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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 配給会社:SDP

『 レッドシューズ 』 -演出と脚本に課題あり-

Posted on 2023年2月26日 by cool-jupiter

レッドシューズ 35点
2023年2月25日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:朝比奈彩 市原隼人 佐々木希
監督:雑賀俊朗

Jovianはボクシングファンである。これまでにYouTubeやDVD交換なども含めて何千試合と観てきたし、BoxRecの修正もちょっとだけしたこともある。そんなマニアの目からすると、本作はボクシング的リアリティが欠落していると言わざるを得ない。

 

あらすじ

真名美(朝比奈彩)はシングルマザーのボクサー。収入が安定しないことから、娘の親権を義母と争う事態に。そんな中、正義感から同僚をかばった真名美は、職場を解雇されてしまう。新たに介護施設で働き始めるも、そこでも理不尽な入所者がおり・・・

ポジティブ・サイド

冒頭シーンにはハッとさせられた。ボクシングは足でやる、とはジムなどでよく言われることだが、足さばきだけを見せるシーンは日本のボクシング映画では斬新。これは期待してよさそうだ。

 

シングルマザーの社会的・経済的な陥穽をよくよく描けている。20年前から、日本というのは一度すべり落ちてしまうとセーフティネットに引っかからない社会になっているが、真名美もその一例になっている。

 

その真名美を演じた朝比奈彩は、『 100円の恋 』や『 ケイコ 目を澄ませて 』に続く新たな女性ボクサー像を生み出した。鏡の前で愚直にワン・ツーを繰り出すシーンでは、背骨を軸にした体の使い方ができていた。『 ボックス! 』の市原隼人がトレーナー兼会長として存在感を放っていた。漫画『 リクドウ 』を映画化するなら、所沢京介を市原に演じてほしい。

ネガティブ・サイド

大きな弱点が2つ。1つはストーリー上の破綻。何故に弁護士の親友がいて、親権についてだけ相談しているのか。弁当屋を理不尽に解雇されたことや、介護施設でのセクハラ被害や恫喝被害、それに傷害容疑についても普通に正当防衛を主張すべきだし、それが認められる可能性も高い。相手は前科(という言葉は不適当だが)多数で、杖を振りかざす、暴言を吐く、体を触る、かつ目撃者多数、被害者が複数なら正当防衛成立やで。別に顔面にパンチ入れたわけでもないし。セクハラジジイが警察に通報したとしても、真名美がすべきは弁護士の親友を呼ぶことだし、施設がすべきも警察に事象を正確に伝えることだった。いきなり留置場に入れられるのもおかしい。真名美に逃亡やら罪証隠滅やらの恐れがあるのか?韓国映画の警察ならいざ知らず、ほんまに日本の警察か?

 

他にも、えみの親権を母親の真名美と祖母の松下由樹(キャラの名前は?)が争うこと自体が疑問。そもそも祖母は「親」ではないので親権は得られない。家裁や弁護士は何やってるの?というか、祖母に一定の経済的援助をするようにアドバイスしたり、その代わりに「お祖母ちゃんと過ごす日」を一定数必ず設けるなどの離婚調停&親権争いにありがちな提案は無理なのか?松下由樹が再生医療を研究しているのも、ストーリーに直接影響を与えていない。そこは目をつぶるとしても、半年で論文を書き上げて大学院に進んだというのは、???だ。そりゃ子育てしながらの論文執筆はさぞしんどかっただろうと察するが、そこは学部レベル。本当にしんどいのは修士や博士課程では?

