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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: C Rank

『 あの夏、僕たちが好きだったソナへ 』 -青春を追体験する物語-

Posted on 2025年8月12日 by cool-jupiter

あの夏、僕たちが好きだったソナへ 65点
2025年8月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ダヒョン ジニョン
監督:チョ・ヨンミョン

 

台湾映画『 あの頃、君を追いかけた 』の韓国リメイクとは知らずにチケット購入(というかポイント鑑賞)。

あらすじ

高校生のジヌ(ジニョン)は何事にも本気にならず、男友達とつるむ日々を送っていた。皆が学級委員のソナ(ダヒョン)に恋する中、ジヌはあることでソナに助け舟を出す。そこから二人は互いを意識し始めて・・・

ポジティブ・サイド

男子高校生のアホさとクラスもしくは学校のマドンナとの距離感や関係性がうまく描けている。このあたりは古今東西、普遍的なものがあるのだろう。男子校出身だったJovianの周りには確かにいつも寝ている奴、いつもエロいことばかり考えている奴、いつも食べている奴、やたらとまじめに勉強する奴が確かにいた。

 

高校の頃の友情は大学に入ると大体切れてしまうか細くなってしまうが、その細さは強さでも弱さでもある。それを感じさせるエピソードも多彩で、かつ説得力がある。男は幼稚で、女は常にそんな男の幼稚さの先を行っているというのも古今東西に普遍的な真実なのだろう。そのお手本がジヌの父と母というのも笑えるし、また頷ける。

 

原作がそうなのだろうが、決定的なアイテムの使い方が巧みだと感じた。『 SLAM DUNK 』や『 はじめの一歩 』といった日本の漫画が単なるガジェットとしてではなく物語を構成するパーツになっている。その中でも白眉はシャツ。一瞬だけだが、Jovianの心臓は確かに止まった。初恋は実らないとか初恋は甘酸っぱいと言われるが、まさしくビタースイートな記憶を呼び起こしてくれる物語だった。

 

ネガティブ・サイド

災害シーンの描写が弱かった。というか、軍隊の生活がどういうものなのか、いかに俗世と隔絶されてしまうのかを表すシーンを1つか2つ入れておいてくれればよかった。台湾や韓国と違い、世界の多くの国々には兵役などないのだから。

 

ソンビンら、悪友たちの大学生活あるいは野郎同士の横のつながりも見てみたかった。

 

ホラーシーンの完成度が無駄に高く、直近で観た邦画ホラーより怖かった。そこで、ジヌとジニョンの距離が物理的に縮まるというシーンがあってもよかったのでは?

 

総評

テイストとしては『 狼が羊に恋をするとき 』に近い。青春のもどかしさやじれったさが存分に描き出されており、中年には刺さる内容になっている。本作はむしろ高校生や大学生のデートムービー、というか仲が良いけれど付き合うまでに至っていない相手を誘うのにちょうど良いのではないだろか。30年前にこんな映画や小説があったらなあ、と郷愁を覚えた。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

the apple of one’s eye

愛する人/物、とても大切な人/物の意。元々はthe pupil of the eye=目における瞳=中心的なものを指す表現だったのが、瞳がリンゴに置き換わったらしい。たしか詩編とかに「我を瞳のごとく守りたまえ」みたいなのがあったな。ということは2000年以上前からヘブライ語圏あるいはそこに影響を与えたオリエントですでにリンゴの効能が知られていたのか。This new house is the apple of my eye. =この新居は僕の宝だ、のように使ってみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 亀は意外と速く泳ぐ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, ジニョン, ダヒョン, ラブロマンス, 監督:チョ・ヨンミョン, 配給会社:シンカ, 韓国Leave a Comment on 『 あの夏、僕たちが好きだったソナへ 』 -青春を追体験する物語-

『 BAD GENIUS バッド・ジーニアス 』 -カンニングはやめよう-

Posted on 2025年7月29日2025年7月29日 by cool-jupiter

BAD GENIUS バッド・ジーニアス 60点
2025年7月27日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:カリーナ・リャン
監督:J・C・リー

 

休日出勤&残業weekなので簡易レビュー。

あらすじ

移民の子のリン(カリーナ・リャン)は全米トップクラスの頭脳の持ち主。それにより奨学金を得て、名門高校に入学し、グレースと友人になる。リンは試験に呻吟するグレースをアシストしてしまうが・・・

ポジティブ・サイド

原作の天才ふたりに、移民の子かつ有色人種という味付けをほどこしたのは、いかにもアメリカらしい。さらにそうした天才の頭脳をうまく搾取しようとするのは、やはり白人。しかもとびっきり頭が悪そうな奴ら。製作者たちはよく分かっている。

 

クンタ・キンテを持ち出すことで、黒人コミュニティの中の序列を見せつけ、さらにもう一人の天才バンクの背景についても示唆するという手法は見事だった。ボブ・グリーンの『 マイケル・ジョーダン物語 』で、ジョーダンが『 ルーツ 』について熱く語るシーンが印象に残って、岡山の紀伊国屋で『 ルーツ 』を買ってもらい、読んだ記憶がある。上下巻だったかな。

 

閑話休題。

 

