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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 監督:李闘士男

『 私はいったい、何と闘っているのか 』 -男の独り相撲の見事な映像化-

Posted on 2021年12月27日 by cool-jupiter

私はいったい、何と闘っているのか 70点
2021年12月25日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:安田顕 小池栄子
監督:李闘士男

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『 家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。 』と同じ監督、脚本、主演の本作。男という哀れな生き物の脳内を見事に描き出すとともに、言葉そのままの意味で「男らしい男」の生き様を描き出してもいる。

 

あらすじ

伊澤春男(安田顕)、45歳。スーパーの主任として奮闘しつつ、店長への昇格の野心も持つ、良き家庭人。が、やることなすことがどうにも上手く行かないと思えてしまう。そんな中、降ってわいたように春男に店長就任の機会が舞い込んでくるものの・・・

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ポジティブ・サイド

単なる個人の印象だが、日本にはこの井澤春男に自己同一化してしまう男性が200万人はいるのではないか。そんな気がしてならない。35歳から50歳ぐらいの各年齢が100万人、その半分が男性とすれば50万人。35~50の年齢層では50万人×16=800万人。そのうちの4分の1ぐらいは春男に共感するだろうとの概算である。

 

仕事にも一生懸命で結婚もしている、子どももいるし、子育てにも参画している。こうした、いわゆる現役世代の鬱屈、煩悶、野望などの様々な心情が、安田顕によって見事に表出されている。これはキャスティングの勝利だろう。オダギリジョーや滝藤賢一といった同世代の俳優には出せない味がしっかりと出ている。脳内独り相撲を安田顕の高度な一人芝居に昇華させられなかった演出が悔やまれる。

 

仕事も家庭もそれなりに順風満帆のはずなのに、ほんのちょっとしたトラブルやボタンの掛け違いが、思いもよらぬ結果になってしまうことは誰にでもある。春男はそんな我々小市民の具現化で、まさに40代男性あるあるのオンパレードである。年頃の娘たちに小少々邪険にされつつも、しっかりと尊敬されており、末っ子の息子には「パパは僕に似たんだな」としっかりと愛されている。また小池栄子演じる妻が良い味を出している。料理に掃除に洗濯に子育てにと、あまりに良妻賢母である。Political correctness の観点からすれば大いに断罪されそうな家庭像だが、そうさせない秘訣は春男のヘタレっぷりと男っぷりにある。どういう意味か分からないという人はぜひ鑑賞されたし。

 

娘のボーイフレンドが家にやって来るところは、まさに春男という「ダメ男」かつ「男の中の男」の面目躍如。Jovianには子どもはいないが、それでも春男の心が手に取るように分かった。相手の男の応対も満点やね。Jovianはあんなに堂々と「娘さんをください」とは言えなかった。

 

仕事でやらかして謹慎を食らったところからの家族旅行が本作のクライマックス。平々凡々な小市民な春男にほんのちょっとした奇跡が起こる。春男の精一杯の意地とプライドが静かに炸裂するシーンは必見である。

 

本作を観たら、きっとカツカレーを食べたくなることだろう。もしもそう感じることがあるなら、それは安心できる逃げ場所が必要だから。赤ちょうちんでもカレー屋でもいいじゃないか。愛する家族が待つ家にまっすぐ帰れない夜もある。そんな男の哀愁を受け止めてくれる妻がいる。それだけで春男は果報者。春男のように頑張ろう。そう思わせてくれる良作だった。

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ネガティブ・サイド

春男の独り相撲っぷりがくどいし長い。『 私をくいとめて 』では脳内のAと自分が別人として語り合っていたし、『 脳内ポイズンベリー 』では、それこそ人格たちの丁々発止のやりとりがダイレクトに笑いにつながった。また『 勝手にふるえてろ 』は脳内ファンタジーが見事に現実を侵食していた。これらの先行作品に比べると、春男の独り相撲っぷりが少々弱い。というか、これでは脳内一人ノリツッコミで、最初こそ共感できるが、だんだんと飽きてくる。重要なのは最初の10分で春男というキャラの脳内を存分に観る側に刻み付けること。それに成功すれば、あとは安田顕の表情、所作、立ち居振る舞いからオッサン連中は勝手に春男の一人ノリツッコミを脳内補完する。製作側はオッサン以外の観客を意識したのだろうが、そこはもっと観る側を信頼すべきだし、観客ペルソナとしても最上位に来るオッサンにぶっ刺さる作りにすべきだった。

 

開始早々に退場する上田店長の扱いがどうにも軽い。春男が「この人のためなら」と思える人物である一方、スーパーウメヤの他のスタッフが春男の昇進を前祝いする流れはどうかと感じた。

 

井澤家の因果についてはもう少し伏線を遅めに、あるいは控え目にすべきだった。I坂K太郎を読む人なら、開始5分で「ああ、そういうお話ね」とピンと来たはずである。

 

総評

ほぼ安田顕の独擅場である。『 君が君で君だ 』は極端な例だが、男なんつー生き物は脳内の80%は自意識と妄想でできている。そんな夫を助ける小池栄子はグラビアアイドルから女優に見事に変身したと言える。『 喜劇 愛妻物語 』の夫はぐうたらのダメ人間で、共感できる人間を選ぶキャラだったが、こちらの春男は男の良いところ、男のダメなところの両方を見事に血肉化している。30~50代の夫婦で鑑賞してほしいと思うし、あるいは大学生のデートムービーにも良いかもしれない。世の父ちゃんたちは、ああやって闘ってカネを稼いでいるのだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Go ahead.