 

もう1つの弱点はボクシングそのもの。監督は少しでもボクシングを観戦したのかな?ボクシング界を少しでもリサーチしたのかな?最初の真名美の試合で、真名美がホールディングを注意されるが、同時に相手選手にもキドニー・ブローの注意を与えなさいよ。右のまぶたをカットして流血してるシーンでも、カットマンの市原が薄めたアドレナリンを塗ったスティックを、傷の様子も見ずに押し当てるシーンもあったが、あんな処置は論外。血が自然に止まっているかもしれないところに、いきなり圧力かけて、それで傷が開いたらどうするの?一瞬でいいから傷に目をやれ。見ていて頭を抱えたわ。

 

6か月でチャンピオンになります宣言も同様に頭を抱えた。国内王者ならまだしも、世界王者?WBMがどういう団体かは知らないが、まあ、WBAかWBC、またはWBOに相当する団体だろう。ランク7位の真名美と売り出し中の新人の勝者が、挑戦者決定戦?そして世界王者が日本人?韓国やアフリカ、中南米勢は存在しないのか?しかも会場が東京や大阪ではなく、北九州市?真名美のどこにそんな集客力が?思いっきり野次られてたやんけ。スポンサーの安川電機様の力か?(ちなみに同社は弊社の上得意先のひとつ。いつもお世話になっております!!!)

 

ボクシングの練習も色々とおかしい。普通はミット打ちでパンチのコンビネーションやガードやブロック、ボディワークやフットワークの形を作る。しかし、ミットの位置と実際の人体の弱点の位置は必ずしも一致しない。そこをスパーリングで実際の人間を相手にすることで微調整する。ところが真名美のやっているトレーニングはこれの反対。スパーしてからミット打ち。セオリー無視も甚だしい。

 

肝心のチャンピオンに挑む試合前にも、トレーナーの市原は左右のスイッチからの左アッパーを提唱。いや、右こぶしを痛めているのだから、別にその戦術は否定しないが、アッパーをぶち込める間合いを作る下準備はないんかな。ビデオを見ると、グイグイ前に出てくるタイプで、フライ級としては標準的な身長と体格。一方の真名美はフライ級とは思えない長身とリーチ。だったら、出てくる相手を止めるために

1.ジャブで止める
2.ワン・ツーで止める
3.カウンターで止める

などのセオリーをまずは叩き込むべきでは。真名美も自分で自分の長所にフットワークを挙げておきながら、試合中に自分でコーナーを背負ったりする。モハメド・アリやパーネル・ウィテカーが戦術的にロープを背負って、ロープ・ア・ドープをすることはあったが、自分からコーナーを背負うのは自殺行為やで。それに敗戦明けの最初のロードワークの走りは、とてもアスリートのそれには見えなかった。その他のボクシング映画は現役あるいは元プロやボクシング経験者が製作に携わっているが、本作のクレジットを見る限り、北九州のジムの名前くらいしか出てこなかった。アドバイザーは絶対に必要だったと思われる。

 

その他にも、セクハラを断罪するような前半と打って変わって、中盤以降の市原の距離の近さと身体接触の多さは、ちょっとトレーナーとトレーニーを超えている。連打連打でグロッキーになってリングに倒れて息も絶え絶えになっている真名美に向かって「気持ちいいだろ」と言い放つのは雑賀監督の欲望の発露か。これじゃあ、介護施設のセクハラジジイと一緒やないか。本当に気持ち悪い演出だった。

 

その他にも未就学児童のえみが簡単に外に出て、あちこち行けてしまうのは何なのか。船にまで乗っていたが、検札はしないのか。船着き場で普通に迷子のアナウンスをしたり、場合によっては警察に通報しなければおかしい。ボクシング会場でもリングサイドにまで行けるというのは、映画的には必要だろうが、現実にはまったく考えられない。

 

終わり方も拍子抜け。結局問題は何一つ解決しないまま、お涙頂戴で幕となる。生活とボクシング、そのどちらも追求できないまま終わるのは、脚本家の力不足と断じるしかない。

 