第二次トランプ政権は発足早々に不法(とされる)移民を大量に送還し、留学生数にもキャップを設けようとしているが、たとえばアメリカの大学院レベルで情報学やコンピュータサイエンスを学んでいるのは圧倒的にインド人と中国人が多い。こうした学生を減らしてしまうと、後々にシリコンバレー自体が弱ってしまうことに気付いていない、あるいはその可能性から目を背けているのが彼の国の現状。そうした現状を背景に本作を見れば、最後のリンの決意がかなり独特な色彩を帯びたものとして映ってくるだろう。

 

ネガティブ・サイド

リンがクロスカントリーの実力者であるという設定はどこに行ったのか。まったく無用の設定だった。

 

リンが某試験の計算内容を用紙に残してしまうとは、本当に天才か?こんな smoking gun を残してしまうのはあまりにも間抜けだろう。その後の学校生活で要注意人物として教師たちに目を付けられるはずだが。

 

リンがなぜ音楽をそこまで勉強したいのかが、少しわかりにくい。というか説得力に欠けた。母親との大切な思い出であり、辛い現実からの逃避先でもあるのは分かるが、それをカンニングに使おうというのは、いくら子どもとはいえ倫理的にどうなのか。

 

総評

鑑賞後、オリジナルの『 バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』と同時に『 ルース・エドガー 』も思い起こした。脚本家が同作の監督兼脚本なのか。アメリカ社会の課題をうまく作品世界に落とし込んでいる。日本でもTOEICの不正受験が最近ニュースになったり、少し前には就活・転職時のSPIの替え玉受験もニュースになった。カンニングについて考えるきっかけになる作品だと言える。

 

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

Resolvere. Provocatio vincere. 

試験の教室の壁に書かれていた標語。直訳すると To solve. To conquer the challenge. となる。ある程度英語に慣れた人なら、resolvereにresolveが見えるだろうし、provocatioにはprovocationが見えるだろう。興味のある人は etymology dictoinaryで調べるとよい。日本語に訳すなら「(問題を)解くこと。(それは)困難に打ち勝つこと」となるだろうか。これはカンニングの手法およびリンの決断の両方を示唆していることに鑑賞後に気づくことだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 入国審査 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, カリーナ・リャン, クライムドラマ, サスペンス, 監督:J・C・リー, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 BAD GENIUS バッド・ジーニアス 』 -カンニングはやめよう-

『 ハルビン 』 -歴史的暗殺劇を淡々と描写する-

Posted on 2025年7月18日 by cool-jupiter

ハルビン 60点
2025年7月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヒョンビン リリー・フランキー
監督:ウ・ミンホ

 

伊東博文暗殺劇に興味がわき、チケット購入。残業続きで余裕がないため簡易レビュー。

あらすじ

大韓義軍のアン・ジュングン(ヒョンビン)は日本軍と交戦し、勝利する。しかし、捕虜として解放した将兵がヒョンビン不在の義軍を襲撃。ヒョンビンは大韓義軍の幹部たちからスパイとしての疑惑の目を向けられることになり・・・

ポジティブ・サイド

特に深い説明もなく、いきなり対日本軍のゲリラ戦が始まる。テンポがいい。

 

アン・ジュングンが英雄として祭り上げられていく映画かと思っていたが、実際はその逆。大韓義軍の中でアン・ジュングンがある意味で孤立化し、それでも一軍を率いて前線に立ち続ける姿は英雄というよりは孤高の人だった。この解釈は面白い。

 

リリー・フランキー演じる伊東博文の韓国の統治論は、真理ゆえにまさに韓国人の最も気に食わないところだろう。

 

韓国、ウラジオストク、満州、ハルビンと国際的なスケールで物語が進行していく。その中にスパイも紛れ込み、緊張感が否応なく増していく。アン・ジュングンがコン夫人にロシア語を尋ねたのは史実だろうか。テロリストではなく義士として国際的にも歴史的にも名を遺す名シーンにつながった。

 

ネガティブ・サイド

日本を悪者にしたいのは分かるが、そもそもアン・ジュングンが捕虜を解放しなければよかっただけの話。これはこれでアン・ジュングンの説く平和論につながるのだろうが、劇中でその側面が強調される効果は生まれていなかった。

 

森という軍人さんは頑張ってはいたものの、日本語に難あり。名のある役者は好感度ダウンを恐れて引き受けなかったのだろうが、無名かつ野心のある日本の役者ならオファーを受けたことだろう。ここは日本人の役者を起用すべきだった。

 

アン・ジュングンの周囲にスパイが送り込まれ、それは誰なのかというサスペンスが盛り上がるが、このハラドキ感は長続きしなかった。容疑者が実質一人しかいないからだ。

 

総評

韓国ではヒット、しかし日本では興行的にはさっぱりだろう。ただ、日本も閔妃暗殺やら張作霖爆殺やら色々とやらかしていることを忘れてはならない。閔妃の悲劇的な最期もそのうち映画化されるだろう。選挙前なので政治的なことを言うが、外国とは別に仲良くする必要はない。ただ、敵に回すようなことはすべきではないということ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

トンジ

同志の意。ロシアや一昔前の日本の過激派左翼と同じで、仲間のことは同志と呼ぶのが韓国でも習わしだったようである。韓国の抗日映画は今後も作られると思うので、そうした作品ではトンジという言葉が飛び交うことだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』
『 桐島です 』

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, ヒョンビン, リリー・フランキー, 歴史, 監督:ウ・ミンホ, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:KADOKAWA Kプラス, 韓国Leave a Comment on 『 ハルビン 』 -歴史的暗殺劇を淡々と描写する-

