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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 井之脇海

『 犬も食わねどチャーリーは笑う 』 -ペーシングに難あり-

Posted on 2022年10月4日 by cool-jupiter

犬も食わねどチャーリーは笑う 50点
2022年10月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:香取慎吾 岸井ゆきの 井之脇海 中田青渚
監督:市井昌秀

『 箱入り息子の恋 』の市井昌秀監督の最新作。夫婦喧嘩は犬も食わぬとの言葉通り、夫婦のいさかいは放っておくに限るのである。

 

あらすじ

裕次郎(香取慎吾)と日和(岸井ゆきの)は円満夫婦。しかし日和は裕次郎への不満を旦那デスノートというサイトに書き込んでいた。ひょんなことから自分に当てはまる書き込みを見つけた裕次郎は疑心暗鬼に。そんな中、日和の旦那デスノートへの書き込みを基に本を出版したいという話が持ち上がり・・・

ポジティブ・サイド

サラリーマン川柳ではしばしば男、それも中年男性の悲哀が浮き彫りになるが、よくよく考えてみれば女性、特に妻の声というのは公にはあまり語られてこなかった。それを大々的に拾って公開しようという旦那デスノートというサイトは画期的である。

無邪気で仕事熱心だが、家庭人としてはダメダメである裕次郎を香取慎吾が好演している。特にホームセンターの副店長としての仕事っぷりは堂に入っている。Jovianも結婚の際に家電量販店で数十万円分の買い物をしたが、その時に数時間付き添ってくれた店員さんが、まさに裕次郎のような仕事人だった。電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機、トースター、テレビ、HDDレコーダー、LED照明まで何を尋ねてもスラスラ答えてくれた。香取慎吾を見て、その時の店員さんを思い出したし、男はやっぱり仕事してナンボやなと感じたが・・・これが実は後々大きな伏線になっていたの見事。

 

岸井ゆきのも古風かつ現代風の妻を好演。嫌な顔一つせず家事をこなし、ブランチを食べているはずの夫が「これは朝食、ランチはキーマカレーがいい」と言っても、(パッと見では)素直に従ってくれるところが非常に怖い。目が笑っていないのである。キーマカレーを作ったことがある人なら分かるだろうが、肉を細かく叩くのはなかなかの手間である。カレーもレトルトならまだしも、ルーから作るとなると、最低でも40分はかかる。裕次郎の仕事能力の高さと家政能力の低さが、日和を苛立たせるのが手に取るようにわかる。

 

この、一見してどこにでもいそうな夫婦の危機が、旦那デスノートならびに周囲の人間関係も巻き込んで進行していく。サブプロットも凝っている。井之脇海のマリッジブルーや、中田青渚の裕次郎攻略などは普通に面白い。だが最大の見所はやはり夫婦の歴史だろう。一緒に選んだ家具、一緒に選んだ小物、一緒に選んだ家。結婚という制度=システムに乗ることで個人としての意思が消えてしまうかのように錯覚するのはよくあること。しかし、自分が誰かを心から愛おしく思うこと、誰かと生涯添い遂げたいと願うことは、結婚というシステムが存在しなくても、発生しうる願望だ。本作が多くの人にそのことを思い出させるきっかけとなればと思う。

 

ネガティブ・サイド

香取慎吾演じる裕次郎が、それなりにリアルではあるものの、共感するにはチト足りない。『 喜劇 愛妻物語 』の豪太のように、突き抜けた情けなさや低すぎる年収といった弱点がないからだ。男は自分と共通する欠点を見て共感はしても、優越感は抱かない。コメディであるなら、明らかな弱点設定が必要だったが、それがないことが大きなマイナスになっている。

 

作品の肝であるべき旦那デスノート、さらにそこに密かに書き込んでいる日和とそれに気付いてしまう裕次郎という、メインとなるべきプロットが序盤早々に終わってしまう。ここを面白おかしく引っ張ることで、とある事実が明らかになる中盤、そして本格的な夫婦の危機が訪れる終盤の展開がシリアスさを増す。そして、それによりエンディングのカタルシスも増していくはずではなかったか。

 