総評

ボクシング映画というのはハズレが少ないジャンル。女性ボクサーものとなると尚更だ。しかし、残念ながら本作は明確にハズレである。実力のあるキャストが精一杯演じてはいるが、監督の演出が悪く、脚本の質も悪いため、物語そのものの面白さが感じられない。キャストのファンなら観賞はありかもしれないが、ボクシングというスポーツあるいは映画ジャンルのファンにはお勧めしない。チケットの購入は自己責任でどうぞ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

single mother

日本語と同じで、シングルマザーは single mother と言う。というか、日本語が英語と同じか。ポリコレ的な配慮から、single parent という呼称の方がよく使われる。知っておくべき表現の一つ。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エゴイスト 』
『 銀平町シネマブルース 』
『 シャイロックの子供たち 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, スポーツ, ヒューマンドラマ, ボクシング, 佐々木希, 市原隼人, 日本, 朝比奈彩, 監督:雑賀俊朗, 配給会社:SDPLeave a Comment on 『 レッドシューズ 』 -演出と脚本に課題あり-

『 N号棟 』 -国内クソ映画・オブ・ザ・イヤー候補-

Posted on 2022年4月30日 by cool-jupiter

N号棟 10点
2022年4月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:萩原みのり 筒井真理子
監督:後藤庸介

超絶駄作である。ジャパネスク・ホラーは夜明け前どころか丑三つ時にすらなっていないのではないか。『 成れの果て 』の萩原みのりを目当てにしていたが、チケット購入ではなくポイント鑑賞。その判断は正しかった。

 

あらすじ

死恐怖症を抱える女子大生の史織(萩原みのり)は、元カレが卒業制作のロケハンのために廃団地に行くというので、強引について行く。団地の敷地に入るも、そこには住人が住んでいた。史織が「入居希望者です」と言うと、管理人らは親切に団地を案内してくれるが・・・

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

安楽死あるいは尊厳死の是非に対する一つの回答を呈示した点だけは評価できる。もう一つだけ評価するのは、萩原みのりの cleavage ぐらいか(Silly me! = アホな俺)。

ネガティブ・サイド

冒頭から『 ポルターガイスト 』へのオマージュと思しき真夜中のテレビの砂嵐画面だが、ちょっと待て。アナログ放送は2011年に終了している。だったら本作はGoogle Earthリリース(2005年)よりも後で、2011年よりも前?いや、スマホでGoogle Earthを使って、地方の一地点にピンを貼って、しかも人間の顔が見えるほどの高解像度の画像が得られるようになったのは震災後、2015年だとか、そのへんだったはず。冒頭の時点から「いつの時代だ、これは?」と思い、物語に入っていけなかった。

 

肝心の団地も全然怖くない。二番煎じと言われようと『 呪怨 』のようなコテコテのホラーっぽさが必要だった。親切そうな団地の面々が態度を豹変させるのも中途半端。地方の人間が突然に不機嫌になる、あるいはよそよそしくなる様については、後藤庸介監督は横溝正史を読むなどして勉強した方がいい。

 

団地の幽霊(?)も、これまた怖くない。ジャンプ・スケアにありがちなびっくりさせる効果音を多用しなかったが、それがあっても怖くなかっただろうし、あってもやはり怖くなかっただろう。というのも、すべてがテンプレ通りというか、ここでこうなりそうだ、という予感が全部的中するから。別に自画自賛しているわけではない。ちょっと映画を観慣れた人なら、次の展開、次の演出を容易に想像できるだろう。これで怖がれというのは無理がある。

 

無理があるのは団地の仕組み(?)も同様だ。謎の投身自殺はそれはそれで不気味だが、なぜ肝心の死体にクローズアップしない?なぜ肝心の死体を映さない?この人は死んだ、間違いなく死んだという印象を観る側に焼き付けるショットや演出がないために、その後の展開に驚きや戸惑いが生まれない。また、ことあるごとにカメラを回させる史織だが、役立たずの元カレが死体を撮影しないために、史織がタナトフォビアであるがネクロフォビアではない、むしろネクロフィリア的な気質が備わっているという重要な事実を描写する機会を逸している。脚本上の致命的なミスだろう。この描写が欠けているせいで、その後の史織の活劇がすべてギャグに見えてしまう。

