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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 トンネル 闇に鎖された男 』 -閉所恐怖症は観るべからず-

Posted on 2020年8月5日 by cool-jupiter

トンネル 闇に鎖された男 60点
2020年8月4日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ハ・ジョンウ ペ・ドゥナ オ・ダルス
監督:キム・ソンフン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200805232318j:plain
 

北海道の豊浜トンネル岩盤崩落事故を思い出させる内容である。あの時は現場責任者が被害者家族をマスコミと勘違いして「偉そうに言うな!」みたいなことを言って大問題になっていたっけ。当時高校生だったJovianは連日連夜、マスコミがニュースでこの事故を時に真剣に、おちゃらけて取り上げていたのを覚えている。

 

あらすじ

家族の元へと車を飛ばすイ・ジョンス(ハ・ジョンウ)は、トンネルの突然の崩落事故で生き埋めになってしまう。手元にあるのはスマホ、ペットボトル2本分の水、そして娘へのプレゼントであるケーキのみ。彼は救助が来るまで生き延びることができるのか・・・

 

ポジティブ・サイド

シチュエーション・スリラーと見せかけて、サスペンスでもありファミリードラマでありヒューマンドラマでもある。適度に韓国の大企業や政府への批判も織り交ぜられているのも韓国映画らしいところ。地震大国の日本でも、本作のようなアクシデントは起こりうるし、実際に1990年代後半にはJR西日本の新幹線のトンネルでコンクリート剥落事故が多発したことを覚えている人も多いだろう。コンクリートというものは、いつかは劣化するものなのだ。荒唐無稽なシナリオに思えるが、実は十分にリアルな状況設定なのだ。

 

閉じ込められることになるハ・ジョンウの演技力が素晴らしい。しぶとく生き残った男の安堵と不安の両方を一人芝居で演じきった。特に印象的だったのはペ・ドゥナ演じる妻と電話で話すシーン。「朝ごはんをしっかり食べろ」という台詞のあまりの場違いさにズッコケると同時に、その台詞の重み、すなわち、トンネル内で生き埋めになっていても大丈夫、お前はお前の日常を生きろ、という夫から妻へのメッセージに、胸が押しつぶされそうに感じた。自分が同じ状況に陥った時、こんな言葉が口から出てくるだろうか、と。トンネル内にもう一人と一匹の生存者がいると分かってからのジョンスの行動も重い。自分なら貴重な水を分け与えられるだろうかと思う。状況がリアルなため、ジョンスというキャラクターに感情移入がしやすく、それゆえに彼の言葉や行動の一つひとつが観る側に問いを投げかけてくる。

 

オ・ダルス演じる救助チームの責任者キム・デギョンも人間味があふれる男である。マスコミを一喝して、スカッとさせてくれる。一方で、彼は当事者でありながら当事者ではない。警察も消防も医療従事者も、対象には「あれしなさい、これしなさい」と気軽にアドバイスを送るが、「じゃあ、あんたはやったことあるんか?」と問いたくなったことがある人は多いだろう。Jovianと同じく不惑あたりの年齢の人は、健康診断のたびに「三食バランスよく食べなさい、早寝早起きをしなさい、1週間のうち2~3日はじんわりと汗をかく運動を1時間以上しなさい、ストレスを解消しなさい、酒を減らしなさい・・・」って、ドクター、あなたはそれが全部実践できているのですか?と、いつも尋ねたくなる。このオ・ダルスも、ジョンスにめちゃくちゃなアドバイスを送るが、言うは易く行うは難しをまさに実践する。人を救う職業に従事するのに理想的な男である。

 

ジョンスの嫁を演じたペ・ドゥナも素晴らしい。出番こそ少ないが、要所要所で確実なインパクトを残す。印象的だったのは現場で働く者たちに料理を作って給仕するシーン。そして、ジョンスに電話で「死ね!」と一喝するシーンだ。鬼嫁と勘違いすることなかれ。このような嫁を持つことができる男は果報者である。だが圧巻なのは、ラジオ局のシーンである。こればかりは鑑賞してもらうしかない。『 キャスト・アウェイ 』や『 ハリエット 』など、多くの作品に共通する展開ではあるが、やはりこうしたシーンは涙なしには見られない。万感胸に迫るものがあった。

 

大企業や政治家、そして一般大衆までも巻き込んで、鋭く韓国社会を撃つ。一人の人間の命の重さを正面から描く。台風や地震で家屋が倒壊して閉じ込められた、という時のサバイバル方法を学ぶことができる点もユニークだ。最後の最後に、ジョンスが観る者を最高にスカッとさせてくる。韓国映画ファンならチェックしてみて損はないだろう。

 

ネガティブ・サイド

やや記憶があいまいになっているかもしれないが、「有線のドローンを作らせて取り寄せろ」と言われたドローン・オペレーターが「アメリカのオンタリオですよ」と返すが、オンタリオはカナダではないか?それともこれは韓流ジョークなのだろうか。

 

あるパグ犬が重要な役割を演じているのだが、この犬の story arc が最後には不明になる。『 パターソン 』のネリーに近いレベルの神演技を見せるテンイが、ジョンスの家に招き入れられないなどということがあってよいのだろうか。とうてい承服しがたい。

 

最も不満に思うのは、後半のジョンスのサバイバルの過程がぱったりと描かれなくなることだ。途中までは日が経つごとにジョンスの髭がどんどん伸びていったが、それ以外の描写も欲しかった。たとえば爪の伸びや、あるいは皮膚の垢。または、頬がかなりこけてしまっている、という絵があってもよかった。極限状態を、それでも生き抜いた男の苦闘の跡がもっと目に見える形で表現されていれば、という点が惜しまれる。

 

総評

登場人物は少ないが、それでも2時間きっちりとドラマを生み出し、観る側を引き付ける力を持っている。脚本の力、そして役者の演技力の賜物である。『 リンダ リンダ リンダ 』のペ・ドゥナがなんとも milfy になっているので、彼女のファンは絶対に観よう。フェイクニュースや、マスコミの報道の在り方、そして我々のニュースの“消費”の仕方などについても多くの示唆を与えてくれる社会派映画でもある。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ウェ

とある長官の一言。意味は「なぜ」である。英語の Why? によく似ている。これも色々な韓国映画でちらほらと聞こえてくる定番の語彙だろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, オ・ダルス, サスペンス, ハ・ジョンウ, ヒューマンドラマ, ペ・ドゥナ, 監督:キム・ソンフン, 配給会は:アルバトロス・フィルム, 韓国

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