虹色デイズ 60点
2018年7月16日 MOVIXあまがさきにて観賞
出演:佐野玲於 中川大志 高杉真宙 横浜流星 吉川愛 恒松祐里 堀田真由 坂東希 山田裕貴 滝藤賢一
監督:飯塚健
男子校のノリを共学に持ちこんだら、きっとこんな感じなのだろう。もしくは男子寮か。Jovianはどちらもよく知っているのでなおさらそう感じた。男は基本アホな生き物だが、恋は盲目とはよく言ったもので、片思い中の男は本当にアホになる。ここで言うアホというのは認知的不協和を起こしているということ。毎朝必死で自転車をこいで、目当ての子の乗る電車に追い付いて、何とか話をして、タオルを貸してもらえるところまで行ったのに、連絡先も訊けない。なぜなら「そんなことはしてはいけないんじゃないか。不純ではないのか」と思いこんでしまうから。何も心理学用語を使うまでもなく、思考と行動に矛盾があることは分かる。
主人公は一応、羽柴夏樹=なっちゃん(佐野玲於)ということらしい。この男が上のような行動に出て、小早川杏奈(吉川愛)といかにお近づきになるのか。それがメインの物語である。ではサブのプロットは何なのか。夏樹の親友(悪友というか悪童連というか)に松永智也=まっつん(中川大志)、直江剛=つよぽん(高杉真宙)、片倉恵一=恵ちゃん(横浜流星)は夏樹の恋を応援しながらも、高2=17歳という難しい局面にいかに対峙すべきか、自分なりに模索し始める時期を自覚していた。進学どころか進級も疑わしい者、進学するにしても地元に残るのか東京を目指すのか、女友達に囲まれてそれなりに楽しく過ごすのか、恋をするのかしないのか、エトセトラエトセトラ。
はっきり言って、どこかで観たり読んだりしたようなサブプロットのモンタージュである。メインのストーリーも少年漫画の王道と少女漫画の王道を足して2で割ったような話である。だが古い革袋に新しい酒を入れると、存外に芳醇な味わいに仕上がることもある。そしてその味わいの多くは、ヒロインである小早川杏奈(吉川愛)ではなく、その友人の筒井まり(恒松祐里)から来ている。このまりは、まさに日本版の『スウィート17モンスター』のネイディーンである。もちろん、杏奈が自分の兄と衝動的に寝てしまうという展開などは無いので安心してほしい。ただ、この兄という存在が、まりがひねくれてしまった大きな原因であると同時に、その歪みを正すべき相手に対して、まさに兄らしい言葉を投げつけるところが本作のある意味で最も重要なハイライトである。山田裕貴は良い仕事をした。まりの変化と、それを引き起こし受け止めたまっつん(中川大志)も良い仕事をした。『ちはやふる 上の句』冒頭で野村周平に啖呵を切っただけの女子高生がここまで来たかと感慨深くなる。特に本屋では、このキャラの内面と周囲との関係性を一瞬で描き切る素晴らしいシークエンスがあるので注目して見てほしい。
もう一人、滝藤賢一演じる数学教師も、ほんのわずかしか登場しないものの、強烈なインパクトを残した。実際にこういう教師はいたし、今もいることだろう。特に追試に関しては、合格者ではなく落第者を発表するというところに、アメリカ横断ウルトラクイズ的な意地の悪さを感じた。この男が進路相談で直江に投げかける言葉は案外と重い。あの一言をポジティブに受け取るかネガティブに受け取るかで、その後の直江がガールフレンドとの関係を維持できるかどうかを問われて、返す言葉に対する解釈がまるっきり異なってくるからだ。これは脚本の大いなる勝利であろう。
メインを張った佐野と吉川は大いに奮闘したものの、あの決定的なシーンにあれだけのわざとらしさ-もしくは不自然さと言い換えても良い-が残ったまま、劇場で放映されてしまったというのは、監督が妥協したか、もしくは佐野か吉川のどちらかがギブアップしたのであろう。この点は大いにプロフェッショナリズムを欠いたとしか判断できず、減点材料だ。『娼年』を10回見てこいと言いたくなる。
サブのはずの中川と恒松の物語が、メインの佐野と吉川よりも前に出てきてしまったという、オムニバス形式で作ろうとしたものが、どこかで破綻してしまったような作品で、ヒロインの吉川は漂わせる橋本愛または堀北真希のような雰囲気に辛うじて救われたという印象である。戦国武将を思わせる名字だらけのキャストのいずれかを見たいというのであれば、チケット代分の満足は得られるだろう。