その最終盤の展開も間延びしすぎ。裕次郎が日和のもとに乗り込むシーンはあまりにも緊迫感がなさすぎる。部外者がコールセンターに入れるはずがないし、あれほど受電するコールセンターであんなまねをされたら、どれだけ積滞することか。だが、このシーンの最大の問題は日和の発言や姿勢だろう。自らの仕事に誇りを感じていると裕次郎に言っておきながら、職場であの言い草はないだろう。このシーンだけで、ここまでの1時間45分がすべて吹っ飛んだと言っても過言ではない。それぐらい納得いかないシーンだった。

 

総評

夫婦で観るのが吉であるが、DINKSなのか、そうでないのかで評価がガラリと変わりそうだ。Jovianはそこそこ程度には面白いと感じたが、妻はまったく面白いと感じなかったようだ。ちなみに劇中の重要な小道具として扱われる旦那デスノートというサイトは実在する。Jovianは中を覗いて後悔した。世の諸賢も自己責任で閲覧されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

row

ロウと発音すれば「列」だが、ラウと発音すれば「口喧嘩」となる。夫婦や友人同士など親しい間柄での言い争いにはしばしば row =ラウが使われる。 I had a row with a coworker in the office today. =今日、職場で同僚と言い争いになっちゃって、のようにも言える。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 マイ・ブロークン・マリコ 』
『 LAMB/ラム 』
『 ドライビング・バニー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ブラック・コメディ, 中田青渚, 井之脇海, 岸井ゆきの, 日本, 監督:市井昌秀, 配給会社:キノフィルムズ, 香取慎吾Leave a Comment on 『 犬も食わねどチャーリーは笑う 』 -ペーシングに難あり-

『 砕け散るところを見せてあげる 』 -青春映画を期待するべからず-

Posted on 2021年4月11日 by cool-jupiter

砕け散るところを見せてあげる 65点
2021年4月10日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中川大志 石井杏奈 井之脇海 清原果耶
監督:SABU

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210411232456j:plain

怪作『 蟹工船 』監督のSABUが竹宮ゆゆこの同名小説を映画化。タイトルからして不穏であるが、割と血生臭い系の映画にばかり出演している石井杏奈がヒロインであることから色々とお察しされたい。

 

あらすじ

高校三年生の濱田清澄(中川大志)は、いじめの対象にされている一年生の蔵本玻璃(石井杏奈)を助ける。初めは拒絶していた玻璃だが、徐々に清澄に心を開き、二人は打ち解けていく。しかし、玻璃は「UFOを撃ち落とさなければならない」という謎の告白をして・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210411232515j:plain

ポジティブ・サイド

石井杏奈の代表作が生まれた。『 ホムンクルス 』のレビューでキャピキャピ映画に出るべしと提案したが、撤回したい。等身大ではなく、一筋縄ではいかない、どこかに闇を抱えた少女路線をしばらく続けるべし。久しぶりに若い女優の「演技」を観たと感じた。体育館での奇声、女子トイレでの吃音交じりのしゃべりに『 志乃ちゃんは自分の名前が言えない 』の南沙良を思い起こさせてくれる演技だった。特にトイレのシーンは圧巻。寒さからくる震えと極度の緊張感と不安感から、自然とどもってしまう感じが演技には思えなかった。そして中盤に華麗なる(外見上の)変身を果たしても、口数の多さから対人的な距離の取り方の下手さがうかがい知れる。つまり、他人との距離が極めて近いか、極めて遠いかという不器用な人間の顔が見えてくる。佳人薄命と言うが、こういう人間に救いの手を差し伸べられるかどうかでその人間の価値が上下するようにすら思えてしまう。それほど周囲から孤立し、それゆえに多くの人を遠ざけ、ほんのわずかな人間だけを引き寄せるという不思議なキャラクターに仕上がった。SABU監督の演出もあるのだろうが、石井杏奈本人のcharacter studyの努力も見逃せない。

 

