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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: デビッド・ストラザーン

『 ザリガニの鳴くところ 』 -異色のミステリ+法廷サスペンス-

Posted on 2022年11月30日 by cool-jupiter

ザリガニの鳴くところ 70点
2022年11月27日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ テイラー・ジョン・スミス ハリス・ディキンソン デビッド・ストラザーン
監督:オリヴィア・ニューマン

タイトルだけで観たくなる映画、タイトルだけで読みたくなる書籍というのがたまにある。本作はそんな一本。なかなかの秀作だった。

 

あらすじ

1960年代のノースカロライナ。チェイス(ハリス・ディキンソン)という青年が死亡した。事件の容疑者として、地元で湿地の少女と呼ばれ、疎外されているカイア(デイジー・エドガー=ジョーンズ)が逮捕される。弁護士から引退していたミルトン(デビッド・ストラザーン)は彼女の弁護を申し出る。彼女は次第に自分の半生を語り始めるが・・・

ポジティブ・サイド

1950年代に幼少期を過ごしたカイアが、1960年代に成長し、いくつかの出会いと別れを経験し、そして殺人事件の容疑者として逮捕される。果たして真相は・・・というのが本作のプロット。本作の何がユニークかというと、まずカイアとその家族が湿地帯に暮らしていること。『 刑事ジョン・ブック 目撃者 』でアーミッシュの生活がこれでもかと映し出されたが、本作でも湿地帯での生活が活写される。『 ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男 』や『 ハリエット 』でも湿地帯は戦闘地域もしくは逃走経路として出てきたが、ここまで湿地にフォーカスした作品というのは他に思い当たらない。

 

その湿地の自然も、まさに wilderness と呼ぶにふさわしい。水辺の生き物や植物のありのままの姿をスクリーンに満たしてくれる。wilderness というのは何故か辞書では「荒野」と訳されるが、正しくは「人の手が加わっていない自然の領域」のこと。カイア一家が住んでいるので、厳密には wilderness ではないかもしれないが、アメリカの大地や河川の美しさや雄渾さを映し出してくれる作品としては『 ミナリ 』に近いものがある。 

 

しかし本作が最も独特なのは、1950~1960年代という人種差別の時代、そして公民権運動の時代の物語でありながら、疎外され、迫害されるのが白人の少女だという点である。その意味で、本作は差別の要因は肌の色や人種、国籍ではなく、共同体の内側に住む者か、共同体の外側に住む者かの違いに求める。これは非常に斬新だと言える。この内と外の対照性が、湿地の明るさと美しさと街の薄暗さと汚さという映像上のコントラストにもよく表れている。

 

カイアとテイトの出会いと淡い恋の発展、そして別れ。さらにカイアとチェイスの奇妙な関係は、優れた青春映画でもあるが、本作はれっきとしたミステリ。チェイスの死因は何なのか。そこにカイアは関わっているのか、いないのか。チェイスはある意味で韓国映画によく出てくるようなタイプの男性。平たく言えば暴力の予感を常に漂わせる男だ。そして、それはカイアの父を彷彿とさせる。一方のテイトは、カイアに読み書きを教え、セックスにも慎重な姿勢を見せる紳士。さらに現代の法廷シーンでは老弁護士のミルトンが、検事や証人たちの鋭い弁舌を巧みにかわし、時にはきれいなカウンターパンチも入れてみせる。観る側は否応なく、カイアを巡る人間関係と、チェイスの死の真相、そして裁判の行方に惹きつけられてしまう。そして訪れる結末・・・ これには心底びっくりした。『 真実の行方 』並みに驚かされた、というのは言い過ぎかもしれないが、それぐらいの衝撃を受けた。この後味は江戸川乱歩の『 陰獣 』を想起させる。いやはや、凄い作品である。

 

そうそう、本作でストラザーン以外はほぼ全員無名の役者だが、その中でも湿地で小売店を営む夫婦の演技力が素晴らしかった。『 ガルヴェストン 』で強烈なオーラを放っていたC・K・マクファーランドに並ぶ名脇役である。

 

ネガティブ・サイド

学校にも行けず、ホームスクールもされず、読み書きできず、ごくごく限られた人間関係しか持っていなかったカイアが、テイトとあっさり恋仲になったのは感心しない。小説だと、カイアの内面描写がたっぷりなされていたのだろうか。このあたりのカイアの心の動きをもっと感じ取らせるような描写が欲しかった。

 

あと、これはネガティブというよりは愚痴に近いが、本作のミステリとしての伏線の張り方はいささかアンフェアというか、一貫性の無さを感じた。湿地の風景、湿地の生き物や植物を、それこそカイアの視点のごとく丹念に映し出してきたのに、チェイスの死の真相のヒントを映像ではなく言葉で出してしまうとは・・・ まあ、これから鑑賞する人は、これを読んでも「何のこっちゃ?」だろうが。ここでいう言葉とは二通りの意味で・・・、おっと、これ以上は本当にネタバレになってしまう。

 

総評

なかなかの秀作である。ミステリ、サスペンス好きなら鑑賞しない手はない。そうしたジャンルに興味がなくても、一人の女性の自立の物語として鑑賞することもできる。ただ、暴力シーンや暴力的な性描写シーンもあるので、高校生や大学生のデートムービーには向かないので、そこは注意のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

A is one thing. B is another.