 

白日の下でのランチや謎の踊りは明らかに『 ミッドサマー 』へのオマージュだろうが、完全に空回りしている。やるなら徹底的に白い太陽に映える白い装束、そして一糸乱れぬ踊りが名状しがたい不安感を呼び起こす。そんなシーンを模索すべきだった。それに『 ミッドサマー 』へのオマージュなら

1)死体の損壊

2)セックスシーン

この2つの方が本作には合っていたはずだ。1)については、せっかくそれらしいシーンがあったのに何もかもが中途半端(「俺だって、こんなことやりたくねー」の男はその後どうなったのだ?)。2)は、それこそ団地に泊まる羽目になった史織と元カレが、怪奇現象からの現実逃避のために肉欲に溺れるという絶好のサブプロットが追求できたはずなのに、あっさりとそれもパス。がっかりである。

 

一番意味不明なのは、死者が蘇ってくる前に、団地の住民全体でヒステリーを起こすところ。なんか意味あるの?シュールすぎて怖くないし、かといって笑えるでもない。まったくもって意味不明。この絵が恐怖を喚起すると思っていたのなら、後藤監督は金輪際ホラーには手を出さない方がいい。だいたい幽霊も、物を落としたり窓を開けたりはしても、直接危害を加えてくることがゼロなのだから、怖がりたくても怖がれない。というか、筒井真理子の恋人役の霊(?)と肉体、あれはどういう関係?死体の処理は?意味わからん・・・

 

幽霊と暮らしているから死は怖くないという理論は理解できなくもないが、それは史織の抱えるタナトフォビアの解決にはならないだろう。それこそ『 シックス・センス 』のような、「実はもう死んでました」路線で行くべきではなかったか。または『 カメラを止めるな! 』のように、ある時点までの展開はすべて映像作品でした、この映像を使って、観た人を団地におびき寄せます・・・のようなプロットは模索できなかったか。「自分ならここはああする、あそこはこうする」と必死に考えることでしか眠気と格闘できなかった。それぐらい酷い作品である。

 

総評

こんなクソ作品に時間もカネも費やすべきではない。言葉は悪いが、ダメな監督がダメな脚本を映画にしたとしか言えない。2022年に関しては『 大怪獣のあとしまつ 』という couldn’t be any worse な作品が存在するのが救いだが、そうでなければクソ映画オブ・ザ・イヤーの最右翼である。予告で流れてきた『 “それ”がいる森 』は、果たして本作を上回るか、下回るか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Sorry, no lessons. This was such an awful movie that I need to forget it as soon as possible.

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, F Rank, ホラー, 日本, 監督:後藤庸介, 筒井真理子, 萩原みのり, 配給会社:SDPLeave a Comment on 『 N号棟 』 -国内クソ映画・オブ・ザ・イヤー候補-

『 成れの果て 』 -私的年間ベスト級映画-

Posted on 2022年1月3日 by cool-jupiter

成れの果て 80点
2021年1月1日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:萩原みのり 柊瑠美 木口健太
監督:宮岡太郎

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新年の劇場鑑賞第一号。TOHOシネマズ梅田や大阪ステーションシティシネマあたりは、野放図な若者がちらほらいたりして、小康状態のコロナの再燃が懸念される。梅田茶屋町も若者だらけで妻がなかなか首を縦に振ってくれないが、元日なら店も開いていない=若者が少ないということで、テアトル梅田へ。

 

あらすじ

小夜(萩原みのり)は姉あすみ(柊瑠美)から「結婚を考えている」という電話を受ける。しかし、その相手は小夜にとってどうしても許せない相手、布施野(木口健太)だった。帰郷した小夜は、周囲の人間関係に波紋を呼び起こしていき・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220103234559j:plain

