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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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『 インディ・ジョーンズ 最後の聖戦 』 -アドベンチャー映画の金字塔-

Posted on 2023年6月27日 by cool-jupiter

インディ・ジョーンズ 最後の聖戦 85点
2023年6月20日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ハリソン・フォード ショーン・コネリー
監督:スティーブン・スピルバーグ

最新作公開前に復習再鑑賞。

 

あらすじ

考古学者のインディ(ハリソン・フォード)は富豪ドノヴァンから、キリストの血を受けたとされる聖杯の捜索を依頼される。半信半疑のインディだったが、前任者が行方不明になり、なおかつそれが父ヘンリー(ショーン・コネリー)だと知らされ、父と聖杯の両方を捜索する旅に出ることなり・・・

 

ポジティブ・サイド

若き日のインディをリバー・フェニックスが好演。また、偏屈なインディの父親を名優ショーン・コネリーが時にコミカルに、時に堂々たる演技で魅せる。確かにこれはインディの父親だわ。インディらの盟友ブロディやサラーもコミックリリーフとして抜群の存在感。アクションの中にもユーモアを織り交ぜてくるスピルバーグの手腕も光っている。

 

聖杯=The Holy Grail を探し求めるという、ある意味で究極のアドベンチャー。日本で言えばオリジナルの三種の神器を探し出そうという試みに匹敵するだろうか。そこにナチスの思惑も絡み、聖杯探しが人類全体の命運を懸けた冒険につながっていくというプロットがこれ以上なくスリリングだ。

 

あのテーマソングと共に夕陽に向かって馬を駆る4人のシルエットは、聖地を去っていく Four Horsemen。人類に対する希望は維持されたのだ。

 

ネガティブ・サイド

インディと聖杯の騎士がラテン語またはギリシャ語で言葉を交わしても良かったのではないか。若き日に、そういう伏線らしきシーンもあったのだから。

 

総評

まさに大冒険。密林から砂漠へ飛び出し、空中戦あり、地上戦あり。馬を駆って戦車と戦う。謎を解いてお宝をゲットする。学者としてのインディと冒険家としてのインディ、頭脳派インディと肉体派インディのバランスは本作が最も優れていると感じる。本シリーズは、ここできれいに幕を引いておくべきだったと再鑑賞してつくづく感じる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

mark the spot

その場所にマークを付ける、の意。劇中では X never ever marks the spot. =✖印に宝などないのだ、と冒頭の講義で言っていたが、中盤に X marks the spot という展開があって、インディならずともニヤリ。このシーンは実にユーモアたっぷりで、冒険と謎解きの合間に息抜きをさせてくれるのがありがたい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・フラッシュ 』
『 告白、あるいは完璧な弁護 』
『 インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1980年代, A Rank, アドベンチャー, アメリカ, ショーン・コネリー, ハリソン・フォード, 監督:スティーブン・スピルバーグ, 配給会社:UIPLeave a Comment on 『 インディ・ジョーンズ 最後の聖戦 』 -アドベンチャー映画の金字塔-

『 インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 』 -王道アドベンチャー映画-

Posted on 2023年6月19日 by cool-jupiter

インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 85点
2023年6月15日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ハリソン・フォード キー・ホイ・クァン ケイト・キャプショー
監督:スティーブン・スピルバーグ

最新作公開前に復習再鑑賞。簡易レビュー。

 

あらすじ

秘宝ヌルハチを巡って上海マフィアとトラブルになったインディ(ハリソン・フォード)は、クラブの歌姫ウィリー(ケイト・キャプショー)と少年ショーティ(キー・ホイ・クァン)と共に辛くも上海を脱出する。しかしマフィアの手により飛行機は墜落。インディたちは辛くも生き延び、インドの山奥の集落に身を寄せる。一行はそこで村の子どもたちが淫祠邪教の集団にさらわれたと聞かされ・・・

 

ポジティブ・サイド

とにかく何もかもがカラフル。ジョージ・ルーカスのモス・アイズリーをスティーブン・スピルバーグが料理すると、このようなクラブになるのかと感心させられた。

 

魔宮たるパンコット宮殿の地下ダンジョンも前作に負けないおどろおどろしさ。そして終盤のトロッコ・チェイスは名場面中の名場面。トルネコが大岩に追われるのはドラクエⅣだったが、このトロッコのアイデアはその後ドラクエⅤで採用された。つくづく影響力の大きいシーンだ。ついでに『 スパイダーマン2 』の暴走列車を止めるシーンは、本作のインディがトロッコを止めるシーンにインスパイアされたのではないかと思っている。

 

ハリソン・フォードが冒険家のインディを好演。ジョン・ウィリアムズのテーマ曲も、もはやキャラクターと言っていいほどの存在感。『 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』で中年になってしまったキー・ホイ・クァンが本作ではいたいけな少年で、「そら俺もいつの間にかオッサンになってるはずやわ」と感じてしまった。ヒロインのウィリーも負けん気の強さと、その裏返しである繊細さがとても魅力的。I could’ve been your greatest adventure. などと女性に言わせるのだから、ハリソン・フォードもハン・ソロよりインディアナ・ジョーンズの方が好きなキャラやろね。

 

アドベンチャーとしての魅力が全て詰まった傑作である。

 

ネガティブ・サイド

ウィリーは悪いキャラではなかったが、地下ダンジョンではギャグキャラになってしまったのが残念。

 