「はい、どうぞ」の意。相手に何かを差し出す時には ”Here you are.” と言うが、相手に何らかの行動を促したい、あるいは相手から何らかの行動の許可を求められた時に使う表現。しばしば “Sure, go ahead.” のように使われる。相手が何を言っているのかよくよく理解してから使いたい表現である。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 安田顕, 小池栄子, 日本, 監督:李闘士男, 配給会社:日活, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 私はいったい、何と闘っているのか 』 -男の独り相撲の見事な映像化-

『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』 ―独身はパートナーと、既婚者は配偶者と観るべし―

Posted on 2018年7月1日2020年2月13日 by cool-jupiter

家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。 65点

2018年6月28日 梅田ブルク7にて観賞
出演:榮倉奈々 安田顕 大谷亮平 野々すみ花
監督:李闘士男

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『 電車男 』と同じく、ネットの投稿が起源という珍しい作品である。しかし、数年後にはそれほど珍しくなくなっているのではないか、ということも予感させる。

最近の俳優や女優は誰もが若々しさをキープしているが、榮倉奈々もその一人である。しかし、それは若々しさであって若さではない。そのことは、ほんのちょっとした料理の時の仕草などにも表れていた。本人の結婚がキャリアに良い作用を及ぼしている好例である。そして、安田顕である。『HK 変態仮面』で、ある意味で鈴木亮平以上のインパクトを残した安田である。疲れを見せてはいるものの草臥れきってはいない中年サラリーマン役をこれ以上ないほど好演してくれた。サラリーマンなどという存在は、酒でも飲まなければ生き生きできないのだ。

家に帰って来ると、妻(加賀美ちえ)が死んだふりをしている。それがどんどんエスカレートする。仕舞いには死体ですらなく、宇宙人、猫、スフィンクスなど、なんでもござれである。夫(加賀美じゅん)はその真意を測りかね、会社の後輩の佐野壮馬(大谷亮平)に相談する。そうした日々が続いて行くなか、夫婦同士の付き合いが始まり、結婚という制度の本質、男女の理解について、理解と誤解が生じては消えて・・・

劇中でJovianに最も刺さったのは、課長の「お前はお見合い結婚じゃなくて恋愛結婚だろ?だったら、合わないなら別れりゃいいだろ」という言葉である。日本社会全体の未婚化・晩婚化の原因の一つに、お見合いの減退が挙げられるのは間違いない。お見合いとは、小説家にして在野の異端の歴史家、八切止夫に言わせれば「家格と家格の取り組み」であった。昭和の中期ごろまでは、地方に行けば、結婚の許可は両親・親族だけではなく、学校の恩師や勤め先の上司にまで相談や報告が必要だったというから、その濃密すぎる血縁関係、地縁関係、ゲマインシャフトとしての学校や会社の側面が知れよう。対照的に、確か日本文学史においても「恋愛?それは美男美女がやるもの」みたいな観念が支配的だったはずである。そもそも恋愛という語も、英語のloveを翻訳する必要に駆られて生み出されたものだった。このloveの概念をどう捉えるのか。同じシーンで課長が決定的に意味不明な台詞を吐くのだが、課長の謎の論理展開とloveの関連を、観ている最中によくよく咀嚼してみてほしい。

「優しい言葉は人を傷つける」、これが本作の打ち出しているテーマの一つである。何も珍しいことはない。人間関係においては、自分の意図しないところで誰かが傷つき、誰かの意図しないところで自分が傷つくこともある。だから言葉が信用ならない、というわけではない。劇中でも安田顕と大谷亮平がそろって「口に出してくれなきゃ分からないよ」と言うが、これなどは典型的な日本の夫であろう。誤解しないでほしい。Jovianが言っているのは、日本の夫は共感力に欠けるということではない。言葉という論理で動くものではあるが、決してそれに縛られる存在ではないのだ。劇中のクライマックスで、かなりの数の男性視聴者が課長とちえの父の言葉を思い浮かべるであろう。

ちえが死んだふりを繰り返すのは何故か。そもそも何故、死んだふりなのか。この映画を観ながら、あちらこちらに死のモチーフが挿入されていることに驚かされる。しかし、それは不吉な事柄としての死ではなく、必然的な事象としての死である。Jovianは唐突に大昔プレーした『クロノ・トリガー』というゲームを思い出した。とあるキャラクターが「お前達 生きていない 死んでいないだけ」と言うのだ。次の瞬間には『ファイナルファンタジー9』でビビが「生きてるってこと証明できなければ死んでしまっているのと同じなのかなぁ…」と呟くシーンが、十数年ぶりに脳内再生されたような気がした。生きるとは何か。夫婦であるとは何か。愛とは何か。自分ひとりで観賞してじっくり考察するもよし、パートナーと共に観て、ディスカッションをするのも良いだろう。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, ヒューマンドラマ, 安田顕, 日本, 榮倉奈々, 監督:李闘士男, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』 ―独身はパートナーと、既婚者は配偶者と観るべし―

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