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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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タグ: 監督:アーロン・ソーキン

『 シカゴ7裁判 』 -年間最優秀海外映画候補の最右翼-

Posted on 2020年10月24日2021年1月18日 by cool-jupiter
『 シカゴ7裁判 』 -年間最優秀海外映画候補の最右翼-

シカゴ7裁判 85点
2020年10月21日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:エディ・レッドメイン サシャ・バロン・コーエン ジョセフ・ゴードン=レヴィット
監督:アーロン・ソーキン

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同僚のカナダ人とイングランド人が絶賛していた本作。“You must watch it.”と言われたからには観るしかない。Don’t get your hopes up.と自分に言い聞かせながら鑑賞した。これは年間最優秀映画候補の筆頭である。それほどのインパクトを感じた。

 

あらすじ

1968年、シカゴ。平和的な反戦抗議デモの参加者が民主党大会の会場を目指していた。だが、ふとしたきっかけで警察とデモ参加者が衝突、多数の負傷者が出る。デモの首謀者として逮捕、起訴された7人の男たちは裁判にかけられた。果たして彼らは無罪を勝ち取れるのか・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201023230736j:plain
 

ポジティブ・サイド 

2020年10月に公開(Netflixだが)されるということは、普通に考えれば映画の撮影はその約1年前。つまり、Black Lives Matter運動の発生以前。1960年代の事柄なので、構想自体は10年前に既に持っていたとしておかしくないが、それでも映画化に実際に動けるのはさらに1~2年前の2017~2018年頃だろうか。この時点でアメリカや香港のような極めて大規模な民衆主導のデモが発生するだろうということ、そしてその契機が警察などの国家権力がそれを暴力で鎮圧しようとしたことであったことを予見した映画人は『 ジョーカー 』の監督トッド・フィリップス以外にはアーロン・ソーキンぐらいだったのだろう。まさに炯眼である。

 

小難しい理屈は抜きにしても、本作は娯楽映画としても一級品である。オープニングのシークエンスからして、観客を一気に映画世界に引きずり込む。ベトナム戦争や公民権運動のことなど全く知らないという人には厳しいかとも感じたが、さにあらず。ベトナム戦争に派遣される兵士の数が「そんな馬鹿な」という勢いで増加していく。しかも、その映像がどこか明るくポップで、場面の移り変わりも小気味がいい。そしてマーティン・ルーサー・キングとロバート・ケネディの死を、どこかしらコミカルな銃撃音で片づけてしまうところで、この軽妙なテンポはさらに勢いづく。エディ・レッドメイン演じるトム・ヘイデンやサシャ・バロン・コーエン演じるアビー・ホフマンが次々にセリフをつないで、「いざ鎌倉!」とばかりにシカゴを目指していく。この10分足らずのオープニング・シークエンスだけでも何回も観たい。

 

時の政権が変わって、これまでお咎めなしだったシカゴ7ともう一人の裁判が急遽開かれる。どこかの島国の政治家夫婦を思い出させるではないか。この裁判というのが、はっきり言って出来レース。それまで接点のなかった7人を、シカゴの暴動を共謀して扇動したという、まさに「共謀罪」で吊るし上げることを目的にしているからだ。この時の判事が完全なる耄碌じじいで、軽度の認知症、人種差別主義者、弱い者いじめ、夜郎自大、傲岸不遜と、なにどうやったら人間的にこれほど欠陥のある判事になれるのかという、分かりやすすぎるヴィランである。通常、法廷ものといえば『 エミリー・ローズ 』のように、ヴィランは検察官であろう。判事が明確に敵というのは、なかなか珍しい。このホフマン判事を演じたフランク・ランジェラの卓抜した演技力のおかげで、観る側は否応なくシカゴ7の面々に感情移入してしまう。そして、国家権力の志向する正義に疑念を抱き、個々人が心に秘める正義を後押ししたくなる。それこそが本作を現代に放つ意義、監督からのメッセージである。

 

それにしても本作の検察および警察のやり口の汚さには辟易させられる。コミカルな序盤に、サスペンスフルな中盤の法廷闘争。判事の横暴だけではなく、検察の仕掛ける場外乱闘に、緊張が一気に高まっていく。それによってシカゴ7+1の代理人を務めるクンスラー弁護士の人間味と正義感が際立っている。まさに市井の弁護士という感じだが、それに対峙するエリート検察のジョセフ・ゴードン=レヴィットが、冷静冷徹ではあるが冷酷ではない、国家権力を振りかざせる立場にありながら自制心を有している。この二人が証人に対して尋問を行っていくシーンの数々は法廷ものとして見ても素晴らしい出来栄え。

 

クライマックスには心震わされた。この裁判はそもそも何を争っているのか。流血沙汰の暴動を扇動したのはデモ隊なのか警察官なのか。しかし、デモはそもそも何故組織され、行われたのか。それは、ベトナム戦争というアメリカ史における汚点(と敢えて言う)、その無益な戦傷者と戦死者のためである。国権の発動たる軍事力の行使への不信、そして国権の一角である司法への不信。アメリカ近代史の事件を描いた本作であるが、それが今日、このタイミングで公開されることの意義は大きいし、日本に住まう我々にとっても大いなる衝撃を持って迫ってくる作品である。

 

ネガティブ・サイド

シカゴ7+1であったボビー・シールの物語をサブプロットに上手く組み込めなかったのかと思う。彼の所属するブラックパンサー党への関心やその歴史的解釈や再評価への機運が、映画『 ブラックパンサー 』の公開および主演のチャドウィック・ボーズマンの急逝で高まっているからである。

 

トンデモ判事のその後の歴史的評価はまったくもって思った通りだったが、ジョセフ・ゴードン=レヴィット演じたシュルツ検察官のその後についても知りたかったと思う。

 