総評

多分10年ぶりくらいに再鑑賞したが、面白いものは面白い。おそらく10年後に観ても、面白いはず。まさにアドベンチャーの王道だ。上海やインドの描き方が雑に思えるが、これらの土地は当時は英国。猥雑に見えたとしても英国なのだから、アジア人として気にしたら負けである。小難しいことは考えず、インディ一行の冒険を一緒に体験しようではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

if memory serves me correctly, 

記憶が正しければ、の意。if memory serves me right とも言う。memory に my のような所有格はつけない。つけてもいいが、普通はつけない。If memory serves me correctly, the capital of Brazil is Brasília, not Rio de Janeiro or São Paulo. = 「僕の記憶が正しければ、ブラジルの首都はブラジリアだ。リオデジャネイロでもサンパウロでもない」のように使う。Jovianも職場でしょっちゅう使っている表現である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 水は海に向かって流れる 』
『 M3GAN/ミーガン 』
『 ザ・フラッシュ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1980年代, A Rank, アドベンチャー, アメリカ, キー・ホイ・クァン, ケイト・キャプショー, ハリソン・フォード, 監督:スティーブン・スピルバーグ, 配給会社:CICLeave a Comment on 『 インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 』 -王道アドベンチャー映画-

『 レイダース 失われたアーク《聖櫃》 』 -インディ・ジョーンズの誕生-

Posted on 2023年6月11日 by cool-jupiter

レイダース 失われたアーク《聖櫃》 80点
2023年6月6日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ハリソン・フォード カレン・アレン
監督:スティーブン・スピルバーグ

 

最新作『 インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 』に向けて復習鑑賞。

あらすじ

考古学者インディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)は南米の遺跡を調査していたところ、ライバルであるべロックに妨害されてしまう。辛くも逃れたインディの元にアメリカ軍将校が訪れる。ナチスが契約の箱、聖櫃に秘められた力を求めて動き出していると言う。その情報の中に、かつての恋人であるマリオン(カレン・アレン)の名前を聞いたインディはエジプトに向かうことになり・・・

 

ポジティブ・サイド

南米の密林の遺跡に侵入し、罠を見破り、お宝ゲット。と思いきや・・・という展開だけでインディ・ジョーンズ博士というキャラクターとシリーズの全てが描かれている。ドラクエⅣをリアルタイムでプレーしていた時には本作観鑑賞(Jovianは二作目をVHSで観たのが本シリーズ初鑑賞)だったが、トルネコが岩に追いかけられるのはどう見ても本作へのオマージュ。鞭を使う冒険者というのも斬新だった。

 

南米からアメリカ、ネパール、エジプトとまさに世界を股にかけた大冒険だが、アクションと謎解きのバランスが素晴らしいのも本作の特徴。古代の遺跡に超自然的な力が宿っていると信じられていた時代の産物で、歴史に対する畏怖が感じられる。

 

要所で響き渡るジョン・ウィリアムスのテーマ曲も一種のキャラクターと言えるだろう。特に冒頭のファンファーレを聞くと、それだけで血沸き肉踊るインディの冒険活劇シーンが脳裏に浮かんでくる。

 

ネガティブ・サイド

オープニングが最も胸躍るのは何故なのだろう。盛り上がりは後半に持ってくるべきだった。

 

いくら1930年代のエジプトとはいえ、外国人があそこまで大立ち回りして、当局にしょっ引かれないというのは理解しがたい。

 

総評

ハリソン・フォードがハン・ソロよりもインディ・ジョーンズを好きなのも分かる。こちらは主役で善人。インテリで腕っぷしも強く、美女にモテる。つまり男の願望の結実なのだ。その後の多くのメディアにも影響を与えた作品そしてキャラクターだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

beyond your wildest aspirations

普通は beyond one’s wildest dreams = 「夢にも思わないほど」が最も一般的な表現だが、こちらも当時は使われていたのだろうか。意味は「どんな願いも超えた」だろうか。劇中では treasures beyond your wildest aspirations のように使われていた。日常だと、The scenery was beautiful beyond my wildest dreams. = その景色は想像を絶する美しさだった、のように使うことが多い。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 The Witch 魔女 増殖 』
『 渇水 』
『 水は海に向かって流れる 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1980年代, A Rank, アドベンチャー, アメリカ, カレン・アレン, ハリソン・フォード, 監督:スティーブン・スピルバーグ, 配給会社:ユナイテッド・シネマLeave a Comment on 『 レイダース 失われたアーク《聖櫃》 』 -インディ・ジョーンズの誕生-

『 ザ・ホエール 』 -珠玉の人間ドラマ-

Posted on 2023年5月1日 by cool-jupiter

ザ・ホエール 80点
2023年4月29日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞

出演:ブレンダン・フレイザー セイディー・シンク ホン・チャウ
監督:ダーレン・アロノフスキー

 

元同僚のカナダ人友人の強い勧めで鑑賞。今年の海外映画のベストの一作であることは間違いない。

あらすじ

チャーリー(ブレンダン・フレイザー)は過去のある出来事から、過食に走ってしまい、歩行器なしでは歩けないほどの肥満になってしまった。友人であり看護師のリズ(ホン・チャウ)に支えられながら生活していたが、うっ血性心不全の発作から自らの死期が近いことを悟る。チャーリーは、かつて自らが捨ててしまった娘のエリー(セイディー・シンク)と再会するが・・・

 

ポジティブ・サイド

クジラ=巨体、クジラ=脚がない、クジラ=鯨飲馬食(馬は違うか・・・)のようなイメージをそのまま演じきったブレンダン・フレイザーに拍手。男同士のまぐわうポルノ動画を観ながら、突如心臓発作を起こし、偶然に尋ねてきた宗教勧誘員にエッセイを音読してくれと頼む姿に、一気に物語世界に引き込まれてしまった。

 

