弥生~ 』を意識していなかったはずがないではないか。

 

平成と言えば阪神大震災に東日本大震災だが、実際のニュース映像を使うのはどうなのだろう。特に後者の津波のニュース映像。『 オフィシャル・シークレット 』でも強く感じたが、当時のニュース映像というのはタイムマシンのようなもので、取り扱いには要注意だ。作中の二階堂ふみではないが、大阪生まれ大阪育ちのJovianの嫁さんですら、津波の映像には今でもショックを受けるのだ。

 

細かい粗が随所で目立つ作品でもある。渾身の役作りをした榮倉奈々に対して、菅田将暉のひょろひょろ具合は何なのか。彼も悪い役者ではないが、今回は役作りにそこまで時間をかけられなかったのか。チーズ作りというのは重労働だろう。何百何千リットルもの牛乳を搾り、運び、発酵・凝固させ、チーズの原型を運び出すという過程のごく一部だけしか画面には映し出されなかったが、毎日毎日それだけの労働をしていれば腕や肩、そして胸板は相当に筋肉質になるはずだ。菅田は同世代の役者ではフロントランナーの一人であるが、今作の役作り(≠演技)は残念ながら落第。演技は及第である。

 

小松菜奈は残念ながら英語がヘタになってしまった。それは別によい。ただ、言ってもいないことをしゃべらせてはならない。山本美月がこれまた稚拙な英語で“Japan can no longer relay on domestic consumption(demands?)”とインタビューに答えていたが、まずrelay onではなくrely onである。発音が全然違う。また、この文章を素直に訳しても、字幕に出てきた「内需主導」などという訳は出てこない。

 

エンディングで流れる楽曲『 糸 』はオリジナルであるべきだと強く感じた。縦の糸はあなた=漣であるはずが、ヴォーカルが男性になってしまったことでそこが狂ってしまった。それによりエンディングの余韻が壊れてしまったように感じた。うーむ・・・

 

総評

漫画や小説を映像化するのも良いが、邦画はもっとオリジナル作品を生み出すべきである。オリジナルとは完全に独創的という意味ではない。何らかのモチーフを全く新規に再解釈することから生み出された作品も、オリジナル作品と呼べるはずだ。その意味で、本作はオリジナルと言える。B’zの『 Pleasure’91 〜人生の快楽〜』の“僕”と“あいつ”の物語を再解釈する脚本家や監督が現れるのを期待したい。本作に続く邦画の制作と公開を待ちたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

chauffeur

ショウファー、と読む。アクセントは、ショウファーの位置にある。シンガポールの高杉真宙がこれであった。「運転手」の意味だが、driverとは違い、結構なステータスのお抱え運転手を意味する。『 ベイビー・ドライバー 』のベイビーはダイナーでデボラと出会ったときに“Oh, like a chauffeur?”と言われていたし、『 パラサイト 半地下の家族 』のソン・ガンホはdriverではなくchauffeurである。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, ラブロマンス, 小松菜奈, 日本, 監督:瀬々敬久, 菅田将暉, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 糸 』 -壮大なファンタジーだが、残念ながら二番煎じ-

『 事故物件 怖い間取り 』 -2020年度クソ映画・オブ・ザ・イヤー決定-

Posted on 2020年9月1日2021年2月23日 by cool-jupiter

事故物件 怖い間取り 5点
2020年8月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:亀梨和也 奈緒
監督:中田秀夫

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『 エミリー・ローズ 』のレビューで本作から地雷臭がすると述べたが、本作は地雷ではない。完全なるゴミである。『 記憶屋 あなたを忘れない 』や『 ヲタクに恋は難しい 』をさらに下回る駄作で、我が映画鑑賞人生においても最低レベルの作品である。

 

あらすじ

売れない漫才コンビのジョナサンズの一人、山野ヤマメ(亀梨和也)はコンビ解散後にひょんなことから「事故物件住みます芸人」に転身することになる。そして、不動産屋で事故物件を紹介してもらい、そこに住み始める。しかし、それ以来、身の回りで怪奇現象が起き始め・・・

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ポジティブ・サイド

ない。

 

いや、奈緒の出演で5点だけは与えておく。

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ネガティブ・サイド

なにから突っ込んでよいのか分からない。どいつもこいつも下手くそな関西弁をしゃべり、何がきっかけで売れたのか分からないまま「事故物件住みます芸人」として人気が出たのか、その経緯も不明。

 

相方との関係も意味不明。ビジネスパートナーなのか戦友なのか、『 火花 』のようにそこを明らかにせんかいな。亀梨は元・相方に実家に帰れといった次の瞬間に、「なんで実家に帰るんだ?」って、アホか。その相方も奈緒演じる梓に「アイツとは縁を切れ」ってなんでやねん。とにかくジョナサンズの二人の関係性がまったく理解できない。だから、この二人が同じ画面内にいてもなんのドラマも生まれない。

 

亀梨は都合4件の事故物件に住むが、そのどれもが怖くも何ともない。すべてがこけおどし、または使い古されたクリシェに過ぎない。特に千葉の4件目はギャグか何かとしか思えない昭和の遊園地の片隅に見られた子供騙しのお化け屋敷状態。キャンキャンとした効果音がうるさかったが、それがなければJovianの失笑が半径10mぐらいの範囲に聞こえてしまっていたことだろう。ラスボス(?)的な存在もギャグである。これが怖いと思えるのは小学校低学年の女子ぐらいだろう。脚本、絵コンテ、撮影、編集のいずれの段階で監督も役者もスタッフも、誰も何も感じなかったのか。そんな姿勢で映画を作っているから、韓国映画やインド映画に大きく水をあけられるのだ。本作はジャパネスク・ホラー完全終了のお知らせということ以上に、邦画の終わりの始まりを告げる作品と受け取るべきなのかもしれない。

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総評

本当なら8月30日に観た『 糸 』のレビューを先にすべきなのだろうが、どうしてもこちらを先に片付けたくなってしまった。とにかく本作は観てはいけない。こんな作品にカネと時間を使ってはならない。我々がかつて敬服した中田秀夫監督はもう死んだ。そう思うしかない。冥福を祈る。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Sorry, no lessons. I need to erase my memory of this film ASAP.

  

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, F Rank, ホラー, 亀梨和也, 奈緒, 日本, 監督:中田秀夫, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 事故物件 怖い間取り 』 -2020年度クソ映画・オブ・ザ・イヤー決定-

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