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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 黒木華

『 ヴィレッジ 』 -ムラ社会のダークサイド-

Posted on 2023年4月23日 by cool-jupiter

ヴィレッジ 75点
2023年4月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:横浜流星 黒木華
監督:藤井道人

藤井道人監督ということでチケット購入。

 

あらすじ

片山優(横浜流星)は、死んだ父の犯した罪と母親の借金のために、故郷の霞門村で肩身を狭くして生きていた。ある日、ゴミ処理場で働く優は、東京から帰ってきた昔馴染みの美咲(黒木花)と再会することになり・・・

ポジティブ・サイド

能の場面、そして『 三度目の殺人 』を彷彿させる火から始まるオープニングに、剣呑な空気が充満している。

 

村で生きる優の能面のような表情と、その内に封じ込められた激情の対比が序盤と中盤の分かれ目。霞門村のシステムに取り込まれることで豊かな表情を取り戻していく優の姿に、観る側は非常にアンビバレントな気持ちにさせられる。

 

この「閉鎖社会から出ていこうにも出ていけない」あるいは「出ていったはいいものの、結局帰って来るしかなかった」というジレンマは、大都市の人間には分からないのではないか。過去数十年の日本の行政の地方創生戦略が機能したためしがないのは、都市の人間がムラに関する施策を決定するという構図が原因ではないか。地方に交付金やら補助金やらを恵んでやる一方で、ゴミ処理場や原子力発電所などを押し付けるのは大きな間違いだったということは、過去10年を見れば分かることだ。

 

Jovianは霞門村ほどのド田舎に住んだことはないが、それでも30年以上前に住んでいたO県B市ぐらいの田舎だと、同級生だった市長の孫が中学校でむちゃくちゃデカい面していて、教師も腫れ物に触れるような扱いをしていたものだった。その市長の苗字が、本作の村長と同じで笑ってしまった。こういう閉鎖社会の権力者とその一族あるいは取り巻きは、その依って立つ基盤が砂上の楼閣とはいえども、周囲に多大な影響力を行使することはある。その点を藤井道人はよくよく見抜いている、あるいは取材しているなと感じた。

 

横浜流星以外で目立った役者は一ノ瀬ワタル。『 宮本から君へ 』同様の暴力キャラが良く似合う。「この村にはハラスメントなんか存在しねえ」という台詞はリアルだった。仕事で奈良や滋賀のかなりの田舎の学校にまで教えに行くこともあるが、そうしたところはコロナ禍真っただ中でも隣近所の人間とノーマスクで話していることなどザラだった。中央や都市部があーだこーだ言っても、本当の田舎は大昔から何も変わらないものである。

 

環境センターという昼の顔と不法投棄現場という夜の顔が、そのまま村および村民たちの二面性になっているのが興味深い。エンドロール後のラストショットに仮託されているのは、希望なのか絶望なのか。それは是非、自身の目で確かめて頂きたい。

 

ネガティブ・サイド

中村獅童演じる刑事が無能すぎる。杉本哲太演じるヤクザも無能すぎる。ここら辺のキャラにはリアリティが欠けていた。

 

最大のツッコミどころは「そこにそれを捨てるか?」というものと、「なんでそれを破壊しないの?」というもの。後者はクラウドが云々かんぬんというのがあるかもしれないが、前者についてはお粗末すぎる。『 藁にもすがる獣たち 』を見習えと言いたい。

 

総評

『 デイアンドナイト 』と同工異曲の秀作。共同体の伝統を壊そうとする者は排除するか、あるいは共同体に取り込んでしまうのが日本社会のお家芸。つまりはダイバーシティなどというものはお題目に過ぎないのだ。自国の闇をエンタメに仕上げられるのは、問題意識とクリエイター意識の両方を併せ持った人。藤井道人は邦画界に置ける数少ないそのような作り手の一人、かつ第一人者だろう。ぜひ鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

History repeats itself.