チャーリーと親友リズの心地よい関係とその関係の反転、娘エリーとの縮まらない距離感、執拗に宗教に勧誘してくるトーマスとの距離感、そして元妻との間にある断絶と、しかしエリーという娘の存在によってつなぎとめられる絆。2時間の中でチャーリーと彼を取り巻く人間たちのドラマが大きなうねりとなって観る側を飲み込んでいく。

 

娘エリーがとんでもないクソガキなのだが、彼女の取る行動の一つが思いもかけない福音となる。人間、何が救いになるのか分からない。同時に、とあるキャラクターのとある行動がチャーリーを大いに苦しめる。まあ、そらそうなるわな。人間、何が攻撃になるかなんて分からない。

 

虎は死んで皮を残すと言われるように、クジラの死骸は海底で独自の生態系を形成する媒体となる。チャーリーの職業は大学の講師で、時々大学の正課・課外授業を担当するJovianとそっくり。人間が死後に残せるのは言葉。そしてその言葉の力は時に奇跡を起こす。リズの言う “I’ll wait downstairs.” という台詞が非常に寓意的だ。死を迎えんとするチャーリーが起こす奇跡に我あらず涙してしまった。

 

ネガティブ・サイド

宗教批判をするなら、ニューライフではなく、普通のキリスト教のセクトか、あるいはモルモン教(これは一瞬だけ言及されていたか)やエホバの証人の名前を使えばよかったのに。なにか不都合があったのだろうか。

 

総評

主な登場人物は5人。舞台はほとんどすべてチャーリーのアパート内。時間にしてわずか1週間足らず。それでこれだけ濃密な人間ドラマが描けるのだから、やっぱり脚本というのは大事だなと実感。同時にその脚本の文字を映像に昇華させる監督の演出力。そして監督のビジョンを体現する役者と裏方スタッフの努力。『 ザ・メニュー 』で強烈な印象を残したホン・チャウは本作でも素晴らしかった。間違いなく今年のベストの一作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

debt

借金の意。デットと発音する。序盤でリズがチャーリーに Being in debt is better than being dead. =死ぬより借金の方がましよ、と告げるシーンが印象的だった。debt と dead が韻を踏んでいることにも注目したい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』
『 放課後アングラーライフ 』
『 不思議の国の数学者 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アメリカ, セイディー・シンク, ヒューマンドラマ, ブレンダン・フレイザー, ホン・チャウ, 監督:ダーレン・アロノフスキー, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 ザ・ホエール 』 -珠玉の人間ドラマ-

『 世界の終わりから 』 -2023年の邦画ベスト候補-

Posted on 2023年4月9日 by cool-jupiter

世界の終わりから 80点
2023年4月8日 梅田ブルク7にて観賞
出演:伊東蒼 毎熊克哉 朝比奈彩
監督:紀里谷和明

 

大学の開講週を迎えて残業と休日出勤がピークに達しているため、簡易レビュー。

あらすじ

祖母と二人暮らしのハナ(伊東蒼)だったが、祖母は亡くなってしまう。学校に居場所もなく、進学の資金もない。そんなハナに警察警備局の江崎(毎熊克哉)と佐伯(朝比奈彩)が現れ、ハナが見る夢について尋ねてくる。何の心当たりもないハナだが、その夜の入浴中に戦乱の世に巻き込まれる夢を見て・・・

ポジティブ・サイド

あらすじも何も見ず、タイトルだけでチケットを購入。これが大当たり。

 

単純に光量が足りないのではなく、意味と意図のあるダークな画作りは韓国映画的。主人公の置かれた境遇にも救いがない。『 さがす 』の伊東蒼が、同作よりもさらに深い世界の暗部、世界の終わりへと誘われていく様は見応え抜群。

 

夢を媒介に過去と現在を行き来するのは『 リング・ワンダリング 』的でJovian好み。白黒の映像も美しい。

 

『 レッドシューズ 』でイマイチだった朝比奈彩と、名バイプレーヤーの毎熊克哉も魅せてくれる。監督の演出がドンピシャだったのだろう。

 

ダメなのか?ダメなのか?で、やっぱりダメだったという『 日本沈没 』とは違い、本作は非常にユニークな運命論を展開する。こちらの世界観の方が『 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』のそれより、理解も納得もしやすい。

 

ネガティブ・サイド

湯婆婆かな?と思ったら湯婆婆だった。もっとオリジナリティを捻り出すべきだろう。

 

炎のCGがしょぼかったな。

 

総評

個人的にはめちゃくちゃ楽しめた。事前の情報ゼロで臨んだのも大きい。伊東蒼は、南咲良と並んで、出演しているだけでチケット購入決定の女優に認定したい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a kitkat bar

お菓子のキットカットがちょっとしたガジェットになっている。英語ではしばしば a kitkat bar のように bar がつく。チョコレートは不定形だが、お菓子になる時はだいたい板状あるいは棒状で、いずれも bar と呼ぶ。豆知識として知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ノック 終末の訪問者 』
『 search #サーチ2 』
『 ヴィレッジ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, SF, ヒューマンドラマ, 伊東蒼, 日本, 朝比奈彩, 毎熊克哉, 監督:紀里谷和明, 配給会社:ナカチカLeave a Comment on 『 世界の終わりから 』 -2023年の邦画ベスト候補-

『 エゴイスト 』 -身勝手な愛の行きつく先は-

Posted on 2023年2月28日2023年2月28日 by cool-jupiter

エゴイスト 80点
2023年2月26日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:鈴木亮平 宮沢氷魚 阿川佐和子
監督:松永大司

 

