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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 監督:カン・ヒョンチョル

『 スウィング・キッズ 』 -Your memory never fades away-

Posted on 2020年2月24日2020年9月27日 by cool-jupiter

スウィング・キッズ 80点
2020年2月22日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:D・O ジャレッド・グライムス
監督:カン・ヒョンチョル

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シネ・リーブル梅田ではたびたび予告編が流れていて、気になっていた作品。タップダンスは兵庫県立芸術文化センターで一度、live performanceを見たことがある。『 サニー 永遠の仲間たち 』の監督がダンスをどう料理してくるのか興味津々だったが、『 ダンス ウィズ ミー 』の矢口史靖監督は本作を観て、『 スウィングガールズ 』の頃に立ち返るべきであろう。

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あらすじ

1951年、米中二大国の代理戦争の場となった南北朝鮮戦争時、韓国の捕虜収容所の米国人所長は、対外的イメージアップおよび北朝鮮人の思想軟化と懐柔のために、タップダンスのチームを下士官のジャクソン(ジャレッド・グライムス)に作らせる。人民共和国軍の英雄の弟ロ・ギス(D・O)らは衝突しながらも練習を積み重ねていくが・・・

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ポジティブ・サイド

ジャクソンが一人で踊るタップダンスに見入ってしまったロ・ギスが、それから目にするもの耳にするもの全てがタップダンスのリズムで捉えられてしまうようになってしまうシークエンスが素晴らしく良かった。歌や踊りというのは、往々にして言葉で表現することが難しい感情や衝動の発露である。有り余ったエネルギーをタップダンスに注ぎ込むようになるロ・ギスだが、そこに至るまでの内面の葛藤および外部からの視線が良いバランスで描けている。変顔で踊れる喜びを表現するシーン、そして屋外での練習を何事もなかったかのように誤魔化すシーンは白眉である。

 

そのタップダンスのシーンも圧倒的である。特にダンサー兼教官役のジャクソンには、俳優ではなく本職のタップダンサーを起用。これは正しい判断だろう。『 はじまりのうた 』でも歌手役にMaroon 5のアダム・レヴィーンを起用したが、俳優に歌わせるよりも歌手に演技させた方が良いことも多い。ジャクソンのタップダンスが圧倒的にハイクオリティであるため、それに応戦する、何とかして食らいつこうとするロ・ギスの奮闘がさらに際立つ。チームの他のメンバーも踊れるデブに伝統舞踊の男、4か国語を操る女子パンネなど多士済々。特に、最後の女子は何かと話題の唐田えりかにどこか似ている。唐田も本格的に韓国語+ダンスを習得して、韓国芸能界でサバイバルをしてみてはどうか。あちらで5~10年戦って、大谷亮平のように凱旋帰国すればよい。また語学学習者、特に英語学習者はパンネのしゃべりを参考にされたい。KISSの法則、すなわちKeep it simple and shortである。一定以上の長さの外国語を話すときには、直訳はご法度である。正確に話すのではなく、通じるように話すことを心掛けたし。

 

Back on track. 前半はとにかく陽気にダンス・ダンス・ダンスである。米兵と北朝鮮捕虜の間のいざこざすらもダンスバトルで解決(?)したりする。だが本作の監督はカン・ヒョンチョルである。輝かしい瞬間の背後にはどす黒い社会的背景が存在することを骨の髄まで知っている、そしてそれを表現することを恐れない映画人である。米国、特に収容所所長がタップダンスチームの結成とその成功に血道を上げるのと同様に、北朝鮮捕虜たちも策謀をもって暗躍し始める。ダンスという芸術で理解し合える異国人たちも、政治体制やイデオロギーによって簡単に引き裂かれる。逆に言えば、政治的・思想的な差異は言葉では乗り越えられないということでもあり、政治的・思想的なイデオロギーは言葉でもって強化されるということでもある。序盤でもロ・ギスの戦友的なポジションの男が米兵相手にびっくりするような流暢さで卑罵語を繰り出し、中盤以降では戦争で片腕と片足をなくした男が恐るべき無表情で息つく間もなく共産主義への傾倒と自由主義・資本主義への憎悪を語る。その迫力に、時は戦時、場は捕虜収容所であるという容赦のない現実を思い知らされる。正気では戦争などできはしない。そうした戦争の狂気にあてられた人民共和国軍闘士の暗躍とクリスマスの公演会、その両方が頂点に達するクライマックスのカタルシスとカオスに、観る者は呼吸を忘れる。このクライマックスの衝撃は、2020年はまだ2か月しか経過していないが、年間トップクラスだろう。