歴史は繰り返す、の意。優の父の犯した罪や、村長の「そうやってこの村は続いてきたんだ」という発言が印象的。歴史はいつでもどこでも繰り返されるものだが、日本の地方は特にその傾向が強いようである。History has repeated itself. や Will history repeat itself? のようにも使うことがある。英語中級者なら既に知っている表現だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・ホエール 』
『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』
『 聖地には蜘蛛が巣を張る 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, 日本, 横浜流星, 監督:藤井道人, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:スターサンズ, 黒木華Leave a Comment on 『 ヴィレッジ 』 -ムラ社会のダークサイド-

『 来る 』 -新たなジャパネスク・ホラーの珍品誕生-

Posted on 2018年12月19日2019年11月30日 by cool-jupiter

来る 35点
2018年12月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:岡田准一 黒木華 小松菜奈 松たか子 妻夫木聡 柴田理恵
監督:中島哲也

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181219015907j:plain

原作は小説『 ぼぎわんが、来る 』で、こちらはまあまあ面白い。『 リング 』の貞子より怖いと評す向きもあったが、恐怖を感じる度合いは人それぞれであろう。しかし、小説、そして映画としての怖さと面白さは『 リング 』の圧勝である。本作は映画化に際して原作の持つメッセージをかなり削ぎ落としてしまっている。そのことが残念ながら裏目に出た、残念な映画化作品である。

 

あらすじ

田原秀樹(妻夫木聡)は妻、香奈(黒木華)と幸せな結婚生活を送っていた。そして香奈が妊娠。秀樹は理想的な父親となるべく努力を始めるが、周囲では怪異が起こり始める。不安を覚えた秀樹は友人の伝手からジャーナリストの野崎(岡田准一)を紹介してもらい、そこから霊感の強い真琴(小松菜奈)を紹介してもらうも、事態は好転せず・・・

 

ポジティブ・サイド

本作の最大の見どころは2つ。1つは小松菜奈の露出である。美脚やへそを遠慮なく披露し、入浴シーンのおまけつき。『 恋は雨上がりのように 』でも、艶のある表情、そして姿態・・・ではなく肢体を見せてくれたが、有村架純の次にラブシーンを解禁してくれるのは、小松で決まりか。

 

もう1つは、黒木華のベッドシーン。これまでもいくつかラブシーンはあったが、今回は一味違う。といっても露出具合とかそういう話ではない。女性性ではなく、動物性を感じさせるような演技。理性ではなく本能の赴くままに抱き合う様はよりいっそう官能的だった。

 

と手放しで褒められるのはここまで。もちろん、妻夫木聡の高レベルで安定した演技力や、そのキャラクターに知らず自身を重ね合わせて見ることで慄然とさせられる男性映画ファンは多かろう。しかし、それが映画の面白さにつながっているかというとそうではない。それが惜しい。そうそう、柴田理恵も良い味を出している。はっきり言ってギャグとホラーの境目を頻繁に行ったり来たりする本作の中で最も象徴的なキャラにして、最も振れ幅が大きいキャラを演じ切ったのはお見事。彼女のシリアス演技だけで笑いながら震えてしまった。

 

ネガティブ・サイド

まず、原作の三部作構成および語り手=人称=視点の変更というアイデアを中途半端に取り込んだのが、そもそも間違いだった。取り入れるなら全て取り入れる。映画的に翻案するなら、すべて映画文法に従わせる。そのどちらかのポリシーを選んで、貫くべきであった。同じように、視点があちこちに移動する小説を原作とする映画に『 白ゆき姫殺人事件 』がある。こちらは原作のテイストを維持しながらも、Twitterのツイートを終盤に一挙に爆発させるという手法を取ることで、映画的なカタルシスを倍増させることに成功した。このように、何か新しいアイデアがあるのでなければ、原作にとことん忠実になるか、もしくは原作をとことん映画的に料理してしまうべきだ。中途半端は良くない。この批評は原作既読者ならばお分かり頂けよう。

 

