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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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タグ: 監督:カイル・ラウドアウト

『 リアム16歳、はじめての学校 』 -親離れと子離れと-

Posted on 2020年7月30日 by cool-jupiter

リアム16歳、はじめての学校 60点
2020年7月28日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ダニエル・ドエニー ジュディ・グリア シボーン・ウィリアムズ
監督:カイル・ライドアウト

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200730205415j:plain
 

シネ・リーブル梅田で去年(2019年)に見逃した作品。カナダの映画というのは、アメリカ映画とは違って、外部の日常生活に劇的な変化が起きるというプロットよりも、キャラクターの内面の変化やキャラ同士の関係性の変化を丹念に追うプロットが多い気がする。そういう意味では本作は典型的なカナダ映画である。

 

あらすじ

リアム(ダニエル・ドエニー)は物理学を愛する16歳。学校には行かず、ホームスクーリングで育った。ケンブリッジ大学に入学して天文学者になるという目標は、しかし、高卒認定試験を受けるために訪れた公立高校で変更となる。彼はそこで義足の少女アナスタシア(シボーン・ウィリアムズ)に恋をしてしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

どことなく『 ミーン・ガールズ 』に似ている。大自然の中で育った少女が、高校という独自の生態系でも食物連鎖の上位者となっていく過程が面白かった。本作の主人公のリアムは逆で、自宅で温室栽培されていた。にもかかわらず、男子のダメなところをしっかりと学校で体現してしまう。リアムがアナスタシアの行動パターンを掴み、何度も何度も偶然を装って廊下ですれ違うシーンに共感する、あるいは自らの(情けない)過去を思い出す男性は多いに違いない。アナスタシアに恋焦がれながらも、アプローチができない。行動が小学生レベルなのだ。リアムの行動にもどかしさを覚えながらも共感してしまうという絶妙な仕掛けである。

 

何がユニークで面白いかと言えば、リアムがマリア・サンチェスという優等生の代わりになるというところ。普通におかしい展開なのに、あれよあれよという間にリアムがマリアとして学校に受け入れられるのには笑ってしまう。

 

母親とリアムの関係も多少の毒を孕みながらも真に迫っている。『 母が亡くなった時、僕は遺骨を食べたいと思った。 』でも存分に描かれていたが、男というのはどこまで行っても本質的にはマザコンである。息子と母親の距離感にも共感することしきりである。これはリアムの初恋を描くと同時に母親からの旅立ち、そして母親への回帰、そして更なる自立への一歩を描く物語だからである。

 

シングルマザーとして過剰なまでにリアムの教育に注力する母親クレアもなかなかの味わいだ。夫、つまりリアムの父親との離婚については詳しく触れられないが、その部分にドラマを求めなかったのは正解である。リアムは極めて共感しやすいキャラクターであるが、自分と同一視してしまうという人はあまりいないはず。それはリアムと母クレアの関係の近さと強さが普通ではないからだ。お祖母ちゃんが常にそこに鎮座ましましているが、この祖母の距離と視点が我々ビューワーの距離と視点だ。実際にクレアが自宅の黒板にリアム教育プロジェクトのマイルストーンを一つ一つ書き出し、そして達成の暁には一つ一つ消していく。クレア視点ではなく第三者視点でそれが描写される。息子に「どうせ学校で覚えるのだから」とマリファナを吸わせたり、パーティーでの酔い方を積極的に学ばせようとしたりするなど、この母親への共感のしづらさがリアムへの共感のしやすさと絶妙なバランスを作り出している。

 

個人的に本作を最も面白くしているのはアナスタシアのパーソナリティだと感じる。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ 』の主人公と同じ名前というところで笑ってしまうが、最も目を引くのは義足である。なぜ義足なのか。いつから義足なのか。そうした疑問の答えをマリア・・・ではなくリアムが得るまでに、一筋縄ではいかない初恋および青春の「あるある」が待ち受けている。初恋の相手は清純な乙女だった・・・というのは多くの男が抱く幻想であろう(だからといって女性がみんな百戦錬磨の恋愛強者だと言っているわけではない)。カナダ人や西洋人全般の文化やメンタリティだろうか。『 建築学概論 』に近い展開があり、我々ならここで心が折れてしまうかもしれないが、リアムはそうはならない。カナダ制作映画『 もしも君に恋したら 』のD・ラドクリフ演じる主人公と共通するメンタリティである。アナスタシアとの距離を徐々に、しかし確実に縮めていくリアムの姿はやはり男心を疼かせる。リアムの初恋は実るのか?固唾をのんで見守ってしまうこと請け合いである。アッと驚く展開あり、運命を予感させる展開もあって、なかなかに飽きさせない作りである。

 

それにしてもカナダというのはずいぶん進んでいる国だなとあらためて感じる。2017年にカナダ旅行中に見た子供向け番組の『 Super Ruby 』は主人公が眼鏡着用・・・だけなら別に驚かないが、なんと補聴器も装用している。そして補聴器の新品をゲットするために尋ねた言語聴覚士が義手装備。この記事の『 チョコレートドーナツ 』の項をよくよく読んでいただきたい。これがほぼ同時期の日本の現実である。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200730205108j:plain

 

ネガティブ・サイド

母親クレアのキャラクターに一貫性が欠けている。息子を愛してやまないのだが、ギャグやユーモアを前面に押し出しているシーンと、そうではないシーンを対比させた時に、ギャップがあり過ぎる。普段優しい人ほど怒ると怖いという感じではなく、息子の一番の親友という役を演じているテンションのまま母親として怒る、というのがどうにもチグハグに見えてしまった。

 

校長先生がリアムの母親にアプローチする展開が蛇足であるように感じた。もしもそうしたサブプロットを追求したいのなら、チャランポランな人物に設定すべきでない。しかし、チャランポランでなければリアムがマリアにはなれない。プロットとキャラクターのパーソナリティであれば、プロットを優先すべきだ。

 

キャラのちぐはぐさやプロットとの不整合は他にもある。学校でリアムをいじめてくるキャラになんらかの因果応報があってしかるべきだと思うが、なかった。うーむ、ベタでもいいから、何かこのいじめっ子にして恋敵の男にギャフンと言わせるような展開が欲しかった。また、リアムのお祖母ちゃんは存在感あり台詞なしというキャラで、最後に見せ場があるかと期待したが、これも無し。うーむ・・・

 

総評

妥当性確認が今もって為されていない「全国一斉休校」によって、日本各地で図らずもホームスクーリングが大規模に行われた。その意味では本作は自宅学習(の狙いや難しさ)をシミュレーションできる作品である。同時に親離れと子離れのプロセスを描く一種のセミドキュメンタリー的でもある。親バカの自覚のある人、または大学進学などで子どもが家から出ていくことが不安でならないという向きにお勧めしたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

You had it coming.

「自業自得」の意である。直訳すれば「あなたがそれをやって来るようにした」である。 I had it coming. や We had it coming. など主語を変えて使うこともできる。

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, カナダ, シボーン・ウィリアムズ, ジュディ・グリア, ダニエル・ドエニー, ヒューマンドラマ, 監督:カイル・ラウドアウト, 配給会社:エスパース・サロウ, 青春Leave a Comment on 『 リアム16歳、はじめての学校 』 -親離れと子離れと-

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