『 フロントライン 』 -見せ方に一考の余地あり-

Posted on 2025年7月8日2025年7月8日 by cool-jupiter

フロントライン 60点
2025年7月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:小栗旬 松坂桃李 窪塚洋介 池松壮亮
監督:関根光才

 

看護師の母が絶賛(一部酷評)していた作品ということでチケット購入。

あらすじ

豪華客船のダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナ患者が発生。横浜に停泊する同船内で治療にあたるため、本来は災害派遣されるDMATに白羽の矢が立つことに。リーダーの結城(小栗旬)はチームを招集し、厚労省の役人の立松(松坂桃李)と共に現地に赴くが・・・

ポジティブ・サイド

当時のニュースはよく覚えているし、マスコミの論調もよく覚えている。また岩田某がアホな動画をアップしたことも覚えているし、その動画に踊らされたアホなメディアや民衆のこともよく覚えている。そうした喧騒を背景に、静かに戦った医師や看護師を丁寧に描き出していた。

 

まず目についたのは窪塚洋介。野戦病院のリーダーとして、冷静沈着ながらも内に秘めた闘志と使命感を感じさせる医師を好演した。官僚を演じた松坂桃李も印象的だった。杓子定規な役人かと思いきや、意外に話せるし、見た目通りに有能。かなり柔軟な姿勢の持ち主で、必要とあらば法の規定も迂回する。2020年の春は大学関連業務の中でも教務パートを受け持っていたが、物流が滞っていて肝心の教科書が会社にも学校にも普通の書店にも届かなかった。そんな時に文化庁長官が各出版社に「著作権について格別の配慮」を求めた結果、教科書のデータを一時的に使わせてもらえたり、それを複製して配布したり、あるいはZoomなどで画面共有したりすることが可能になった。同じようなことがもっと大きなスケールで医療の現場で起きていたのだなと感慨深かった。

 

閑話休題。医師たちは、メディアやその背後の多くの国民の願い、すなわちコロナを国内に持ち込むなという思いとは別の思いで動いていたことが知れたのは非常に良かった。ここのすれ違いがメディアの暴走を生み、ひいては差別や国民間の分断を生んだことは記憶に新しいところだ。実際、トラックの運転手などはウィルスの運搬人扱いされていた。なんたること・・・

 

船内の状況や近隣(とは言えないところまで含めて)の医療機関との連携が形を成してきたところで、物語は暗転していく。例の動画だ。医療従事者たちが手指消毒を欠かさず、マスクや防護服も着用していたことは分かるし、船にクリーンルームやクリーンフロアが作れるはずがないことも、ちょっと頭を使えば分かる。あるいは取材すれば分かる。メディアはそれをしないし、大衆もそれを調べようとしない。それどころか(もう故人なので名前を出すが)小倉智昭などは「患者がいっぱいなので病院は儲かっている」だの、「ECMOは高額なので利益が出る」だの、めちゃくちゃ言っていたし、それに信じる人間も一定数この目で見た。こうした無責任なメディアを本作は遠回しに、しかし確実に批判している。

 

エッセンシャル・ワーカーたちの戦いに改めて敬意を表する機会を本作は提供してくれる。

 

ネガティブ・サイド

医療従事者のプロフェッショナリズムとプライベートの部分、すなわち彼ら彼女らの私生活、なかんずく家族についての描き方に不満がある。池松壮亮の家族がサブプロットとして描かれていたが、これは蛇足だった。なぜなら本作を鑑賞する多くの人々は、このことを覚えているはずだから。また、後年に見ることになる人々も周囲に話を聞いたり、あるいはネットで調べたりすることができるから。主要人物すべてが、時々メールをしたり、ひそひそ声で電話したりするシーンを映し出し、観客の想像力に訴えかければ事足りたはず。

 

同じく、小栗旬が桜井ユキからあることを尋ねられた際にも、言葉でていねいに答える必要はなかった。単に小栗旬に「具問だな」という表情をさせるだけでよかった。言葉でもって物語るということは、マスコミが言葉でもって一面的、皮相的にニュースを報じるのと構図の上では同じだ。相手の発する言葉を受け止めるのではなく、相手の働きぶりや立ち居振る舞いから読み取ることの重要性を逆説的に訴えかけてほしかった。

 

あとはメイクか。船の中でどんどん髪が乱れ、髭も伸び、頬もこけて、肌つやもなくしていく野戦病院の院長然としていた窪塚洋介とは対照的に、常に小ぎれいに身を整えていた野戦病院の理事長的な小栗旬の対比が痛々しかった。

 

総評

演出にやや問題あり。考えさせる映画ではなく、教える映画のように感じた。当時のニュースで〇〇〇と感じたが、この映画でやっぱり◎◎◎だと感じた、というのでは、既存メディアは信用ならん、SNSは信用できるという思考とパラレルである。このあたりがアメリカや韓国の社会派映画との違いか。とはいえ、エンタメだと割り切って観れば、それなりに楽しめるはず。最後の最後に映し出されるスーパーインポーズに何を思うのかで、本作の評価や印象がかなり変わると思うので、最後を注視してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

listen to one’s chest

胸を聴診するの意。聴診するという医学用語にはauscultateという語があるが、こんなのは英検1級ホルダーでもなかなか知らない(OET受験者は案外知っているが)。劇中でも小栗旬が breathe in, breathe out と呼び掛けていたが、息を吸って吐くところまでがセットである。ちなみに心臓の音は基本的には胸側からしか聴けない。呼吸音は両側から聴ける。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』
『 ハルビン 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, 小栗旬, 日本, 松坂桃李, 歴史, 池松壮亮, 監督:関根光才, 窪塚洋介, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 フロントライン 』 -見せ方に一考の余地あり-