秀樹のパートは妻夫木聡の卓越した演技力もあり、一見して理想的な夫そして父に透けて見える厭らしさ、あざとさ、狡猾さ、弱さ、狡さなどの負の要素が観る者に特にショックを与える。それは妻役を演じた黒木華にしても同じで、口角をゆっくりを上げながらニヤリと笑うその顔に震え上がった男性諸氏は多かっただろうと推測する。しかし、こうした裏のあるキャラたちが物語の序盤にあまりにも生き生きと描かれるためか、主役であるはずの岡田准一演じる野崎のキャラが全く立たない。もちろん、彼には彼なりのストーリー・アークがあるのだが、そのインパクトが非常に弱い。男が水子の霊に苛まされるというのは新しいと言えば新しいが、その恐怖をもっと効果的に描く方法はあったはずだ。例えば、あり得たはずの美しい家庭、そして家族のビジョンをほんの十数秒で良いので映すだけでも、その喪失感と絶望感、後悔、苦悩などが描けたのではなかったか。あるいは撮影はしたものの、尺や演出の関係でカットしてしまったのか。観客が対象に対して感じる恐怖というのは、観客がキャラと一体化してこそ効果的に感じられる。ある意味で世捨て人になってしまっている野崎ではなく、平凡な、しかしありふれた幸せを享受する野崎を想像させてこその恐怖ではなかろうか。

 

クライマックスはほとんどカオスである。壮大なセットを組み、日本中から除霊の腕っこきを集めるのだが、ギャグと見まがうシーンとシリアスな描写とが入り混じるのには、苦笑を禁じ得なかった。優れた原作小説を調理する方法が分からない中島監督が、自身の混乱と嗜好の分裂をそのまま映像で表現したのかと考えさせられるぐらい、統一感に欠けるクライマックスが展開される。これを怖いと思う人は、恐怖の閾値があまりにも低い。全体を通じてペースが悪く、ぼぎわんという怪異の存在に対する恐怖を登場人物たちが描き切れていない。そのため、それを見物する我々観客に恐怖がなかなか伝わらない。ホラー映画なのに、さっぱり怖くないのだ。これは致命的であろう。

 

総評

はっきり言ってキャスティングの無駄遣い。脚本段階のミスで、大物の俳優らが出てくるのが遅すぎるし、原作にあった“視点の変更”というアイデアも、視覚言語たる映画にうまく換骨奪胎できなかった点が、兎にも角にも悔やまれる。キャスティングに魅力を感じる人ほど、観終わった後に徒労感を抱くだろう。同工異曲の満足感=ホラーを求めるなら『 不安の種 』のオチョナンさんの方がお勧めである。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, E Rank, ホラー, 妻夫木聡, 小松菜奈, 岡田准一, 日本, 松たか子, 監督:中島哲也, 配給会社:東宝, 黒木華Leave a Comment on 『 来る 』 -新たなジャパネスク・ホラーの珍品誕生-

『 日日是好日 』 -茶道の向こうに人生の真実が見えてくる-

Posted on 2018年11月9日2019年11月22日 by cool-jupiter

日日是好日 75点
201811月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:黒木華 樹木希林 多部未華子
監督:大森立嗣

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181109014742j:plain

樹木希林との惜別のために劇場へ。彼女の作品で印象に残っているのは『 風の又三郎 ガラスのマント 』、『 39 刑法第三十九条 』、『 東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜 』、『 海街diary 』、『 万引き家族 』。平成の日本映画史を支えた女優が逝ってしまった。合掌。

 

あらすじ

20歳の典子(黒木華)は、自分が本当にやりたいことを見つけられないまま、惰性で大学に通っていた。ある時、母が茶道を習ってみたらと提案するも乗り気になれない。しかし、従妹の美智子(多部未華子)が乗り気になったことから典子も茶道教室へ。それが典子と武田先生(樹木希林)、そして自分が探していた何かとの邂逅だった・・・

 

ポジティブ・サイド

黒木華は幸薄そうな役がよく似合う。『 散り椿 』、『 ビブリア古書堂の事件手帖 』は正直なところ、物語世界の構築には成功しなかった。しかし、そうした作品においても黒木華はキャラクターに息吹を与えていた。黒木華が出ているだけで「観ようかな」と思わせられるだけの存在感を発するようになってきた。今後も楽しみである。

 