ポジティブ・サイド

観終わってすぐの感想は「迎春の気分が一気に吹っ飛んだなあ」というものだった。とにかく、観る側の心に重い澱を残す作品であることは間違いない。予定調和なハッピーエンドを望む向きには絶対にお勧めできない作品である。しかし、この作品がミニシアターではなく大手シネコンなどを含め全国200館以上で公開されるようになれば、それは日本の映画ファンが韓国化したと言っていいだろう。それが良い変化なのか悪い変化なのかは分からない。

 

だだっ広い部屋の真ん中でプリンを食べるあすみをロングで撮り続けるファーストショットからして不穏な空気が充満していることを感じさせる。「誰か死んだ?」と問いかけてくる小夜にも心臓がドキリとする。「お姉ちゃん、そういうことでしか電話してこないし」というセリフから、この姉妹の一筋縄ではいかない関係性が垣間見える。

 

小夜と布施野の因縁が何であるかはすぐに見当がつく。問題は、その事件が狭いコミュニティ内であまねく知れ渡っていること。これは本当にそうで、田舎の情報伝播速度と情報保存の正確さは都市のそれとは比較にならない。本作はそうした村社会の怖さを間接的にではあるが存分に描き出してもいる。

 

それにしても主演の萩原みのりの鬼気迫る演技は大したものだ。なかなか解釈が難しい役だが、それを上手く消化し、自分のものにして描出できていたように思う。特に過去の自分を知る人間たちと再会した時に見せる相手を射抜くような視線の強さには感じ入った。ネガティブな意味での眼光炯々とでも言おうか、相手を刺すような目の力があった。『 佐々木、イン、マイマイン 』でもそうだったが、萩原みのりは陰のある女性、毒を秘めた女性という役が上手い。

 

本作は極めて少人数の登場人物かつ短い上映時間ながら、その人間関係はとてつもなく濃密である。それは役者一人一人の役柄の解釈が的確で、演技力も高いからだ。原作が小説や漫画ではなく舞台であることも影響しているのだろう。臨場感を第一義にする舞台演劇の緊張感が、スクリーン上でそのまま再現されているように感じた。人物のいずれもがダークサイドを抱えていて、それがまた人間ドラマをさらに濃くしていく。狭いコミュニティ内の閉塞感から脱出しようとする者、そこに敢えて安住しようという者が入り混じる中、東京からやってきた小夜とその友人の野本が絶妙な触媒になっていく。

 

この野本という男、ガタイも良く、顔面もいかつい。一種の暴力装置として小夜に随伴してきているのだが、本業はメイクアップアーティストで、しかもゲイという、political correctness を意識したキャラなのかと思ったが、これは大いなる勘違い。小夜が布施野に仕掛けた罠のシーンでJovianは『 デッドプール 』の ”Calendar Girl” のワンシーンを思い浮かべた。これはすこぶる効果的なリベンジで、『 息もできない 』の主人公サンフンが「殴られないと痛みは分からない」というようなことを言いながら、相手をボコボコに殴るシーンがあったが、結局はそういうことなのかもしれない。

 

邦画が韓国映画に決定的に負けていると感じさせられるものに演技力がある。特に、女性が半狂乱を通り越して全狂乱になる演技の迫真性で、日本は韓国にまったく敵わない。しかし、本作の女性の発狂シーンの迫力は韓国女優に優るものがある。「士は己を知る者のために死し、女は己を説ぶ者の為に容づくる」と言われるが、化粧の下にある女性の本性をこれほどまでに恐ろしい形で提示した作品は近年では思いつかない。最終盤のこのシーンだけでもチケットの代価としては充分以上である。

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ネガティブ・サイド

マー君というキャラが学校に居場所を作った方法というのに、少々説得力が足りない。あれこれ事件のことを吹聴したとしても、そんなものは一過性のブームのようなもの。そこからスクールカーストの最下層から脱出したとしても、ブームが終わればすぐに最下層民に転落しそうに思える。