 

朝鮮戦争という同じ民族同士の殺し合い最中、異国人同士がタップダンスで語らい、争い、相互理解を果たしたというフィクションがこれほどのリアリティをもって迫ってくるのは何故か。分断と融和が同時進行する世界に対しての、本作は一つのメッセージである。

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ネガティブ・サイド

CGの使い方に不満が残る。民族舞踊男が帽子に長い白帯をつけて舞うシーンは、できればCG処理せずにオーガニックに見せてほしかった。やろうと思えばできたはずだし、それこそ役者ではなく本物の民族舞踊の踊り手にそこだけ踊ってもらうという選択肢もあったのではないか。

 

同じくロ・ギスのコサックダンスのシーンも滑稽に映った。あれほどスピーディーに両足をばたつかせることができるなら、ジャクソンとのタップダンスバトルでも圧勝できたのではないかと思わされてしまった。前半のコミカルなトーンとは合っていたが、ストーリー全体を通してみた時には違和感の方が強く感じられた。

 

所長からサムシクへのクリスマスプレゼントもやや奇異に映った。サムシクに男の子がいる、あるいはサムシクが野球好きという描写が一切ないままにグローブとボールを渡されても、観る側の心にそれほど響かない。所長が意外にも人間味のある男であることは伝わったし、サムシクが鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしたのもよかった。だが、このシーンにはもうちょっと事前の説明が不可欠だったように思う。

 

総評

これまた韓国映画の傑作である。鑑賞前に『 サニー 永遠の仲間たち 』を観ておけば、カン・ヒョンチョル監督の問題意識や美意識がより深く見えてくるだろう。朝鮮戦争の歴史に通暁しておくことが望ましいが、必須ではない。異国人同士が言葉以外の方法でコミュニケーションを取ることの難しさと易しさ、その両方を描いているのだということが分かれば、本作のメッセージを受け取ることはできる。邦画がこの域に達するのは、もう無理なのだろうか。そう思わされてしまうほどの完成度である。劇場鑑賞を強くお勧めする。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

ミアナムニダ

『 国家が破産する日 』でミアネ=ごめん、を紹介したが、このミアナムニダは「申し訳ない」というような意味である。韓国旅行で万が一粗相をやらかしてしまったら、上のように言ってみよう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, D・O, ジャレッド・グライムス, ヒューマンドラマ, 歴史, 監督:カン・ヒョンチョル, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 スウィング・キッズ 』 -Your memory never fades away-

『サニー 永遠の仲間たち』 -止まっていた時間が動き出す、韓流青春映画の傑作- 

Posted on 2018年8月2日2019年4月30日 by cool-jupiter

サニー 永遠の仲間たち 80点

2018年8月9日 レンタルDVD観賞
出演:シム・ウンギョン/ユ・ホジョン カン・ソラ/ジン・ヒギョン キム・ミニョン/コ・スヒ パク・チンジュ/ホン・ジニ ミン・ヒョリン ナム・ボラ/イ・ヨンギョン キム・ボミ/キム・ヨンギョン
監督:カン・ヒョンチョル

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イム・ナミは母としても主婦としても忙しい生活を送る42歳。夫は稼ぎもよく生活に不自由は無かった。しかし、義母の入院先で高校時代の親友にしてチーム「SUNNY」のリーダー、ハ・チュナと思わぬ再会を果たす。チュナは余命2カ月、最期にSUNNYのメンバーと出会って死にたいとナミに伝える。そんな時、ナミの夫から急きょ、2か月の出張に出るとの電話が。これを僥倖とナミは探偵を使って、かつてのメンバーを探し始める。止まっていた時が動き始める・・・