それを助ける中川大志も今までのキャリアの中ではベストアクトだろう。『 坂道のアポロン 』的な役で1年のいじめっ子たちをぶっ飛ばしてほしいと一瞬だけ感じたが、すぐにそういう役ではないと分かった。どちらかというと『 覚悟はいいかそこの女子。 』に近かった。といっても、甘酸っぱい、青臭いラブストーリーではなく、かといって社会的な貧困問題などを取り上げているわけでもない。極めて個人的な背景と関係を描いた物語である。ヒーローになるという、ともすれば青臭い正義感に駆られた少年という漫画的なキャラクターをリアリティをもって描き出せていた。そう感じさせてくれたのは、いじめられている玻璃にひたすらに寄り添う姿勢からだ。確かにいじめっ子に対して先輩という立場や体格の違いにものを言わせることはたやすい。担任や学年主任にいじめを報告することもできる。しかし、清澄はそうした行動を選択しない。それは彼自身の信念から来ていることで、だからこそ少々不可解に思える行動にもある程度納得することができる。

 

青春邦画には少々珍しく、かなり直截的なメイクアップが使われている。そこは評価したい。美しく見せるだけがメイクではない。痛みを伝えることも、メイクの重要な役割であることが本作を通じてあらためて感じられた。

 

若い二人の関係性の発展にフォーカスした中盤までは必見。終盤でも、一発で撮影できなければやり直しが困難あるいは多大な時間を要するシークエンスが多数あり、それを見事に乗り切った中川と石井、そして多くのスタッフの労力に敬意を表したい。

 

愛とは何か。それは消えないもの、続いていくもの、目に見えなくても実感できるもの。そうした極限的に青臭いメッセージを最終的に送ってくる本作であるが、それを好ましく受け止められるだけの重みが本作にはあった。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210411232533j:plain

ネガティブ・サイド

冒頭の勉強部屋のシーンはもっとうまく作れたはず。それこそ窓の外から撮るとか、または母親目線で、つまり背後から撮るとか、もっと工夫のしようがあった。多分このシーンと直後の全力ダッシュシーンのつながり方で、多くの人が「ん?」となったはず。Jovian嫁はそうだった。ここは「ん?」と思わせてはいけないシーンだろう。

 

清澄と田丸の友情は非常に好ましく、微笑ましくも思えたが、終盤で田丸が清澄に「この線の向こう側に行くな!あの女ではなく俺を選べ!」といったようなセリフを吐いたのには正直ドン引きした。BL要素は不要だし、何よりも普通の男は、男の友情よりも女を選ぼうとしている男の肩を持つものだ。原作がこうなのかな?ここには多大な違和感を覚えた。

 

『 パブリック 図書館の奇跡 』でもあったミスだが、真冬の長野だという設定にもかかわらず登場人物たちの吐く息がまったく白くない。夜でさえも。また清澄と玻璃の帰り道だか車から見えるシーンだったか、思い切り稲穂が首を垂れていた。つまり、撮影時期は10月頃だろう。だったら劇中をそういう時期に設定するか、あるいは夜だけでも白い息を吐くように工夫するか、CG処理でもしてほしかった。特に真冬で凍える時期という設定に一定の意味があるのだから、後者が必要だったのではと強く思う。

 

最後に、これは映画そのものへのfeedbackでもcomplaintでもないのだが、どうしても言わせてほしい。もうトレーラーで物語を全部ばらす愚行からはそろそろ卒業してはどうだろうか。これは邦画だけではなくハリウッドにも当てはまるが、インド映画や韓国映画のトレーラーはもっと巧みに作られている。本作もまったく悪いストーリーではないが、トレーラーがほとんど全部のストーリーを語ってしまっている。本編鑑賞後に観て「ああ、なるほど」と思える構成ではなく、観る前にストーリーの推測ができて、観た後に「トレーラーのまんまやんけ・・・」と頭を抱えてしまう。もう、そういうトレーラー作りや公式サイト作りはやめよう、本当に。

 

総評

冒頭の北村匠海→中川大志のチェンジに違和感を抱いてはならない。それが第一の関門(いや、原作小説ではどうだかわからないが、これは10人中8人ぐらいが素直に飲み込めるはず)。終盤でガラリとトーンが変わるが、それを受け入れられるかどうかが二つ目の関門。そこさえクリアできれば、非常に小さな、それでいて大きなスケールの感動を味わうことができるに違いない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