総評

政治サスペンスとしては『 女神の見えざる手 』と並ぶ作品で、法廷闘争劇としては『 判決、ふたつの希望 』に次ぐ大傑作である。米大統領選を前にNetflixで公開されたが、『 アイリッシュマン 』の時と同じく、こうした映画を上映してくれる劇場がある。検察官に正義感や良心はあるのか。判事に公正かつ中立的な判断力はあるのか。警察は自制心を持っているのか。本作の描く歴史を他山の石とできるかどうかが日本の分かれ目である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a contingency plan

emergency=「緊急事態」はTOEIC650点レベルの人なら8~9割は知っているだろうが、contingency=「不測の事態」となると、TOEIC800点レベルだろうか。しばしば、“Always have a contingency plan.”=「常に不測の事態に備えておけ」という警句の形で使われる。原発事故後は政府や東電が「想定外」という言葉を何とかの一つ覚えのように使っていたが、アホな政治家やインフラ事業者に対するcontingency plansを我々庶民は持てないのだろうか。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アメリカ, エディ・レッドメイン, サシャ・バロン・コーエン, サスペンス, ジョセフ・ゴードン=レヴィット, 伝記, 歴史, 監督:アーロン・ソーキン, 配給会社:NetflixLeave a Comment on 『 シカゴ7裁判 』 -年間最優秀海外映画候補の最右翼-

『 モリーズ・ゲーム 』 -The fact is stranger than fiction-

Posted on 2018年5月23日2020年2月13日 by cool-jupiter

題名:モリーズ・ゲーム 75点
場所:2018年5月21日 東宝シネマズなんばにて観賞
主演:ジェシカ・チャステイン
監督:アーロン・ソーキン

今の日本で最も売れていて最もノッている40代女性の役者はおそらく吉田羊だろう。では今のアメリカで最も売れていて最もノッている40代女性の役者はおそらくジェシカ・チャステインだろう。『ツリー・オブ・ライフ』、『 ヘルプ 心がつなぐストーリー 』、『ゼロ・ダーク・サーティ』、『インターステラー』、『 女神の見えざる手 』などの傑作に貢献する一方で、『 スノーホワイト 氷の王国 』や『 オデッセイ 』といった駄作にも出演してしまった。だがしかし、映画が作品としてパッとしなくとも、チャステイン自身がパッとしなかったということはこれまで決してなかった。今後も無いであろう。

厳格な父の元、幼少の頃から勉強とモーグルに打ち込んできたが、背骨に故障。医師の助言もあり、ここでスキーをあきらめるかと思いきや、あっさり復帰。五輪代表にあと一歩というところに迫る中で不運なアクシデント。「スポーツで最悪なのは五輪で4位になること?マジで?ふざけんな!」で締めくくられる一連の怒涛のナレーションで、主人公モリーの前半生があっさりと描かれる。まさにモーグル的なアップダウンと疾走感で一気に観客を物語世界に引き込む。2017年の私的ベスト『 ベイビー・ドライバー 』の冒頭のカーチェイス・シークエンスに優るとも劣らない見事なイントロである。

モリーがいかにしてロースクール進学を先延ばしし、職を得、そして失い、自分でポーカールームをマネジメントするまでに至ったのか。彼女を突き動かす原動力が何であるのかは物語終盤に明らかになるが、これはある意味で予想されていたこと。しかしその見せ方とタイミングが絶妙だ。ケビン・コスナー演じるモリーの父親は、アメリカ的な父親、つまり家父長制度の長であることを体現する一方で、いわゆる幻想の良き父をも体現するという離れ業をやってのける。スーパーマンのリメイクや『 ドリーム 』などでもそうだったが、父親的なフィギュアで好演を見せ続ける今、まさに円熟期であると言えよう。ネタバレにならない程度に留めて書くならば、この物語はほとんど全て、モリーが父親的存在を殺し、父親的存在を許していく過程を描く話、つまりは父殺しだ。モリーが挑発的な服装と言動を見せつつも、決して性を売り物にしない理由もそこにある。

もう一人のモリーにとっての重要な父親的存在としてイドリス・エルバ演じる弁護士についても言及せねばならない。『 マイティ・ソー 』シリーズ、そして『 ダークタワー 』などで重要な役割を演じてきたが、彼のキャリアの中でもこれは Best Performance である。クライアントであるモリーを時に諭し、時に叱り、時に寄り添い、そして全力で守る。『 ダークタワー 』では我が子を千尋の谷に突き落とすような父親像を打ち出していたが、本作ではモリーの実父を演じたケビン・コスナー以上に、父親としての温かみ、厳しさ、生々しさを観る者に感じさせた。エルバが娘にどのように接しているのか、そしてモリーがそれをどのように受け取っているのか、エルバの登場シーンからはそこにも注目しながらストーリーを堪能してほしい。

モリーが掴み取っていく成功と遭遇する悪意や恐怖、それらが絡まり合い限界点に達する時、父親像の破壊と再創造の瞬間がやってくる。詳しくは述べられないが、ぜひこの父娘の反発と和解を味わってもらいたい。そしてクライマックスの裁判から感動のエンディングへ一気になだれ込んでほしい。そこで初めてモリーが言った「スポーツで最悪なのは五輪で4位になること?マジで?ふざけんな!」の言葉の意味を悟るからだ。そこで受け取るメッセージはきっと観る者を勇気づけるはずだ。2時間20分の長丁場の映画だが、体感では1時間50分ほどだったか。ぜひ多くの人に観てもらいたい作品である。

 

 

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, ジェシカ・チャステイン, ドラマ, 監督:アーロン・ソーキン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 モリーズ・ゲーム 』 -The fact is stranger than fiction-

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