シャザム! 70点
2019年4月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ザカリー・リーバイ アッシャー・エンジェル マーク・ストロング ジャック・ディラン・グレイザー
監督:デビッド・F・サンドバーグ
MCU(Marvel Cinematic Universe)が『 アベンジャーズ / エンドゲーム 』をもって一旦は完結したが、一方でDCUE(DC Extended Universe)はやっとジャスティス・リーグが結成されて、ようやくスタンドアローンの『 アクアマン 』がリリースされたところ。そこへもってきて、異色のヒーロー、シャザムがやってきた。暗くもあり、明るくもあるヒーロー。DCの風向きも変わってきたか。
あらすじ
母親とはぐれ、里親のもとを転々としてきたビリー・バットソン(アッシャー・エンジェル)は、ある時、魔術師に召喚され、彼の力を受け継ぎ、シャザム(ザカリー・リーバイ)となる。同じ里親のもとに暮らすフレディ(ジャック・ディラン・グレイザー)と共に能力を無為にテストするだけの日々を送っていた。しかし、彼の身には、かつて魔術師シャザムに拒まれ、悪魔の力を追求するDr.シヴァナ(マーク・ストロング)が迫っており・・・
ポジティブ・サイド
ヒーローは往々にして暗い背景を有している。バットマン然り、アイアンマン然り、スパイダーマン然り、アクアマン然り、キャプテン・アメリカ然り、スーパーマン然り。シャザムとなるビリーも母親との別離を経験している。しかし、そのことが彼をして正義の使者や代弁者、執行者たらしめていない。名前こそバットソン(Batson)であるが、彼はブルース・ウェイン/バットマンとは、そこが決定的に違う。いや、そもそもアメコミ世界のスーパーヒーローは、歴史的にアメリカという国の国力(=軍事力と言っても良い)を健全な意味でも不健全な意味でも擬人化してパロディにしたものであった。だが、現実のアメリカがイラク戦争のように正義の無い戦いに身を投じたところから(実際には朝鮮戦争やベトナム戦争にも正義などは存在しなかったと考えられるが)、アメコミの実写映画化にも変化が生まれてきた。それが『 シビル・ウォー / キャプテン・アメリカ 』のようなヒーロー同士の戦いであったり、『 デッドプール 』のような無責任ヒーローの爆誕にも見て取れる。
それでは本作の呈示するヒーロー像とは何か。それは友愛ではないだろうか。友情、絆、家族愛・・・ 言葉にすれば陳腐であるが、そうしたものが本作のユニークさであろう。もちろん、アベンジャーズやジャスティス・リーグにそうした要素がないわけではない。しかし、映画『 アベンジャーズ 』でも描かれていたように、最強ヒーローチームは、絆ではなく協力した方がより機能的であるという実用的な理由からチームとなり、『 ジャスティス・リーグ 』も個々の力を一つにまとめた方が得策だというブルース・ウェインの判断によって結成されたものだった。そこが本作と先行するヒーロー達との違いであろう。このシャザムというヒーローに一番近い、もしくは似ているのはトム・ホランドverのスパイダーマンであるように思う。
真面目に考察してしまったが、本作はエンタメ要素もてんこ盛りである。トム・ハンクスのファンなら、『 ビッグ 』の親友ビリーを思い出すだろうし、ビリー/シャザムの親友フレディとスーパーパワー実験をする時のBGMがQueenのフレディ・マーキュリー歌唱の“Don’t Stop Me Now”なのである。そして、舞台はフィラデルフィアで、フィラデルフィアといえばロッキー。ロッキー・ステップスを舞台にしたシークエンスもあり、それ以外の「おいおい」というシーンもある。また、悪役Dr.シヴァナが使う悪魔の力からは、どうしたって『 ゴーストバスターズ 』を想起させられる。同じDCEUの先輩キャラを茶化す楽しい場面もあるので、劇場が明るくなるまで席を立ってはいけない。
ヴィランのマーク・ストロングも良い仕事をしたが、一番に称えたいのはシャザムを演じたザカリー・リーバイである。幼稚な大人ではなく、子どものままでかくなってしまったキャラを良く体現できていた。そんな彼が、太っちょな里親パパや、白人女子高生、脚に障がいを持つ同世代、黒人の妹たちと育む友愛の物語を、是非とも多くの人に堪能して欲しいと思う。
ネガティブ・サイド
シャザムというキャラおよび原作の知識があれば異なる感想を抱くのかもしれないが、街の人々のシャザムに対するリアクションがあまりにも普通であることに当初は強烈な違和感を覚えた。物語がある程度進んだところで、これは本格的にDCEUの一部、つまりスーパーヒーローが実在する世界であると分かったことでその違和感は消え去ったが、『 デッドプール 』のように、ある世界の一部であることを一発で観る側に理解させるような仕掛け、もしくは仕組みがあれば良かったのかもしれない。劇中でもスーパーマンやバットマン絡みのガジェットが登場するが、それをもっと早めに露骨に出して、なおかつ「波動拳」などの完全別世界のワードは禁句にしてしまうぐらいで良かったのではないか。
あとはコンビニ強盗を退治するシーンだが、シャザムはよいとしても、銃口がフレディに向けられていたらどうなっていたのだろうか。銃弾をものともしない防御力を示したいのなら、もっと別の描写方法があったはずである。
総評
『 アクアマン 』もホラーの名手ジェームズ・ワンが手掛け、本作も『 ライト/オフ 』や『 アナべル 死霊人形の誕生 』を監督したデビッド・F・サンドバーグが手掛けている。一部にジャンプ・スケア的な手法も使われているが、暗くないヒーロー、明るいヒーロー像は、今後はホラー映画の作り手たちが新境地を切り開いていくのかもしれない。コメディ的な要素もありながら、本作はかなり真面目なヒーロー像を模索する試みでもあり、DCEUの切り札的存在にもなりうるポテンシャルを秘めている。続編の製作にも期待が持てそうである。