1970~1980年代の洋楽ヒットナンバーに乗って云々と喧伝されているが、フランス映画『ラ・ブーム』への言及あり、ソフィー・マルソーへの言及あり、ロッキーⅣの巨大広告あり、独裁政権打倒のデモあり、音楽喫茶での耽溺風景ありと、時代を彩る要素であれば、何でもぶち込まれているのであり、時代と権力による抑圧からの逃避に音楽と踊りがあったとすれば『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ・アディオス』の冒頭で語られたようなキューバ独立と音楽の意外な(ある意味では当然の)関係を見出すこともできるし、『無伴奏』のような時代はお隣にもあって、そこで輝く少年少女もいたんだなと思うこともできる。しかし、この映画の魅力はそうしたところにあるのではなく、むしろそうしたエンターテイメント的に分かりやすい要素を全て除去したとしても、一つの感動的なストーリーとして成立するであろうというところだ。

主題は17歳の青春と友情だが、その奥に潜むテーマはそんなキラキラと輝くものではなく、もっと暗くドロドロとした、人間が生きる上で避けては通れない世の暗部とでも言うべき物にどのように立ち向かうのか、である。この辺の解釈は人によって分かれるだろうし、2度、3度と観賞していくことで物語の異なる面や層が見えてくるかもしれない。都市と地方の格差、容貌の格差、貧富の格差、生徒同士のいじめや教師による体罰まがいの対応、姑の嫁いびりなど、人生やこの生活世界において、全く美しくない部分が生々しく映し出される。しかし、それこそが我々が目を逸らしてはならないもので、その究極の対象は「死」である。かつての仲間の死が目前に迫った時、その仲間に贈ることができるものは何であるのか。それは「あなたは確かに生きていたし、これからも私たちの心の中で生き続ける」というメッセージであるということを本作は力強く宣言する。このあたりはどこか『焼肉ドラゴン』を思わせる。家族=何があっても離れない小さな共同体、のようなイメージを拡大再生産するだけの作品が溢れる中、家族=離散しなければならないもの、と捉え直したところが新しかった。同様に、友情にも排除の論理がある。それを正面から描く作品というのは存外に少ないのではないか。最近だと『虹色デイズ』が近かったか。何を言っているのか分からん、という人は是非本作を観よう。

日本版リメイクが劇場公開間近だが、上述したように本作の魅力は、音楽の要素を全て取り除いたとしても面白さを保っているであろうという点にある。今さら祈っても手遅れなのだが、それでも大根仁監督が小室サウンドを前面に押し出し過ぎない作品に仕上げてくれていることを祈るしかない。

この映画は冒頭から自虐的なシーン連発で笑わせてくれる。韓国ドラマのワンシーンが一瞬ずつ映し出されていくのだが、「僕たちは兄妹なんだ」、「不治の病なのか」などの韓国ドラマの様式美とも言えるシーンの切り貼りで、画面内の全ての人たちが呆れてしまうシーンがある。カン・ヒョンチョル監督は「この映画は普通の韓国映画・ドラマとは一味違いますよ」と作中で堂々とメッセージを発信しているのだ。この時点で「傑作に巡り合えた」との印象を受けたが、その感覚は裏切られなかった。生きるとはどういうことか。息をして心臓が動いているから生きているわけではない。生きるとは、必死になることだ。考えてみれば、必死とは凄い言葉だ。必ず死ぬ、死亡率100%というわけだ。しかし、哲学者ハイデガーの言葉を借りるまでもなく、我々はあまりにも死を意識することなく頽落している。生きる意味を見失いがちな現代人、特に30代40代50代には自信を持ってお勧めできる、韓流傑作青春映画である。

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, シム・ウンギョン, ヒューマンドラマ, 監督:カン・ヒョンチョル, 配給会社:CJ Entertainment Japan, 韓国Leave a Comment on 『サニー 永遠の仲間たち』 -止まっていた時間が動き出す、韓流青春映画の傑作- 

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