『 ハナレイ・ベイ 』の松永大司監督の作品。鈴木亮平が宮沢氷魚を役者として大きく成長させた一作。

あらすじ

浩輔(鈴木亮平)は東京でファッション誌編集者として働きながら、ゲイとして友人にも恵まれながら、自由に暮らしていた。ある日、浩輔はパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会う。二人は次第に距離を縮めていく。そして龍太は浩輔に不意にキスをして・・・

 

ポジティブ・サイド

ゲイの恋愛物語で始まるが、本作は一種の純愛を描いている。激しいセックスシーンがありながら、何が純愛かと思われるかもしれないが、プラトニック・ラブと純愛は別物。前者は一種の禁欲で、後者は純粋な愛情。愛とセックスを切り分けてしまう方がおかしいのではないか(10代前半の恋愛は除く)。

鈴木亮平演じる浩輔は、ゲイの演技が完璧。ゲイの友達と一緒にいる時の表情や立ち居振る舞い、ほんのちょっとした仕草と、職場でのそれらがほんの少しだけ違っている。しかし、その少しの違いが如実に表れ、観る側に彼と周囲の人間との関係性を語らずして理解させてくれる。対する宮沢氷魚の演技も素晴らしい。『 映画 賭けグルイ 』では存在感はほぼゼロだったが、今や本職はモデルではなく俳優と言えるのではないか。ICU卒の先輩として誇らしい。Jovian妻も「あの子、ええやん!」と称賛していた。テアトル梅田で見逃してしまった『 his 』もレンタルしてこようかな。

この二人が恋に落ち、激しいベッドシーンを演じるのが前半の山場。『 彼女が好きなものは 』は、バイのベテランとホモの童貞のセックスだったが、本作のラブシーンは文句なしにすごい。丁寧に愛撫し合い、それでいて貪り合う。ふつうの男女のセックスと何一つ変わらない。つまり愛し合う行為の美しさや尊さに、ゲイかストレートかというのはあまり関係ない。製作者が訴えたいことの一つに、まずこれが挙げられるのではないか。

順調に行っていた浩輔と龍太の関係が、あることをきっかけに途切れてしまう。そこから、浩輔の無償の愛が始まる。というか暴走する。我々はよく無償の愛という言葉を使う。しかし、一方的に「与える」関係は、下手をすればパパ活と紙一重。というか、たいていの恋愛関係は代償を求めるものだ。相手と付き合いたい、交わりたい、好きだと言ってもらいたい。そうした見返りを求めずに恋愛する人を見たことがない。だが、一方的に与えるばかりの浩輔が不自然に感じられない。そう思わせる背景を浩輔というキャラに仕込んでいる点が光る。

中盤以降、浩輔の無償の愛は異なる対象を見出す。その対象によって「愛」というものが再定義される。「愛が分からない」と途方に暮れる浩輔に、「受け取る側が愛と思えば、それは愛だ」という言葉が突き刺さる。『 愛がなんだ 』の岸井ゆきのは報われることはなかったし、『 愛なのに 』の河井優実も報われることはなかった。本作の鈴木亮平を通じて、エゴに満ちた愛もついに報われたと感じられた。

本作はカメラワークも独特である。主要キャラクター以外の人間の視点をことごとく拒絶している。ゲイである浩輔の友人たちや龍太を見つめる他者の視線が存在しない。最近、更迭された首相秘書官のいない世界だ。本作を通して見えてくるのは、愛しあう者たちは美しいし、彼らは誰も傷つけていないという世界。そして清々しいまでにエゴを貫く愛も成立するということ。近年まれに見る傑作である。

ネガティブ・サイド

浩輔の服=心理的な鎧に対するこだわりをもう少し見せてほしかったと思う。

主要キャラクターとの別離が、ややご都合主義に感じられた。

非常にどうでもいいことだが、「月に10万」なのか「月20万」なのか、そこが分からなかった。

 

総評

エゴイストと聞くと、ほぼセルフィッシュと同義語に感じるが、本作を通じてそうした考え自体がエゴイズムなのかもしれないと思えてきた。「他人は変えられない、自分が変わろう」とよく言われるが、Jovianは「いまさら身長は伸ばされへんやろ」と思ってしまう。エゴに満ちた行為も、相手が「愛だ」と感じれば、それは紛れもなく愛なのだろう。他人を思いやることはもちろん必要だが、自分の思いを貫き通すことも非常に尊い。本作は近年の邦画では出色の出来である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

ist

接尾辞のist。これは ism = 特定の思想に基づいて考えたり行動したりすることを指し、ist はそうした人を指す。racist というのはraceに基づいて考えたり行動したりする人だし、egoistというのはegoに基づいて考えたり行動したりする人を指す。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 銀平町シネマブルース 』
『 シャイロックの子供たち 』
『 マジック・マイク ラストダンス 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ラブロマンス, 宮沢氷魚, 日本, 監督:松永大司, 配給会社:東京テアトル, 鈴木亮平, 阿川佐和子Leave a Comment on 『 エゴイスト 』 -身勝手な愛の行きつく先は-

『 インターステラー 』 -尻すぼみであること以外はパーフェクト-

Posted on 2023年1月9日 by cool-jupiter

インターステラー 80点
2023年1月7日 WOWOW録画にて鑑賞
出演:マシュー・マコノヒー アン・ハサウェイ ジェシカ・チャステイン
監督:クリストファー・ノーラン

諸事情あってなかなか映画館に行けないので、過去のWOWOW録画DVDを手に取る。中に入っているのは『 インターステラー 』と『 コンタクト 』で、前者を選ぶ。

あらすじ

ダストボウルの大量発生により土壌で作物が育たず、酸素も近い将来に生存不可能なレベルにまで低下することが予想される世界。元パイロットのクーパー(マシュー・マコノヒー)は娘マーフの部屋で起きる奇妙なサインから座標を読み取る。そこではNASAが、人類救済ミッションを密かに進めており、クーパーは土星付近のワームホールを目指すミッションに参加することになる・・・