UFO

ユーフォーではなく、ユー・エフ・オーと読む。unidentified flying objectの頭文字を取ったもの。意味は未確認飛行物体=正体が確認されていない飛んでいる物体、である。Jovianが分詞の形容詞的用法を説明する際に必ず使う語である。過去分詞でも現在分詞でも、それを形容詞的にサッと名詞にくっつけて発話できるようになれば、英語の中級者であると言える。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, 中川大志, 井之脇海, 日本, 清原果耶, 監督:SABU, 石井杏奈, 配給会社:イオンエンターテイメント, 青春Leave a Comment on 『 砕け散るところを見せてあげる 』 -青春映画を期待するべからず-

『 サイレント・トーキョー 』 -竜頭蛇尾のグダグダのサスペンス-

Posted on 2020年12月9日2020年12月13日 by cool-jupiter
『 サイレント・トーキョー 』 -竜頭蛇尾のグダグダのサスペンス-

サイレント・トーキョー 30点
2020年12月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:佐藤浩市 石田ゆり子 西島秀俊 中村倫也 広瀬アリス 井之脇海
監督:波多野貴文

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201209180221j:plain
 

トレイラーを観る限りはなかなか面白そうだった。だが本作は地雷であった。『 ドクター・デスの遺産 BLACK FILE 』並みに無能な警察、そして筋の通らない論理で動くテロリスト。邦画サスペンスの珍品である。

 

あらすじ

12月24日、クリスマス・イブ。恵比寿ガーデンプレイスに爆弾が仕掛けられたという通報がテレビ局に入る。アルバイトの来栖(井之脇海)ら向かったところ、山口(石田ゆり子)という主婦が座るベンチに爆弾が仕掛けられていた。すぐに警察を呼ぶが、予告通りに爆発が起こり・・・

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ポジティブ・サイド

渋谷の駅前はなんと作り物のセットだと言う。これには驚いた。ちょっと頑張ればCGでごまかせそうだが、そこにフィジカルな実体を与えるところに波多野貴文監督のこだわりを感じた。

 

セットだけではなく、クリスマスの渋谷らしさもよく描けている。お上がいくら自粛を要請しても、出かける人間は出かけるのである(そう、映画館に向かってしまうJovianのように)。同じく、警察がいくら交通を規制しても、アホなYouTuberや騒ぎたいだけの若者は渋谷という街に集ってくる。そのことは例年のハロウィーンで我々は嫌というほど知っている。そうした群衆の描き方が真に迫っていた。

 

野戦病院と化した渋谷近くの病院も、まるでコロナ患者にひっ迫されている大阪の医療現場のようであると感じられた。不謹慎極まりないが、本当にそのように映った。行ってはいけないとされている場所に、自分のみならず友人を連れて行ってしまった。そこで友人がダメージを負ってしまった。コロナ禍の今という時代と映画の世界が不思議にシンクロして、そこに広瀬アリスの絶望的な表情と悲鳴がスパイスとして効いていた。

 

政治的な主張もあり、単なるエンターテインメント以上の作品を志向したことだけは評価したい。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201209180256j:plain
 

ネガティブ・サイド

以下、ネタバレに類する情報あり

 

これも『 ドクター・デスの遺産 BLACK FILE 』と同じで、開始5分で真犯人が見えてしまう。30キロの重さがかかっている間は爆発しない爆弾を、誰が、いつ、どこでベンチに取り付けたというのか。そして、あの爆弾の仕掛けられ方で、どのようにベンチの対する荷重を算出しているのか。そして、石田ゆり子その人が座っている時に地面にしっかりと両足をつけてやや前傾姿勢になっていたが、これだとベンチにかかる荷重は下手したら体重の半分くらいになるのでは?石田ゆり子の体重を勝手に55キロ、冬場なので服装で1キロ、手荷物も1キロと考えると57キロ。かなり雑な計算だが、それでもちょっと姿勢を変えただけでも爆発するのでは?という疑念を生むには充分だろう。もうこの時点でストーリーに入っていけなかった。

 

だいたい警察は何をやっているのか。恵比寿ガーデンプレイスの防犯カメラの記録映像を確認すれば、一発で済む話ではないか。犯人が要求する総理大臣との対話まで何時間あったのか。西島秀俊演じる刑事も無能の極み。最初のゴミ箱に仕掛けられた爆弾が真上だけに爆風が向くように行動に計算されていたのを知って、「犯人は誰も傷つけるつもりはなかった」って、アホかーーーーーーーー!!!その瞬間にごみを捨てる人がいたら、金属製のふたが顔面または前頭部に直撃して大怪我するやろ、下手したら死ぬやろ。そんな想像力すら持ち合わせず、なにを腕利き刑事ぶっているのか。この時点で捜査する側のキャラクターを応援する気が失せてしまった。

