Skip to content

英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

  • Contact
  • Privacy Policy
  • 自己紹介 / About me

『ノクターナル・アニマルズ』 -虚実皮膜の間に観る者を誘う-

Posted on 2018年10月6日2019年8月22日 by cool-jupiter

ノクターナル・アニマルズ 65点

2018年10月3日 レンタルDVD鑑賞
出演:エイミー・アダムス ジェイク・ジレンホール マイケル・シャノン アーロン・テイラー=ジョンソン アイラ・フィッシャー アーミー・ハマー 
監督:トム・フォード

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181006015321j:plain

大阪ステーションシネマで上映中にずっと気になってはいたのだが、タイミングが合わず見逃してしまった。今回、満を持してTSUTAYAで借りてきたが、観終わって「うーむ」と唸ってしまった。即座に思ったのは、男から女への復讐劇ということだが、それ以上の意味もありそうだということ。もしかして、全て妄想の可能性も・・・?

画商として成功し、豪邸に住むスーザン(エイミー・アダムス)。夫のハットン(アーミー・ハマー)との仲が微妙になりつつあり、また記憶の欠落もちらほらと起こしつつある。不眠症のせいなのか。そんな中、元夫のエドワード(ジェイク・ジレンホール)から、『夜の獣たち』(Nocturnal Animals=ノクターナル・アニマルズ)という小説の草稿が送られてくる。眠れぬ夜にその小説を読むことで、スーザンは虚実皮膜の間に落としこまれて行く・・・

夜の獣というのは、明らかに不眠症のスーザンを指すと思われるが、なぜ原題はそれが複数形なのか。あの頃のスーザン、今のスーザン、画商としてのスーザン、一人の女性としてのスーザンなど、スーザンその人の多面性のことなのか。

また小説に現れる不審者レイ(アーロン・テイラー=ジョンソン)が象徴するものは何か。なぜトニー=(≠?)エドワードに絡んでくるのか。彼の妻と娘を凌辱したのは何故なのか。トニーの余りの不甲斐なさと、対称的に西部の保安官の理想像を体現したかのようなボビー(マイケル・シャノン)の強さと弱さが同居したキャラクターは、エドワードの心のどの部分の象徴なのか。

奇妙なシンクロを見せるのはキャラクター達だけではない。小説場面と現実世界が絵画やオブジェを通じてシームレスにつながるシーンが複数あり、そうした場面が訪れるたびに観る者は混乱させられる。それは心地よい混乱であり、なおかつ不安を掻き立てる。なぜなら次のシークエンスが待ち遠しくなると同時に、見てはいけないエンディングに近づきつつあるとの予感がどんどん強くなってくるからだ。

ひとつ不思議なのは、なぜスーザンは『夜の獣たち』を読みながら、トニーをエドワードの顔で想起するのか。ふと思うのは、彼女はアートディーラーであり、彼女自身が美術芸術を創作することは無いということ。コロンビア大学の大学院で美術を専攻しながらも、創作の道ではなくビジネスの世界に進んだ彼女は、表面的には成功を収めているのかもしれない。しかし、心の奥底にある衝動を作品という形に昇華させることができない。それはストレスであり、自己実現の妨げである。対称的にエドワードは『夜の獣たち』を書き上げた。おそらくは彼の心象世界の描写であるこの作品は、スーザンが決して実現できなかった、内的衝動の外在化・具体化である。物語の内容もそうであるが、それ以上に作品として完成させ、送りつけるだけでエドワードの目的は果たされているのではないか。読んだ小説が、凶暴なまでのリアリティで迫ってくるのは、まるで鈴木光司の小説『リング』のようだ。また、小説を読むスーザンを、別の角度から観察する我々観客の感覚は、江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』の郷田三郎を観察する読者の気持ちとオーバーラップする。そして、まるで『複製された男』の如く、観る者を混乱させ、それでいてその映像美で魅了する。評価が難しいが、見て損をしたとは決して思わない、大人の映画に触れたなという思いでいっぱいである。2日前から、断片的に、非連続的にではあるが、本作をリピート再生するばかりだ。何なのだ、この作品は・・・

個人的にはギレンホールという発音に気持ち悪さを感じるので、ジレンホールと表記している。今後も本ブログでは、できるだけ英語の発音に近い表記を心がけていこうと思う。

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村 

 

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アーロン・テイラー=ジョンソン, アメリカ, エイミー・アダムス, サスペンス, ジェイク・ジレンホール, スリラー, マイケル・シャノン, ミステリ, 監督:トム・フォード, 配給会社:パルコ, 配給会社:ビターズ・エンド

投稿ナビゲーション

Previous Post『プレデター2』 -宇宙の広大さを感じさせるという一点のみが評価ポイント-
Next Post『コーヒーが冷めないうちに』 -無数の矛盾とパクリに満ちたお涙ちょうだい物語-

コメントを残す コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

最近の投稿

  • 『 アビス 』 -海洋SFの佳作-
  • 『 シン・仮面ライダー 』 -庵野色が強すぎる-
  • 『 湯道 』 -もっと銭湯そのものにフォーカスを-
  • 『 少女は卒業しない 』 -鮮烈な青春の一瞬-
  • 『 シャイロックの子供たち 』 -カタルシスとディテールが弱い-

最近のコメント

  • 『 すずめの戸締り 』 -もっと尖った作品を- に cool-jupiter より
  • 『 すずめの戸締り 』 -もっと尖った作品を- に じゅん より
  • 『 トップガン マーヴェリック 』 -追いトップガン6回目- に cool-jupiter より
  • 『 トップガン マーヴェリック 』 -追いトップガン6回目- に まるこ より
  • 『 トップガン マーヴェリック 』 -MX4D鑑賞- に cool-jupiter より

アーカイブ

  • 2023年3月
  • 2023年2月
  • 2023年1月
  • 2022年12月
  • 2022年11月
  • 2022年10月
  • 2022年9月
  • 2022年8月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
  • 2022年3月
  • 2022年2月
  • 2022年1月
  • 2021年12月
  • 2021年11月
  • 2021年10月
  • 2021年9月
  • 2021年8月
  • 2021年7月
  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月
  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月
  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月

カテゴリー

  • テレビ
  • 国内
  • 国内
  • 映画
  • 書籍
  • 未分類
  • 海外
  • 英語

メタ情報

  • ログイン
  • 投稿フィード
  • コメントフィード
  • WordPress.org
Powered by Headline WordPress Theme