AとBは別物だ、というよくある言い回し。劇中では Living in isolation was one thing. Living in fear was quite another. みたいに言われていた。

Listening to music is one thing. Playing music is another.
音楽を聴くのと音楽を演奏するのは全くの別物だ。

Watching movies is one thing. Making them is definitely another.
映画を観ることと映画を作ることというは、完全に別物だ。

のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 サイレント・ナイト 』
『 母性 』
『 グリーン・ナイト 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, サスペンス, デイジー・エドガー=ジョーンズ, テイラー・ジョン・スミス, デビッド・ストラザーン, ハリス・ディキンソン, ミステリ, 監督:オリヴィア・ニューマン, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 ザリガニの鳴くところ 』 -異色のミステリ+法廷サスペンス-

『 ノマドランド 』 -現代アメリカの新しい連帯の形-

Posted on 2021年3月28日 by cool-jupiter

ノマドランド 75点
2021年3月27日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:フランシス・マクドーマンド デビッド・ストラザーン
監督:クロエ・ジャオ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210328203003j:plain

様々なメディアによると米アカデミー賞の本命は『 ミナリ 』よりも、こちらだとか。まあ、『 スリー・ビルボード 』のフランシス・マクドーマンド主演なので、話題性がどうであれ観ることには間違いはない。こちらも『 ミナリ 』とは別の角度から人間の生き方に光を当てた良作。

 

あらすじ

長年連れ添った夫のボーを亡くし、勤め先の企業の倒産もあり、住み慣れた家や土地を離れることになったファーン(フランシス・マクドーマンド)。彼女はキャンピング・カーでアメリカ各地を周り、アマゾンの倉庫などで期間限定の仕事をして暮らすノマドになった。そして、行く先々で様々な人々との出会っていき・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210328203026j:plain


ポジティブ・サイド

フランシス・マクドーマンドがその存在感を消して、見事にノマドになっている。いや、ノマドというよりもどこか原始的な人間であるように映る。険のある表情の中に憂いを秘めている。根無し草でありながら、生への執念は消えていない。ノマドという生き方を選ぶことの是非ではなく、どんな形であれ生きることを選択する姿が胸を打つ。ホームレスではなくハウスレスだとファーンが元教え子に伝えるシーンは、衣食住の住には、住まい以上の意味があるのだということを教えてくる。Home is home = 住めば都、という表現があるが、キャンピング・カー、そして思い出の皿など、ホームとは安住できる依り代なのだ。

 

ノマドとしての生活も真に迫っている。原っぱでの排せつや川での行水までも描かれる。しかし、いくら遊牧民とはいえ貨幣経済からは逃れられないし、完全な自給自足も不可能。そこでノマド同士が出会い、寄り添っていく姿がひたすら写実的に描写される。アマゾン倉庫やSAのちょっとしたショップ、ボブ・ウェルズというオーガナイザーの呼びかけるイベントなど、ドラマを盛り上げる要素はいくらでもある。だが、そうはしない。なぜならファーンを始めとしたノマドたちがただ生きる日々それ自体が十分にドラマだからだ。もちろん、他人の善意がファーンを大いに傷つけることもある。だが、それを許すことができるのもまた人だ。作った事件やハプニングがなくとも、人の生き様は充分にドラマチックでありうるのだ。

 

キャンピング・カーの内と外、都市の内と外、家庭の内と外。ノマドは、自分以外の人間と隔絶した世界に生きている。それをするのが広大無辺なアメリカの大地だ。ビルも家も何もない。草原や荒野や岩地が広がるばかりの光景に、朝焼けと夕焼けが映える。まるで一日一日が再生と死を象徴しているかのようだ。そうした情景描写がファーンを始めとしたノマドたちの生き様をよりリアルにしている。実際に本作に登場するノマドたちは本当のノマドによって演じられていることをエンドクレジットで知って驚いた。演出された世界ではなく、現実の世界を観ていた。現実と虚構の境目があやふやになった。ノマド的な生き方に憧れを持つことはいが、ノマドという生き方を現実に選択する人々のことをリスペクトしたいと強く感じるようになった。ファーンやリンダ・メイ、スワンキーのような生き方も今後のニューノーマルの一つになっていくのかもしれない。



ネガティブ・サイド

ピアノのBGMが、ある人物が弾くアコースティック・ギターの音とケンカをしているシーンがあった。数秒だけだったが、非常に jarring に感じた。

 

もう一つ、スワンキーの語るツバメの乱舞する光景のシーン。なぜ水面を映し出さなかったのだろうか。自分も一緒に飛んでいる感覚を観る側が味わうためには、スワンキーが見たのと同じ構図の画を共有させる必要があったのではないだろうか。

 

石膏採掘会社の倒産に翻弄されるファーンだが、アマゾン倉庫での労働の描き方が非常にニュートラルであると感じた。アマゾンの労働環境の過酷さは広く知られているところで、ノマドたちがそこで生き生きと働く姿に少々違和感を覚えた。

総評

一部の地域を除いてコロナ禍が今もって現在進行形の世の中で、人と人との距離感がずっと問い直されている。本作は、ファーンという個人のとてつもない孤独の中の旅路に、新しい形の人間関係を呈示している。格差や分断の中でこのような交流が生まれてくることは、日本の未来を見つめる時の一つのヒントになりうる。生きることの難しさ、そして生きることの尊さを静かに、しかし力強く描く傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

stand for 

作中では”What does RTR stand for?”のように使われていた。意味は「~を意味する」だが、しばしば頭字語について用いられる。

“What does NATO stand for?” / “It stands for North Atlantic Treaty Organization.”

のように使う。meanを使っても問題ないが、stand for ~ も知っておくと、ネイティブに色々と質問もしやすい。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, デビッド・ストラザーン, ヒューマンドラマ, フランシス・マクドーマンド, 監督:クロエ・ジャオ, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 ノマドランド 』 -現代アメリカの新しい連帯の形-

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