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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: シャーリーズ・セロン

『 スキャンダル 』 -セクハラおやじ、観るなかれ-

Posted on 2020年2月24日2020年9月27日 by cool-jupiter
『 スキャンダル 』 -セクハラおやじ、観るなかれ-

スキャンダル 70点
2020年2月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ニコール・キッドマン シャーリーズ・セロン マーゴット・ロビー ジョン・リズゴー
監督:ジェイ・ローチ

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日本でも2000年あたりから、焼肉屋や居酒屋から女性の水着グラビアつきのカレンダーが消えていったと記憶している。あれはビール会社から店へのプレゼントだった。女性をセックス・オブジェクトとして見る傾向は徐々になくなってきてはいるが、今でも外国人(西洋人だろうが東洋人だろうが)は、日本のコンビニに並ぶ漫画雑誌や週刊誌の表紙が一様にグラビアになっていることに衝撃を受けるようだ。何がセクハラかは定義しづらい。しかし、曖昧であればいいわけではない。本作は日本の中年おやじにはどう映るのだろうか。

 

あらすじ

TVネットワークの巨人、FOXニュースの元キャスターのグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)はCEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リズゴー)をセクハラで提訴した。カールソンはその他の被害女性たちが立ち上がるのを待つ。主要キャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)は女性を蔑視するD・トランプ大統領候補との論戦の中、自身とロジャーの関係を思い起こしていた。そして野心を秘めたケイラ・ボスビシルはロジャーと面会するチャンスを得るが・・・

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ポジティブ・サイド

冒頭でシャーリーズ・セロン演じるメーガン・ケリーが第四の壁を突き破って、FOXニュースとはどんな組織であるのかを懇切丁寧に説明してくれる。つまりは究極のトップダウンな組織なわけである。権力者が長く居座るとろくなことがない。星野仙一が中日ドラゴンズの監督を辞した時に、そうした旨のことを言っていた。ここに抑圧された個の存在を容易に嗅ぎ取ることができる。

 

アナウンサーは、ニュースを正確に読み、ニュースに適宜にコメントをつけ、あるいは専門家から適宜にコメントを引き出す。その仕事に性別は本来は関係ない。それでも日本でも女子アナ相手にこんな質問が飛ぶ土壌が今でもあるのだ。女子アナという言葉はあるが、男子アナあるいは男性アナとは普通は言わない。つまりはそういうことである。

 

脚本家が『 マネー・ショート 華麗なる大逆転 』のチャールズ・ランドルフなので、ストーリーの進行の仕方がよく似ている。つまり、説明的なセリフもナレーションもなく、淡々と進んでいく。観る側はいきなりテレビ局の真ん中に放り込まれた気分になる。そこは完全なる別世界だ。異なる論理の支配する世界。組織の構造を知ったら、あとはキャラクターを追う。そうしないとストーリーについていけない。非常に上質な、大人向けの作りと言える。

 

本作ではロジャー・エイルズを単純なセクハラ大魔王として描いていないところが興味深い。彼の妻は彼をとことん信じているし、FOX内部にはチーム・ロジャーの一員であることを自認する女性も数多く存在する。彼女らに名誉男性というレッテルを貼ることはたやすい。だが、それは安直に過ぎる。『 ウルフ・オブ・ウォールストリート 』でジョーダン・ベルフォートから多額の金を前借した女性社員は、涙を流して彼に感謝していた。極悪人であっても人を重用することはできるし、人に好かれること、リスペクトされることもある。いや、むしろ巨大な帝国を築いた人間なのだからカリスマ性があって当然なのだとも考えられる。「英雄色を好む」と古今東西で言われるが、我々は人間をあまりにも性別や貧富などの属性で見ることに慣れすぎて、人間そのものを見なくなってしまっているのではないか。ロジャー・エイルズの没落は痛快である一方で、苦い味も残す。そのバランス感覚が良い。彼を全面的な悪に描くのではなく、その背後にトランプ現大統領のような人間がいることを描くことで、権力を持った男の危険性や組織論への新たな見方も提供しているからだ。

 