 

渋谷関連のシーンでもそう。井之脇海演じる来栖など、最重要指名手配になるだろう。パスポート写真や運転免許証写真の情報、それにYouTubeに動画をアップした経路など、あらゆるルートであっという間に身元と居場所(少なくとも動画撮影した部屋)は警察が突き止めるだろう。でなければおかしい。そして、全捜査員がこいつの顔を覚えた上で、出動しているはず。その中で渋谷駅前のビルの屋上に昇ったというのか?マスクや覆面などしていれば、絶対に警察官に呼び止められるはずだが。来栖というキャラの恵比寿から渋谷までの移動に現実味が全くない。製作者は警察をコケにしすぎやろ・・・

 

中村倫也のキャラも全く深掘りがされていないため、物語に何の深みもエッセンスも加えていない。アプリ制作で名を上げただの、叔父叔母と横浜で会うだの、母親と電話で話すだのといったシーンのいずれもが皮相的すぎる。50メートル離れていたから大丈夫って・・・ ハチ公からどちらの方向なのか。なぜ50メートルなのか。仮に50メートルが安全距離だとして、パニックになった群衆が走り出して、それに踏みつぶされてしまうといったことは想像できなかったのか。平和ボケを揶揄していたが、そういう自分も平和ボケした頭であることを露呈した非常に間抜けな瞬間だった。だいたい母親が結婚するから云々と語るぐらいなら、素直に警察に協力せよ。といっても、その警察も超絶無能集団ときては頭を抱えるしかないが・・・

 

最もうすっぺらく感じたのは「これは戦争だ」という戦争観。戦争というのは国家間でやるもの。テロリズムというのは国家ではない存在が対国家に暴力・武力を行使するもの。犯人のトラウマになった事象は、犯人側から見れば戦争の一側面だろう。しかし、もう片方の視点からすれば、それは紛れもないテロリズムである。このあたりを峻別することなく、身勝手なテロ行為に及んでも誰の賛同も得られない。もとよりテロに賛同するも何もないが、それでもテロリストが掲げる理想や大義の元にはせ参じる者が多く存在するのも事実。本作の犯人に共感する者はほとんど存在しないだろう。だいたい「あんな総理大臣を選んだ日本国民に復讐する」という時点で頭がおかしい。総理大臣を選ぶのは国民ではなく国会議員だ。狙うなら渋谷に集まった無辜で無知な民ではなく、それこそ国会議事堂や自民党本部などを狙うべきだった。

 

アホな警察にアホなテロリスト。そのテロリストにアホ扱いされる国民。製作者の描きたいものは分からないでもないが、波多野貴文その他のスタッフはもっと勉強をしなければならない。

 

総評

話の荒唐無稽さ、細部の描写の粗さを考えれば、似たようなテーマとキャストの『 空母いぶき 』よりもさらに下の作品。製作者たちの言わんとしていることは分からないでもないが、物語をプロット重視で進めるのか、キャラクター重視で進めるのか、その場合に求められるリアリティとは何なのかを、もう一度考え直してもらいたい。本作よりもゲームの『 428 〜封鎖された渋谷で〜 』の方が遥かthrillingかつunpredictableで面白い。政治に物申す爆破テロリストの物語ならガイ・フォークスにインスパイアされた『 Vフォー・ヴェンデッタ 』を観るべし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

This is war.

「これは戦争だ」の意。『 ジングル・オール・ザ・ウェイ 』でもシュワちゃんが発していた台詞。冠詞の説明ほど手間のかかるものはないので省略させてもらうが、warにaをつけるかつけないかを正しく判断できれば、英検1級レベルより上である(英検1級合格者でも間違えまくる人は数多くいる)。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, kな徳:波多野貴文, サスペンス, ミステリ, 中村倫也, 井之脇海, 佐藤浩市, 広瀬アリス, 日本, 石田ゆり子, 西島秀俊, 配給会社:東映『 サイレント・トーキョー 』 -竜頭蛇尾のグダグダのサスペンス- への2件のコメント

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