侵蝕 65点
2025年9月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:クァク・ソニョン キ・ソユ イ・ソル クォン・ユリ
監督:キム・ヨジョン イ・ジョンチャン
謎の体調不良が少しマシになったので、久々に映画館へ。前情報一切なしで本作のチケットを購入。
あらすじ
水泳インストラクターのヨンウン(クァク・ソニョン)は、幼い娘のソヒョン(キ・ソユ)が動物や他人を平気で傷つけていく様に戦慄しながらも、必死にわが子を育てていた。しかし、ある時、ソヒョンが同い年の女の子を決定的に傷つける事件が起こり・・・
ポジティブ・サイド
子役が怖すぎ。どう演技指導したのだろうか。台詞も不穏なものばかりで、演じていたキ・ソユのケアがどう行われていたのか心配になるほどだった。子ども特有の無邪気な残酷さなのか、それともその子だけの悪魔的な性質なのかをあいまいにせず、いきなり後者の路線で描いていたのは潔いと感じた。母を演じたクァク・ソニョンの幸の薄さも、娘の異常性をより際立たせていた。
娘に精神的に侵蝕されていく母親の話かと思っていたが、物語は一転して思わぬ方向へ。過去の不明な女と、もう一人の過去の不明な女が織りなすサスペンスとスリラーが始まる。特殊清掃業を営む人たちに家族として拾われていく展開が面白い。特殊清掃=孤独死した人の住居の清掃なわけで、畢竟、家族がいない、あるいは家族と疎遠な仏様ばかりとなる。そこに、家族ではないものが家族的な関係になっていくプロットが対照的に展開され、元々いたミン(クォン・ユリ)の居場所がヘヨン(イ・ソル)に侵蝕されていくことになる。家族の絆をかなり変則的に描いた『 パラサイト 半地下の家族 』とは同工異曲のサスペンスは面白かった。
観客側には上記のサスペンスに加えてミステリも提示される。舞台は当初の20年後なのだが、ソヒョンはどうなったのか、誰がソヒョンなのかという謎だ。このあたりは第一感に従えば問題ない。問題は、ソヒョンがヨンウンから得た「人間でも動物でも、寝食を共にすれば家族なのだ」という教えがどれほど彼女に浸透していたのかという点で・・・おっと、これ以上は書かない方がよいだろう。
エンディングには賛否両論あるだろうが、Jovianは賛である。なにが救いなのか、それとも救いがそもそもあり得るのかは、それこそ人によるだろう。
ネガティブ・サイド
ソヒョンの父親のいい加減さに辟易させられた。子どもから真っ先に逃げ出しておいて、都合のいい時だけ父親面。最初から登場させなくてよかったのでは?
精神科医と同様に牧師による説法あるいはヨンウンの告解のシーンが欲しかった。それらがあって、かつ的外れか、全然救いにならない内容であれば、ヨンウンが心理的に追い詰められていく様にもっとリアリティが生まれたはず。
某施設は大火災に遭ったはずだが、なぜあのような資料が残っていたのだろうか。そこが腑に落ちなかった。
総評
本作を鑑賞して、佐世保の女子高生による同級生殺人事件を思い出した人は多いのではないだろうか。ダイバーシティだとかインクルージョンだとか言われて久しいが、他者に危害を加える存在を「どのように」許容するかは難しい問題。家族は最も小さな社会の単位だが、そこへの所属を争うという『 パラサイト 半地下の家族 』とは別の意味でのサスペンスが盛り上がる異色作。日本では絶対に書かれない脚本なので、興味のある向きはぜひ鑑賞を。
Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン
ソンセンニム
ソンセン=先生、ニム=様である。韓国は役職や肩書の後にも尊称をつける文化なのである。大学で講師をしていた時、たまに勘違いした学生がプロフェッサーと呼んでくることはあったが、高校の英検対策課外授業だと、明らかにふざけてソンセンニムと言ってくる男子高生がいたりした。女子としゃべるためには英語よりも韓国語の時代か。
次に劇場鑑賞したい映画
『 蔵のある街 』
『 ブロークン 復讐者の夜 』
『 宝島 』

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