『 近畿地方のある場所について 』 -やや竜頭蛇尾か-

Posted on 2025年6月29日 by cool-jupiter

近畿地方のある場所について 60点
2025年6月24日~26日にかけて読了
著者:背筋
発行元:KADOKAWA

 

ずっと積読にしていた作品。映画がもうすぐ公開されるらしいので、それに先んじて読んでみた。

あらすじ

取材の過程で消息を絶った小沢君の仕事を追っていく中で、私は彼が近畿地方のある場所を中心とした怪異を追っていることを知り・・・

 

ポジティブ・サイド

普通の小説とはかなり趣が異なる。登場人物がいて、時間が設定されていて、行動範囲がある程度特定されていて・・・ということがない。というのも、しばしばネットの書き込みが挿入されるから。言ってみれば、珍談奇談怪談風味の四方山話の寄せ集めなのだが、それがだんだんと近畿地方のある場所に収束していく流れは面白い。

 

怪異の始まりがアングラ系サイトというのも現代的。貞子がVHSから様々なメディアに乗り換えてたり、『 シライサン 』がネットの大海原を漂うように、怪異も時代に合わせてアップデートが必要。それを説得力ある形で提示できているところが素晴らしい。

 

個人的に面白かったと感じたのは林間学校、シール、そしてキャンプ場か。特にシールは、実際にありそうな話、というか、トクリュウ系の強盗の下見としてシールが使われているという報道があってから、街中であちこち目が行くようになってしまったので、余計にリアリティを感じた。

 

巻末に綴じられた取材資料があるのだが、これがなかなかに興味深い。個別のエピソードのネタバレ満載なので決して読了前に開くこと勿れ。

 

ネガティブ・サイド

近畿地方のある場所とぼかされてはいるが、近畿=二府四県で狭義の「県境」が存在するのは奈良と和歌山の間しかない。かつ、山があってダムもあるとなると奈良しかない。もっと廃寺やら廃小学校やら、ありふれた舞台を使えば、読みながらもっと疑心暗鬼になれるのに、と少しもったいなさを感じた。

 

怪異に関する謎が収束していく過程は楽しめたものの、収束していく先は正直なところ拍子抜け。

 

近畿地方の方言が最後のインタビュー以外、ほとんど出てこない。その最後のインタビューも、相手はかなりの年配者のはずだが、その特徴がない。おそらく取材もしていないのだろう。奈良や和歌山、あるいは大阪でも河内長野あたりを越えると明らかに標準関西弁とは異なってくる。そうした雰囲気を文字だけで伝える努力はすべきだった。

 

総評

途中まではまさにページを繰る手が止まらないが、終盤でとある調査が行われるあたりで???となり、最後のオチにはドン引き、かつ溜息が出る。でも、これはこれでいいではないか。我々は往々にして最後に残った印象で作品を判断しがちだが、そこに至るまでのゾクゾクやハラハラドキドキも評価しなければならない。そういう意味では十分に佳作以上。映画の脚本がどこを削って、どこを膨らませたのか、非常に気になる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Now that I’ve come this far,

作中に何度も出てくる「ここまで来たら」の私訳。ここまで来たら〇〇〇に行ってみる=Now that I’ve come this far, I am going to go to 〇〇〇. のように言える。come this far は物理的な距離についても使えるし、比喩的にも使える。仕事もしくはキャリアの上で飛躍できた歳に、I never imagined I could come this far. と呟いてみようではないか。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 28年後… 』
『 フロントライン 』

 

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2020年代, C Rank, ホラー, 日本, 発行元:株式会社KADOKAWA, 著者:背筋Leave a Comment on 『 近畿地方のある場所について 』 -やや竜頭蛇尾か-

『 脱走 』 -南へ向かう理由とは-

Posted on 2025年6月27日2025年6月27日 by cool-jupiter

脱走 65点
2025年6月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:イ・ジェフン リ・ヒョンサン
監督:イ・ジョンピル

 

『 サムジンカンパニー1995 』のイ・ジョンピル監督作品ということでチケット購入。

あらすじ

除隊を目前に控えたギュナム(イ・ジェフン)は密かに脱北を計画していた。しかし、同じく脱北をもくろむ部下に計画を見破られたギュナムは、二人での脱出を提案する。あえなく発見された二人だが、ギュナムは脱出者を発見した英雄として扱われてしまい・・・

ポジティブ・サイド

北と南の反目と融和は数々の韓国映画のテーマだが、脱北する兵士に焦点を当てるのは珍しい。ウクライナでもロシアでもひと頃は脱走兵が盛んにニュースになっていたが、軍から逃げたくなるのは決して珍しいことではないはず。北朝鮮のように先軍政治などといって、国家まるごと軍のようなところなら、それこそ亡命したくなって当たり前。本作はなぜ北から逃げ、南を目指すのかについてユニークな答えを呈示してくれる。

 