ポジティブ・サイド

地球滅亡ではなく人類滅亡という設定がいい。しばしば発生する砂嵐は dust bowl =ダストボウルと呼ばれる、1930年代にアメリカとカナダの農業に大打撃を与えたものである。もちろん Jovian はダストボウルを直接に経験した世代ではないが、これはアメリカ近代史ではしょっちゅう触れられるのでよく知っていた。

ワームホールの説明や描写もSF入門レベルにまで dumb down してくれているのも有難い。ワームホールの説明として、紙を折り曲げて二点をくっつけるというのは定番中の定番だが、二次元平面の紙の上の穴(hole)は三次元空間では球(sphere)になるという説明は秀逸だと感じた。

ワームホールの先の別の銀河で訪れる移住先の星々の描写も光っている。ブラックホール近傍の惑星あるいはステーションというのは『 ブラックホール 』でもお馴染みで、それ自体にオリジナリティはない。しかし、ブラックホールの重力圏内と圏外での時間のずれが生むドラマは、ベタながら見応えがあった。

ノーラン監督は初期から「時間」をテーマにした作品作りで知られていて、本作でもそれは一貫している。『 TENET テネット 』で見せた見事な物語の円環的構造は、実は本作でも示されていて、劇場で始めた鑑賞した時、WOWOWで二度目に鑑賞した時、そして今回と、毎回その構造の巧みさに舌を巻く。

本作の最大の功績はTARSかもしれない。R2-D2やBB-8とはまた違った魅力のあるロボットである。コミュニケーションの設定に正直度やユーモアがあったが、これは案外現実世界で似たようなロボットが作られた際、取り入れられる設定かもしれない。また、安易に人型にするのではなく、TARSのような造形の方がモビリティも確保できるだろうなと感じた。

SFにはファンタジーの領域にどっぷり浸かったものと、現実的な科学技術に立脚しつつ、ほんの少しのフィクションを混ぜたものがある。どちらも面白いのだが、本作は数あるSF作品の中でもファンタジーの領域と現実の領域が見事な配分でミックスされていると感じる。ここでいうファンタジーとは「愛」の力。いかなる科学も超越する親子の奇妙な愛の絆は、何度見ても感動させられてしまう。俺もだいぶ単純になってもうたな・・・

ネガティブ・サイド

親子の愛だけに留めておけばよかったのに、なぜアン・ハサウェイ演じるブランド博士をクーパーの love interest にする必要があったのか。ここが解せない。友愛に近い感じで良かったのでは?

そのブランド博士やその他の面々も、人類を救うと言いつつ、移住候補先の星の大地に星条旗の旗を立てるのか?これが英国籍と米国籍を持つクリストファー・ノーランの植民に対する意識の表れなのだろうか?うーむ・・・

天文物理学や生物学の門外漢だが、ガルガンチュアのようなブラックホールが天文単位の距離にあるような複数の惑星は、そもそも移住に向かないのでは?ブランド博士の言う通り、小惑星の衝突などが起きない(ブラックホールがそれらをすべて吸い込むか弾き飛ばす)環境では、生物の創発が喚起されない。地球ですら木星のおかげで天体衝突の確率は1000分の1になっているとされる。微生物や植物すらない環境はテラフォーム不可能な気がするのだが・・・

総評

最後の最後のクーパーの決断が個人的には受け入れがたいが、そこに至るまでの3時間近い物語には圧倒されるばかり。3度目の鑑賞でもそう感じる。ティモシー・シャラメやケイシー・アフレック、マイケル・ケインにジョン・リスゴーなど、若手から超ベテランまでが脇を固める。2010年代のSF映画の秀作の一つであることは間違いない。

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

stella

ラテン語で a star の意味。interstellar は文字通り「星々の間の」、「恒星間の」という意味である。星座を constellation と言うが、色んな星が一緒になってできるのが星座ということである。似たような語に『 アド・アストラ 』の astra がある。これは astrum の複数形の対格で、こちらも意味は星だが、やや誌的な感じがする表現。これの元はギリシャ語のasterで、astronaut や astronomy はここから来ている。アスタリスクを見たら「あ、確かに星だ」と感じてもらえれば幸いである。

次に劇場鑑賞したい映画

『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』
『 ファミリア 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, SF, アメリカ, アン・ハサウェイ, ジェシカ・チャステイン, マシュー・マコノヒー, 監督:クリストファー・ノーラン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 インターステラー 』 -尻すぼみであること以外はパーフェクト-

『 RRR 』 -炎と水の英雄譚-

Posted on 2022年11月26日2022年11月26日 by cool-jupiter

RRR 80点
2022年11月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:N・T・ラーマ・ラオ・Jr. ラーム・チャラン
監督:S・S・ラージャマウリ

久しぶりのインド映画。『 バーフバリ 』のS・S・ラージャマウリ監督作品ということで、鑑賞後は心地よい疲労感に包まれた。

 

あらすじ

1920年、英国植民地下のインド。英国人に買われていった妹マリを救おうとするビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr.)と、英国政府に仕え、インド人暴徒を鎮圧する警察官ラーマ。二人は事故に巻き込まれた少年を協力して救ったことから無二の親友となる。しかし、お互いが自分の使命を果たさんとする時、遂に二人は激突することになり・・・