本作は典子と美智子の茶道に対するアプローチの対照が前半の見どころである。何でも理屈で解釈しようとする美智子と、五感で茶菓子や茶器、茶室、書、掛け軸、生け花、そしてお茶を賞翫する典子、という構図である。茶道の作法に意味があるのか、それとも無いのか。これはそのまま典子の抱える疑問、大学に行くことに意味があるのか、それとも無いのか。古い映画を観ることに意味があるのか、それとも無いのか。将来の仕事を決めることに意味があるのか、それとも無いのか。これらは頭で考えてどうにかなる性質の問いではない。もちろん、無理やり答えを出して前に進むこともできる。ただ、それは典子の性(さが)ではないのだ。前半は観る者に、「あなたは典子型ですか?美智子型ですか?」と尋ねてくるかのようだ。それが不思議と心地よい。どちらの生き方も否定されないからだろう。

 

茶道が主題となると、画的にさびしいと思ってしまうが、さにあらず。『 クレイジー・リッチ! 』でも用いられた手法だが、多種多様なガジェットを画面いっぱいに次々と映していくことでもダイナミックさは生まれるのである。『 クレイジー・リッチ! 』では色々な食べ物が印象的で、本作では茶器と茶菓子、掛け軸が特に印象的である。特に掛け軸の瀧直下三千丈は、その書の雄渾さだけではなく視覚的なイメージで典子に、つまり我々に訴えかける。こうした技法はピーター・J・マクミランが『 英語で読む百人一首 』の三番、柿本人麻呂の「足引きの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を 一人かも寝む」という有名な句を英訳する際に使用している技法である。瀧という文字を、意味ではなく視覚で受け止めるべしというメッセージであり、同時に茶道というものを理性ではなく感覚で経験すべしというメッセージでもある。ナレーションもなく、わざとらしい説明の台詞もなく、ただただ書に見入る典子の姿を映し出すことで、観る者にメッセージを送る。これこそ映画の基本にして究極の技法である。このシーンだけでもチケット代の半分以上の価値がある。

 

作中では、ある重大な出来事を受け止めた典子が、止め処なく溢れ出てくる気持ちを爆発させるシーンがある。どことなくニヒリスト的であった典子が、自分のこれまでの生を肯定できるようになる重要なシーンである。ニーチェの言うニヒリズムと永劫回帰は、茶道の一期一会と、案外と近縁の思想なのかもしれない。ゲーテの『 ファウスト 』にも通底する思想で、生の一瞬一瞬を愛でることができれば、人生に悔いを残さないようになれるのかもしれない。小説『 神様のパズル 』で綿さんがコメを食べながら得た「閉じた」という感覚を、典子も抱いたことだろう(ちなみに、映画版の『 神様のパズル 』は原作小説の改悪なので、映画はスルーして小説の方を読むことをお薦めする)。茶道の向こうに人生の真実が、確かに見えてくる。

 

ネガティブ・サイド

典子のライフコースにおける一大イベント前に、美智子が絶対に現れると思っていたが、元々の脚本になかったのか、それとも編集でカットされたのか。序盤のコメディ・タッチがどんどんと鳴りをひそめ、シリアスとまではいかないものの、それなりに重いテーマを扱う後半こそ、美智子の軽さが必要だったのではないだろうか。

 

また、シーンごとのメリハリに一貫性も欠いていた。BGMやナレーションを極力使わず、映像と音だけでストーリーを紡ぐシーンもあれば、あまりにもナレーションや心の声を聞かせすぎるシーンもあった。中学生以下ならいざ知らず、高校生以上であれば、本作の各シーンが持つ意味や意義は掴めるはずだ。もう少し、受け手を信用した作りをしてほしいと思う。

 

総評

扱う主題は茶道だが、その奥に潜むテーマは深いとも浅いとも言える。それは観る者の人生経験や哲学、識見によって変わってくる。しかし、これをきっかけに両親や祖父母に電話をしよう。あいさつをしよう。部屋をちょっと模様替えしてみよう。料理の組み合わせを少し考えてみよう。などなどの、目の前の瞬間を大切に生きてみようという気持ちにさせてくれる力を持つ作品に仕上がっている。劇場でいつまで公開されているか分からないが、是非とも多くの方に観てもらいたい映画である。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 多部未華子, 日本, 樹木希林, 監督:大森立嗣, 配給会社:ヨアケ, 配給会社:東京テアトル, 黒木華Leave a Comment on 『 日日是好日 』 -茶道の向こうに人生の真実が見えてくる-