除隊してしまっては国境線近くの基地から離れてしまい、38度線を超えるのが難しくなる。雨が降ってしまってはせっかく作った地雷原の地図が無駄になってしまう。様々な制約から、もう今しかないというタイミングでの脱北は緊迫感抜群。そこからのプチドンデン返しと、旧友が追手になって迫ってくる展開も手に汗握る。この旧友がとある特技の持ち主なのだが、それが追跡部隊の司令官として生きているところも見逃せない。逃げる側と追う側の個人的な信念が対照的で分かりやすい。つまるところエーリッヒ・フロムの『 自由からの逃走 』の反対なのだ。世界がナショナリズムに回帰しつつあり、そこにファシズムの萌芽も見られる今、本作は自由について考えるきっかにもなりうる。

 

主人公はどこかで見たことのある顔だと思ったら『 建築学概論 』の気弱男ではないか。本作では部下に優しい上官ながら、相手を欺く際には大胆に振る舞い、対決すべき相手には敢然と立ち向かうという、いくつもの顔を見せた。最後に見せる、とある家族への顔、そして誰もいない中で自分だけに見せる顔と、とにかく多彩な表情を使い分けた。北でも南でも、人間は人間。そして人間である限り、一つの顔しか持てないなどということはない、というのが本作のメッセージの一つなのだと思う。

 

ネガティブ・サイド

ちょっと設定に無理がある。そもそも軍隊は四六時中臨戦態勢なわけで、ギュナムがあんなに夜な夜な集団の寝所、さらには基地すらも抜け出して、地雷原の地図の製作に邁進できるものなのか。その地図も底なし沼でびちゃびちゃのボロボロにはならなかったのか。

 

また、ギュナムの射撃の腕前が笑ってしまうほどに良い。良すぎる。スコープ付きのライフルで照準をしっかり定めて撃つスナイパーよりも軽々と遠方の的に当ててしまうのは、いくらなんでも非現実的すぎる。

 

途中で仲間になった連中の結末を暗示程度でよいので映し出してほしかった。

 

総評

脱北のしんどさがよく分かる一作。成功や自由を夢見ての逃走ではなく、成功の手前の段階、あるいは自由の代償を求めての逃走になっている点がユニーク。韓国も『 ソウルの春 』が続けば、北朝鮮のようになっていたのだろうか。平和日本の今に完敗したくなると共に、平和しか知らない日本に一抹の不安も覚える。倒れても立ち上がれるのが本当の意味での良い社会。本邦はどうか。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヒョン

兄の意味だが、必ずしも血のつながりはなくてもよい。日本語で年長の男性に親しみと敬意をこめて兄貴と呼ぶのと同じこと。そういえば「俺のことはヒョンと呼べ」と言ってくれた韓国系アメリカ人の元同僚は元気にしているだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 28年後… 』
『 フロントライン 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アクション, イ・ジェフン, リ・ヒョンサン, 監督:イ・ジョンピル, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 脱走 』 -南へ向かう理由とは-

『 28日後… 』 -復習再鑑賞-

Posted on 2025年5月7日2025年5月7日 by cool-jupiter

28日後… 60点
2025年5月4日 レンタルBlu rayにて鑑賞
出演:キリアン・マーフィー ナオミ・ハリス
監督:ダニー・ボイル

 

『 28年後… 』の復習のために、約20年ぶりに鑑賞。たしか東京で一人暮らししている時に、近所のTSUTAYAで借りた記憶がある。

あらすじ

動物愛護活動家が研究所を襲撃、チンパンジーを脱出させるが、そこから人間を狂暴化させる未知のウィルスが蔓延した。28日後、病院で目覚めたジム(キリアン・マーフィー)は、人っ子一人見当たらないロンドンの街を彷徨するが・・・

 

ポジティブ・サイド

「ゾンビ(実際は違うが)が走るのは反則やろ」と思ったことぐらいしか覚えていなかったが、観ているうちにだんだんと思い出した。人気(ひとけ)の絶えたロンドンをとぼとぼと歩くジムが妙に絵になる。

 

2020年前半のコロナ禍を経た上で本作を再鑑賞すれば、我々が未知の病原菌のキャリアや感染者に対して抱く本質的な恐れの感情は、時代や地域によって変わるものではないということがよく分かる。

 

地球の歴史からすれば人間が存在してきた時間の方が圧倒的に短く、人類が滅んでも、それは地球が平常運転に戻るだけだという考え方は西洋的というよりも東洋的で、個人的にはこの上なく首肯できる。一方で感染の前でも後でも、この世界では人が人を殺す、homo homini lupus あるいはbellum omnium contra omnesな世界であるというイングランド哲学者のホッブス的な観念も開陳されていたのは面白かった。

 

生き残った者たちの連帯の儚さ、そして無秩序の中で秩序を確立しようとする軍人たちとの戦いは、暴力ではなく知力の戦いがメインでそこそこ説得力を感じることができた。

 

ネガティブ・サイド

色々と細かい設定があるのだろうが、それがあまり追究されなかったのは残念。個人的には感染者の認知能力をもっと深掘りしてほしかった。感染者は非感染者を視覚、嗅覚、聴覚の何で区別しているのか。また鏡を効果的に使うシーンでは、感染者には鏡像認知能力が保たれていることがうかがえたが、そうしたシーン(感染者にも一定の知性がある)を序盤もしくは中盤に少し見せてくれていれば、なお良かった。また感染者がどれくらいで餓死するかを観察するのは超がつくほど重要だが、だったら雨水が飲めてしまうような場所に閉じ込めておくのはおかしい。隊の誰も突っ込まなかったのか。