ポジティブ・サイド

『 バーフバリ 』の前後編でも感じたが、インドの映画人は自らのビジョンを具体化するのに一切躊躇がない。これはS・S・ラージャマウリ監督だけかな。炎と水の勇者が冒頭から大暴れ。ラーマが暴徒の海に飛び込んで見せる無双アクションはやりすぎもいいところ。ビームが狼を仕留めようとして、結果的に虎を仕留めてしまうのも無茶苦茶。しかし観ている最中はまったくそう感じない。インド映画の魔力である。

 

二人が出会うきっかけになる少年の救出ミッションもメチャクチャ。二人が空中でがっちりと互いの手を握り合うシーンにはリアリティーの欠片もないのだが、それでも押し通してしまうラージャマウリ監督の怪力よ。そこから始まる二人の友情も美しい。インドは世界でも類を見ない多民族、多言語、多宗教の国なので、相互の理解はなかなか難しいと思われるが、逆に男と男の友情に言葉はいらないというテーゼを力強く提示しているとも感じた。

 

本作が近年のインド映画と少々異なっているのは、ダンスシーンを思い切りぶっこんでいるところ。国際的なマーケットで売るには、映画は2時間弱がベスト。ダンスシーンを入れてしまうと、それだけで数分は消費する。畢竟、近年の大作インド映画はダンスシーンが少ない、あるいは全くない、もしくはエンドクレジットに持ってくる。だが、本作は InteRRRval 前のストーリーの中盤あたりでナートゥというダンスのシーンがあり、これがまさにクレイジーの一語に尽きる。このナートゥが単なるダンスではなく、異文化対決であり、異文化交流であり、友情を深めるシーンでもあり、ラーマとビームの力関係を決定づける役割も担っている。

 

ビームはマリを見つけ、ラーマはスコット知事の邸宅に突入してきたビームと遂に激突。友情と使命の狭間で揺れる二人の対決は見応え抜群。そして絶妙なタイミングで InteRRRval へ。 

 

後半はいきなりビームがラーマに拷問を食らうシーンで、観ているだけで胸が痛い。ここでビームが取るある行動が、ラーマに、そして民衆に響く。ラージャマウリ監督は単なるアクションてんこ盛り作品を見せたいわけではなく、インドらしさを見せたいわけで、この後に現れるインド史上の超有名人の思想の先取りをここで披露する。この構成には恐れ入った。

 

後半では昇進を果たしたラーマの過去、そして真の目的が描写されるが、ここで明らかになる過去は暗く、そして重い。ラーマが親友や許嫁よりも大切にしたいものがあるということが痛いほど伝わってきた。そして、そのことを知ったビームによるラーマの救出劇と、そこから始まる二人の無双の活躍に言葉はいらない。人馬一体という言葉があるが、人人一体の大活躍である。客観的に見れば ( ゚Д゚)ハァ? なのだが、このアクションシーンを成立させてしまうのがラージャマウリ監督なんだな。そこから先は炎の戦士と水の戦士の超強力タッグによる英国紳士ぶっ殺しまくりタイムに突入。最後の最後にスコット知事もぶっ倒してスッキリ爽快。

 

本作は最後にほんの僅かな苦々しさも残す。ラーマが自分を牢獄から助け出してくれたビームにお礼をしたいと言う。そこでビームが欲しかったものに、インドという国の歴史、そして未来を見た気がした。もっと大袈裟に言うなら、独立不羈の国民国家を樹立するのに必要なのは腕っぷしや武器ではなく、ビームの欲したものこそが本当に必要なものなのだろう。教育業界の人間の端くれとして、非常に突き刺さるメッセージを最後に受け取った。

ネガティブ・サイド

エンディングのダンスシーンで少しだけ出てくるが、ビームとジェニーのその後についてほんの少しでよいので触れてほしかった。

 

毒にやられたり、結構な外傷を負ったりするが、ラーマの回復力が異常であるように思う。

 

THE STORYのR、FIREのR、WATERのRのように冒頭で表示されるが、WATERよりもFORESTのRの方がしっくり来る気がする。

 

総評

友情か、使命かというテーマの作品なら邦画で『 ヘルドッグス 』があったが、アクションは本作の方がはるかに上。岡田准一も原田監督も、ここまで突き抜けたアクションを志向してほしい。非常に不謹慎だが、InteRRRval 後の後編では「いけいけやれやれ、英国人どもをぶっ殺せ!」という気分で鑑賞してしまった。とにかく主役二人の友情とアクションが熱すぎる。これをマサラ上映で鑑賞したら、それだけで1kgぐらい痩せるような気がする。頭を空っぽにして3時間楽しめる、インド映画の傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

call

呼ぶ、の意。call A B という形で「AをBと呼ぶ」という意味になる。劇中ではビームが身振り手振りと片言英語でジェニーに名前を尋ね、Don’t call me ma’am, sir. It’s just Jenny. というセンテンスそのものを彼女の名前だと勘違いするシーンに笑った。ちなみに先日、業務で某アメリカ人女子プロゴルファーの通訳を行ったが、Jovianの第一声は What should I call you? =「 何とお呼びすればよいですか?」だった。便利なフレーズなので覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザリガニの鳴くところ 』
『 サイレント・ナイト 』
『 母性 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, N・T・ラーマ・ラオ・Jr., アクション, インド, ラーム・チャラン, 歴史, 監督:S・S・ラージャマウリ, 配給会社:ツインLeave a Comment on 『 RRR 』 -炎と水の英雄譚-

『 レインマン 』 -旅は人を変える-

Posted on 2022年9月15日 by cool-jupiter

レインマン 85点
2022年9月14日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:ダスティン・ホフマン トム・クルーズ
監督:バリー・レビンソン

 

