グッドバイ、バッドマガジンズ 70点
2023年2月4日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:杏花
監督:横山翔一
シネ・リーブル梅田で予告編を何度か観て、面白そうだと感じたのでチケット購入。コメディ要素はあるものの、結構シリアスな人間ドラマに仕上がっていた。
あらすじ
女性誌編集を希望しながらも、男性向け成人誌の編集で採用された詩織(杏花)。卑猥な画像や物品に囲まれたオフィスで仕方なく働くも、女性編集者の澤木やライターのハルに影響を受け、徐々に仕事に打ち込むようになっていく。そして女性向け成人誌の創刊というチャンスを掴むことになるが・・・
ポジティブ・サイド
東京オリンピックに関しては2023年の今でも超巨額の談合やら何やらが今も捜査されているが、その巨大スポーツ利権イベントの裏でコンビニの店頭から消えたエロ雑誌とそれらを作る人々のドラマに焦点を当てたのはかなり目の付け所が秀逸であると感じる。
まずは主演の杏花の演技が素晴らしい。就職難の中、コネで雑誌社に就職するも、配属先は男性向け成人誌の編集部門。うら若き乙女にとってかなりアウェイの職場だろう。死んだ魚の目で来る日も来る日も女性のヌードがプリントされた紙をシュレッダーにかけていく日々。新人は雑用が主な仕事とはいえ、これはなかなかキツイ。しかしわずか数か月でたくましく成長する詩織。後輩社員に変わってキャッチコピーを考える様は圧巻。電光石火の早業で、次々に刺激的なエロの見出し語を生み出していく詩織の成長に、オッサンであるJovianは目頭が熱くなった。
詩織が成長できたのも自己研鑽だけではなく、周囲の仕事人の助けもある。落ち目のエロ本業界にあっても、良いものを作ればユーザーはついてくるという信念を持った仕事人がいるからこそ。逆にそうした人々が独立を志向して会社を去っていくのがリアルだった。残された面々も、しばしば営業と対立。これはどこの業界のどこの会社でも見られる光景だろう。うちのような語学教育会社でも、営業がクライアントに「弊社なら可能です!」とか堂々と宣言して、レッスンプランを考えたり講師に研修を実施するJovianのような教務担当が頭を抱えるというのは、日常茶飯事とまで言わないが、年に2~3回はある(口八丁の営業、ホンマええ加減にせえよ・・・)。
本作がお仕事ムービーとして優れている点は、仕事で盛大にやらかしてしまう展開を見せてくれるところ。ここで某キャラがやらかすミスは、サラリーマン的には洒落にならない類のものである。ミスの発生機序やその結果がもたらす影響が非常にリアルだった。
衰退産業にあっても個として雄々しく生きていくことができる。題材こそエロ本だが、そこに込められたメッセージは万人向けである。
ネガティブ・サイド
「テープがなければ中身で戦えた」という台詞には共感できなかった。昔も今も書籍やレンタルビデオ、レンタルDVDは中身ではなく外側で勝負してきたはず。飲食店なんかもそう。世の中の製品というのは、まずは外側で勝負しないと始まらない。このあたりを描いた小説に『 装幀室のおしごと。 ~本の表情つくりませんか?~ 』がある。
物語の軸が終始定まらなかった。仕事を通じて詩織が成長していくビルドゥングスロマンなのか、斜陽産業で頑張る人々を活写するお仕事ムービーなのか。どちらも追求するのではなく、どちらかに振り切るべきだった。途中からエロ雑誌の存在意義ではなく、人は何故セックスするのかにテーマが変質していったのも気になる。最後の展開は不要に思えた。
次々と社員が退社していく中、クビになる人もいるのだが、「え?クビだけですむの?社会的に抹殺されへんの?」という展開には少々鼻白んだ。
総評
雑誌の栄枯盛衰を描く物語としては『 SCOOP! 』や『 騙し絵の牙 』を上回る面白さ。全体を通して観るとトーンが一定しないが、一瞬一瞬の面白さはなかなかのもの。主演の杏花の成長は、この職場、この業界だからこそ、万人が応援できるストーリーに仕上がっている(最後以外は)。PG12作品だが、間違っても高校生あたりがデートムービーにできるものではない。大学生でもどうだろうか。35歳以上なら男性でも女性でも、お仕事ムービーとしてもエロ本の歴史ものとしても楽しめるはず。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
dirty magazines
タイトルにあるバッドマガジンズというのは低品質な雑誌、あるいはコンテンツが邪悪な雑誌という意味。英語ではエロ雑誌、成人雑誌は概して dirty magazines と言う。別に知っておく必要はないだろう。
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