 

最終盤にジムが覚醒するのが、かなり唐突に感じられた。確かに途中で野球バットをぶん回すシーンはあったが、あれをきっかけに軍人相手に大立ち回りができるほどに開き直ったというのは考え難かった。

 

総評

感染ジャンルの中では平均的な面白さか。コロナを経験してから見ると、人間がいかに疑心暗鬼に陥りやすいか、他者を攻撃あるいは排除しやすいかが分かる。平和な時に見ればゾンビものの変化球扱いされるのだろう。映画の評価は時代によって大きく変わりうることを証明する作品の一つ。復習再鑑賞したいという向きも多いはず。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

in a heartbeat

直訳すれば「心臓の一回の鼓動の内に」となる。心臓は1分あたり65~85回ぐらいの鼓動を刻むとされるので、一回の鼓動は1秒以下となる。つまり、「あっという間に」「一瞬で」の意味となる。

A: If you took this job offer, you’d have to move.
この内定を受諾するということは引っ越ししなければなりませんよ。

B: In a heartbeat!
すぐに引っ越します!

のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』
『 新世紀ロマンティクス 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, C Rank, イギリス, キリアン・マーフィー, ホラー, 監督:ダニー・ボイル, 配給会社:20世紀フォックス映画Leave a Comment on 『 28日後… 』 -復習再鑑賞-

『 異端者の家 』 -異色の宗教問答スリラー-

Posted on 2025年5月6日2025年5月6日 by cool-jupiter

異端者の家 65点
2025年5月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヒュー・グラント ソフィー・サッチャー クロエ・イースト
監督:スコット・ベック ブライアン・ウッズ

 

元・宗教学専攻として是非観てみたかった作品。途中でオチは読めたが、なかなかに楽しめた。

あらすじ

モルモン教のシスターであるバーンズ(ソフィー・サッチャー)とパクストン(クロエ・イースト)は布教のために家々を訪問していた。そんな中、気のいいリード(ヒュー・グラント)は二人の話に興味を示す。妻がパイを焼いているというので、二人は家に入る。しかし、リードは宗教に関する自論を語り始め・・・

 

ポジティブ・サイド

導入部で卑猥な話に興じる若い女子二人。なんのこっちゃと思わせて、思いがけない結論にたどり着くのが面白かった。と同時に、これは実はプロット上のとある伏線でもあるのだった。掴みは完璧である。

 

それなりに生きていれば宗教家の訪問を受けたことのある人もいるだろう。Jovianも若い頃は玄関先でエホバの証人やモルモン教を撃退したことがある。まあ、あれこそが若気の至りというものか。

 

本作は逆に、布教活動する側が訪問先で囚われの身にされてしまう。宗教を説きに来たら、逆に宗教の定義を問われた。うまく答えられずにいると、相手がモノポリーやらポップ・ミュージックやらを例にして、既存の宗教はオリジナルの模倣であると自説を懇々とぶってきた。これは怖い。一つには、その指摘が半分は当たっているから。もう一つには、ミスター・リードを演じるヒュー・グラントが底知れなく薄気味悪いから。

 

この気味の悪さをさらに助長するかのように、キリストの復活を模したイベントまで行われる。この脚本兼監督の二人は、なかなか悪趣味かつ手練れである。

 

外部からの助けが来そうになったり、あるいは二人の問答がリードを揺さぶりそうになったりとサスペンスフルな展開が続く。そして監禁された地下室の奥深くでシスターが見たものとは・・・ このあたりもホラーとスリラーの境目というか、スーパーナチュラルスリラーとスリラーの間を行き来する作劇は興味深かった。

 

ラストはかなり観る側の想像力に働きかけるものになっている。以下、ネタバレなので白字で書く。あの蝶は胡蝶の夢の蝶のシンボルなのか、それとも生まれ変わりの象徴としての蝶なのか。後者だとすれば死んでから卵、幼虫、さなぎ、羽化に要する時間と矛盾するが、魂の転移的に考えれば説明できないことはない。そんな宗教的教義は劇中でも触れられていなかったが。また蝶が指先ではなく手首のところに止まっていたのも何かを示唆しているのか。シスターは「指先」(台詞ではfingertip)と言っていなかったか。またこの蝶は幻だったという解釈の余地もある・・・

 

ネガティブ・サイド

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教をビッグスリーと呼ぶのは構わんが、その他の宗教もぜひ俎上に載せた議論をしてほしかった。それをするときりがないというのは分かるが、新規は模倣の産物だという理論で行くと、結局はユダヤ教が正統性を持ってしまう。その旧約聖書も、たとえば「大雨と言えばノアの方舟」と言われていたが、洪水伝説自体はメソポタミアのギルガメッシュ叙事詩が明らかに先行テクストだし、ヨブ記の天地の描写はまんまギリシャ神話だったりする。ビッグスリー、特にユダヤ教を(ご時世的にも)特別扱いしないでほしかった。

 

また仏教や道教が一切言及されないのはご都合主義ではなかっただろうか。あらゆる収容を研究したと豪語する割にインド以東のアジアの宗教が議論されなかったことについて、なにか理由が欲しかった。シスターが「しかし、仏教のような宗教もあります」と言ったところにリードが「モルモン教徒が仏教を論じるのか?」のように言い返すだけで充分だったろう。

 

総評

日本でも宗教二世という言葉が一般化され、宗教(カルト)によって家族を奪われ、人生を壊された人々の存在がようやく可視化された。また40歳以上であればオウム真理教を思い出せる人も多いはず。しばしば無宗教とされる日本人にとって、宗教とは何かを考えるひとつのきっかけに本作はなれるかもしれない。ちなみに宗教とは、民主化=脱王権によって神話を必要としなくなった人々が、神話の代わりに・・・ おっと、これ以上は一部の宗教学者からクレームをもらうかもしれないので黙っておく。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

With great power comes great responsibility.