またあすみの同居人である婚活アプリ女子も、金欲しさに家屋の権利書を持ち出そうとするが、それで家や土地を金に換えられるわけがない。なぜ通帳やキャッシュカードではなかったのだろうか。

 

総評

大傑作であると断言する。『 カメラを止めるな! 』がそうだったように、まっとうなクリエイターが、自身のビジョンを忠実に再現すべく、信頼できるスタッフや役者と共に作り上げた作品であることが伝わってくる。予定調和を許さない展開に、容赦のない人間の業への眼差し。日本アカデミー賞がノミネートすべきはこのような作品であるべきだ。良いヒューマンドラマは人間の温かみだけではなく、人間の醜さも明らかにする。その意味で、本作は紛れもなく上質なヒューマンドラマである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pick out

劇中でとあるキャラクターが「それを私がピックアップして~」などと語って、観る側をとことんイラつかせるシーンがある。ピックアップはある意味で和製英語で、「抜き取る」、「選び出す」などの意味で使われているが、英語の pick up にそのような意味はない。そうした意味を持つのは pick out である。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 木口健太, 柊瑠美, 監督:宮岡太郎, 萩原みのり, 配給会社:SDPLeave a Comment on 『 成れの果て 』 -私的年間ベスト級映画-

『 鬼ガール!! 』 -大阪人、観るべし-

Posted on 2020年10月19日2022年9月16日 by cool-jupiter

鬼ガール!! 80点
2020年10月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:井頭愛海 板垣瑞生 上村海成 桜田ひより
監督:瀧川元気

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2019年の夏ごろに関西ローカルのテレビ番組で撮影終了が報じられていたのをたまたま目にした。それ以来、ずっと気になっていた作品。映画館が『 鬼滅の刃 』を観に訪れる人でごった返す中、「鬼は鬼でも、俺は『 鬼ガール!! 』を選ぶぜッ!!」とばかりに意気揚々とチケットを購入。自分の勘は間違ってはいなかった。穴ぼこだらけのストーリーだが、それらを吹っ飛ばすパワーを本作は秘めている。

 

あらすじ

鬼と人間の間に生まれた鬼瓦ももか(井頭愛海)は、高校デビューを目論むもあえなく失敗。しかし、ひょんなことから幻と呼ばれた「桃連鎖」の脚本を見つけ、その映画製作に携わることになった・・・

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ポジティブ・サイド

大阪人の役は大阪人が演じるのが一番いい。『 君が世界のはじまり 』の松本穂香がネイティブ関西人だったように、こてこての大阪人である井頭愛海が演じるももかの大阪弁は、当たり前ではあるが見事だった。

 

冒頭で、ももかの父を演じた山口智充のこぶとりじいさんネタ、そして末成由美の「ごめんやしておくれやしてごめんやっしゃー」、これだけで鬼の実在する世界と大阪のお笑い空間の両方に同時に入り込めた。この掴みは素晴らしい。関西人なら一発で世界観を理解できる。

 

本作は映画を作ろうとする人々についての映画である。こう表現すると上田慎一郎的に思えるが、本作監督の瀧川元気もこれが長編デビュー作。新人監督らしいストレートな欲求と、新人らしからぬ緻密な計算の両方を詰め込んでいる点も上田慎一郎的である。

 

ストーリーは単純明快。鬼であることを隠しながら、輝く青春時代を送りたいと願う女子高生の物語である。そこに友情と恋愛、そして家族愛が織り込まれている。本作で描かれる鬼とは何か。Jovianは岡山にそれなりに縁があるので、桃太郎の物語の原型をよく知っている。鬼とはつまり異人、つまり異能・異才の人であり、外国人である。興味のある向きは「吉備津彦と温羅」でググってほしい。または、「鬼ドン」に使われたオブジェを街中で探してみよう。大阪にはとあるプロ野球チームのファンが多いから、すぐにそれを見つけられるだろう。そして、そのプロ野球チームの名前、それが指す動物が何であるのか、どこから来たのか、何を象徴しているのかを考えてみよう。いやはや、何とも文化的・社会的な含蓄に富んだ作品を送り出してくるではないか。