『 テルマ&ルイーズ 』と同じく、午前十時の映画祭にて鑑賞。同じくロードトリップの傑作。

あらすじ

チャーリー(トム・クルーズ)は、義絶していた父が死んだと聞き、遺産目当てに葬式へと向かった。しかし、300万ドルの遺産は管財人を通じて特定の人物に相続されることに。その人物が、存在すら知らなかった自閉症の兄レイモンド(ダスティン・ホフマン)だと知ったチャーリーは、遺産の半分の相続を法的に主張するために、レイモンドをLAへ連れていこうとするが・・・

ポジティブ・サイド

『 トップガン マーヴェリック 』では年齢を感じさせなかったトム・クルーズだが、本作では流石に若々しさに満ち溢れている(当たり前だ)。同時に、ビジネスも上手くなく、同僚の操縦も下手で、ガールフレンドへの当たりも強い。つまりはクズなわけだが、そんな男が遺産目当てで出向いた父の葬式で、実は兄がいて、しかもその兄がまともなコミュニケーションを取ることができない自閉症の兄との旅路で思いがけない挫折と成長を味わう。

 

こう書くと実にありきたりなプロットというか、純文学の香りすらしてくる。しかし、中身は実にまっとうなエンターテイメントで、いかにもアメリカといった趣のあるヒューマンドラマにしてロードトリップ・ムービーである。

 

イライラして怒鳴り散らすトム・クルーズには若気の無分別という言葉がピッタリ。母は幼くして亡くなり、少年時代に父親に愛情を注がれなかったと固く信じている、まさに愛情不足の典型のような青年だ。そんな男がカネ目当てに自閉症の兄を施設外に無断で連れ出すのだから、応援できるわけがない。しかし、そんなチャーリーを期せずして変えてしまうのが、兄レイモンドである。

 

ダスティン・ホフマンの演技はキレッキレで、ALSなら『 博士と彼女のセオリー 』のエディ・レッドメイン、自閉症なら本作のダスティン・ホフマンを超える演技は不可能だと思わされた。

 

コミュニケーションが成り立っていない状態で延々と話し続けるシーンや、クルマが走りながら話すシーンが非常に多く、どれだけのNGあるいはリテイクがあったのか気になる。前編これ、トム・クルーズとダスティン・ホフマンの演技合戦である。特にホテルの一室で二人がダンスするシーン、そして期せずして二人の距離が大きく変化する瞬間ほど poignant なものは、近年の映画では思いつかなかった。

 

レインマンというタイトルの意味が明らかになる中盤からは至高のヒューマンドラマとなる。旅は人を変える。月並みな真実だが、それを非常に説得力のある形で提示した傑作である。

 

ネガティブ・サイド

一点だけ不満なのが、なぜレイモンドがあれほど心理的にスムーズに施設の外に出られたのかということ。なにか一つだけでも、「この男は、幼かったあの子が成長した姿だ」と彼なりに感じ取る契機というか、ほんのちょっとした気付きのエピソードがあればパーフェクトだったと感じる。

 

総評

文句なしの大傑作。ロードトリップものとしては『 テルマ&ルイーズ 』に勝るとも劣らない。障がい者(ということ語弊があるが)をメインに据えた作品としては『 フォレスト・ガンプ/一期一会 』よりも上だと感じる。若いトム・クルーズが粗削りな演技ながらも、盟友ダスティン・ホフマンに食らいついていく様を見ると、『 トップガン マーヴェリック 』の撮影開始前に、彼が若い俳優たちに彼自身が考案した3か月の特別訓練を課したというプロフェッショナリズムの原点はここにあったのかもしれない、とすら思える。stand the test of time forever な作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

take over 

引き継ぐの意。遺産ではなく、事業や業務を引き継ぐ時に使う。劇中では “I’ll take over from here.” = ここからは私が引き継ごう、となっていた。もちろん、I’ll take over your job. = 僕が君の仕事を引き継ぐよ、のように目的語を取ってもいい。我が業界では、割と頻繁に非常勤講師が代わるので、テイクオーバーはもはや日本語と化している。嘆かわしい限りである。 

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 1980年代, A Rank, アメリカ, ダスティン・ホフマン, トム・クルーズ, ヒューマンドラマ, 監督:バリー・レビンソンLeave a Comment on 『 レインマン 』 -旅は人を変える-

『 あなたがここにいてほしい 』 -中国映画界の本領発揮-

Posted on 2022年8月3日 by cool-jupiter

あなたがここにいてほしい 80点
2022年7月31日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:チュー・チューシアオ チャン・ジンイー
監督:シャー・モー

コロナを恐れるJovian妻が何故か心斎橋に行きたいと言う。その答えは本作を観るためであった。塚口サンサン劇場で『 クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち 』を観るつもりだったが、急遽こちらのチケットを購入。

 

あらすじ

リュー・チンヤン(チュー・チューシアオ)は、ふとしたきっかけで同じ高校のリン・イーヤオ(チャン・ジンイー)に恋心を抱く。チンヤンは専門学校に、イーヤオは大学に進むが、二人は愛し合い、幸せだった。しかし、大学院生となったイーヤオがチンヤンを母に紹介したが、母はイーヤオを将来成功する器ではないと気に入らず・・・

ポジティブ・サイド

本作は、元々は中国のネットに投稿された『 十年間一緒にいた彼女は、明日他人の嫁に行く 』というストーリーを映画化したものだと言う。これだけ聞けば、ラノベか何かのタイトルだと勘違いしてしまうが、描き出される物語の純粋さ、美しさ、苦しさ、辛さはまさに圧巻である。ネット投稿を元にした作品ということでは、『 猟奇的な彼女 』や『 ソウルメイト 七月と安生 』と並ぶ傑作だろう。

 

まず主演二人が抜群の存在感かつ演技力を見せる。17歳から27歳を全く違和感なく演じて見せる。これが邦画だと『 東京リベンジャーズ 』の北村匠海のように、17歳と27歳が全く一緒に見えたりする。この差は何故?というよりも中国映画界そのものが数多くの駄作の上に一握りの傑作を生み出すという、そうした構造をついに完成させたのか?