「大いなる力には大いなる責任が伴う」という意味。劇中でシスターが「スパイダーマン 」と呟いた瞬間、「違うぞ、アンクル・ベンの言葉だぞ」と思ったが、実はヴォルテールの言葉だったとは不勉強にして知らなかった。昔、WOWOWで見た『 アンダーカバー・ボス 』でユタ・ジャズのオーナーが

With that promotion comes a raise.

と同じような倒置用法で言っていたのが印象に残っている。探してみたら動画があったので、気になる人は37分59秒から視聴してみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』
『 新世紀ロマンティクス 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, カナダ, クロエ・イースト, スリラー, ソフィー・サッチャー, ヒュー・グラント, 監督:スコット・ベック, 監督:ブライアン・ウッズ, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 異端者の家 』 -異色の宗教問答スリラー-

『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

Posted on 2025年5月6日 by cool-jupiter

うぉっしゅ 65点
2025年5月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中尾有伽 研ナオコ
監督:岡﨑育之介

 

『 異端者の家 』を観るはずが、レイトショーがやっておらず、急遽こちらのチケットを購入。意外にしっかりした作りだった。

あらすじ

ソープで働く加那(中尾有伽)は、母の突然の入院治療のため、遠方の祖母、紀江(研ナオコ)の介護を一週間だけ引き受けることになる。しかし紀江は認知症のため加那のことを覚えておらず、毎回初対面のように振る舞う。そうして昼は介護、夜はソープという加那の奇妙な生活が始まって・・・

ポジティブ・サイド

めちゃくちゃ久しぶりに研ナオコを見た気がする。おそらく10年ぶりぐらいか?ナチュラルに老人になっていて、自分自身が年を取ったと実感する。そして研ナオコ演じる紀江の認知症は母方の祖母の認知症とそっくり。祖母も90過ぎてからは会うたびに「誰?どこから来た?仕事は?」と聞いてきたっけか。最初は少なからずショックを受けたが、おふくろからとある話を聞いて納得した。そしてその話とほとんど同じことを劇中でとある人物が語ってくれた。

 

本作で真に迫っていたのは紀江だけではない。他のキャラクター、特に隣家のおばさんと風俗店のボーイは際立っていると感じた。他にもホストに入れ込むソープ嬢仲間や、ソープ業界から足を洗おうという仲間も印象的だった。ああいう業界の人間関係はドライに見えてウェット、ウェットに見えてドライだと想像するが、現実もきっとそうなのだろう。

 

介護の場面でも、入浴介助のシーンだけ生き生きする加那には説得力があったし、介護のあれこれを動画で学ぶのも『 アマチュア 』と同じく現代っぽさを感じさせた。特に薬を飲むことを拒否する高齢者というのは、看護の現場でもあるあるだった。

 

加那がソープ嬢として客に忘れられること、そして孫として祖母に忘れられることの痛みを受け入れる転機は生々しかったし、それだけに説得力があった。会いに来るのを待つというのと、こちらから会いに行くということの違いをこれだけ鮮明に打ち出した作品は、ロマンスものですら珍しいと思う。

 

認知症は認知機能の衰えであって、感情は残るとされている。徘徊老人という言葉は数十年前からあるが、彼ら彼女らがどこに向かっているのかを追究しようとした作品としても本作はユニーク。昔の研ナオコを知っているオールドファンからすれば、一瞬だけだが非常に気分がアゲなショットも用意されている。

 

職業に貴賎なし。スティーブ・ジョブズの言葉を借りれば、Love what you do となるだろうか。自分を肯定できれば、相手も肯定できるのだ。

 

ネガティブ・サイド

ベッドで上半身を持ち上げてからの端座位への移行が、ぶっちゃけ下手くそだった。腕力を使ってはダメ、きゃしゃな女性なら尚更。最初にうまく行かず、そこでプロの指導動画を観る、のような流れであれば自然だった。ちなみに実践的には、自分から遠い方の相手の肩を抱いて少し自分側に引いてやり、その反動で相手を少し押す。そこで生まれた遠心力を使って、相手の尻を起点にサッと回してやるのがコツである。

 

名取さんのご高説は興味深かったものの、介護業が長かったのなら、家族が一番というのは必ずしも現実ではないと分かるはず。たとえば『 博士と彼女のセオリー 』などからも明らかだし、実際にそうだからこそ直接の家族でなくとも介護の貢献が認められた者にも相続権が認められる特別寄与制度も整備された。家族論には色々あるし、それは大いに語られるべきだが、本作のそれは少し的外れに感じられた。

 

総評

ソープと介護という一見して共通点がなさそうなものを見事に結び付けた珍品。だからといって程度が低い作品ではない。サブキャラのサブプロットも無理のない範囲で掘り下げられているし、それが主人公キャラに深みを与えている。セクシーなシーンはあっても、エロいシーンはないので、高校生、大学生のカップルでも鑑賞に支障なし。親が上手に説明できるならという条件付きで、ファミリーで鑑賞するのもありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Nice to meet you.

