かがみの孤城 70点
2022年12月24日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:當真あみ 北村匠海
監督:原恵一
『 バースデー・ワンダーランド 』の原恵一監督作品。原作者が辻村深月であること、そしてJovianが教えている大阪と神戸の某私立大学の学生たちが原作小説を激推ししていたのでチケット購入。
あらすじ
安西こころ(當真あみ)はとある出来事から中学校に行けなくなってしまった。ある日、部屋の鏡が妖しく光り、こころはその中へ入っていってしまう。そこには絶海の孤島に聳え立つ城と、狼の仮面をかぶった謎の少女オオカミ様、そして中学生の男女6人がいた。オオカミ様は城のどこかにある秘密の部屋を見つければ、どんな願い事も叶えられると言うが・・・
ポジティブ・サイド
語学教育企業に勤務するJovianは本作を非常に興味深く鑑賞した。教える時は主に大学の正課授業なのだが、高校や中学の課外講座を担当することもある。その中で色々な人間模様が見えてくる。昔も今も変わらないなと感じること、そして昔と今では全然違うなと感じることの両方がある。
昔と今で変わらないのは、学校に居場所がないという子が一定数存在すること。中学や高校だとたまに帰国子女だったり、あるいは未就学児童の頃から英語をかなり勉強していて、発音がとてもいい子がいたりする。そうした子は発音の良さを今でもクラスメイトから冷やかされたりする。それを嫌がる子もいれば、嫌がらない子もいる。ただ嫌がる子は英語の授業に出なくなり、ただし課外の英検対策講座やGTEC対策講座には喜んで出てきたりする。そうした生徒を満足させると、学校や保護者から感謝されることが多い。
Jovianはそうした目で本作を鑑賞していた。学校という場所は、集団からはじき出されるみそっかすが出やすいところだ。そしてその原因は往々にしてはじき出される側ではなくはじき出す側にある。こころをはじめ、本作でかがみの孤城に招かれる子どもたちは、皆それぞれに居場所を持たせてもらえなかった。そうした子たちが、どういうわけか交流し、時に意図せずその仲間内でもヒエラルキーを作り、それを反省し、また交流を深めていく。
願いを叶えてくれる秘密の部屋の存在が、この非常に友好的かつ閉鎖的な人間関係にスパイスを加えている。誰もが叶えたい願いがあるのだが、主人公のこころの願いはかなり強烈だ。思春期には親友=世界の全てのように思えるものだが、だからこそ観る側はこころのダークサイド(心の闇)に激しく共感する。ベタなストーリーとはいえ、高校や大学で授業していると、ペアワークやグループワーク時に明らかに「ああ、この子は浮いてるな」というのが分かる。本人が異彩を放っているからなのか、それとも周りから疎外されているからなのかも分かる。なのでJovianはこころが涙ながらに語る願いに、かつての教え子数名の姿を重ね合わせて見てしまった。
7人の子どもたちが紡ぐ数奇なファンタジーであるが、しっかりと地に足の着いたストーリーである。日本中の中学生、高校生、大学生、教師、親御さんに見てもらいたい作品に仕上がっている。
ネガティブ・サイド
こころの母親の冒頭の冷たさと、中盤で見せた優しさのギャップが大きすぎた。もう少し、家でのこころの寄る辺なさと家族との関係を描くシーンも欲しかった。
某アニメ作品でも感じたことだが、出会うはずのない人間たちが出会ってしまうというプロットにこの手のトリックを仕込むのは、もはや一種の cliche なのでは?原作未読のJovianでもあっさりと分かってしまった。同時に、某女子キャラは某男子キャラが持っているアイテムにびっくり仰天しなければならないはずだが、そんな様子はなかった。これはおかしい。また、そのアイテムで「写真を撮る」という至極当然そうに見える行動を取らなかったことにも納得いく説明はなかった。
総評
不可解なシーンもいくつかあるが、物語の持つ力、物語のもたらす感動がそれを上回る。思春期の少年少女の抱える問題をここまで真正面から描く作品は珍しい。この一点だけでも本作には価値がある。キャラの心理描写を全部セリフでやってしまうあたり稚拙は稚拙だが、それもストーリーの面白さの前には些事。中学生のお子さんを持つ親御さんは、年末年始に家族で劇場へどうぞ。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
special needs student
一昔前は disabled people とか disabled students などという表現を使っていたが、今ではもう使わない。その後、people with disabilities や students with disabilities に変わったが、これらも今は使われない。今は special needs people / students または people / students with special needs のように言う。今風の日本語訳をつけるなら「要配慮学生」だろうか。大昔はフィジカル、メンタルどちらか、あるいは両方の問題を抱えた生徒・学生はそれだけで障がい者扱いされて、特別養護学校・特別支援学校に入れられていた。何らかの事情で学校に来られない、あるいは登校するにしても何らかの配慮を要する学生は special needs students と言う。この言い方はかなり一般化してきているので、教育関係者や保育関係者はぜひ知っておこう。
次に劇場鑑賞したい映画
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『 死を告げる女 』
『 Never Goin’ Back/ネバー・ゴーイン・バック 』