ニコール・キッドマンの不退転の決意を示す表情、弱気になりながらも子供たちの前では気丈に声を振り絞る様、そしてケリー・メーガンの同調に目を丸くする様は堂に入っている。セクハラの告発はやはり勇気がいるのだ。復讐に燃える女ではなく、個の強さを信じる個人を演じるからこそ、これほどの強さを感じさせてくれるのだろう。次に素晴らしいと感じたのは、ケイト・マッキノン。完全なる男社会におけるゲイなのだが、こういった存在に光を当てられる監督ジェイ・ローチや脚本家チャールズ・ランドルフの感覚は素晴らしいと思う。単純な男女の物語に二分化されてもおかしくないストーリーが、彼女の存在によって強者とマイノリティの対立の構図になっているからである。

 

後味は苦い。まるで『 ブラック・クランズマン 』のエンディングのようである。伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之相手の裁判で実質勝利を収めたのが昨年の2019年。本作が描くストーリーはトランプ政権誕生前夜の2016年。これは記録映画ではない。現在進行形の物語である。

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ネガティブ・サイド

ストーリーのその後がもっと知りたかった。カールソンらが多額の示談金を得たこと、そしてロジャーらがさらに高額の退職金を得たことが字幕で示されたが、その後についてもう一言二言触れてほしかった。例えば、#MeToo運動との関連だとか、他局や他の会社、他国にもこうした運動が広まったということなど。

 

主役がカールソンなのかケリーなのかが少々分かりにくい。歴史的(と言うほど昔ではないが)にはカールソンなのだろうが、物語的にはケリーなのだろう。であれば、ケリーの存在感をさらに際立たせるためにD・トランプ候補との舌戦などにもう少し尺を割くべきだったと思う。例えば、トランプのツイッター連投をしっかり時系列順に画面に表示し、いかに彼の投稿が支離滅裂であるかを示すこともできたはず。

 

あとは視聴者側からの視点がほんの数か所で良いので挿入されていれば、もう少しわかりやすくなったはずである。ほとんどすべてがFOXの局内で完結してしまうストーリーであるため、市井の人の反応が分からない。テレビのニュースというのは報じる側と視聴する側の両方が存在してこそ成立するのだから、ニュースの受け手が「ロジャー・エイルズ提訴される」の報にどのように反応したのか、そうした声をもう少しつぶさに拾う必要があったのではないか。

 

総評

これは決して対岸の火事ではない。いや、火事という言い方をしてしまうこと自体が当事者意識の欠如になるかもしれない。狭義のセクハラとは性的な関係の強要なのだろうが、広義に解釈すれば性的な機能を人間性よりも上位に置く関係の構築という、人間性の否定となる。セクハラとはスケベな言動ではなく、無礼・失礼な言動であるということを、Jovianをはじめアホな中年男性はまず思い知る必要がある。セクハラはすまいと心に決めた男性はぜひ本作を鑑賞しよう。「俺はセクハラなんかしたことないよ」と無自覚に胸を張れる男性は、本作を観ても無意味であろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

A fish rots from the head.

「魚は頭から腐る」の意。日本語なら「鯛は頭から腐る」だが、元はロシアのことわざであるようだ。魚を鯛に置き換えたのが日本らしい。上等な魚に言い換えることで、上等な組織ほど、トップから腐敗していくことを端的に表している。某議員が某総理にあてた言葉がまさにこれである。偶然だろうが非常に良いタイミングで英語の同じ意味のことわざが本作で使われている。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, カナダ, シャーリーズ・セロン, ジョン・リズゴー, ニコール・キッドマン, ヒューマンドラマ, マーゴット・ロビー, 伝記, 監督:ジェイ・ローチ, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 スキャンダル 』 -セクハラおやじ、観るなかれ-

『タリーと私の秘密の時間』 -震えて眠れ、男ども-

Posted on 2018年9月5日2020年2月14日 by cool-jupiter

タリーと私の秘密の時間 60点

2018年9月2日 大阪ステーションシネマにて観賞
出演:シャーリーズ・セロン マッケンジー・デイビス マーク・デュプラス ロン・リビングストン
監督:ジェイソン・ライトマン