はじめまして、の意。初対面の相手には、まずはこれを言おう。SlackやZoomで話したことはあっても、直接に合うのは初めてという場合は、Nice to meet you in person. や Nice to meet you face to face. のように言おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』

 

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, コメディ, ヒューマンドラマ, 中尾有伽, 日本, 監督:岡崎育之介, 研ナオコ, 配給会社:ナカチカピクチャーズLeave a Comment on 『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

『 ミッキー17 』 -やや一貫性に欠ける-

Posted on 2025年4月1日 by cool-jupiter

ミッキー17 65点
2024年3月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ロバート・パティンソン ナオミ・アッキー マーク・ラファロ トニ・コレット
監督:ポン・ジュノ

 

ポン・ジュノ監督の作品ということでチケット購入。

あらすじ

借金取りから逃れるために、使い捨て人間として宇宙に出ることに決めたミッキー・バーンズ(ロバート・パティンソン)。しかし、それは過酷な環境での人体実験の被験者になることだった。死んでも死んでもリプリントされ、記憶もインストールされるミッキーだが、ある時、事故から生還すると、そこにもう一人のミッキーがいて・・・

ポジティブ・サイド

『 TENET テネット 』や『 THE BATMAN ザ・バットマン 』でクールな役を好演してきたロバート・パティンソンが、悲惨なお笑いキャラに大変身した。もうそれだけで笑える。『 エリジウム 』とはある意味で正反対の世界ながら、同作の治癒マシーンをはるかに超えた、人間プリンターには驚かされた。ただ、100年後ぐらいには中国が作りそうな装置ではある。ここから量産される人間を使って、普通の人間に対しては行えないアレやコレをやってやろうというのは『 火の鳥 生命篇 』。漫画好きのポン・ジュノらしい。

 

宇宙船の中でも格差社会が存在するのは、『 スノーピアサー 』の拡大版。子どもが搾取されるのではなく、大人のエクスペンダブルが搾取される。しかし、宇宙放射線対策やワクチン開発のための人体実験で死にまくっているミッキーは、英雄なのか奴隷なのか。

 

そのミッキーを虐げる悪役をマーク・ラファロとトニ・コレットが巧みに演じた。特にトニ・コレットは、時にユーモラス、時にホラーと、顔芸だけではなく確かな演技力を披露してくれた。

 

やっとたどりついた新天地のニフルヘイムの先住者は『 風の谷のナウシカ 』の王蟲そっくり。この時点である程度展開は読めるのだが、ちょっとしたひねりも加えられていて、それがしっかりエンターテインメントにもなっている。

 

死ぬとはどういうことか問うことを通じて、生きるとはどういうことなのかを逆に問い直そうとする作品。一人でじっくり鑑賞しても良し、家族や友人と連れだって鑑賞し、あれこれを感想をシェアするのもいいだろう。

ネガティブ・サイド

ティモやカイといったキャラクターはもう少し深掘りできたのではないか。もしくはバッサリと存在ごとカットしてもよかったかも。

 

重複存在となったミッキー17とミッキー18が、マイルドとハバネロぐらい異なる性格になったことに対して全く説明がなかったのが気になる。記憶を保存して、それをリプリントされた個体の頭脳にインストールする。ここまではSFでよくある設定。ただ、同じ肉体、同じ記憶であるにも関わらず、全く異なるパーソナリティになってしまう説明が欲しかった。たとえば、ミッキー5まではこうだったけど、ミッキー6はちょっと変な奴だった、のようなエピソードがあればもっと得心がいったのだが。

 

テーマは What’s it like to die? だったはずだが、そこに占める異星生命との遭遇の割合が大き過ぎたように思う。延々と人体実験に晒されつつも、ある時、死んでしまったミッキーに人工呼吸やら胸骨圧迫をして蘇生させる必要が生じた。しかし、蘇生はできずリプリントした。なぜ我々はリプリントされる彼を蘇生させようとしたのか・・・と問うような物語もありえたのかな、と思う。

 

総評

決して傑作ではない。しかし駄作でも凡作でもない。ブラック・コメディとして普通に面白い作品。保守化に邁進する第2次トランプ政権のアメリカ社会とその歴史を下敷きに本作を鑑賞すれば、ポン・ジュノ監督が何を笑いに変えようとしたかったのかが見えてくる。格差、階級、移民、異邦人。なかなか解決できない問題だが、笑い飛ばすことはできる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

work one’s ass off

直訳すると、働いて誰かの尻が離れてしまうだが、実際は「めちゃくちゃ頑張る」ということ。We all have to work our asses off. To hell with my company… のように言える。こういうことがサラッと言えれば英検0級である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 Flow 』
『 ケナは韓国が嫌いで 』
『 悪い夏 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, トニ・コレット, ナオミ・アッキー, ブラック・コメディ, マーク・ラファロ, ロバート・パティンソン, 監督:ポン・ジュノ, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 ミッキー17 』 -やや一貫性に欠ける-

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