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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 黒い司法 0%からの奇跡 』 -人間の良心に切々と訴える-

Posted on 2020年3月2日2020年9月26日 by cool-jupiter

黒い司法 0%からの奇跡 75点
2020年2月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:マイケル・B・ジョーダン ジェイミー・フォックス ブリー・ラーソン
監督:デスティン・ダニエル・クレットン

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原題は“Just mercy”。これはdouble meaning=ダブル・ミーニングで、一つの意味は「ただ慈悲のみ」、もう一つの意味は「公正な慈悲」である。民法のドキュメンタリー番組か何かのタイトルのごとき邦題に頭痛がしてくる。黒人差別(正確には貧困差別)を撃つ作品のタイトルに「黒い」という形容詞を用いるセンスがよく分からない。普通に「慈悲と公正」とか「司法と正義」のような比較的シンプルなタイトルにできなかったのだろうか。

 

あらすじ

アラバマ州で林業を営むジョニー・D(ジェイミー・フォックス)は、突然警察に逮捕され、死刑囚にされてしまった。犯してもいない罪で、刑務所に入れられた彼のような人々の元に、ハーバード大学卒業の黒人弁護士ブライアン・スティーブンソン(マイケル・B・ジョーダン)がやって来た。冤罪を晴らし、自由を得るための苦闘が始まるが・・・

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ポジティブ・サイド

これが30年前のアメリカの現実であり、そして21世紀も20年が過ぎようとしている今という時代にも現在進行形の物語である。そのことに驚かない自分に驚かされる。『 私はあなたのニグロではない 』から『 ブラック・クランズマン 』まで、黒人差別をテーマにした映画は、それこそ無数に作られてきた。本作は何が違うのか。それは、差別の構図に別の角度から光を当てたことである。

 

冤罪で収監され、有罪判決を受けた黒人。それを支援しようとする黒人弁護士。だが、ジョニー・Dはそのことに心を動かされない。彼にとっては最初、ブライアンは同胞でも味方でもない。北部からやってきたよそ者、大学卒のエリート。そうした自分とは異なる属性の人間だった。黒人差別や人種差別という言葉には、それ自体に差別の概念が埋め込まれている。なぜなら黒人は黒人を差別しない、アジア人はアジア人を差別しない、そうしたことを無邪気に前提しているかのように聞こえるからである。実際にはそうでない。ブライアンは最終盤で、差別の構造を鮮やかに解き明かして見せる。このシーンではJovianは思わず膝を打った。日本でも“上級国民”なるワードが人口に膾炙するようになって久しい。本当にそうした人種が存在するのかどうかはさておき、池袋高齢者ドライバー暴走事故は確かに我々に上級国民の存在を示唆する非常に象徴的な事件となった。上級国民の反対概念とは何か。それは下級国民である。では、下級とはどのようにして決まるのか。ブライアンは“それ”を正義の反対概念に置くことで、世界で急速に進む富の寡占、世界の分断を遠回しにだが強烈に撃ち抜く。ジョニー・Dの有罪の決め手となった証言をしたマイヤーズという男の肌の色、そして経済状態を見よ。彼こそが下級国民の象徴である。

 

同時に本作は差別からの解放を謳い上げるだけではなく、人間の尊厳についても非常に鋭く切り込んでいく。ベトナム戦争によりPTSDになり、殺人に至ってしまった男の死刑執行のシークエンスには恐怖と荘厳さが同時に存在する。なぜ死刑囚の死にこれほど心が揺さぶられるのか。それは我々が彼に同化するからである。共感するからである。ブライアンに心を開かなかったジョニー・Dが、なぜブライアンと共闘する気持ちになったのか。囚人たち(大部分は冤罪だが)が互いに固い絆を結び合っているのはどうしてなのか。それは孔子の言う仁である。巧言令色鮮し仁と言うが、ブライアンがジョニー・Dとの面談を重ねていく過程をよくよく見てほしい。人権派弁護士とは、理論家ではなく行動家なのだ。看護師の祖ナイチンゲールも「天使とは、美しい花を振り撒く者ではなく、苦しみあえぐ者のために戦う者のことだ」と喝破している。ブライアンは、『 クリード チャンプを継ぐ男 』、『 クリード 炎の宿敵 』のアドニス・クリード並みに戦っている。派手さはない。しかし、ブライアンもまたファイターであることは疑いようもない。

 

それにしてもアメリカでも日本でも、裁判官というのはむちゃくちゃだなと思わされる。『 裁判官! 当職そこが知りたかったのです。 -民事訴訟がはかどる本-  』は知り合いの弁護士先生方にすこぶる評判が悪いが、普通の人間であるならば感じるべきことを感じられない裁判官の存在に、恐ろしいまでの無力感や絶望感を味わわされてしまう。これは下手のホラー映画よりも遥かに怖い。ブライアンはそれをどう乗り越えたんか。それは良心である。従容として電気椅子に座る死刑囚にも、自らの正義を盲信する保安官にも、良心がある。それこそが人間を人間にしてくれるのではないだろうか。

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ネガティブ・サイド

ブライアンが受ける屈辱的な仕打ちや、命の危険すら感じる脅迫的な警察の対応が序盤でパタッと終わってしまうのは少々拍子抜けである。アラバマというディープ・サウスの土地柄を表しているのかもしれないが、実際には調査や接見のあらゆる局面で差別や妨害があったはずである。職務上のパートナーであるエバ(ブリー・ラーソン)も脅迫を受けるが、そうしたシーンやプロットにもう少し尺を割けなかっただろうか。再審請求までが、少しトントン拍子に進み過ぎているように感じられた。差別されるのは黒人という属性ではない。エバは白人であっても差別の対象になっている。マイヤーズもそうだ。序盤の展開があまりにも黒人差別にフォーカスしているせいで、終盤に差別の本質が明かされた時のインパクトがあまり強くなっていないように感じられた。

 

ブライアンを脱がせた刑務所職員の男の変節(?)というか変化も不自然に感じられた。彼が変わっていく契機は、死刑の執行ではなく、囚人たちの人間関係に感化されることであるべきだった。

 

総評

これは傑作である。このような戦う弁護士が存在し、着実にたくさんの人々を救ったということに畏敬の念を抱かずにはいられない。同時に、正義とは何であるのかについても強く考えさせられる。法の下での平等がただのお題目に過ぎないのか。法治国家と言いながらも人治国家になりつつある某島国に暮らす人々は本作を観よう。袴田事件に憤り、涙を流す人なら、本作は必見である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

get away with murder

直訳すれば「殺人をもって逃げる」だが、実際は「めちゃくちゃなことをしてもお咎めなし」、「好き勝手し放題である」というような意味となる。ジョニー・Dは冤罪であり、真犯人は「文字通りの意味で殺人を犯しながらもお咎めなしで済んでいる(=literally get away with murder)」と劇中では使われている。読売新聞が米大統領の発言を「(日本や中国は)25年にわたって『殺人』を犯しておきながら許されている」と訳して物議をかもしたのは記憶に新しい。日本の貿易が犯罪的であるかどうかは別にして、某国の某総理大臣夫妻などはまさにこれ=get away with murderであろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, ジェイミー・フォックス, ヒューマンドラマ, ブリー・ラーソン, マイケル・B・ジョーダン, 伝記, 監督:デスティン・ダニエル・クレットン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画

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