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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 ブラック アンド ブルー 』 -傷だらけの逃亡者-

Posted on 2020年8月1日2021年1月22日 by cool-jupiter

ブラック アンド ブルー 75点
2020年7月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ナオミ・ハリス タイリース・ギブソン
監督:デオン・テイラー

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200801133656j:plain
 

Black Lives Matter運動前に制作された映画。黒人市民ではなく黒人警官がこれでもかと虐げられる映画。しかも、その被害者=主役が女性というのも個人的にはタイムリー。ニューオーリンズについては最近見たこのTED TALKS、女性への侮辱的な言動についてはこのYouTube動画が興味深い。事前にこれらを予習しておくのもありだろう。

 

あらすじ

アリシア(ナオミ・ハリス)は新人警察官だが、黒人というだけで一部の同僚から侮辱的な扱いを受けていた。ある夜勤でアリシアは先輩警察官と共に廃工場へ向かった。そこでアリシアは刑事が麻薬の売人を射殺するのを目撃した。自身も撃たれるアリシアだが、防弾ベストのおかげでなんとか助かる。すべてを収めたボディカメラを罪証隠滅のために取り戻そうとする汚職警察官たち、そして彼らの陰謀によりギャングからもアリシアは追われることになり・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200801133717j:plain
 

ポジティブ・サイド

ニューオーリンズのイメージが一変すること請け合いである。オーリンズとはフランスのオルレアンの英語読みである。『 セルフレス/覚醒した記憶 』で若い肉体を手に入れたベン・キングスレーが悠々自適に街角のミュージシャンの演奏に耳を傾けていた異国情緒あふれる街。空港にルイ・アームストロングの名前をつける街。本作が映し出すニューオーリンズにはそんな呑気な光景は一切出てこない。『 華氏119  』でのミシガン州フリントのように、忌避された土地、警察官すらも近寄らない土地が舞台のすべてである。『 ブラインドスポッティング 』でも黒人と白人の友情が静かに壊れていく過程に緊張感が感じられたが、本作が生み出すサスペンスはそれをはるかに上回る。ギャングと警察が特定の個人を追うという構図は『 悪人伝 』と同じだが、そこにコミカルさはない。『 哀しき獣 』並みの絶望感だけがそこにある。拳や道具、せいぜい刃物で戦う韓国人に比べるとアメリカ人はあまりにも銃火器を使いすぎである。銃の威力も怖いのだが、誰もかれもがそれを持っていること、そして躊躇せず使おうとするところが恐ろしい。

 

アリシアが追われる展開までが非常にスピーディーだが、そこに至るまでの短時間にこれでもかとアリシアが虐げられる。ジョギング中に後ろから来たパトカーにいきなり呼び止められ、白人警官に暴力的に身分照会させられる。「指名手配犯に似ていた」と言い訳されるが、後ろから顔も見ることができないのによくもそんな言い訳ができるなと、一瞬で腹立たしい気分にさせられる。かと思えば、アリシアが黒人コミュニティ内でも「警察官だから」という理由だけで疎外されるシーンを挿入してくる。この孤立無援の感覚がアリシアの逃亡劇の恐怖とサスペンスを否が応にも盛り上げる。

 

BGMと様々な楽曲もアリシアに感情移入するオーディエンスの不安感をさらに煽る。『 ルース・エドガー 』のBGMも我々の心を落ち着かないものにさせるものだったが、ラップや金属音強めのBGMはそれを聴く者の心をざわつかせる効果があるようだ。映画的な文法に沿って言えば「まだ主人公は大丈夫なはず」という場面も、音楽と効果音の力が非常に強く、ハラハラドキドキが持続させられる。

 

アリシアとなし崩し的に逃亡することになるマウスが味わい深いキャラである。白人側に立つのか、黒人側に立つのか。警察官の側に立つのか、市民の側に立つのか。アリシアは複雑な選択を迫られるが、そうした二項対立的な選択肢しか存在しないことを、この映画は糾弾している。マウスはそうした疑問に一定の答えを呈示する役回りだ。この地域では黒人といえども警察官はお断りだという拒否感と、困っている人間を助けなければならないという良心とのジレンマは、そのままアリシアがかつて抱いていた心情である。

 

ラストのアリシア、警察、ギャングのバトルは壮絶の一語に尽きる。暗闇での接近戦は『 チェイサー 』のハ・ジョンウとキム・ユンソクの格闘を彷彿させ、またクライマックスの二転三転する形勢は冷や汗と鳥肌、両方を体感できた。

 

カメラが重要なモチーフになっている本作であるが、デオン・テイラー監督のメッセージはシンプルだ。見てほしい、そして見せてほしいということだ。差別。貧困。汚職。暴力。目を背けるな。そこには常に誰かがいる。その誰かとは肌の色や性別で区別される存在ではない。その誰かは、別の誰かにとっての子であり、父であり、友であり、同僚なのだ。親がいない人間はいない。社会的に親が存在しないことはあるが、生物学的には絶対に存在する。誰かは確実に誰かの息子であり娘である。人が人を見る時、属性ではなく関係で見る。それこそが求められる一つの答えなのではないだろうか。

 

ネガティブ・サイド

様々な場面でのアリシアの行動に合理性や一貫性がない。序盤にカネを払わずコーヒーを買っていく同僚に代わりにカネを店に置いていく一方で、中盤の逃亡中に同じマウスの店でいきなり飲料品をゴクゴク飲みだす。緊急時なのでそれは構わないが、その後、警察の制服を脱ぐところ=一人の人間に戻るところで、代金を払うと申し出る、それをマウスが「要らない」と返すようなやりとりが必要だったのではと思う。あるいは編集でカットしのだろうか。人間同士のやり取りが、相手の帯びる属性で変わってしまうという重要なテーマを、もう少し掘り下げるべきではなかったか。

 

軍人としての経験豊富なアリシアが、武装したギャング連中に追われていることを知りながらあれだけ簡単に道路などの遮蔽物のない空間に飛び出たりするだろうか。司令部への通報を簡単に諦めたりするだろうか。プロットを前に進めるための、かなり強引なご都合主義に感じた。そこでそのスマホを手に入れろ!という場面もあっさりとスルーしてしまう。このあたりは脚本段階で改善の余地があったはずだ。

 

総評

黒人差別問題だけなら、本作の評価はここまで高くはならない。ハリケーン・カトリーナによって街が破壊され、放棄されてしまった。そこに我々はもっと注意を払わねばならない。50年に一度とされる大豪雨や洪水が2~3年に一度起きる国に日本はなってしまった。また#MeToo運動に見られるように、女性への差別問題の根深さも近年あらためて浮き彫りになった。人は人に狼 homo homini lupusや武器の下では法も沈黙する intra arma silent legesという状態からはそろそろ本当に脱出しなければならない。娯楽性とメッセージ性の両方を持つ、隠れた傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Way to go

「よくやった」、「おめでとう」、「グッジョブ!」の意。同僚や家族が良い仕事を成し遂げたら、“Way to go!”と声をかけるようにしよう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アクション, アメリカ, サスペンス, タイリース・ギブソン, ナオミ・ハリス, 監督:デオン・テイラー, 配給会社:イオンエンターテイメント

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