 

ともかく、爽やかではあるが、どこか垢抜けない高校生リュー・チンヤンが、職を持ち、兄貴と慕われ、時に怪我を追いながらも、男としてたくましく成長していく姿が分かりやすく描かれる。また、クライマックスの新疆では日焼けしまくりのむさくるしい作業員と何一つ変わらない風貌になっていた。どの年齢においても説得力ある見た目や立ち居振る舞いになっていて、10年という歳月の重みを感じることができた。

 

ヒロインのチャン・ジンイーも同様で、おさげの似合う素朴な女子高生から大学生、大学院生、銀行員と、人生の各段階での表情や話し方の演じ分けが素晴らしかった。特に印象に残ったのはチンヤンに「しばらく養って」と頼む時の表情。高校生の頃は自転車で自分が先に行き、それをチンヤンが追いかける構図がここで逆転する。ある意味で、幼さの抜けきらないチンヤンを男にした。その表情に潜む切なさと期待の眼差しが素晴らしかった。こんな目で見つめられて、真剣になれない男がいようか。どこかハン・ヒョジュを思わせる顔つきで、いつか邦画にも出演してほしい(無理やろなあ・・・)。

 

一途に愛し合う二人に、社会はこれでもかと問題を吹っ掛けてくる。収入、職業、遠距離恋愛、友人関係。特にリュー・チンヤンの親友がダメ男の極みで、こいつのせいでチンヤンとイーヤオの関係が難しくなってしまう。それでもチンヤンは悪友を見捨てられないし、その悪友が何をしたかをイーヤオに告げることもない。男の友情の複雑さを大いに見せつけてくれた。

 

イーヤオの母親が病気で倒れるシーンでは、男性のジレンマ、すなわち「私と仕事、どっちが大事なの?」的なチョイスを迫られるのか、と感じてしまった。会社の不正と現場監督としての倫理と責任の板挟み、そして恋人の母親のピンチ。ここではリアルに胃が痛くなった。また病院に着いたら着いたで「なんだそりゃ」という展開。この病院の階段で無言で並んで座るチンヤンとイーヤオの姿に、人生や社会の不条理が凝縮されていた。愛し合う二人が、普通に仕事をして、普通に生きていくことが何故これほど難しいのか。背景に中国の経済成長や、腐敗を許容する社会構造があるにはあるが、『 ロミオとジュリエット 』の昔からあるように、愛し合う二人に試練はつきものなのか。

 

チンヤンはしばしば「スニーカー」に言及するが、これは彼がイーヤオを好きになったきっかけにスニーカーがあるからだ。この仕掛けは上手いなと感じた。一目惚れは、普通は顔を見た瞬間に起きる。『 ロミオとジュリエット 』然り、『 ウエスト・サイド物語 』然り。しかし、これらはいずれも顔を見てのもの。チンヤンがイーヤオに惚れたのはカーテン越しに隠れるイーヤオのスニーカーを見てだった。このスニーカーが者がタイの随所でアクセントになっているので、これから鑑賞する方は是非そこに注意を払ってほしい。

 

幸せになりたいと願う二人にこれでもかと試練が降り注ぐ。であるがゆえに、観る側はなおのこと二人の幸せの成就を願う。ただ、あまりにも強く深く愛するがゆえに、愛する人を幸せにできないと悟ってしまったチンヤンの決断、それを受け入れるしかなかったイーヤオの心境。このドラマはあまりにも見る者の胸を締め付ける。最後の5分は涙が止まらなかった、というのは大袈裟だが、大粒の涙を何滴か落としたのは本当である。おっさんになって涙もろくなったのは確かだが、それでも本作が観る側の心を強く揺さぶる力を持っていることは疑いようもない。

ネガティブ・サイド

不満を述べさせてもらうなら、以下の一点。

 

チーヤオがダーチャオと対峙したシーン。ダーチャオがチェンチェンへの愛の深さ、その狂おしさを語る場面で、ダーチャオを目で刺すような演出が欲しかった。それによってダーチャオとの友情の大切さと、それ以上にイーヤオを愛してやまないという気持ちをダーチャオに悟らせる。そんなシーンがあれば完璧だったと思う。

総評

原作小説のタイトルは『 十年間一緒にいた彼女は、明日他人の嫁に行く 』。ここだけ見れば低レベルなラノベとしか思えないが、それを珠玉の逸品に仕立て上げてしまう中国映画界に素直に脱帽するしかない。小説や漫画の映像化(≠映画化)に血道を上げるばかりの邦画界の関係者は本作を研究して、ラブストーリーとは何かについて、もう一度よくよく考えられたし。劇場は中高年だらけだったが、若いカップルにこそ観てほしいラブロマンスの大傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

公司

会社の意。読みはゴンスゥ。Jovian妻は中国語学習にハマっていて、しょっちゅう「ウォー・ブー・シー・ファン・ゴンスゥ」(私は会社が好きではありません)などと音読している。中国映画の台詞や背景によく出てくる言葉である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, チャン・ジンイー, チュー・チューシアオ, ラブロマンス, 中国, 監督:シャー・モー, 配給会社:リスキットLeave a Comment on 『 あなたがここにいてほしい 』 -中国映画界の本領発揮-

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