映画大好きポンポさん 75点
2021年6月12日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:清水尋也 小原好美
監督:平尾隆之
タイトルだけで鑑賞決定。『 ビューティフルドリーマー 』や『 鬼ガール!! 』と同系列の、映画を作る映画である。好物ジャンルの鑑賞前は Don’t get your hopes up. が鉄則であるが、本作は期待に胸を膨らませた状態で鑑賞しても、十分に面白かった。
あらすじ
ジーン(清水尋也)は映画以外に好きなものが何もない青年。ニャリウッドの地で敏腕映画プロデューサーのポンポさん(小原好美)のもとでアシスタントを務めていた。ある新作映画の15秒のティーザー・トレイラーを作るように言われたジーン。腹をくくって作ったトレイラーはなかなかの出来。そこでポンポさんは自身が執筆した脚本を映画化する、その監督はジーンだと告げてきて・・・
ポジティブ・サイド
『 くれなずめ 』でJovianの後輩が映画のプロデューサーを務めていたが、その仕事がどういったものであるかを分かりやすく見せてくれる作品。映画監督がプロ野球の監督だとすれば、映画プロデューサーはプロ野球チームのゼネラルマネージャーと言えるだろうか。
舞台がニャリウッドというハリウッドのパロディであり、ポンポさんという深夜のアニオタ向けアニメのキャラのような少女がプロデューサーである。つまり現実味がない。そこが良い。キャラは立ってなんぼである。奥泉光の言葉を借りれば「本当のことほどつまらないものはない」のである。ジーンというキャラも個性的だ。よくいる凡百のネクラオタクと思うことなかれ。オタクの特徴に批評家であることが挙げられる。またクリエイターであることが多いのもオタクの性である。ストーリーとして面白いのは間違いなくクリエイトする方だろう。漫画『 げんしけん 』もクリエイターである荻上が加わってから面白さのレベルが一段上がった。
男なら一度はオーケストラの指揮者、プロ野球の監督、または映画監督をしてみたいと言われる。ジーンが監督として奮闘する姿は、限りなくリアリスティックでありながら、同時にロマンティックでもある。面白いと感じたのは、ジーンがポストプロダクションで泥沼にハマってしまうところ。まるで期限のはるか前に書き上げた卒論を何度も何度もリライトしたかつての自分を思い出した。またジーンというキャラはどことなくハリウッドという生態系に生きづらさを感じた映画人が投影されているように思う。『 スター・ウォーズ 』のジョージ・ルーカスなどが好個の一例だろう。
映画撮影現場でのアイデア出しや撮影の雰囲気もよく伝わってくる。またプロデューサーの権力や職掌についても分かりやすく描かれている。なんか妙なアニメだなと敬遠することなかれ。自らをもってシネフィルを任じるなら鑑賞すべし。
ネガティブ・サイド
ミスティアというキャラの使い方が中途半端に思えた。『 累 かさね 』で女優の生活の一端が惜しみなく開陳されたが、もっとそうしたシーンが必要だったように思う。
90分はちょっと短すぎではなかろうか。Jovianは個人的に1時間40分から2時間がちょうど良いと思っている。まあ、この辺は個人の好みの問題なので。
総評
映画大好きというタイトルからして映画ファンを挑発しているようだ。そして実際にそうだ。映画を作るというのは自分の美意識を現実化するということで、普段から様々な映画をあーだこーだと批評しているJovianは思いっきりジーンに自己を投影して楽しむことができた。コロナ禍が続いたにもかかわらず今年の前半は結構な豊作という印象。その中でもアニメーション作品としては(『 JUNK HEAD 』は別格としても)としては白眉であると感じた。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
cinephile
映画好き、の意味。片仮名で時々シネフィルと書いてあるのを目にするが、発音に忠実に表記するならばシネファイルとなる。cineの部分は『 アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい 』で説明したの省略。phileは、philosophyやphilanthoropyでお馴染み。「愛する」の意味である。『 まちの本屋 』に集うような人々なら bibliophile =本好きである可能性が非常に高いだろう。