イソップの思うツボ 45点
2019年8月16日 東宝シネマズ梅田にて鑑賞
出演:石川瑠華 井桁弘恵 紅甘
監督:浅沼直也 上田慎一郎 中泉裕矢
『 カメラを止めるな! 』や『 お米とおっぱい。 』の上田慎一郎が満を持して(かどうかは分からないが)世に送り出す作品ということで、期待はあった。一方で、上田監督の才能を最も活かせるのは、こじんまりとした映画であるという印象を抱いているのも事実である。果たして本作はどうか。上田監督らしさはあるものの、フェアかアンフェアかで、かなり意見が割れるところであろう。
あらすじ
内気な女子大生の亀田美羽(石川瑠華)は、学校で独りだった。一方でクラスメイトの兎草早織(井桁弘恵)は家族そろって芸能人。仕事も順風満帆で、恋愛にも積極的だった。接点のなさそうな二人であったが、ある日、新任講師が講座を担当することがきっかけて・・・
以下、ネタばれや他作品に関する記述あり
ポジティブ・サイド
石川瑠華という役者のポテンシャル、それをまずは評価したい。はっきり言って演技が上手いかどうかで言えば、「下手ではない」というレベル。けれど、母親が心配そうに、それでいてどこか嬉しそうに見つめるのは、この娘の表面に見える弱さや脆さ、儚さの奥深くに芯の強さが潜んでいることを見抜いているからだろう。そう感じられる母娘のやりとりは、非常に説得力のあるものだった。彼女のハンドラーは少女漫画の映画化作品に端役で登場させてやって欲しい。浜辺美波や森川葵らから、何かを学び、才能を開花させるかもしれない。頑張れ~!
井桁弘恵。かわいい。以上。
紅甘。2017年にシネ・リーブル梅田で鑑賞した『 光 』に出ていた。島の少年がじいさんからコンドームを手に入れ、猿のようにセックスに耽る相手。山中でおっさん相手に立位でセックスしながら、カメラ(少年)に向かってアンニュイな表情を見せるシーンが印象的だった(芸術的な意味で)。
ネガティブ・サイド
【予測不能!】、【騙されてほしい!!】などの惹句は逆効果である。というよりも、一部のハードコアな映画ファンやミステリファンにとっては有害ですらある。『 マスカレードホテル 』のレビューでも指摘したが、ミステリファンという生き物は、あらゆる媒体から情報を引き出し、事前に推理を組み立てるのである。ましてやカメ止めの上田慎一郎。ドンデン返しの存在を予想するのは容易い。我々の興味関心は、どのようにしてひっくり返すのかである。その意味で、本作は終盤のドンデン返しが弱い。というよりも、それほどひっくり返らなかった。まあ、初打席で場外ホームランを飛ばしてしまうと、二打席がきれいなセンター前ヒットでも、物足りなく感じてしまうようなものである。
本作にはフェアな伏線とそうではない伏線がある。アンフェアな伏線の最たるものは、『 シックス・センス 』的な演出を使わなかったことである。具体的に言えば、母と娘がしっかりと会話を交わしながらも、母親は何にも触れない、何も動かさないという描写をしなかったことである。これは酷い。ここから何かを読み取れというのは無理だし、アンフェアである。Misleadingを誘うのは別に構わない。というか、『 ユージュアル・サスペクツ 』以降、我々は足を引きずって歩くキャラを見るたびに身構えるようになってしまった。『愚行録 』の妻夫木聡然り、『 ブレス あの波の向こうに 』のエリザベス・デビッキ然り。だから、観る側が勝手に早合点したり読み違えたりするような思わせぶりな描写は許容できるのだ。しかし、終盤の種明かしで「あのシーンの真相はこれで御座い」と言われても、このようなアンフェアな描写ではブーイングしか飛ばせない。「好きな人、できた?」という母の台詞に、「お母さん、大好きだよ」ぐらいの台詞を返しておけば、まだ許せた。このような演出や描写は心底から許せないと思う。観る側をびっくりさせたい、予想を裏切ってやりたいという思いが完全に空回りしたとしか判断できない。
一応、フェアな伏線にも触れておくと、美羽の行動の全てである。特に、兎草早織たちと新任講師の会話を淡々と撮影し続ける美羽にかなりの人が違和感を覚えた/覚えることだろう。また、イソップと聞けばたいていの人は「ウサギとカメ」の寓話を思い浮かべるはずだ。だから美羽が早織を追い越すというか出し抜くプロットであることは観る前から分かる。そして、カメ、ウサギ、イヌがロープで縛られているショット。誰かが彼女らを罠にかけることが示唆されている。ウサギとカメ(とイヌ?)の競争をだが、中途半端にフェアな伏線が張られていることで、アンフェアな伏線、さらには非現実的な要素がかえって目立ってしまう。以下、特に気になった点を箇条書きにする。
・芸能人のマネージャーになるに際して、身辺調査はないのか。
・兄が大学講師であるにしても、どのようにしてドンピシャのタイミングでドンピシャの講座をゲットしたのか。
・医師が袖の下をもらってトリアージの判断を変えるか。得られるカネよりも、医療訴訟のリスクの方が遥かに大きいだろう。
・そもそも売れっ子芸能人と、どのようにして不倫関係となり、ベッドインしたのか。それがマスコミに一切すっぱ抜かれなかったのはご都合主義でないか。
・亀田家はいつ、どこで、どのようにして銃の扱いに習熟したのか。
その他、とっくに『 インシテミル 』で使われたネタをドンデン返しの一部にしてしまうなど、新鮮味にも欠けたし、あるキャラの関西弁の不自然さには辟易させられた。方言が下手なのは許せる。しかし、変であることは許されない。総じて、リアリティに欠けるし、2パート目と3パート目もつながりが著しく弱い。本当に観る者の度肝を抜きたかったのであれば、似非関西弁のヤクザの下に濱津隆之演じる日暮隆之監督を連れてくればよかったのだ。そうすれば劇場のボルテージは一瞬で最高潮に達したことだろう。
総評
劇場鑑賞するに当たって最も重要なことは、過度な期待を抱かないことである。一部に「ほほう」と感じられるtwistもあることはあるが、アンフェアな伏線の張り方、演出の方が遥かに多い。兎にも角にも、期待に胸躍らせないように。本作を何らかの形で堪能できたという向きには、サウンドノベルの『 街 運命の交差点 』と『 428 封鎖された渋谷で 』をお勧めしておきたい。
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「 復讐・・・完了 」
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