題名:いぬやしき 65点
場所:2018年5月4日 大阪ステーションシネマにて観賞
主演:木梨憲武 佐藤健
監督:佐藤信介
30代後半~40代前半ぐらいの客層は、ほぼ無条件にこの映画の木梨に同情、共感できると思われる。なぜなら、その世代が小学生~中学生ぐらいの頃がとんねるずの全盛期だったからだ。それが、このような絵に描いたように落ちぶれたサラリーマンを演じていることに、軽い衝撃を受ける人も多かろう。そして佐藤監督はまさにその効果を狙っている。
対するは佐藤健。28歳にして、テレビドラマでも映画でも高校生役を無理なく演じることができる役者で、漫画原作の映画でも上手くキャラを作り、キャラを表現できるということは『 るろうに剣心 』で証明済みだ。本作でも高校生にありがちなニヒルさとある種の無邪気さを同居させ、ある時は母親思いの良き男の子、ある時は無味乾燥なターミネーターとして、人間性と非人間性の狭間を自在に行き交っていた。木梨と佐藤のコントラストだけでも、この映画は成功していると言える。
本作のテーマはHumanity=ヒューマニティ、つまり人間性である。人間を人間たらしめるもの、それは何か。もちろん人間としての肉体を持つことではない。人間の形をした悪魔は時に実在するからだ。では、人間を人間たらしめる条件とは何か。本作はそれに愛を挙げている。母親への愛、娘への愛、異性への愛、様々な愛の形が存在するが、特に最初の2つの愛がフォーカスされている。これは特に新しい問題提起でも何でもない。このテーマを追求した傑作に『 第9地区 』(主演:シャールト・コプリ― 監督: ニール・ブロムカンプ)という先行作品がある。興味のある向きは是非参照されたい。
本作のもう一つのテーマは「生きる」ということ。「生きる」とはどういう意味か。もちろん肉体が生命活動(呼吸など)を行っている、という意味ではない。ある命が、そのエネルギーを正しい方法で使用することを「生きる」と定義づけられるのではないか。その証拠に、我々は使命を果たした時にイキイキするではないか。大きな仕事を完成させて、家でひとっ風呂を浴びる、その後に冷えたビールを飲んだ時に「生き返った」と感じた経験のある人は多いはずだ。それは、我々は使命を果たした、つまり命を正しく使ったからに他ならない。
この作品は、観る者に「どのように命を使うのか」を問いかけてくる。殺戮マシンと化した佐藤の生き方に共感しても全くおかしくはないし、命を救うことに生き甲斐を見出した木梨を応援してもいい。観る者の心を激しく揺さぶる力を持った映画で、性別、年齢を問わず、幅広い層にお勧めできる良作である。