ピッチ・パーフェクト ラスト・ステージ 65点
2018年10月28日 大阪ステーションシネマにて鑑賞
出演:アナ・ケンドリック レベル・ウィルソン ヘイリー・スタインフェルド ブリタニー・スノウ アンナ・キャンプ ジョン・リスゴー ジョン・マイケル・ヒギンズ
監督:トリッシュ・シー
女子高生がそのまま女子大生になり、女子寮でワイワイギャーギャーと騒ぐノリの本シリーズも遂に卒業、完結編。前二作で発展を見せたベラーズの主要な面々とトレブルメーカーズやその周辺の男子らとの関係を、本作は開始3分で切って捨てるかのごとく説明してしまう。なるほど、ベラーズの面々が思い悩む対象はもはや男ではないというわけだ。さて、では本作で彼女らは何から卒業するのだろうか。
あらすじ
バーデン大学の名門アカペラ部ベラーズ。世界大会で優勝を成し遂げ、アカペラに注いだ青春も終わりを告げた。メンバーそれぞれが社会の荒波に乗り出していったが、ある者は父親不明の子を宿し、ある者は会社を辞め、ある者は失業中で、と皆が皆、順風満帆というわけではなかった。 そんな折に元ベラーズの面々にエミリー(ヘイリー・スタインフェルド)からリユニオンの招待状が届く。ベッカ(アナ・ケンドリック)やエイミー(レベル・ウィルソン)らは勇んで駆けつけるのだが・・・
ポジティブ・サイド
こうしたシリーズ物の常として、過去のキャラとの再会は絶対に不可欠の要素である。ゲロ吐きオーブリ-やステイシーらもしっかりと登場してくれる。もちろん例の審査員二人組もいるので安心してほしい。ステイシーに至っては、妊娠中だ。時の流れだけではなくキャラクターたちの年齢の積み重ね、状況や人間関係の変化、それでも変わらないアカペラへの情熱やベラーズへの愛着が、開始10分で全て描かれる。『 ジュラッシク・ワールド 』が不評だったのは、懐かしのグラント博士やマルコム博士を登場させなかったことが一因だ。一方で、『 スター・ウォーズ/フォースの覚醒 』は過去作の振り返りやファンサービス要素をてんこ盛りにしてしまったところが一部のファンの不興を買った。本作は、そのあたりをかなり良い塩梅にまとめていると言える。何よりもシリーズ恒例だった、ステージ・パフォーマンス中の粗相がないのだ。アホな女子大生物語では最早ないのですよ、と製作者がファンにメッセージを送っているのである。
一方で、しっかりと笑うべきシーンも用意してくれている。何よりも笑ってしまったのが、ジョン・リスゴーがChicagoの“素直になれなくて”のあの一節を熱唱するところ。『 マンマ・ミーア! 』でピアース・ブロスナンが歌うS.O.Sを上回る惨劇である。周りが皆、本職ではないとはいえ、それなりに歌唱力のあるメンツ揃いだから、なおさらその酷さが光り輝く。
本作は色々な意味で、父親というpositive male figureたるべき存在がフォーカスされる。家父長制的な面を家庭内に色濃く残すアメリカ社会に女性として出ていく面々がいる中で、ある者は戦い、抗い、ある者は素直に愛情を打ち明ける。家族の在り方を社会の在り方に重ね合わせているわけだ。のみならず、ベラーズというファミリーの物語にも一つの終止符が打たれるわけだが、そこには『 焼肉ドラゴン 』に見られた家族像と共通するものが確かにあった。少しだけだが、ほろりとさせられた。
ネガティブ・サイド
監督がころころ変わるシリーズなので仕方がないのかもしれないが、アフレコの多用はいかがなものか。シリーズで一番アガるのは、やはりリフ・オフ対決で、本作でも漏れなくリフ・オフはある。しかしながら、そこでアフレコをあからさまに用いてしまうと対決の臨場感が薄れてしまう。ここはどうしてもマイナスの評価をつけざるを得ない。
またコンテストが米軍基地慰問ツアーというのは、あまりにも能天気すぎやしないか。今作の大きな肝は、体は大きくなっても頭や心はどこか子どものままのベラーズの面々が、精神的な成長と成熟を果たすことだったはずだ。米軍のためにエンターテインメントを提供するというのはWWEなどもやってきたことで、それ自体は別に構わない。しかし本作のテーマに沿っているかと言われれば疑問である。キャラ設定の都合でこうなりましたという感が拭えない。一方で、メンバーが巻き込まれるアクシデントの解決には米軍は動かない。もう少し何か、ストーリーにリアリティというか深みというか、一貫性が欲しかった。
総評
前二作(『 ピッチ・パーフェクト 』、『 ピッチ・パーフェクト2 』)を鑑賞していないと何のことやら分からないシーンや人間関係もあるが、本作からいきなり見始めても、なんとなく楽しむ分には問題ないだろう。できればレンタルやネット配信で復習してから劇場へ行ってもらいたいが、何かの間違いでチケットが手に入った、友人知人に誘われたという人は、臆することなく行ってみよう。
ところで、本作鑑賞前にグッズ売り場を覗いていたら、とある観客が売り場の係員に本作を指して「これってどういう映画なんですか?」と尋ねていた。その答えが奮っていた。『いやあ、僕も観たわけじゃないんですが、たしかオペラの話だったような・・・』いやいや、アカペラとオペラは全くの別物やで?と無関係ながら突っ込みを入れられなかった自分に今も悔いが残っている。