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マーロ(シャーリーズ・セロン)は40代にして、二人の子持ちに一人を妊娠中。2人目にして長男のジョナは、おそらく発達障害で、情緒的にかなり不安定なところがある。夫のドリュー(ロン・リビングストン)はSEで、出張が多く、家事はせず、夜はヘッドホンをつけてバイオ・ハザード(Resident Evil)的なゾンビ・シューティングに勤しむという、育メンからは程遠い男。オムツを替えて、授乳し、搾乳して取れたミルクを冷蔵庫に保存し、ご飯を用意し、子どもを学校へと送り迎えし、しかし家の掃除や自身の化粧はできないという、限界に近い生活の繰り返しが、コマ送りの如く、これでもかと画面上に映される。さらには学校ではspecial needs studentであるジョナにspecial aidを雇う、もしくは転校を校長から提案されてしまい、マーロのストレスは臨界点到達、メルトダウンを起こしてしまう。そこで親戚の助言を得て、ナイトナニー、すなわち夜間だけのベビーシッターをついに雇うことを決断する。

現れたタリー(マッケンジー・デイビス)は26歳という年齢に似合わぬしっかり者で、子守りのみならず、掃除や食事まで完璧にこなす。さらにはマーロのお悩みカウンセラーまで努め、さらには夫婦のセックスレス解消の手助けにまで乗り出す。はっきり言って、大きなお世話もいいところなのだが、それらが全て奏功してマーロはみるみる回復。ジョナの転校も前向きに受け入れ、長女と共にカラオケを熱唱する。ちなみに歌うのはCarly Rae Jepsenの”Call Me Maybe”。あの怪作『ピーチガール』の主題歌だ。この歌の詩は、本作にマッチしている。特に“Before you came into my life, I missed you so bad.”という部分など。Youをタリーに置き換えると、確かに”Call Me Maybe”である。それにしても日本映画は時々、どういうわけかあちらの大物の歌を拾ってくることに成功する。『秘密 THE TOP SECRET』で使われたSIAの”Alive”などが好個の一例だ。しかし、そういう慣れないことをすると往々にして失敗するのだという、反面教師でもある。

Back on track. 今、CMで濱田岳が《夫、史上初の台詞》すなわち「お、お、おれ、お皿、洗おうか?」に、《妻、3年ぶりの台詞》すなわち「ありがとう」というものがある。アメリカでも日本でも、夫というものは家政能力に欠けるようである。しかし、夫の家事や育児への参加をもっともっと促そうという動きは理にかなっているし、時代にも合っている。そもそも育メンなる言葉自体が存在することがおかしいのだと指摘する向きも多い。子育てする男、それを父親と呼ぶのだ、という指摘がまさにそれである。ドリューの姿に自分を見出す男がいれば、そのものは即座に回心、ではなく改心しなくてはならない。

本作は、惜しいかな、一部の販促物にネタバレに近いキャッチコピーが付されている。これから見てみようという諸賢は、そうした販促物にはゆめゆめ近づかないように。また、本作を見る時、何度か出てくる人魚のイメージについて、『シェイプ・オブ・ウォーター』を思い起こしてみると良いかもしれない。半漁人は何のモチーフであったのか。半漁人によってサリー・ホーキンスのキャラクターは何を取り戻したのか。そのあたりに本作を読み解くヒントがあるかもしれない(ないかもしれない)。

このネタは、海外の作家ではジャック・フィニイ、日本の作家では山本周五郎もしくは赤川次郎あたりが思いつきそうだ。心理学に精通して、なおかつ鵜の目鷹の目で小説を読む、または映画を観るという人なら、タリーの登場シーンに違和感を覚えるだろう。その感覚はおそらく正しい。それを信じて観賞を続けてほしい。

シャーリーズ・セロンは、ジェシカ・チャステインと並んで、40代の女優ではトップランナーであることを本作でも証明した。シャーリーズ・セロンの出演作にハズレがあっても、セロン本人がハズレだったことはない。彼女の弛みきった腹部と、それ以上に化粧をすることも忘れてしまいました風の地味で控え目な目元の化粧に、あなたは戦慄するかもしれない。自分の奥さんがセロンほどの美人であるという人は(客観的に見て)そうそういないだろう。しかし、自分の奥さんがセロンのような疲れ切ったメイクになっていることに気付く夫はどれほどいるだろうか。我々は美貌が損なわれたところから、メイクの欠如に気付く。では、我々は妻が何を失ったのかに気付いていないことは何を意味するのか。それは、我々が妻への関心を失っていることを意味する。さあ、(一部の、いや多くの)男どもよ、本作を観て震えて眠るのだ。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アメリカ, シャーリーズ・セロン, ブラック・コメディ, 監督:ジェイソン・ライトマン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『タリーと私の秘密の時間』 -震えて眠れ、男ども-

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