アメリカン・アニマルズ 50点
2019年5月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:エバン・ピーターズ バリー・コーガン ブレイク・ジェナー ジャレッド・アブラハムソン
監督:バート・レイトン
シネ・リーブル梅田で始めたチラシを手にした時、これは面白そうだと予感した。しかし、Hype can ruin your experience. 『 バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』の水準を期待すると拍子抜けさせられる。本作の見せ場は、罪を犯した本人たちの回想録的なドキュメンタリーを含むところであって、本編の犯行のレベルの高さではない。
あらすじ
ウォーレン(エバン・ピーターズ)とスペンサー(バリー・コーガン)は、大学に進学したものの、キャンパスライフに馴染めずにいた。ある時、ウォーレンは大学の図書館に18世紀に書かれた稀覯本があるのを知り、それらを盗み出す計画を立てることに・・・
ポジティブ・サイド
犯罪にも色々ある。警察や法律家に言わせれば違うのだろうが、立ち小便は犯罪、少なくとも重犯罪ではないだろうし、盗んだバイクで走り出すのも若気の無分別で済ませてもらえるかもしれない。しかし、チャールズ・ダーウィン直筆の書物を盗み出して、闇マーケットで売り払い、大金を儲けてやろうというのは、どう考えても重犯罪だ。それを敢えてやろうというのだから、その意気やよし。存分にやってくれ。事実は小説よりも奇なりと言うが、大馬鹿と馬鹿と馬鹿と小利口者が計画をあれこれと練っていくシーンはそれなりに楽しい。また、役者たちの演技シーンと本人たちへのインタビューシーンが交互に切り替わるタイミングが絶妙で、重要文化財窃盗を決意する過程、そして何故それを実行に移してしまったのかという心情が赤裸々に語られるのがありがたかった。Jovianはビジュアル・ストーリーテリングを重要視するが、複雑な入れ子構造の映画も好きなのである(『 メメント 』みたいな晦渋過ぎるのは勘弁だが)。
本作は、アメリカの片田舎のアホな大学生がアホなノリでアホなことをやらかしてしまったという意味だけで観るべきではないだろう。内輪の仲間だけでシェアするつもりだったバイト先での愚行・・・というのとも少し違う。話を超大げさに拡大して受け取るならば、大日本帝国が第二次世界大戦に揚々と参戦していったのと同じような思考の過程、行動様式、組織構造を見出すこともできるのではないか。事前の調査不足もさることながら、これで上手く行く筈がないと誰もが思いながら、なかなかそれを言い出せない。それをようやく言い出せても、声がでかい奴に押し切られる。まるでどこかの島国のかつての軍上層部とそっくりではないか。そして、このアニマルズが服役を経ても、芯の部分では藩政をしていないのではないかと思わせるところに本作の妙味がある。あの窃盗事件の真実とは何か。『 アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル 』と同じく、事実ではなく真実を追求しているということを鑑賞中は念頭に置かれたし。
ネガティブ・サイド
『 オーシャンズ11 』や『 オーシャンズ8 』、『 ジーサンズ はじめての強盗 』のような華麗にして緻密な組織犯罪を期待するとガッカリするだろう。というよりも、計画のあらゆる部分に無理があり過ぎる。アホな扮装をした中年ジジイ4人組が図書館に入ってくれば、何をどうやっても注目を集めてしまうし、よしんばそれで学生たちの目を欺けたとしても、逆にそれだけ強い印象を残してしまえば、警察がしらみつぶしに在校生のアリバイを調べていけば、捜査線上に自分たちが浮上してくるということに気付かないのか。神風など、そうそう吹くものではないのだ。
再現ドラマパートと本人たちへのインタビューによるドキュメンタリーパートを混在させるのは、非常に面白い野心的な構成だが、本編ドラマでもっと凝ったカメラワークが欲しかった。なぜ自分たちは満たされないのか。なぜ自分たちは特別になれないのか。自分たちと特別な人間の境目は何か。逆に、自分たちは凡百の人間ではない、あいつらとは違うんだ、という中二病全開思考を表すようなショットが欲しかった。キャンパスの芝生に寝そべって、他愛もないおしゃべりに興じる大学生たち、といった平凡な、しかし色鮮やかなショットが効果的にちりばめられていれば、アニマルズのダメさ加減や哀れさがもっと際立ったであろう。
総評
高く評価できる部分と、そうではない部分が混在する作品であり、評価は難しい。しかし、鑑賞後のJovianの第一感は「何じゃ、こりゃ?」だった。シネ・リーブル梅田推しの作品でも時々ハズレはあるのである。しかし、単なる物語の再構築以上に、危険な思考の陥穽、まとめ役あるいは諌め役の欠如したチームの末路など、教訓を引き出すには良い作品であるとも感じられるようになった。マニア中のマニアであれば、『 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 』と比べてどっちが f**k という言葉をより多く使ったか調べてみるのも一興かもしれない。