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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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タグ: 寄川歌太

『 滑走路 』 -過去と向き合い、現在から未来に飛び立つ-

Posted on 2020年12月13日 by cool-jupiter
『 滑走路 』 -過去と向き合い、現在から未来に飛び立つ-

滑走路 75点
2020年12月9日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:水川あさみ 浅香航大 寄川歌太
監督:大庭功睦

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201213005222j:plain
 

ずっと気になっていた作品。ようやく時間が取れたので劇場鑑賞。非正規やいじめの問題以上に、生きづらさを抱える全ての現代人に贈られた物語であると感じられた。

 

あらすじ

厚生労働省の若手官僚・鷹野(浅香航大)は、過酷な労働から不眠に悩まされていた。ある時、自分と同い年で自死を選んだ男性の背景を探ることになる。切り絵作家の翠(水川あさみ)は作家としてのキャリア、そして優柔不断な夫との関係について考え始めていく。中学2年生の学級委員長は、親友をいじめから救ったところ、自分がいじめの標的にされてしまう。三者三様の物語は、実は相互に関わっていて・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201213005247j:plain
 

ポジティブ・サイド

本作には大きな仕掛けがある。鑑賞してすぐに、こいつとこいつは同一人物の過去と現在の姿だなとピンと来たが、まさか3人の物語がそれぞれ3つの異なる時間軸で描かれているとは思わなかった。そんじょそこらのミステリ作品の真相よりも、こちらの方に驚かされた。これは脚本の勝利であろう(と我が目の不明を誤魔化しておく)。

 

キャラクターの描写も真に迫っている。霞が関の官僚の離職者数がわずか数年で激増したと報道されたのは記憶に新しい。いまだに大量の書類をプリントアウトし、ファイリングして仕事をしている様に、政府がこの国の頭脳および実務処理能力のトップレベルにある人間たちをいかに無駄遣いしているのか、慨嘆させられる。それでも健気に職務に励み、そして責任感および正義感ゆえに、自死を選んだ非正規雇用労働者の背景を探っていく。そうした官僚としての姿、および個人としての生き様を、浅香航大は実に印象的に描き出した。

 

水川あさみ演じる切り絵作家の姿にも現代社会の在りようが色濃く反映されている。DINKSという点でJovianは勝手に嫁さんを投影してこのキャラクターを見つめていたが、わが身につまされるような視線というか、夫婦関係の機微がいくつも見て取れた。もちろん、お互いを理解し合い、支え合う姿も描かれているが、ほんのわずかなすれ違いがどうしようもない歪みにつながっていく様は、この上なくリアルに感じた。特に、ある大きな決断を下した理由を夫に告げるシーンは、凡百のホラー以上の恐怖を世の男性諸氏に与えることだろう。『 喜劇 愛妻物語 』とは一味も二味も異なる妻を水川あさみは見事に体現した。

 

学級委員長のいじめ、シングルマザー家庭、同級生の女子との淡いロマンス、親友との関係の崩壊、そのすべてにリアリティがあった。いじめの何が辛いかというと、身体的・精神的に苦痛を負わされること以上に、苦しんでいる自分を自分で認めたくない、自分の親しい人に自分の苦しみを知ってほしくないと思うところだろう。耐えていれば何とかなる、自分には耐えられると思ってしまう。それが陥穽になる。Jovianはちょうど氷河期世代の真っただ中で、ちょうどリーマンショックの時期に最初の転職を決めた時に内定取り消しを食らったこともある、世の理不尽というものをそれなりに体験して感じるのは、「自分で自分を責めてはならない」ということである。同時に、自分で自分を責める者は、他人を責めることのない優しくて思いやりのある人間である。そのようにも感じるのである。

 

鷹野が追う若者の死の真相は明かされない。釈然としない思いもある一方で、それでいいではないかとも感じる。なぜ死を選んだのかではなく、なぜ自分には生きる理由があるのか。それをあらためて問い直すことになるからだ。

 

随所に、どこからともなく現れ、どこへともなく飛び去っていく飛行機が描かれる。生きるというのは、飛ぶことと似ているのかもしれない。知らない間に我々はこの世に産み落とされるわけだが、生まれたからには生まれた理由がある。飛んでいるからには、どこかに滑走路がある。あるいはどこかに着陸する。そんな風に物語を見つめていた。エンドロールの最後に歌人・萩原慎一郎の一節の詩が映し出される。そうか、自分は萩原の目線とは異なる目線で本作を見つめていたのかと感じた。けれど、それはそれでいい。自分は自分なりに生きている。素直にそのように思えた。これは異色の良作である。

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ネガティブ・サイド

鷹野が自死した青年について調べ始める動機が弱い。自分と同い年であるという以外に、写真やプロフィールを見て、何か引っかかるものがある、あるいは胸騒ぎを覚えたというシーンが欲しかった。顔写真をPCで拡大して、その瞳を覗き込んで、思わずのけぞるという描写は、被写体の目にその写真を撮影した人物が映っていて、その撮影者に驚いたように見えてしまった。

 

エンディングの曲も悪くなかったが、Jovianの脳内では勝手に『 翼をください 』を再生していた。もし『 翼をください 』を主題歌にしていたら、『 風立ちぬ 』と『 ひこうき雲 』並みにハマっていただろうにと無責任に想像させてもらう。

 

そのエンディングで、「登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません」というテロップには苦笑させられた。鷹野が務める厚生労働省はフィクションではないだろう。

 

総評

現代的でありながら普遍的なメッセージを持っている。生きづらさを感じることは誰にでもあるはずだが、その正体をこれほど回りくどく描いた作品はなかなか思いつかない。特に歌集にインスピレーションを得たという点で、脚本家の桑村さや香の翻案力は素晴らしい。生きるとは、この瞬間まで生きてきた生を引き受けることだ。賢明なる諸兄に今さらアドバイスするまでもないが、妻やパートナーに「○○はどうしたいの?」と尋ねまくるのはやめようではないか。男は理解者であることが求められるが、中身が空っぽではダメなのだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

move on

「前に進む」の意。物理的に前に進むだけではなく、過去を乗り越えて未来へ進むときにもよく使われる表現。“What happened happened. We have to move on.”=「起こってしまったものはしょうがない」のように使う。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 寄川歌太, 日本, 水川あさみ, 浅香航大, 監督:大庭功睦, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『 滑走路 』 -過去と向き合い、現在から未来に飛び立つ-

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