 

高校デビューに盛大に失敗したももかだが、ふとしたことから映画部で映画を作ろうとするイケメン神宮寺にオーディションに誘われたところから、数奇な運命の糸車が回り始める。板垣瑞生演じる蒼月蓮とあれよあれよという間に映画を作る流れになるが、監督は早く映画作りを撮りたくて、我々はな役映画作りのシーンを観たくて、多少のシーンのつながりの粗さやキャラクターの深掘りなどには目をつぶって、一気に撮影の手前まで進んでいく。ももかの妹や弟の習い事や父母のバックグラウンドが映画製作に結びついていく流れも、強引ではあるが、納得できる作り。桃太郎的なノリで仲間を集めていくのは、まさに大阪ならでは。

 

終盤の展開は、まさにシネマティック。何故「桃連鎖」が幻の作品となったのか。そして現代においても、何故普通の映画祭では「実現の可能性が低い」として落選させられたのか。このあたりの謎を最後まで引っ張りながら、クライマックスで一気に爆発させる手法は、新人監督らしい一点突破だ。自らの失策もあり旬は過ぎてしまったが、まさに大阪の顔という人物が登場するのは、全国的にもかなりのインパクトだろう。映画と現実がシンクロし、鬼と人間の思いが交錯する最後の瞬間に訪れる謎の感動は、まさに筆舌に尽くしがたいものがある。

 

エンドクレジット終了後にオマケが入るので、席は最後まで立たないように。

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ネガティブ・サイド

ももかが蓮に感じていた過去のトラウマとも言うべき因縁を、あまりにもあっさり乗り越えるところが気になった。いじめ、差別、迫害。これらはした側は忘れていても、された側は覚えているものである。ももかの感性を揺さぶる、あるいは蓮というキャラクターの見方を大きく変えるような契機となる演出が欲しかった。

 

主役級の中では桜田ひよりの大阪弁がダメダメである。売り出し中の今だからこそ、もっと役作りに精進すべきだと言っておく。

 

ももかの父親と蓮の父親が同級生で、「桃連鎖」を製作しようとしていたのはいい。だが、せっかく再会と(映画作りの)再開を祝して二人で飲んでいる時に、もう少し「桃連鎖」に関するトークがあっても良かったのではないか。

 

南海電車の色・・・にツッコミは野暮というものか。海側を走る電車が、たまには山側を走っても良いではないか。

 

総評

はっきり言って、細かい粗はめちゃくちゃたくさんある作品である。だが、本作の描く青春の在り方、家族の在り方、友情の在り方、恋愛の在り方は、自分と異質な人間とどう向き合うのか、どう付き合っていくのか、またはどう戦っていくのかについて大いなる示唆を与えている。比較的稚拙なカメラワークも「高校生が自主製作映画を作っている」ように見せるための狙った演出なのだろう。マイナス面すらもプラス面に感じさせてしまう謎のパワーが本作にはある。そのパワーが何であるのかは劇場で体感してほしい。関西人、特に南大阪人は必見であろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

leave someone alone

~を一人にしておく、の意味。パパラッチに追い掛け回された故ダイアナ妃の最期の言葉が“Leave me alone.”だったと言われている。劇中でとあるキャラクターが「一人にしてくれ」と言ったと思しきシーンがあるが、誰でもそう感じてしまう瞬間というのはある。既婚男性なら妻に“Could you leave me alone for a while, please?”と言いたくなることも年に一度はあるだろう。周囲の人に構ってほしくないという時に使ってみよう。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, コメディ, 上村海成, 井頭愛海, 日本, 板垣瑞生, 桜田ひより, 監督:瀧川元気, 配給会社:SDPLeave a Comment on 『 鬼ガール!! 』 -大阪人、観るべし-

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