『ビブリア古書堂の事件手帖 』 -シリーズ化を狙うなら、監督と脚本の交代が必須-

Posted on 2018年11月8日2019年11月22日 by cool-jupiter

ビブリア古書堂の事件手帖 30点
2018年11月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:黒木華 野村周平 成田凌 夏帆 東出昌大
監督:三島有紀子

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181108004836j:plain

『 幼な子われらに生まれ 』の三島有紀子監督作品ということで期待をしていたが、裏切られた。はっきり言って、脚本の時点で失敗作になると予見できていなければおかしい。何か監督オファーを断れない事情でもあったのか。それとも自ら手を上げたものの、スタジオからこの脚本を使うように圧力があったとでも言うのだろうか。

 

あらすじ

五浦大輔(野村周平)は祖母の遺品整理をしている最中に、夏目漱石直筆の署名入りと思しき『 それから 』を見つける。それは、彼が小さな頃に手に取ったことで、祖母の勘気を被り、二発も殴られたきっかけになった本だった。鑑定のためにビブリア古書堂を訪れた大輔は、若き女店主・篠川栞子(黒木華)に出会う。物静かで陰に籠った感のある栞子はしかし、本については並々ならぬ知識と愛着を持っていた・・・

 

ポジティブ・サイド

黒木華は称えねばならない。楚々として、そこはかとない色気を感じさせながらも、どこか無防備で、だからこそ守ってあげたいと思わせる原作の雰囲気が醸し出せていた。ボソボソと話はするが、決して訥々とは語らず、社交面に弱点を抱えているものの、頭脳の明晰さは随一というキャラであることを演技で証明した。

 

また、大輔の祖母の若い頃を演じた夏帆。『 ピンクとグレー 』あたりから本格的にベッドシーンもこなし、『 友罪 』ではAVやレイプシーンにも取り組むなど、役者としての成長と充実を感じさせる。桜井ユキもそうだが、ラブシーンをこなせる女優には敬意を払わねばならない。次は広瀬アリスあたりかな?

 

ネガティブ・サイド

あまりにも原作各話の扱いに差がありすぎる。三島監督は原作を読まなかったのだろうか。いや、そんなことはあるまい。原作小説のみならず、必要とあらば漫画やテレビドラマ版(剛力は論外、演技力云々ではなく似ていない。オールデン・エアエンライクとハリソン・フォードの似ていなさ加減よりも、篠川栞子と剛力彩芽の似ていなさ加減の方が遥かに大きい)ですらチェックしているはずだ。

 

栞子の博識っぷりを引き出すためには、彼女の本に対する知識を様々な角度から様々な方法で描写する必要がある。通常の2D映画では不可能だが、嗅覚を使うシーンは面白いと思った。が、そのことをもう少し明示的に示す必要もあった。本シリーズの面白さは、栞子は本にとってのシャーロック・ホームズもしくはハンニバル・レクター博士か、とこちらに思わせるだけの静かな迫力にある。決して、カーチェイスやアクションにあるのではない。そのアクションでも大輔に見せ場は無し。というよりも、あのタイミングでこうした事件が起きるなら、犯人は必然的にこいつしかあり得ない、という論理的な思考ができないのか。そもそも警察が存在しない alternate reality での物語なのか、これは?

 

総評

黒木華と夏帆以外に見るべきものが無かった。そんなところでそんな映像美を演出する意味があるのか?というシーンも多く、キャラクターだけではなく映画製作者側の意図や行動原理も不明なところが多い。黒木と夏帆のファン以外には正直、鑑賞はきついだろう。どこか嫌な予感がしたので無料鑑賞クーポンを発行したが、その勘は正しかった。鑑賞する場合にはモーニング・ショーか、レイト・ショーで。正規のチケット代は払うべきではない。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, E Rank, ミステリ, 夏帆, 成田凌, 日本, 東出昌大, 監督:三島有紀子, 配給会社:20世紀フォックス映画, 配給会社:KADOKAWA, 野村周平, 黒木華Leave a Comment on 『ビブリア古書堂の事件手帖 』 -シリーズ化を狙うなら、監督と脚本の交代が必須-

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